YAKUGAKU ZASSHI
Online ISSN : 1347-5231
Print ISSN : 0031-6903
ISSN-L : 0031-6903
Reviews for award
Understanding the Underlying Mechanism of Xenobiotic-Sensing Nuclear Receptor Activation
Ryota Shizu
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 143 Issue 9 Pages 701-706

Details
Summary

The nuclear receptor superfamily comprises 48 members in humans. In various organs, nuclear receptors regulate a variety of physiological functions through transcription of target genes. They are associated with the development and progression of endocrine and metabolic disorders, as well as with cancer development. Therefore, agonists and antagonists targeting nuclear receptors are currently being developed as therapeutic drugs for these diseases. Nuclear receptors can be activated through ligand binding or phosphorylation, which is mediated by various cellular signaling pathways. Activation of a nuclear receptor necessitates significant structural modifications in each of its domains. My research has been focused on unraveling the intricate mechanisms underlying the activation of nuclear receptors using constitutive androstane receptor (CAR) and pregnane X receptor (PXR) as model nuclear receptor proteins. CAR and PXR are highly expressed in the liver and are activated by a wide range of xenobiotics. Given their crucial roles in the metabolism and disposition of xenobiotics, as well as their potential in mediating drug–drug interactions, it is imperative to extensively study the mechanisms of xenobiotic-induced activation of these receptors. Such studies are essential for advancements in drug development, as well as for ensuring food and chemical safety. In this review, I elucidate the molecular basis underlying the activation of xenobiotic-responsive nuclear receptors.

1. はじめに

受容体型転写因子である核内受容体は48種の分子からなるスーパーファミリーを形成している.リガンドとして,ステロイドホルモンや脂肪酸,ビタミンなどの脂溶性低分子が知られており,核内受容体はそれらの生理機能発現を通して生命活動の根幹を担っている.また,内分泌・代謝疾患やがんの発症,増悪との関連も知られ,その活性化薬あるいは活性化阻害薬が医薬品として使用されている.

核内受容体は,主にDNA結合ドメイン(DNA binding domain: DBD)及びリガンド結合ドメイン(ligand binding domain: LBD)で構成され,LBDへのリガンド結合に伴って核内で二量体を形成し,DBDを介して標的遺伝子プロモーターに結合し,標的遺伝子を転写活性化することで機能を発揮する.このリガンド依存的な一連の機能発現(活性化)は,リガンド結合に伴うタンパク質構造変化がスイッチとなり引き起こされ,核移行の調節,二量体形成並びにDNA結合の調節,LBD内に存在する転写活性化ドメイン(transactivation domain: TAD)の構造変化と,それに伴う転写共役因子(コアクチベーター及びコリプレッサー)の結合の調節など,複数のレベルで制御されている.しかしながら,リガンドの結合がどのようなドメイン構造の変化を招き,その結果どのように活性化に係わる各行程が調節されるのかについて詳細に明らかにした報告はない.

異物応答性核内受容体であるconstitutive androstane receptor(CAR)及びpregnane X receptor(PXR)は肝に高発現し,生体外異物により活性化される転写因子である.両受容体は,薬物代謝酵素などの遺伝子の転写制御により,異物からの生体防御において中心的に働いている.1 CAR及びPXRのリガンドは,医薬品,食品,農薬,工業化学物質,環境化学物質と多岐にわたり,酵素誘導作用に起因した薬物間相互作用がしばしば問題となる.さらに,両受容体の活性化は,糖尿病や肝線維化,肝発がんなどの肝における毒性発現にも関与することが近年報告されている.2多種多様な化学物質の受容体として機能し,様々な生体影響発現に関与する両受容体活性化の理解は,化学物質の毒性理解のために重要であり,米国で押し進められている大規模毒性学プログラムであるTox21においても化学物質による両受容体の活性化は評価対象の一つである.3,4本稿では,CAR及びPXRをモデルタンパク質として,核内受容体の活性化機構解明を目指し研究を行ってきた筆者の成果について述べる.

2. 異物応答性核内受容体の恒常的活性化機序

発現プラスミドにより培養細胞でCARやPXRを過剰発現すると,リガンド非存在下にもかかわらず標的遺伝子の転写を誘導してしまう.5,6そのため,培養細胞を用いた実験系では,リガンド依存的な両受容体の活性化を評価・観測することは困難であり,両受容体の評価系構築のため,両受容体の恒常的活性化機序の解明が求められる.本章では,PXRの恒常的活性化の原因となるリガンド依存的なタンパク質構造変化について解説する.

核内受容体のTADは,C末端に存在する8–10アミノ酸で構成されるαヘリックス(ヘリックス12)であり,activation function 2(AF2)と呼ばれている.報告されているretinoid X receptorα(RXRα)のリガンドの結合時7及び非結合時8のAF2周辺領域のタンパク質3次元構造をFig. 1Aに示す.リガンドがAF2と相互作用することでAF2を活性化型のポジションに固定し,このAF2を介してコアクチベーターが結合することがわかる.このように核内受容体はリガンド結合に伴ってAF2が活性化型の位置に固定されコアクチベーターと結合し,固定されていないAF2にはコリプレッサーが結合することが知られている.9報告されているPXRのリガンド結合時10及び非結合時11のタンパク質3次元構造を比較したところ,PXRは他の核内受容体とは異なり,リガンド非結合時においても,AF2がコアクチベーターと結合可能な位置に固定されていることが示された(Fig. 1B).リガンドがなくてもAF2が活性化型の位置に固定されている理由は,ヘリックス11のLeu411, Ile414,及びAF2のMet425がヘリックス11とAF2の間の領域に存在するPhe420と相互作用することによると考えられた(Fig. 2A).そこでこの相互作用を抑制するため,Phe420をAlaに置換したF420A変異体を作製した(Fig. 2B).PXR応答配列を用いたレポーターアッセイにおいて,野生型PXRはリガンド非依存的にレポーター活性を増加したが,F420A変異体ではリガンド未処置におけるPXR依存的な転写が抑制され,リガンド依存的に転写活性化が認められた(Fig. 2C).5これはコアクチベーターであるPGC1α過剰発現時に顕著であった(Fig. 2C).更に哺乳動物ツーハイブリッドアッセイにおいて,野生型PXRはリガンド非依存的にPGC1αと結合していたのに対して,F420A変異体はリガンド依存的にPGC1αと結合した(Fig. 2D).5以上のことから,PXRの恒常的活性化に係わる特徴的なタンパク質構造を明らかにし,本情報を利用してリガンド結合に応答してコアクチベーターと結合し活性化する変異体の作製に成功した.

Fig. 1. Structures of Ligand-bound and Unliganded Nuclear Receptor AF2

(A) Superimposition of the reported crystal structures of RXRα LBD bound to its ligand SR11237 (1mvc, dark gray) and unliganded RXRα LBD (6hn6, light gray). Binding of SR11237 (shown with stick) repositioned H11 to be in continuity with H10 and H12 packs against the LBD core. (B) Superimposition of the reported crystal structures of PXR LBD bound to its ligand rifampicin (1skx, dark gray) and unliganded PXR LBD (1ilg, light gray). The figure was modified with permission from Shizu R. et al., J. Biol. Chem., 297, 100978 (2021). Copyright Elsevier (2021).

Fig. 2. Effect of F420A Mutation on the Transactivation of PXR

(A) Sidechains from H11 to AF2 in the unliganded PXR structure (1ilg). (B) Amino acid sequences of WT and F420A mutant PXR. (C) Reporter gene assays were performed using the expression plasmid for WT PXR (WT), PXR-F420A (F420A), and PGC1α. Cells were treated with rifampicin or vehicle and reporter activity was determined. (D) Mammalian two-hybrid assays were performed with GAL4 fused with PGC1α and VP16 fused with WT PXR (WT) or PXR-F420A (F420A). Cells were treated with rifampicin or vehicle and reporter activity was determined. The figure was modified with permission from Shizu R. et al., J. Biol. Chem., 297, 100978 (2021). Copyright Elsevier (2021).

3. CARのリン酸化による分子内,分子間相互作用の調節

CARの活性化薬には,リガンド型と非リガンド型が存在し,非リガンド型はCARのDBDに存在するリン酸化部位Thr38を脱リン酸化することでCARの活性化を誘導する.12 Thr38は,ほとんどの核内受容体で保存されたリン酸化部位であり,リン酸化による受容体機能調節機序の理解は,多くの核内受容体に応用可能な基本的概念となる.CARにおけるThr38のリン酸化はCARのDNAへの結合を抑制すること,CARの核局在を抑制することが明らかになっている.13本章では,CARのThr38のリン酸化がどのようにして,DNAへの結合及び核内局在を調節するのかについて解説する.

核内受容体のDBDは2つのジンクフィンガードメインと,両ジンクフィンガーの3番目のCysから始まる2つのαヘリックス構造を有する(Fig. 3A).14このうち1つ目のαヘリックスはDNA鎖の主溝にはまり込むようにしてDNAと結合するDNA結合領域である.Thr38は1つ目のαヘリックスに存在するが,DNAとの結合部位には位置せず,リン酸基による立体障害で直接DNA結合が阻害される訳ではない.一方,分子動力学シミュレーションでは,Thr38リン酸化によりαヘリックス構造が乱れることが示され(Fig. 3B),更にこのリン酸化依存的なαヘリックス構造の乱れは,同ヘリックス内に存在するGly30とGly33によると考えられた.13 Glyはヘリックスブレイカーとして知られ,αヘリックスにおける1アミノ酸あたり100度の回転角を乱し,ヘリックス構造を壊す.15すなわち,Thr38のリン酸化がスイッチとなりGly30とGly33によるαヘリックスの乱れが生じ,これによりDNA結合が抑制されたと考えられる.実際に,組換えタンパク質及び応答配列のDNAオリゴマーを用いたゲルシフトアッセイや蛍光偏光を利用したDNA結合アッセイでは,Thr38のリン酸化様変異体であるThr38Asp変異体ではDNA結合の抑制が認められるが,Thr38Aspに加えてGly30Ala及びGly33Alaの変異を導入するとDNA結合抑制や転写抑制が回復する.13,16 CARのGly30及びGly33はP-boxと呼ばれ,核内受容体のP-boxはDNA結合に重要なアミノ酸残基として報告されている.17 CAR以外の核内受容体においても,CAR同様にP-boxがGlyである核内受容体では,リン酸化依存的にDNAへの結合が抑制され,18,19エストロゲン受容体のようにP-boxのGlyがAlaとなっている核内受容体では,リン酸化依存的な転写抑制は認められない.20以上,本研究により,Thr38のリン酸化のP-boxを介したDNA結合調節の分子機序が明らかになった.

Fig. 3. Effect of Thr38 Phosphorylation on DNA Binding of CAR

(A) Amino acid sequence of the human CAR DBD. (B) Structure of the CAR DBD, with or without phosphorylated Thr38, as determined using MD simulation.

CARのThr38のリン酸化は上述のαヘリックスだけでなく,2つ目のジンクフィンガードメインの構造変化も招くことが示唆されている.16他方,CARのDBD及びLBDを用いた共免疫沈降や,等温滴定型カロリメトリー(isothermal titration calorimetry: ITC)において,DBDのThr38リン酸化様変異は,CARのDBD–LBD間の分子内相互作用を増加させることが示されている(Figs. 4A, B).16このDBD–LBD相互作用のDBD側の結合インターフェースは,2つ目のジンクフィンガードメインに存在するD-boxと呼ばれる領域であり,本領域は核内受容体間のDBD–DBDの分子間相互作用に重要な領域として報告されている.一方でDBD–LBD相互作用のLBD側の結合インターフェースは,核内受容体間のLBD–LBD相互作用の結合インターフェースでもあり,Thr38のリン酸化によるDBDの構造変化は,DBD–LBDの分子内相互作用調節により,DBD–DBD及びLBD–LBDの分子間相互作用を調節すると考えられた.また一方で,全長の組換えCARタンパク質を用いたゲル濾過クロマトグラフィーでは,野生型CARは溶液中において単量体で,Thr38Asp変異体は二量体で存在することも示された(Fig. 4C).16以上のようにThr38のリン酸化により,CARの分子内相互作用及び分子間相互作用が調節されることが明らかとなった.他方,筆者は,細胞質におけるThr38リン酸化依存的なCARの二量体化により,CARの核局在が抑制されることも見い出しており,21 Thr38のリン酸化による細胞内局在の調節機構の解明に成功した.核内受容体のリン酸化による活性化調節と機能発現の詳細及び活性化薬によるThr38脱リン酸化の分子機序の詳細は,最近筆者の研究グループから報告された総説をぜひ参照いただきたい.22,23

Fig. 4. Phosphorylation at Thr38 Alters the Intra- and Inter-molecular Interaction of CAR

(A) Coimmunoprecipitation assay was performed with FLAG-CAR-LBD and GFP-CAR-DBD T38A or T38D. The sample was immunoprecipitated with an anti-GFP antibody and analyzed using western blotting with the indicated antibodies. (B) ITC was performed with CAR-LBD and CAR-DBD-WT or -T38D, and dissociation constant Kd (µM) was calculated. (C) Gel filtration was performed with recombinant CAR-WT and CAR-T38D. Elution profiles of known MW standards (Gel Filtration Standards (Bio-Rad, #151-1901) are marked on the plot in gray. The figure was modified with permission from Shizu R. et al., J. Biol. Chem., 293, 333–344 (2018). Copyright Elsevier (2018).

4. 最後に

核内受容体活性化のより詳細な分子基盤を明らかにすることができれば,核内受容体機能をより厳密に制御することが可能になり,様々な疾患の治療や生理機能調節を実現できる.さらに,既知のアゴニストやアンタゴニストとは異なる作用点(例えばDNAや転写共役因子との結合阻害など)を標的にし,低分子とは異なるモダリティ(ペプチド,DNA/RNAアプタマー等)による活性制御が可能になる.また,リガンドや機能が明らかとなっていないオーファン受容体の機能解明に貢献し,新たな作用機序を有する治療薬開発への応用が期待される.

一昨年度,DeepMind社から提供された革新的なタンパク質立体構造予測プログラムAlphaFold224により,タンパク質立体構造のインシリコ予測の精度は格段に向上した.一方で,アゴニストやアンタゴニスト等の結合に伴う核内受容体の構造変化や,核内受容体間の相互作用を予測する分子動力学シミュレーションや3D-QSARの技術は,エネルギー的に安定な構造の予測はできるが,学習用のデータセットに活性化及び不活性化の機序情報が含まれてないため,それらによる核内受容体活性化の予測精度は高くないと推察される.核内受容体活性化の詳細な機序の解明は,今後のインシリコ活性化予測手法の開発において,優れたデータセットを得るための重要な情報を提供し,これらの精度向上につながると期待している.

謝辞

本研究の遂行にあたり,ご指導,ご鞭撻を賜りました静岡県立大学薬学部 吉成浩一先生,米国国立環境健康科学研究所(NIEHS/NIH)根岸正彦先生に心より感謝申し上げます.本研究成果の一部は,JSPS科研費並びに薬学研究奨励財団による助成を受けた研究により得られました.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2022年度日本薬学会東海支部学術奨励賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
© 2023 The Pharmaceutical Society of Japan
feedback
Top