YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
Learning from Natural Products: Study on Actinomycetes of the Genus Nocardia
Masami Ishibashi
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2024 Volume 144 Issue 1 Pages 33-37

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Summary

The genus Nocardia comprises gram-positive bacteria, most of which are pathogenic and cause opportunistic infections of the lungs, skin, and brain in humans. Based on a collaboration study with the Medical Mycology Research Center, Chiba University, we focused on Nocardia actinomycetes as a new natural-product resource. First, by culturing (monoculture) Nocardia in various media, we isolated a new aminocyclitol nabscessin A from Nocardia abscessus IFM10029T and a new γ-lactone inohanalactone from Nocardia inohanaensis IFM0092T. On the other hand, by imitating the state in which the genus Nocardia actinomycete infects animal cells and culturing the genus in the presence of animal cells (coculture), this genus was expected to produce new compounds through interactions with the animal cells. Using mouse macrophage-like cells (J774.1) as animal cells, a new pantothenic acid amide derivative and a cyclic peptide, nocarjamide, with Wnt signal activation activity were isolated from Nocardia tenerifensis IFM10554T strain.

1. はじめに

天然物探索研究を展開・強化するためには,天然物資源の収集,調査,開拓を継続して行う必要がある.われわれのグループでは,これまでに変形菌,1放線菌,2タイ・バングラデシュ産植物3,4等を対象として生物活性スクリーニング研究を行ってきた.本誌上シンポジウムではNocardia属放線菌からの天然物探索に関する最近の研究について報告する.

放線菌の一種であるNocardia属はグラム陽性細菌であり,その多くが病原性をそなえ,ヒトでは肺や皮膚,脳などに日和見感染を引き起こす.当研究室では,千葉大学真菌医学研究センターとの共同研究に基づき,Nocardia属放線菌を新たな天然物探索資源として注目した.まずNocardia属を様々な培地で培養(単培養)することにより,Nocardia abscessus IFM10029Tから新規アミノシクリトールnabscessin A, Nocardia inohanaensis IFM0092Tから新規γ-ラクトンinohanalactoneを見い出した.一方,Nocardia属放線菌が動物細胞に感染する状態を模倣し,本属放線菌を動物細胞存在下で培養(共培養)することで,相互作用により本属が新たな化合物を産生することを期待して研究に着手した.動物細胞としてマウスマクロファージ様細胞(J774.1)を用い,Nocardia tenerifensis IFM10554T株との共培養条件下で選択的に産生される化合物として,新規パントテン酸アミド誘導体及びWntシグナル活性化作用を持つ環状ペプチドnocarjamideを単離した.その他のNocardia属放線菌からも,数種の共培養選択的産生天然物等が得られており,併せて以下に報告する.ただその前に,薬学会シンポジウムでも発表した通り,変形菌を例にして,環境によって微生物が産生する化合物が変化すると思われる現象について,まず紹介したい.

2. 培養変形菌の色の変化

当研究室では,変形菌からの化学成分の研究を行い,実験室培養菌体及び野外採取子実体から一連のユニークな天然物を単離してきた.5その過程で,変形菌の培養実験を行っているとき,実験者の観察により一つの興味深い現象が見い出された.一菌株クネリカタホコリ(Didymium flexosum)の培養実験において,本菌の培養変形体の色は通常は白色だったが,シャーレ内にカビが混在していると紫色になることがあった.さらに,植え継ぎを繰り返してカビをシャーレから除去すると,次第に変形体の色は元の白色へと戻っていった.この現象から予想されることとして,カビから身を守るため,あるいはカビを退治するために,本菌の変形体は紫色の物質を生産したのだろうと実験者は考察した.自然界ではまわりはカビだらけであり,必死にそういう物質を生産していることが考えられる.現在までのところ,その紫色物質の解明には至っていない.今後,カビを多すぎず少なすぎず,程よく混在させて培養するという手加減をつかむことが必要と考えられる.同じ現象は,Diderma platycarpum var. berkeleyanumの変形体の培養においても観察された.本菌の場合,実験者によると,紫色のときの方が白色のときよりも変形体の成長が速いと感じられたということであった.カビに負けないためには速く成長する必要があると考察された.変形菌由来の紫色物質として,別途の実験により,同じDidymium属のバイアカタホコリ(Didymium bahiense)の培養変形体からmakaluvamine A(16を,ゴマシオカタホコリ(Didymium iridis)の培養変形体からmakaluvamine I(27を単離しており(Fig. 1),関連する化合物かもしれない.培養変形体の色の変化は,環境によって微生物が産生する化合物が変化する可能性を示唆しており,培養条件の違いにより選択的に化学成分が産生されることを期待して,Nocardia属放線菌を対象として,以下の研究を行った.

Fig. 1. Structures of Makaluvamines A and I (1 and 2)

3. Nocardia属放線菌成分(1):単培養

千葉大学真菌医学研究センターでは,全国各地から臨床から分離された病原性放線菌をコレクションしている.中でも,Nocardia属放線菌はノカルジア症と呼ばれる日和見感染症を引き起こす菌株が多く,これまでに基準株70種を含む2000株あまりのNocardia属菌株を保有している.Nocardia属放線菌は近年のゲノム解析により,Streptomyces属と同程度の二次代謝産物生合成遺伝子群を持つことが明らかにされたが,Streptomyces属ほど天然物探索研究は進んでいなかった.そこでNocardia属は天然物探索のための有用資源と考え,Nocardia属を様々な培地で培養(単培養)し,新規天然物の探索を試みた.

まず,菌株の選別のために,Nocardia属70種について,16S rRNA配列に基づき系統樹を作成後,臨床分離株13種を選別し,各菌株を4種類の異なる液体培地8[1. yeast-malt-glucose(YMG),2. Waksman, 3. modified Czapek-dox(mCD),4. nutrient broth(NB)]で培養した.得られた計52種類の培養エキスについてLC-MS分析を行った結果,Nocardia abscessus IFM 10029T株をmCD培地で培養した際に,3本の特徴的なピークが観測された.そこで本菌株をmCD培地中で大量培養し,得られた培養抽出物のEtOAc可溶画分を各種クロマトグラフィーによって分画し,新規化合物nabscessins A–C(35)を得た(Fig. 2).8,9

Fig. 2. Structures of Nabscessins A–C (35)

これらはいずれも新規アミノシクリトール型天然物であり,2-デオキシ-シロ-イノサミン(2-deoxy-scyllo-inosamine)に3-ヒドロキシ安息香酸(3-hydroxybenzoic acid),6-メチルサリチル酸(6-methylsalicylic acid: MSA),及びカルバモイル基が連結した構造を持つ位置異性体であった.絶対立体配置については,3を加水分解後,誘導したペンタアセチル化体(6)の比旋光度を文献値10と比較することにより決定した.

培地条件のさらなる検討の結果,nabscessins A–C(35)は,N. abscessus IFM 10029T株をbrain heart infusion(BHI)培地で前培養し,mCD培地での単培養した場合に産生されたが,BHIを用いずに前培養を行ってmCD培地で単培養した場合には産生されないことがわかった.一方,後述するマウスマウスマクロファージ様細胞(J774.1)との共培養についても検討したところ,化合物35はこの共培養条件でも産生されることがわかったが,その場合は前培養時にBHIを用いなくてよかった.

菌株の2番目として,4種類の培地に対するLC-MSスクリーニングにおいて,mCD培地でのみ検出され,他の3種類の培地(YMG, Waksman, NB)では検出されないピークが観測されるNocardia inohanensis IFM0092Tを選別した.本菌株をmCD培地,28°C, 14日間,160 rpmで振盪培養し,得られた培養抽出物の酢酸エチル可溶部をoctadecyl silica(ODS)カラムクロマトグラフィーで分画し,新規化合物inohanalactone(7)を得た.11本化合物は各種スペクトルデータの解析に基づき,γ-ブチロラクトン骨格を有する新規化合物であることが判明した(Fig. 3).関連化合物として,海洋由来放線菌株Pseudonocardia sp. YIM M13669より,側鎖の炭素鎖の長さが異なるpseudonocardide A(8)が単離されていた.12

Fig. 3. Structures of Inohanalactone (7) and Pseudonocardide A (8)

4. Nocardia属放線菌成分(2):共培養

冒頭でも述べたように,Nocardia属放線菌は感染により免疫細胞などの生体細胞と相互作用を持つと考えられる.そこで,本属菌を動物細胞存在下で培養(共培養)することにより新たな化合物が産生されることを期待した.まず,千葉大学真菌医学研究センターが保有する基準株を含む76種のNocardia属放線菌のドラフトゲノムの解析を行い,感染因子として報告のあるnocobactin NA生合成遺伝子の特定のドメイン配列を指標に系統樹を作製し,6種を選別した.Nocardia属は人体に感染した際,マクロファージによる補食を受ける.そこで共培養に用いる動物細胞は,感染初期の状態を模倣する目的でJ774.1株を使用した.選別した菌株6種について,動物細胞J774.1存在(共培養)及び非存在(単培養)下,多様な条件下で培養(小スケール)を行い,得られた抽出物をLC-MSで分析した.その結果,J774.1細胞存在下,Nocardia tenerifensis IFM10554T株を培養した抽出物に共培養特有のピークが複数観察されたことから,本菌株を最初の共培養実験の菌株として選択し,以下の実験を行った.共培養時の菌株と動物細胞数の比率は抽出物のLC-MSの結果より,mCD培地において,菌数 : 動物細胞数=10 : 1と決定した.

選別されたNocardia tenerifensis IFM 10554T株について,設定した条件(菌数 : 動物細胞数=10 : 1, mCD培地,175 cm2細胞培養フラスコ,28°C, 14日間)で静置培養し,培養液を得た.HPLC分析の結果,本菌の共培養時には,本菌のみあるいは動物細胞J774.1のみの単培養では産生されないピークが複数存在することが明らかとなった.

そこで,本菌の共培養液(フラスコ培養)7.3 Lを用いて,溶媒分配後,酢酸エチル可溶部をODSカラムクロマトグラフィー及びHPLCによって精製し,共培養特有のピークに相当する2種の化合物9及び10を単離した(Fig. 4).13,14これらは,動物細胞J774.1非存在下では産生せず,J774.1存在下で優先的に産生された.

Fig. 4. Structures of Dehydropropylpantothenamide (9) and Nocarjamide (10)

化合物9は,高分解能ESIMSにより分子式C12H22N2O4と持つと推定し,1H,13C及び各種2D NMRスペクトルの結果,2つのアミド結合及びZ型の二重結合を持ち,α, β-不飽和アミドを有する新規パントテン酸誘導体であることが明らかとなった.また,化合物9をD-パントテン酸カルシウムからNicolaouらの方法15に従い,7工程で全合成し,天然物と比旋光度及びCDスペクトルを比較することにより,9の2位の絶対立体配置をR配置と決定した.本化合物をdehydropropylpantothenamideと命名した.13

化合物10は,ion trap-time of flight-mass spectrometer(IT-TOF-MS)より,分子量1115,分子式C60H93N9O11を持つことが推定された.CDCl3中でのNMRスペクトルデータからは,部分構造として18個のアミノ酸を持つことが予想されたが,これらの構成アミノ酸に基づく分子量は,MSデータによって推定された分子量とは大きく異なっていた.そこでDMSO-d6中での1H NMRを測定したところ,CDCl3中での測定時よりシグナル数はおよそ半分に減少した.

CDCl3中では二つの優位な立体配座がほぼ1 : 1で観測されているものと考えられた.DMSO-d6中では,ほぼ一つの立体配座として観測されたことから,DMSO-d6中でのNMRスペクトルを解析することにより,化合物10には,9個のアミノ酸(Ala×1, Leu×1, Phe×1, Thr×1, Val×2, N-MeVal×1, N-MePhe×1, N-MeLeu×1)と1個の3-メチルブタン酸(3-methylbutanoic acid: 3-MBA)が含まれていることが示唆された.Heteronuclear multiple bond correlation(HMBC)の相関ピークにより,9個のアミノ酸の配列が明らかとなり,N末端のThrとC末端のN-MeValはエステル結合を介して連結し環状ペプチド構造を形成することがわかった.またN末端のThrには3-MBAがアミド結合しており,以上により本化合物の全体平面構造が示唆された.さらに,Na+が付加したm/z 1138[M+Na]+イオンを前駆イオンとしたMS/MS解析を行ったところ,各アミノ酸が脱離したイオンピークが観察され,NMRデータから示唆された全体構造が矛盾なく説明できた.各アミノ酸の絶対立体配置は改良Marfey法を用いて行った.すなわち,各アミノ酸標品と10の加水分解物をL-FDLA誘導体化し,LC-MSの保持時間を比較することで,Pheと1つのValがD体,他はL体と決定した.本化合物には,2つのValが含まれており,そのうち一つはD-Val,もう一つがL-Valであることがわかったが,2つのValのうち,どちらがDでどちらがLかは不明であった.最終的には,化合物10の結晶が得られたことから,そのX線結晶構造解析によりD-, L-Valの位置を含めた全体構造を決定した.X線解析の結果,NMRに基づいて提出した構成アミノ酸とその配列,及び改良Marfey法に基づく各アミノ酸の絶対配置には矛盾がないことが判明した.以上により,化合物10の構造が確定し,本化合物をnocarjamideと命名した.14また興味深いことに,化合物10の結晶は2つの異なる立体配座からなる二量体として存在することが明らかとなった.なお,化合物10は,細胞の分化や増殖等,様々な生命現象に関与するWntシグナル16を活性化させる作用を持つことが判明した.また,本化合物10はJ774.1細胞だけでなく,ヒト胎児腎細胞HEK293やヒトT細胞白血病由来HPBALL細胞とNocardia tenerifensis IFM 10554T株との共培養でも産生された.

上述のNocardia属放線菌と動物細胞J774.1との共培養条件下,試験管培養で得られた培養抽出物のLCMSスクリーニングの結果,共培養選択的なピークが検出された2番目の菌株として,Nocardia arthritidis IFM10035T株を選別した.そこで本菌株をJ774.1の存在下,mCD培地,28°C,静置条件にて2週間共培養を行った.本菌のフラスコ培養液(1 L)で得られた抽出物について,各種クロマトグラフィーによる分離精製を行い,単培養及び共培養抽出物のLC-MSの比較により,共培養選択的に産生される化合物群を含むフラクションを得た.LC-MS分析の結果,このフラクションには主に6種のピークが含まれ,各ピークは各々m/z 951, 965, 979, 993, 1007, 1021というMSピークを与えたことから,メチレン炭素1つずつ異なる一連の化合物であることが示唆された.主要ピーク(m/z 993, Fig. 15, d)を単離し,各種NMRスペクトルによる解析を行った結果,本化合物は1982年Nocardia asteroidesからの単離報告があるL-Val(6)peptidolipin NA(1117と一致することが判明した(Fig. 5).他の5つのピークもNMRスペクトルが類似しており,文献未記載の化合物を含む脂肪鎖の長さが異なる類縁体であると考えられた.18

Fig. 5. Structure of L-Val (6) Peptidolipin NA (11)

以上,われわれの研究グループにおける病原性Nocardia属放線菌を対象とした天然物探索に関する最近の研究成果を紹介してきた.その後も,動物細胞との共培養を用いる方法を中心に,本属放線菌からの天然物探索研究は継続して行われており,種々の興味深い化合物が引き続き見い出されてくることが期待される.19それらについてはまた別の機会に発表したいと考えている.

謝辞

以上の研究成果は千葉大学大学院薬学研究院活性構造化学研究室で行われた研究の結果であり,荒井 緑教授(慶應義塾大学理工学部),原 康雅博士(香川大学農学部),高屋明子博士(千葉大学大学院薬学研究院感染制御学研究室)を始めとする多くの学生・共同研究者の皆様に深く感謝いたします.また,共同研究でお世話になりました矢口貴志博士,五ノ井透教授を始め千葉大学真菌医学研究センターの皆様に感謝いたします.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第143年会シンポジウムS33で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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