YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
Supersulfides in Environmental Toxicology and Hygiene
Kazuhiro Nishiyama Takashi Toyama
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2024 Volume 144 Issue 1 Pages 39-40

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北海道大学で開催された日本薬学会第143年会において,令和5年3月26日の16時からの2時間,環境・衛生部会若手研究者シンポジウム(S29)のオーガナイザーを東北大学の外山喬士博士と務めさせて頂いた.硫黄原子が連続して結合した超硫黄分子(スーパースルフィド)が内在的に産生されており,近年その生理的作用が注目されている.システインの超硫黄化はチオール基の反応性を上昇させ,抗酸化活性や薬毒物との反応性を上昇させる可能性が指摘されており,特に生体内のレドックスバランス破綻に起因する毒性・細胞死において,重要な制御因子となり得る.本シンポジウムでは,特にレドックストキシコロジーや衛生薬学,及び超硫黄のダイナミクス解析に関する若手研究を集結させ,「衛生薬学・毒性学における超硫黄」というタイトルで生体における超硫黄の意義について講演頂いた.

講演1では東北大学の外山博士に「メチル水銀の解毒代謝におけるグルタチオンと超硫黄の異なる役割」という題で講演頂いた.メチル水銀の解毒代謝に対する超硫黄の役割を解毒代謝経路として有名なグルタチオン(glutathione: GSH)を介したメチル水銀の無毒化・排泄機構と比較しながら紹介頂いた.例えば,セレノシステインがメチル水銀と結合した場合,Se-水銀化はGSHでは解除できないのに対し,超硫黄では解除可能であること,さらに,Se-水銀化によって血漿中の主要なセレン輸送タンパク質であるセレノプロテインPのセレン輸送活性は失活したものの,超硫黄によって回復できることを明らかにした.本講演では超硫黄産生系が担う解毒代謝の意義を示されており,今後の発展が期待できると思われる.

講演2では「超硫黄分子による親電子ストレス制御」という題で慶應義塾大学の秋山雅博博士に講演頂いた.秋山博士らは腸内細菌叢における超硫黄の産生に着目して研究を進められており,無菌マウスでは生体内の超硫黄分子の濃度が低下することや,特定の腸内細菌(Ruminococcaceae科やLachinospiraceae科に属する腸内細菌)が超硫黄分子の高い産生能を持つことを明らかにされた.環境中親電子物質に対して,腸内細菌が産生する超硫黄分子が保護的な役割を果たしていることも示されていた.腸内細菌叢が肥満やアレルギー,喘息,自閉症など様々な疾患の発症に関連することが知られているので,今後,超硫黄と種々の疾患の関連性が明らかにされると期待できる.

講演3では和歌山医科大学の池田真由美博士に「血清アルブミンに存在する超硫黄の解析と創薬応用」について講演頂いた.池田博士らは血清アルブミンに含まれる超硫黄分子の役割について研究しており,本講演では,血清アルブミンが酸化ストレスに応答して酸化型ポリスルフィドを還元型へと変換することで,新たに抗酸化活性を獲得することを示された.加えて,硫化水素を血清に加えると,硫化水素が血清アルブミンに結合してポリスルフィドが生成することを見い出し,この機構を応用してポリスルフィドが多付加した血清アルブミン(S-Albumin)を新たに開発した.S-Albuminは細胞内の酸化ストレスを効率的に除去することが示されており,超硫黄分子のドラッグデリバリーに応用が期待される知見であった.

最後を締める講演4では熊本大学の津々木博康博士に「腸管出血性大腸菌毒素SubABの病原性発現機構に関わるレドックスバイオロジー」について講演頂いた.腸管出血性大腸菌が産生する毒素であるSubABの毒性発現におけるタンパク質チオールを介した宿主レドックス調節機構について紹介頂いた.SubABは宿主因子としてレドックス調節タンパク質glutathione S-transferase P1(GSTP1)を介して毒性を発揮することを示された.一方,宿主の感染防御因子として働く一酸化窒素(NO)がGSTP1の48番目のシステインを修飾し,GSTP1の活性を阻害することで,SubABの細胞毒性を阻害することを明らかにした.今後,病原細菌や毒素に対する超硫黄の効果も期待できると思われる.

どの講演も非常に興味深く,活発な討論がなされた.当日のセッションは午前中から続く3つあった超硫黄のシンポジウムの最後となっており,演者の皆さんも,聴講されていた方々も疲れていたと思われるが,その疲れを感じさせないほどの講演・討論であった.その熱気を本誌上でも味わって頂ければと思う.

謝辞

演者とシンポジウム企画を採択頂いた日本薬学会第143年会組織委員会の先生方に深く感謝申し上げます.

Notes

日本薬学会第143年会シンポジウムS29序文

 
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