YAKUGAKU ZASSHI
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Development of Donor–acceptor-type Molecules and Their Application as Analytical Reagents
Tomohiro Umeno
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2024 Volume 144 Issue 10 Pages 911-918

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Summary

π-Extended donor–acceptor (D–A)-type molecules, which bear both electron-donor and electron-acceptor substituents on the backbone, exhibit unique optical properties, such as bathochromic shifts in absorption and emission, large Stokes shifts, solvatochromic behavior, and fluorescence quenching in polar solvents. These unique properties are attributed to intramolecular charge transfer (ICT) or twisted intramolecular charge transfer (TICT) in the ground and excited states. This review article introduces three types of D–A-type molecules that are used as detection reagents for (1) methanol, (2) amino acids during solid-phase peptide synthesis (SPPS), and (3) amines present in the biological environment. For methanol detection, D–A-type fluorophores with basic guanidine moieties were developed to differentiate between methanol (MeOH) and ethanol (EtOH) based on the small difference in their pKa values (ΔpKa=0.4). Selective protonation of the guanidine moiety in methanol disrupts the D–A structure, allowing emission in the resultant polar environment. Similarly, an acid-base reaction between the hydrogen chloride (HCl) salts of the D–A-type molecules and amines is applied to detect amines during SPPS. In this method, a colorless solution of an HCl salt of the D–A-type molecule is deprotonated by amines, forming a yellow solution. This is the first reported quantitative and non-destructive colorimetric method for detecting amines. Finally, a turn-on-type amine-labeling reagent was developed for the nucleophilic aromatic substitution (SNAr) reaction. This new reagent enables protein staining of living cells with a large Stokes shift and without solvent-polarity-dependent fluorescence quenching.

はじめに

特定の環境下で発光のOFF/ON制御が可能な蛍光プローブは生命現象の解明に不可欠なツールであり,これまで様々な原理に基づいたプローブ分子が多数開発されてきた.中でも光誘起電子移動(photoinduced electron transfer: PeT)機構や蛍光共鳴エネルギー移動(Förster resonance energy transfer: FRET)機構を利用した蛍光イメージングがよく知られているが,筆者は分子内電荷移動(intramolecular charge transfer: ICT)機構に基づく光学特性の変化に着目した蛍光プローブや分析試薬の開発を行ってきた.分子内に電子ドナー性官能基と電子アクセプター性官能基を持つπ共役分子はその特徴からドナー・アクセプター(donor–acceptor: D–A)型分子あるいはプッシュプル型分子とよばれ,分子内に分極構造を有することから,D–A型構造を持たない蛍光分子とは異なる特異な光学特性を示す.本稿では,このD–A型分子の特徴を利用した分析試薬やバイオイメージングツールの開発について筆者らの研究成果を中心に概説する.

1. ドナー・アクセプター型分子

唐澤らは,アミノ基とトリフルオロメチル基をそれぞれ電子ドナー性基と電子アクセプター性基として有するD–A型のキノリン分子bis(trifluoromethyl)aminoquinoline(TFMAQ)誘導体を多数報告しており,その光学特性を明らかにしている.14通常,分極構造を持たない無置換のキノリンは300 nm以下の紫外領域に吸収極大を持つため,溶液は無色であり蛍光性を示さない.5一方TFMAQは,ドナー部位とアクセプター部位がそれぞれ最高被占軌道(highest occupied molecular orbital: HOMO)と最低空軌道(lowest unoccupied molecular orbital: LUMO)に強い影響を及ぼすことでHOMO–LUMOギャップが小さくなり,低エネルギー化が生じる.その結果,吸収波長と蛍光波長の長波長化が起こり,溶液は黄色に着色する.またこのとき,D–A型分子の特徴である溶媒の極性に依存した吸収・蛍光の長波長シフト(正のソルバトクロミズム)と極性溶媒中での蛍光量子収率の低下が観察される.極性溶媒中での蛍光量子収率の低下は,励起状態で分子がねじれることにより電荷の完全な分離が生じるねじれ型分子内電荷移動(twisted intramolecular charge transfer: TICT)状態の形成に起因している.筆者はTFMAQ類縁体のこのような特徴を利用して,アミノ基部分に分子認識能を付与することで検出試薬として展開してきた(Fig. 1).

Fig. 1. Chemical Structures of the D–A Molecules Presented in This Review

2. 強塩基性D–A型分子によるメタノール検出

メタノールとエタノールはよく似た化学的・物理的性質を有しているが,エタノールが飲料や消毒剤として利用される一方,メタノールは摂取すると失明や死に至る危険性があるため劇物に指定されている.そのため,メタノールの簡便な検出を目指し,現在までにいくつかのメタノール選択的蛍光検出試薬が開発されている.6そのような中で筆者は,これまで標的とされていないメタノールとエタノールのpKa(それぞれ15.5と15.9)の差に着目し,両者のpKaの差を識別するD–A型分子の開発を行った.7

D–A型分子がメタノールの酸性プロトンを認識するためにはD–A型分子のアミン部分に十分な塩基性を持たせる必要がある.そこで,TFMAQ(pKBH+=0.9)のドナー置換基であるアミノ基を有機強塩基として知られるグアニジノ基へと変換し,骨格をπ拡張したベンゾキノリン化合物1(pKBH+=8.4)を合成し,酸存在下での吸収蛍光スペクトルを測定した[Figs. 2(a) and (b)].1は極性溶媒であるアセトニトリル中で453 nmに吸収極大波長を持ち,蛍光は検出されなかったが,酸を添加することで吸収波長が短波長側へとシフトし,537 nmに明確な蛍光極大がみられた.これはTICTにより極性溶媒中で蛍光を示さない化合物1が,酸の添加によってグアニジノ基がプロトン化されてドナー性を失い,ICT性を示さなくなったことに由来する.続いて各種アルコール中で吸収蛍光スペクトルを測定したところ,メタノール中でのみ酸添加時と同様に長波長側の吸収が減少しており,メタノールによって化合物1が選択的にプロトン化されていることがわかった[Fig. 2(c)].蛍光スペクトルでも,メタノール中でのみ蛍光強度の上昇が確認でき[Fig. 2(d)],メタノールとエタノールのpKaの差を蛍光により識別できる分析試薬の開発に成功した.

Fig. 2. Photophysical Response of 1 toward Acid and Alcohols

(Color figure can be accessed in the online version.)

続いて,中性状態の1とプロトン化状態の1·H+についてdensity functional theory(DFT)計算を行いそれぞれの電子状態を調査した結果,中性状態1ではHOMOとLUMOがそれぞれグアニジン部分とベンゾキノリン部分に局在しており,ICT性を有していることがわかる[Fig. 3(a)].一方プロトン化体1·H+では,HOMOとLUMOいずれもベンゾキノリン上に非局在化しており,局所励起型の蛍光分子となっている[Fig. 3(b)].この結果は,極性溶媒中で消光するICT型分子である1がメタノール中でのみプロトン化され1·H+となることで局所励起型となり発光したことを支持する結果であった.

Fig. 3. Highest Occupied and Lowest Unoccupied Kohn–Sham Orbitals (Isovalue=0.02) of 1

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3. 酸塩基反応を利用した塩酸塩型ペプチド固相合成用アミン検出試薬

上述のメタノール検出試薬のようにD–A型分子中のドナー性置換基のプロトン化は分子のICT性を失わせ,吸収極大波長を短波長化させる.われわれはこの特徴を利用することで,塩酸塩型D–A型分子がアンモニア検出試薬として利用可能であることを報告している.8ベンゾキノリン型のD–A型分子benzoquinoline(linear-type)(BQL)は通常赤色であるが,塩化水素雰囲気下で塩酸塩とすることでアミノ基のドナー性がなくなり吸収が短波長シフトし,淡黄色となる.この塩酸塩をアンモニアガス雰囲気下に曝露すると,塩酸塩が瞬時に脱塩されて赤色を呈するBQLが再生する[Fig. 4(a)].筆者はこの原理をペプチド固相合成(solid-phase peptide synthesis: SPPS)におけるアミン検出試薬として利用できると考えた.SPPSは不溶性の樹脂上でアミノ酸の伸長を行うペプチド合成法であり各工程での単離精製が不要であることから,長鎖ペプチドの合成に有用なペプチド合成法である.SPPSにおいて基本的な工程はアミノ酸N末端保護基の脱保護とカップリング反応からなり,その反応の追跡にはニンヒドリン反応を利用したカイザーテストが用いられる.9ニンヒドリン反応は一級アミノ基が存在すると青紫色を呈する一級アミノ基の検出方法であり,ペプチドカップリング反応後の残存アミノ基の有無から反応の進捗を確認できる.しかしカイザーテストには以下のような多くの問題点が存在する.①二級アミンなど検出できないアミノ酸がある.②検出の際,樹脂を分取する必要がある.③猛毒シアン化カリウムの使用.④数分の加熱が必要.⑤定量検出が困難.特に,不可逆反応であることに起因する樹脂の分取が必要な点は迅速簡便なペプチド合成の大きな問題点である.一方,われわれが報告したアンモニア検出法8では検出後のアンモニアは塩酸塩となるだけであり,脱塩されたD–A型分子が呈色する.この原理をSPPSにおけるアミン検出に応用した場合,樹脂上のアミノ基は塩酸塩となるだけであり,樹脂は洗浄操作のみでそのまま次の反応に用いることができる[Fig. 4(b)].さらに溶液中に遊離した呈色分子の吸光度を測定することで定量的なアミン検出も可能である.この仮説に基づき,SPPS用の塩酸塩型アミン検出試薬の開発に着手した.

Fig. 4. Schematic Representation of Amine Detection Using the HCl Salt of the D–A Molecule

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まずはじめに,TFMAQやBQLはアミノ基の塩基性が低く溶液中で塩酸塩が瞬時に解離してしまうことがわかったため,ドナー性アミノ基の塩基性の調整を行った化合物2を合成した.合成した化合物2の塩酸塩2·HClはアセトニトリル中で解離せず安定に存在し,溶液は無色であった.そこで,この溶液に対してアミンを添加したところ瞬時に黄色に着色し,その吸光度の変化からアミンの定量検出に成功した[Figs. 5(a) and (b)].続いて,2·HClを用いてペプチド固相樹脂上のアミノ基の定量検出を行った.Fmoc検定により樹脂上アミノ基の量を決定したグリシン導入樹脂に対して2·HClの10 mMアセトニトリル溶液を加え溶液の吸光度を測定したところ,樹脂上アミノ基の量が増えるにつれて吸光度が上昇し,アミノ基の量と吸光度の間に高い直線性(R2=0.999)がみられた[Figs. 5(c) and (d)].なおアミン検出において検出前の樹脂の洗浄が重要であり,この操作を丁寧に行うことでFmoc保護状態での吸光度の上昇が抑えられ,偽陽性の可能性を最小限にすることが可能であった[Figs. 5(d) and (e)].また,グリシン以外のすべての天然アミノ酸についてもばらつきの小さな優れた定量性(相対標準偏差<3.6%, n=3)が確認された[Figs. 5(f) and (g)].そこで本検出法を実際のペプチド合成に用いることとした.なおこの実験では構造の最適化を施した化合物3·HClをアミン検出試薬として用いた.2·HClを用いた樹脂上アミノ基の検出では,アミンが高濃度に存在する場合に直線性が失われている.これは樹脂上アミノ基の塩基性が低く,呈色試薬の塩酸塩を十分に脱塩できていないことを意味している.そこで3·HClはCF3基を導入することで酸性度を高めており,塩基性の低い樹脂上アミノ酸でも脱塩し易い設計を施した.

Fig. 5. Quantitative Amine Detection Using 2·HCl

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実際のペプチド合成では,カイザーテストでは検出できないアミノ酸[プロリン(proline: Pro),N-メチルグリシン(N-methylglycine: N-MeGly),α-アミノイソ酪酸(α-aminoisobutyric acid: Aib)]を含むペプチド(Peptide 1)の合成における各工程を,カイザーテストと3·HClによりアミン検出し,Peptide 1をそれぞれ合成した[Fig. 6(a)].各アミノ酸脱保護後のアミン検出において,カイザーテストではPro,Aib,アスパラギン(asparagine: Asn),アスパラギン酸(aspartic acid: Asp),N-MeGlyを検出できず,溶液の着色がみられなかったが[Fig. 6(b)],3·HClではすべてのアミノ酸で吸光度の上昇が確認された[Fig. 6(c)].カップリング反応後のアミン検出では,3·HClを用いることでAib導入後のカップリング反応の詳細な反応追跡に成功し,カップリングを繰り返すことで樹脂上の未反応アミノ基が減っていく様子を確認できた.この結果,3·HClを用いた場合では,粗生成物でもアミノ酸欠損体が検出されない高純度のペプチドを合成することに成功した[Fig. 6(d)].10

Fig. 6. Amine Detection Using 3·HCl in Practical Fmoc-SPPS

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4. 水中で発光するD–A型アミンラベル化試薬

バイオイメージングにおいて,最大吸収波長と蛍光波長の差(ストークスシフト)が小さい蛍光分子は,励起光と蛍光の重なりが大きいため検出感度の低下につながる.ストークスシフトを大きくする戦略の1つがD–A型分子の利用であり,11一般的な蛍光分子のストークスシフトが~30 nm程度12であるのに対して,例えばTFMAQでは極性溶媒中で123 nmもの大きなストークスシフトを示す(Table 1).しかしこれまで述べてきたように,D–A型分子は極性環境下で顕著に消光するため,バイオイメージングへの利用は制限されている.筆者らはTFMAQのキノリン環をナフチリジン環へと変換した1,8-Napやその誘導体の光学特性を調査していく中で,1315 1,8-Nap誘導体がD–A型分子であるにもかかわらず極性環境下で強く発光し,かつ,大きなストークスシフトを持つことに着目した.また,1,8-Nap誘導体は非D–A型で無蛍光性の1,8-Nap-Clとアミンなどの求核種との反応により得られることから1,8-Nap-ClはTurn-ON型のアミン検出プローブとして機能すると期待される.そこで筆者らは,ナフチリジンを基本骨格とするアミン反応性蛍光プローブの開発に着手した.

Table 1. Photophysical Parameters of the Known Fluorophores and TFMAQ

Compoundλmaxex (nm)λmaxem (nm)Δλ (nm)
Fluorescein49451824
Rhodamine 6G52855224
Cy565067020
BODIPY 50550251210
TFMAQ412535123

1,8-Nap-Clは反応性の低さに大きな問題を抱えていたため,反応性の向上を目的に脱離基をchlorine(Cl)からfluorine(F)へと置換した1,8-Nap-Fを1,8-Nap-Clから一段階で合成した.これによりアミンとの芳香族求核置換反応が大きく加速され,1,8-Nap-Fとプロピルアミンとの反応は446 nmにおける蛍光強度の上昇を伴いながら,30分以内に95%以上が反応した.得られたアミン付加体は70 nmの比較的大きなストークスシフトを持ち,水存在下でも高い蛍光強度を維持していた.さらに1,8-Nap-Fは加水分解に対して非常に高い安定性を持っていたことから,細胞イメージングにも利用でき,経時的に細胞が蛍光染色される様子が観察された(Fig. 7).さらに1,8-Nap-Fは多様なアミンと反応することから,オルガネラ指向性官能基を持つアミン類との反応により,リソソーム,ミトコンドリア,小胞体をそれぞれ標的とするプローブ(Nap-Lyso, Nap-Mito, Nap-ER)の合成も容易に可能であり,標的とするオルガネラを高選択的に蛍光染色可能であった(Fig. 8).16

Fig. 7. Application of 1,8-Nap-F to Time-dependent Protein Labeling in Living Cells

Reprinted with permission from Bioconjugate Chem., 34(8), 1439–1446 (2023). Copyright 2023 American Chemical Society. (Color figure can be accessed in the online version.)

Fig. 8. Organelle-specific Staining Using Naphthyridine Derivatives

Reprinted with permission from Bioconjugate Chem., 34(8), 1439–1446 (2023). Copyright 2023 American Chemical Society. (Color figure can be accessed in the online version.)

おわりに

筆者は分子内にドナー性置換基とアクセプター性置換基を持つD–A型π共役分子に分子認識部位を付与することで,D–A型分子の特徴を利用した検出試薬の開発を行ってきた.本研究で用いたTFMAQや1,8-Napは市販の試薬から一工程で合成可能な蛍光分子であり,10 g以上の大スケール合成や結晶化による精製といった合成上大きな利点を持つ.これらの利点からも今後,本D–A型分子から導かれる新たな機能性や分子認識能を持つ誘導体が開発され,分析試薬として展開されることが期待される.

謝辞

本稿で紹介した研究はすべて昭和薬科大学薬品分析化学研究室にて行われたものであり,御指導・御助言を賜りました唐澤 悟教授に厚く御礼申し上げます.また,共同研究者の先生方,本研究に御協力頂きました学生の皆様に深く感謝申し上げます.本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費補助金(20K22721及び22K15265),笹川科学技術振興財団及び昭和薬科大学若手研究者助成の支援を受けて行われたものであり,深く御礼申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2023年度日本薬学会関東支部奨励賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
© 2024 The Pharmaceutical Society of Japan
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