YAKUGAKU ZASSHI
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Synthesis of Coumarin–oligonucleiotide Conjugates for Application in DNA-encoded Libraries
Takashi Osawa
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2024 Volume 144 Issue 10 Pages 931-936

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Summary

Oligonucleotides, including DNA and RNA, can be functionalized by chemical modification based on synthetic organic chemistry. For example, ligand–oligonucleotide conjugates have a wide variety of applications. Conjugates of functional ligands and oligonucleotides have attracted attention in recent years as a drug delivery system (DDS) for improving the efficacy of oligonucleotide therapeutics. In addition, oligonucleotide conjugates with drug candidate compounds as ligands have been applied to drug screening using DNA-encoded libraries (DELs). Against this background, we have focused on the development of practical synthetic methods for ligand–oligonucleotide conjugates. Recently, we have developed a new synthetic method to construct oligonucleotides conjugated with coumarins and dipeptides, which are expected to have bioactivity, for application to DDS research of oligonucleotide therapeutics and drug discovery research using DEL. In this review, we will discuss the details, including how to construct a coumarin scaffold on oligonucleotides based on Knoevenagel condensation.

1. はじめに

DNAやRNAを始めとするオリゴ核酸は,有機合成化学を基盤とした化学修飾により機能性を付与することができる.例えば,化学修飾により核酸糖部やリン酸部の配座を適切に固定した人工核酸は標的RNAと安定な二重鎖を形成できるため,アンチセンス核酸やsmall interfering RNA(siRNA)などの核酸医薬の材料として応用されている.14また,機能性リガンドとオリゴ核酸のコンジュゲートは核酸医薬の薬効を向上させるためのドラッグデリバリーシステム(drug delivery system: DDS)として近年注目を集めている.5そのほか,創薬候補化合物をリガンドとして有するオリゴ核酸コンジュゲートはDNAコード化ライブラリー(DNA-encoded library: DEL)を利用した創薬スクリーニングにも応用されるなど,6,7リガンド–オリゴ核酸コンジュゲートの用途は多岐にわたる.このような背景のもと筆者は,リガンド–オリゴ核酸コンジュゲートの実用的な合成法の開発に注力してきた.その一環として,強塩基処理できないオリゴ核酸の3′-アミノリンカー修飾法を開発した.8本手法により従来法では困難だったアミド架橋型核酸(amido-bridged nucleic acid: AmNA)を搭載したオリゴ核酸の3′-アミノリンカー修飾が可能になった(Fig. 1).さらに,構造的に多様なジペプチド–オリゴ核酸コンジュゲートを簡便に取得できる手法として,多成分連結反応の1つであるUgi反応を基盤としたコンジュゲート法を開発した.9本手法では,4-ニトロフェニルカルバマート構造を持つカルボン酸を用いることで,Ugi反応生成物を単離することなくDNAとコンジュゲートできる(Fig. 2).さらに,鈴木カップリングなどにより,コンジュゲート後にオリゴ核酸上のジペプチドの置換基(R2からR4)を修飾することもでき,最終的に合計で121種類のコンジュゲート体を得ることができた.そして,ごく最近筆者は,核酸医薬のDDS研究やDELを利用した創薬研究への応用を志向した新しい合成法として,生理活性が期待されるクマリン類をコンジュゲートしたオリゴ核酸を一挙に構築する手法を開発した.10本稿ではオリゴ核酸上でのクマリン骨格構築法を中心に,筆者が行ってきたリガンド–オリゴ核酸コンジュゲートの合成研究について紹介する.

Fig. 1. 3′-Amino Linker Modification for Base-labile Oligonucleotides
Fig. 2. Conjugation of Dipeptide-like Ligands with Oligonucleotides Based on the Ugi Reaction

2. DNAコード化ライブラリー(DEL)

1990年代初頭,コンビナトリアルケミストリーとハイスループットスクリーニング(high-throughput screening: HTS)技術11が創薬に大きなパラダイムシフトをもたらした.数あるHTS技術の一つであるDELの概念は1992年にBrennerとLernerによって提唱され,12 1993年にJandaとBrennerによってオリゴヌクレオチドタグ化されたペプチドの合成に応用された.13 DELでは,各創薬候補化合物はDNA鎖と共有結合で連結され,DNA鎖はヒット化合物の識別バーコードとして機能する.一般的なDEL創薬のフローは,1)DELの構築,2)標的分子に強く結合する分子の単離,3)DNAバーコードのシーケンス解析によるヒット化合物の同定,4)ヒット化合物の合成とその結合活性評価という流れからなる(Fig. 3).DELは標的タンパクに依存せず,膨大な数の有機化合物の結合能を同時に評価できるため,DELは創薬初期におけるリガンド探索の強力なプラットフォーム技術となっている.

Fig. 3. The Process of Drug Discovery Using DEL

3. クマリン骨格を構築する合成法

クマリンは様々な天然化合物にも含まれる基本骨格であり,14,15ワルファリン,16ウンベリフェロン,17トダクリン18は薬理作用を持つ代表的なクマリン類縁体である.また,クマリン誘導体はその優れた光学特性から,蛍光プローブやトレーサーとして用いられてきた.1921このように,クマリン類は非常に魅力的な化合物群であるため,筆者はクマリン骨格をDNA上で構築できれば,DEL合成・創薬に有用な方法論になると考えた.

クマリン骨格の構築法は現在まで数多く開発されており,例えば,Knoevenagel縮合,22,23 Pechmann縮合,24,25 Perkin反応,26及びWittig反応27,28などによって合成することができる.一方で先述したように,DEL創薬においてDNAバーコードはヒット化合物を識別するために必要不可欠であることから,DEL合成ではDNA,特に核酸塩基が損傷しない温和な反応を選択し,リガンドを化学合成ことが極めて重要である.DNAが化学的に損傷を受ける代表的な例として,DNA中のアデニンとグアニンは酸性条件下でグリコシル結合が開裂し除去されることがよく知られている.29また,DNAはPd(OAc)2やCe(NH42(NO36などの遷移金属化合物の存在下で分解される.30このような核酸類の化学的性質の観点から,数あるクマリン骨格構築法の中でも,遷移金属触媒フリー,かつ,弱塩基性条件下でクマリン骨格を構築できるKnoevenagel縮合を基盤とした方法がクマリン類を有するDELの合成に適していると考えられた.そこで筆者は,マロン酸エステル修飾したDNAを基質とするクマリン骨格構築法の開発を目指して,その合成研究に着手した.

4. Knoevenagel縮合を基盤としたクマリン–オリゴ核酸コンジュゲートの合成

5′末端にアミノヘキシルリンカーを持つDNA1a及びDNA1bをジイソプロピルエチルアミン(N,N-diisopropylethylamine: DIPEA)存在下,N-ヒドロキシスクシンイミジル(N-hydroxysuccinimide: NHS)エステル131と反応させることにより,Knoevenagel縮合の原料となるDNA2a及びDNA2bを合成した(Scheme 1).次にポリチミジン十量体であるDNA2aとサリチルアルデヒドをモデル基質として,Knoevenagel縮合の反応条件検討を行った(Table 1).はじめに,100 mMのサリチルアルデヒドと10 mMのピペリジンを用いたところ,クマリンに変換されたDNA3aが収率19%で得られた一方で,出発物質のDNA2aを収率52%で回収した(entry 1).本反応は活性メチレン化合物,サリチルアルデヒド,ピペリジンすべての濃度を高めることが重要であり,最終的にentry 4に示す条件に最適化することで,基質のDNA2aは完全に消失し,目的のDNA3aを83%の単離収率で得ることに成功した.また,本反応の配列一般性を確認するために,アデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)の4塩基すべてを含むDNA2bと用いたところ,DNA2aと同様に首尾よく反応が進行し,DNA3bが68%の収率で得られた.

Scheme 1. Synthesis of DNA3a and DNA3b
Table 1. Optimization of the Knoevenagel Condensation Reaction

EntryDNA2aa)SalicylaldehydePiperidineEtOHDNA3ab)Recovered DNA2ab)
120 nmol (200 mM)10 mmol (100 mM)1 mmol (10 mM)100 mL19%52%
220 nmol (200 mM)50 mmol (500 mM)1 mmol (10 mM)100 mL50%26%
320 nmol (1 mM)10 mmol (500 mM)0.2 mmol (10 mM)20 mL69%10%
420 nmol (1 mM)10 mmol (500 mM)2 mmol (100 mM)20 mL87%0%
5c)20 nmol (1 mM)10 mmol (500 mM)0.2 mmol (10 mM)20 mL68%d)0%

a)The values in parentheses indicate concentrations of DNA2a and reagents. b)Isolation yield after HPLC purification. c)DNA2b was used as a substrate instead of DNA2a. d)Isolation yield of DNA3b.

次に,本反応におけるサリチルアルデヒド類の基質一般性を調査した(Fig. 4).本実験ではニトロ基,カルボキシ基などの電子求引基,ヒドロキシ基,メトキシ基などの電子供与基を持つ様々なサリチルアルデヒドを用いた.その結果,電子供与基を有するサリチルアルデヒド類を用いた場合に収率が低下する傾向があり,特にヒドロキシ基で置換されたサリチルアルデヒドを用いると目的物(DNA3b-10, DNA3b-17)は全く得られなかった.一方で,それ以外の基質においてはKnoevenagel縮合とそれに続く分子内環化が進行し,望みのクマリンコンジュゲートDNA 26種類を最大79%の収率で得ることに成功した.これにより大部分の置換基をクマリン骨格の5, 6, 7, 及び8位に導入できるだけでなく,三環式縮合クマリン(DNA3b-25及びDNA3b-26)も構築することができた.また,蛍光材料として有用な7-アミノクマリン誘導体3234を持つDNA3b-13及びDNA3b-27の合成も可能であった.

Fig. 4. Substrate Scope and Limitations

最後に,筆者の手法のDEL創薬への適用可能性を探るために,クマリン誘導体を有するモデルDELの合成検討を行った(Scheme 2).本実験ではアミノリンカーを有するヘアピン二重鎖DNA(DNA4)を原料として用い,1)N-Fmoc-アミノメチル安息香酸のペンタフルオロフェニルエステル2との縮合とFmoc基の脱保護,2)試薬1と末端ベンジルアミンの縮合,3)クマリン骨格構築の3段階に分けてモデル低分子を合成し,反応1から3にそれぞれ対応するバーコードDNA(barcode dsDNA①–③)を,T4リガーゼを用いて連結した.その結果,DNAの連結反応を含めたすべての反応が滞りなく進行し,望みのDEL(DNA8)を得ることができた.DEL合成では一般的に,リガンドの構造多様性を簡便にもたらすために,エタノール沈殿などの簡単な操作でDELを精製することが多い.しかし,本研究のモデルDEL合成では,反応効率が定量的でなかったため,反応毎に逆相HPLC精製が必要であり,精製操作の煩雑さという点で改善の余地を残している.さらに,アルキル化試薬や求電子剤との反応による核酸塩基損傷はDELのコード情報の喪失に直結する.35 Knoevenagel縮合はアルデヒド類を用いる反応であることから,筆者が開発した手法により合成したDELについては,LC/MS/MSによる詳細なDNA配列解析などにより核酸塩基の損傷を確認する必要がある.このように,解決すべき課題を抱えてはいるものの,筆者が開発した合成法は様々なクマリン類をコンジュゲートしたDNAを一挙に合成するのに有用であり,DELを利用した創薬研究に十分適用可能であると考えている.

Scheme 2. Synthesis of a Model DEL with a Coumarin Derivative

5. おわりに

核酸医薬や低分子創薬に有用なリガンド–オリゴ核酸コンジュゲートの効率的合成法として,Knoevenagel縮合を利用した合成法を開発した.本手法におけるサリチルアルデヒド類の基質一般性は広く,ヒドロキシ基を除くほとんどすべての置換基をクマリンの5位,6位,7位,8位に導入できた.さらに,クマリン誘導体を有するモデルDELの合成も達成し,われわれの方法のDEL合成への適用可能性を示すことができた.今後は,開発した本合成法をDEL創薬だけでなく,核酸医薬も含めた核酸を基盤とする技術に応用し,その有用性を広く実証していきたい.

謝辞

本稿で紹介した研究は,大阪大学大学院薬学研究科生物有機化学分野において行われました.本研究を遂行するにあたり,御指導御鞭撻頂きました小比賀聡教授に深く感謝申し上げます.本研究成果は,研究協力者である学生諸氏の日々の努力の賜物であり,その貢献に心より感謝いたします.また,本研究の一部は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(課題番号 JP19am0401003, JP21ae0121022, JP21ae0121023, JP21 ae0121024),日本学術振興会の科学研究費補助金(20K15401及び23K04930)などの支援を受けて行われたものであり,感謝申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2023年度日本薬学会関西支部奨励賞(化学系薬学)の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
© 2024 The Pharmaceutical Society of Japan
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