YAKUGAKU ZASSHI
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Review
Platelet-activating Factor (PAF) in Urinary Bladder Smooth Muscle (UBSM): Its Novel Role as a Potential Inducer of Detrusor Overactivity and the Mechanisms Underlying Its Effects in Enhancing UBSM Mechanical Activities
Keisuke Obara Kento YoshiokaYoshio Tanaka
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2024 Volume 144 Issue 11 Pages 997-1007

Details
Summary

Platelet-activating factor (PAF), a phospholipid mediator, was discovered in 1972 as an inducer of platelet aggregation. Subsequent studies have revealed that PAF has a variety of biological functions, such as its role as a potent proinflammatory mediator. Additionally, PAF regulates the contractile functions of various types of smooth muscle (SM), such as the (1) endothelium-dependent relaxation of vascular SM; (2) contraction and epithelium-dependent relaxation of airway SM; (3) contraction of gastrointestinal SM; and (4) contraction of uterine SM, which occurs more strongly in pregnant females. PAF is produced in platelets, monocytes, neutrophils, and macrophages, which are cells related to thrombus formation and inflammation/immune responses. Furthermore, PAF is produced in various other cells throughout the body. Interestingly, recent studies have focused on the urinary bladder (UB) as a PAF-producing organ since the accumulation of this phospholipid is enhanced in patients with bladder cancer and interstitial cystitis/bladder pain syndrome, especially those who smoke. Therefore, in UB tissue, PAF may play a substantial role as an inducer or enhancer of cancers and inflammatory diseases. However, the effects of PAF on the immediate mechanical activities of UBSM have not been investigated to date. In this regard, we recently discovered that PAF strongly enhances mechanical activities (muscle tone and spontaneous contractile activity) in UBSM tissues isolated from guinea pigs and mice. In this review article, we present our data on these PAF effects together with the possible underlying mechanisms. We also discuss the potential pathophysiological roles of this phospholipid in UB diseases and disorders.

1. はじめに

血小板活性化因子(platelet-activating factor: PAF)は1972年に血小板を凝集させる因子として発見されたリン脂質メディエーターである.1,2その後の研究により,PAFは,血小板凝集作用以外にも多彩な生理作用を示すことが報告された.例えば,PAFは強力な炎症誘発性メディエーターとして働くことが明らかとなっており,気管支喘息,クローン病,潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患において病態生理学的役割を担うほか,アテローム性動脈硬化症,心血管疾患,腎臓疾患,アレルギー,後天性免疫不全症候群(AIDS),がんなどの疾患において認められる炎症状態に関与することが報告されている.35これらの作用に加え,PAFは平滑筋の収縮性の制御においても重要な役割を担う.具体的には,1)各種血管平滑筋(大動脈,69肺動脈,6,10腸間膜動脈11,12)を内皮依存的に弛緩させる;2)気道平滑筋(気管,1315気管支1518)を収縮させるとともに,上皮依存的に弛緩させる(気管1922);3)各種消化管平滑筋(食道,23胃,2428十二指腸,29空腸,28,29回腸,25,2831結腸,25,29,32胆嚢33)を収縮させる;4)妊娠子宮平滑筋を強力に収縮させる.34このように,PAFは血小板凝集や炎症性・アレルギー性反応を惹起するだけでなく,多くの平滑筋組織において収縮機能を制御する役割を担っている.

PAFは血小板,単球,好中球,マクロファージなど,血栓形成や炎症・免疫反応に関与する細胞において産生されるだけでなく,全身の様々な細胞にて産生されることが報告されている.35例えば,腎臓は血中に存在するPAFの重要な供給源であり,腎摘出により血中のPAFが検出できなくなることが報告されている.35それ以外にも,組織レベルでは,脳,36心臓,37肝臓,38子宮,39回腸,40,41結腸,42細胞レベルでは,内皮・上皮細胞(血管内皮,4345尿路上皮,46,47気管・気管支上皮,48,49肺上皮,50回腸・結腸粘膜,51表皮52),平滑筋細胞(血管,53,54気管支55)でも産生されることが報告されている.近年,膀胱組織においてもPAFが産生され,その産生が喫煙やがんにより増加することが明らかとなり,46,47,56膀胱におけるPAFの病態学的役割に注目が集まっている.具体的には,間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(interstitial cystitis/bladder pain syndrome: IC/BPS)などの炎症性膀胱疾患の発症にPAFが重要な役割を担っている可能性が示唆されているとともに,46膀胱がんの悪性度にも関与する可能性が示唆されている.56このことと,PAFが様々な内臓平滑筋を収縮させる作用を持ち合わせることを踏まえると,膀胱平滑筋においてもPAFは基礎張力の上昇や自発性収縮活動の増加をもたらし,蓄尿や排尿反射に係わる膀胱運動に影響を与える可能性が十分にあると思われた.しかし,意外なことに,PAFが膀胱平滑筋の収縮機能にどのような影響を与えるかについてはこれまで全く検討が行われていなかった.

最近,われわれの研究室では,各種プロスタノイドが膀胱平滑筋の基礎張力や自発性収縮活動を強力に増加させることを報告したが,57以前からPAFの血管拡張作用・血圧降下作用に関する研究9を行っていたこともあり,このリン脂質の膀胱平滑筋の収縮機能に対する影響に着目して研究を開始することにした.その結果,PAFが膀胱平滑筋の基礎張力や自発性収縮活動を著明に増加させることを見い出し,その機序についても一定の見解を得ることができたので,本総説ではこれらを中心に紹介する.5860また,PAFの膀胱における病態生理学的意義についても考察する.

2. PAFの構造と合成・分解経路

PAFの構造は,1979年にホスホグリセリドを含むグリセリルエーテルである1-O-alkyl-2-acetyl-sn-glyceryl-3-phosphorylcholineであることが明らかにされた.2 PAFはホスファチジルコリングループに属し,PAFのsn-1位にはエーテル結合した主にC16やC18の脂肪酸が,sn-2位にはアセチル基が,sn-3位にはホスホコリンが存在する(Fig. 1).61このうち,sn-2位のアセチル基はPAFの生物活性の決定に特に重要であるとされている.61

Fig. 1. Chemical Structure of Platelet-activating Factor (PAF)

PAFはde novo経路とリモデリング経路の2種類の生合成経路により合成される(Fig. 2).61,62 De novo経路がPAFの生合成のごく一部にしか関与していないのに対し,リモデリング経路はPAFの生合成の大部分に寄与しており,生理学的機能の維持や病理学的反応の誘発に関与する主たる生合成経路である.62 De novo経路は,1-alkyl-2-lyso-sn-glycero-3-phosphateからPAFを生合成する経路であり,3つの酵素ステップが必要である(Fig. 2).62,63一方,リモデリング経路では,ホスホリパーゼA2(phospholipase A2: PLA2)を触媒として,1-alkyl-phosphatidylcholineからlyso-PAFが生成され,引き続きリゾホスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼ(lysophosphatidylcholine acyltransferase: LPCAT)によってPAFに変換される.61 PAFの生合成のリモデリング経路に関与するLPCATには,恒常的に働くLPCAT1と誘導型のLPCAT2が存在すると考えられている.61 LPCATはリゾホスファチジルコリンにアシルCoAの脂肪酸を結合させる酵素であることから,PAFの生合成に係わるほか,sn-2位に様々な脂肪酸が結合したホスファチジルコリンを生合成することもできる.61すなわち,LPCATはlyso-PAFを1-alkyl-phosphatidylcholineに戻す活性も持ち合わせている.61

Fig. 2. Platelet-activating Factor (PAF) Synthesis/degradation Pathways

PLA2: Phospholipase A2, LPCAT: lysophosphatidylcholine acyltransferase, PAF-AH: PAF acetylhydrolase.

PAFはsn-2位に結合したアセチル基を加水分解する酵素であるPAFアセチルヒドラーゼ(PAF-acetylhydrolase: PAF-AH)によりlyso-PAFへと分解される(Fig. 2).64 PAFのsn-2位に結合したアセチル基はPAFの高い生物活性に必須であり,PAF-AHによる脱アセチル化はPAFの生物活性の失活をもたらす.65哺乳類では,PAF-AHとして,血漿型PAF-AH,細胞内I型PAF-AH[PAF-AH(I)],細胞内II型PAF-AH[PAF-AH(II)]の3種類の存在が知られている.64,65血漿型PAF-AHは血漿中に存在するタイプで,ヒト血漿中では70%がlow-density lipoprotein(LDL)と結合し,残りはhigh-density lipoprotein(HDL)と結合して存在している.64そのため,血漿型PAF-AHはリポタンパク質結合型PLA2(lipoprotein-associated PLA2: LpPLA2)とも呼ばれることもある.66 PAF-AH(I)は,細胞質に存在し,2つの触媒サブユニット(α1及びα2サブユニット)と制御性βサブユニットのGタンパク質様複合体である.65それぞれのサブユニットは,PAFAH1B3(α1サブユニット),PAFAH1B2(α2サブユニット),PAFAH1B1遺伝子(βサブユニット)でコードされている.64 PAF-AH(II)は単一のポリペプチド鎖から構成され,ミリストイル化された後,細胞質と膜画分の両方に存在する.65

血漿型PAF-AHとPAF-AH(II)は類似の基質特異性を示し,PAFだけでなく,sn-2位にpropionyl基,butyroyl基,succinyl基,glutaroyl基などのアシル基を導入したPAF誘導体も加水分解することができる.64また,これらのPAF-AH[血漿型PAF-AHとPAF-AH(II)]は,短鎖ジアシルグリセロール,トリアシルグリセロール,アセチル化アルカノールを加水分解することもできる.64,65一方,PAF-AH(I)は上記のアシル基を導入したPAF誘導体を基質として分解することができない.64 PAF-AH(I)の基質特異性はそのサブユニットの構成の影響を受け,α2/α2ホモ二量体は,PAF類似体である1-O-alkyl-2-acetyl-sn-glycero-3-phosphorylethanolamine(AAGPE)を加水分解できるが,α1/α1ホモ二量体とα1/α2ヘテロ二量体はAAGPEをほとんど加水分解することができない.64 α1/α1ホモ二量体とα1/α2ヘテロ二量体は,PAF類似体である1-O-alkyl-2-acetyl-sn-glycero-3-phosphoric acidをPAFよりも効率的に加水分解できる.64,65 βサブユニットはαサブユニット二量体の酵素活性を調節し,α2/α2ホモ二量体の酵素活性を強く増強するが,α1/α1ホモ二量体の酵素活性を抑制し,α1/α2ヘテロ二量体の酵素活性にはほとんど影響を与えない.64,65

3. PAF受容体

PAFの作用は単一のタンパク質から成るPAF受容体を介して仲介される.67 PAF受容体サブタイプはこれまでに同定されておらず,68 PAF受容体をコードするPTAFR遺伝子が確認されているだけである.PAF受容体はGタンパク質共役型受容体であり,Gqタンパク質及びGiタンパク質と共役する.67すなわち,PAF受容体の活性化は,Gqタンパク質を介してイノシトール1,4,5-三リン酸(inositol 1,4,5-trisphosphate IP3)の産生とCa2+動員の活性化をもたらすとともに,Giタンパク質を介してcAMPの産生を抑制する.68 PAF受容体の活性化は,細胞外シグナル調節キナーゼ(extracellular signal-regulated kinase: ERK)やp38 MAPキナーゼを活性化したり,ホスホリパーゼD,ホスホリパーゼC-γ,低分子量Gタンパク質(Ras, Ral, Rap)の活性を制御したりすることも報告されている.68

4. PAFの作用におけるアルブミンの重要性

In vitroにおけるPAFの作用にはアルブミンが必須である.例えば,ラット大動脈において特異的で強力な内皮依存性弛緩反応を引き起こすためには,ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin: BSA)の存在が必須である.9また,PAFの腎血管拡張作用はアルブミンを含まない溶液中では観察できない.69 PAFの生物活性の発現におけるアルブミンの役割に関しては,PAF受容体の刺激はアルブミンと複合体を形成したPAFによってもたらされるが,アルブミンを含まない条件下ではPAF受容体の刺激が引き起こされないことが示されている.70そのため,PAFの生物活性をin vitroで評価する際には,PAFをアルブミンを含む溶液に溶解して調製する必要がある.5章で示す実験については,0.25% BSAを用いて溶解したPAFを使用し,実験を行った.なお,PAF溶液中のアルブミンの濃度が高くなると,PAFによる血小板凝集反応がアルブミンの濃度に依存して抑制されることが報告されており,71 PAFを溶解するアルブミンの濃度にも注意を払う必要がある.

アルブミンに対するPAFの結合様式に関してはいまだに不明な点が多いが,ヒト血清アルブミン1分子に対して4分子のPAFが結合し,それぞれの結合サイトに対する解離定数が異なる可能性が報告されている.70また,アルブミンのPAFに対する結合サイトのひとつが,3つの相同領域(ドメイン)のうちドメインIIであるとの報告もある.72,73この結合には,細胞によるアルブミンの構造変化(システイン間のジスルフィド結合の異性化又は還元)が必要となる可能性が示唆されているが,73ドメインIIに結合したPAFは,PAF-AHによるin vitroでの分解を受け難くなるという.72,73 PAF-AHが豊富に存在する血液中においてもPAFが検出できること35を踏まえると,PAFはアルブミンに結合することでPAF-AHによる分解を受け難くなり,標的細胞上のPAF受容体への結合が増えることで生物活性の上昇(生物的半減期の延長)につながると考えられる.

5. PAFによる膀胱の収縮機能の増強

次に,最近われわれが見い出したPAFによる膀胱平滑筋の収縮機能に対する増強効果について紹介する.5860まず,Fig. 3Aに示すように,モルモット摘出膀胱平滑筋を用いて検討したところ,PAFはこの膀胱平滑筋標本の基礎張力を非常に強力に増加させ,また,その自発性収縮活動もより強く亢進させた(自発性収縮活動は基礎張力の上にのって記録される素早い張力変化.PAF刺激前も揺れ幅が小さい張力変化は記録されているが,PAF刺激後は基礎張力の上昇変化の上にのって記録される張力変化の幅がより大きくなっている).また,これらの作用は,PAFの濃度に依存して大きくなった.58

Fig. 3. Representative Traces Showing the Effects of Platelet-activating Factor (PAF, 10−6 M) on Guinea Pig Urinary Bladder Smooth Muscle in Epithelium-intact (A) and Epithelium-removed (B) Preparations

Inhibitors: Atropine (10−6 M), suramin (10−4 M), phentolamine (10−6 M), propranolol (10−6 M), tetrodotoxin (3×10−7 M), bovine serum albumin (0.25%), and anti-foam. ACh: Acetylcholine. w: Wash out. These data were reproduced from Liu G., et al., Sci. Rep., 12(1), 2783 (2022).58)

われわれの実験では,内因性のプロスタノイドや神経伝達物質の影響を排除する目的で,これらの合成阻害薬や受容体拮抗薬など(シクロオキシゲナーゼ阻害薬,ムスカリン受容体拮抗薬,プリン受容体拮抗薬,α-アドレナリン受容体拮抗薬,β-アドレナリン受容体拮抗薬,神経遮断薬)を含む溶液中でPAFによる張力変化を記録していたこと,また,PAFによる変化が膀胱上皮を除去した標本でも同様に認められたことから(Fig. 3B),PAFの作用はこのリン脂質が膀胱平滑筋を直接刺激することによって生じたものであると判断した.58さらに,PAFによる張力変化はPAF受容体拮抗薬であるアパファントにより消失したことから,PAF受容体を介して引き起こされることも示された.58 PAFの膀胱平滑筋の基礎張力の上昇作用と自発性収縮活動の増強作用は,マウスの摘出膀胱平滑筋標本でも記録されたことから,58モルモットの標本でのみ認められる特殊な現象ではないと考えている.ただし,膀胱平滑筋におけるPAFの収縮機能増強作用は,実験条件をいろいろ変えてもラットの摘出標本では観察されなかった.ラットの膀胱標本においてもPAF受容体のmRNA発現は認められるので,PAF受容体が存在している可能性が考えられるが,ラットの膀胱平滑筋標本で観察されなかった理由は今のところよくわからない.

6. 膀胱平滑筋におけるPAFの収縮機能増強作用の機序

引き続き,われわれは,膀胱平滑筋におけるPAFの収縮機能増強作用の機序について,Ca2+動員機構に着目して検討した.まず,PAFの収縮機能増強作用はCa2+を含まない溶液中では完全に消失したことから,細胞外からのCa2+流入に依存することが示された(Figs. 4A, B).59次に,PAFにより活性化されるCa2+流入経路について薬理学的検討を行い,2種類のCa2+チャネルの関与が明らかとなった.1つは電位依存性Ca2+チャネル(voltage-dependent Ca2+ channel: VDCC)であり,PAFの収縮機能増強作用において主たる役割を担うものと考えられた.まず,PAFによる基礎張力の上昇はVDCC遮断薬であるベラパミルの前処置によりほぼ完全に抑制された(Figs. 5Aa, Ab, Ba).59したがって,PAFによる基礎張力の上昇は,VDCCを介したCa2+流入に依存して引き起こされることが明らかとなった.モルモット回腸31並びに胆嚢平滑筋,33及びラット胃底平滑筋26並びに妊娠子宮平滑筋34を用いた研究において,PAFによる収縮には主としてVDCCを介したCa2+流入により引き起こされることが示されている.今回膀胱平滑筋標本で得られた結果は,これらの報告と一致していた.さらに,PAFによる自発性収縮活動の頻度の増加もベラパミルにより強力に抑制されたことから(Figs. 5Aa, Ab, Bc),この効果においてもVDCCが中心的な役割を担うものと判断された.59しかし,ベラパミル処置下においても自発性収縮活動の振幅に対するPAFの増強作用は残存したことから(Figs. 5Aa, Ab, Bb),ベラパミル非感受性Ca2+流入経路の関与が示唆された.59

Fig. 4. Representative Traces Showing the Effects of Platelet-activating Factor (PAF, 10−6 M) on Guinea Pig Urinary Bladder Smooth Muscle in the Presence (A) and Absence (B) of Extracellular Ca2+

Ca2+-free solution contained 0.2 mM ethylene glycol tetraacetic acid (EGTA). Bovine serum albumin (BSA, 0.25%) and anti-foam were added to the bath medium after the bath solution changes. ACh: Acetylcholine. Inhibitors: Atropine (10−6 M), suramin (10−4 M), phentolamine (10−6 M), propranolol (10−6 M), tetrodotoxin (3×10−7 M), bovine serum albumin (0.25%), and anti-foam. w: Wash out. These data were reproduced from Obara K., et al., J. Pharmacol. Sci., 152(2), 123–127 (2023).59)

Fig. 5. Representative Traces (A) and Summarized Data (B) Showing the Effects of Platelet-activating Factor (PAF, 10−6 M) on Basal Tone (Ba), and Amplitude (Bb) and Frequency (Bc) of Spontaneous Contractions in Guinea Pig Urinary Bladder Smooth Muscle in the Presence (Ab) and Absence (Ab) of Verapamil (10−5 M)

Basal tone and spontaneous contraction activities analyzed over 3 min during the following periods were calculated: immediately before administration of PAF (Ctrl, control); 7–10 min (10), 17–20 min (20), 27–30 min (30), 37–40 min (40), 47–50 min (50), and 57–60 min (60) after administration of PAF. Data are expressed as means±S.E.M. (n=7). * p<0.05, ** p<0.01 vs. the corresponding PAF value (two-way ANOVA followed by Šidák’s test); #p<0.05, ##p<0.01 vs. the corresponding Ctrl (control) value (two-way ANOVA followed by Dunnett’s test). ACh: Acetylcholine, Inhibitors: Atropine (10−6 M), suramin (10−4 M), phentolamine (10−6 M), propranolol (10−6 M), tetrodotoxin (3×10−7 M), bovine serum albumin (0.25%), and anti-foam. w: Wash out. These data were reproduced from Obara K., et al., J. Pharmacol. Sci., 152(2), 123–127 (2023).59)

われわれは,第二のCa2+流入経路(ベラパミル非感受性経路)の薬理学的検討を行い,これがストア作動性Ca2+チャネル(store-operated Ca2+ channel: SOCC)であることを突き止めた.上述したように,自発性収縮活動の振幅に対するPAFの増強作用はベラパミル存在下でも残存する(Figs. 5Aa, Ab, Bb).この成分に対する各種Ca2+チャネル遮断薬の影響を検討したところ,受容体作動性Ca2+チャネル(receptor-operated Ca2+ channel: ROCC)遮断薬(抑制薬)であるLOE 908によっては全く抑制されないものの(Figs. 6Aa, Ab),ROCCとSOCCの両Ca2+チャネルを抑制する性質を有するSKF-96365によって非常に強力に抑制されることが示された(Figs. 6Ba, Bb).59したがって,PAFによる自発性振幅活動の振幅の増強効果には,VDCCを介したCa2+流入に加え,SOCCを介したCa2+流入も重要な役割を担うと考えられた(Fig. 7).ほぼ同様の結果は,マウス膀胱平滑筋においても認められた.60

Fig. 6. Representative Traces Showing the Effects of Platelet-activating Factor (PAF, 10−6 M) on Guinea Pig Urinary Bladder Smooth Muscle in the Presence of Verapamil (10−5 M) Plus Dimethyl Sulfoxide (DMSO, 0.05%, Aa), Verapamil (10−5 M) Plus LOE-908 (3×10−5 M, Ab), Verapamil (10−5 M, Ba), and Verapamil (10−5 M) Plus SKF-96365 (3×10−5 M, Bb)

ACh: Acetylcholine (10−4 M). Inhibitors: Atropine (10−6 M), suramin (10−4 M), phentolamine (10−6 M), propranolol (10−6 M), tetrodotoxin (3×10−7 M), bovine serum albumin (0.25%), and anti-foam. w: Wash out. These data were reproduced from Obara K., et al., J. Pharmacol. Sci., 152(2), 123–127 (2023).59)

Fig. 7. A Schematic Summary of the Effects of Platelet-activating Factor (PAF) on Urinary Bladder Smooth Muscle (UBSM)

PAF-induced increases in UBSM basal tone and the frequency of spontaneous contractile activities (SCAs) mainly depend on voltage-dependent Ca2+ channel (VDCC)-mediated Ca2+ influx. Store-operated Ca2+ channels (SOCCs) are considered to be the major non-VDCC-mediated Ca2+ influx pathway involved in PAF-enhanced UBSM SCA amplitudes. This illustration was reproduced from Obara K., et al., J. Pharmacol. Sci., 152(2), 123–127 (2023).59)

PAFによる自発性収縮活動の増加にVDCCに加えてSOCCが関与する理由を考えてみたい.これについては,非常に興味深い報告がされており,モルモット膀胱平滑筋では,自発性収縮活動の発生にミトコンドリアによるCa2+取り込み・遊離を介した細胞質のCa2+濃度調節作用(Ca2+ハンドリング)が重要であり,そしてミトコンドリア内へのCa2+の供給は筋小胞体からのCa2+遊離やSOCCを介した細胞外からのCa2+流入によって行われるという.74ここで,SOCCの有力候補分子はOraiチャネルである.75 OraiチャネルではOrai1–3の3種類のサブタイプが同定されているが,いずれも筋小胞体Ca2+センサータンパク質である間質相互作用分子(stromal interaction molecule: STIM)によって活性化される.75 STIMは筋小胞体のCa2+枯渇によって活性化されるCa2+センサーで,2種類のサブタイプ(STIM1及びSTIM2)が同定されている.75そこでわれわれは,PAFの作用に関与する候補分子を推定する目的で,モルモット膀胱平滑筋におけるSOCC関連分子のmRNA発現レベルを測定することにした.その結果,OraiではOrai1とOrai3に,STIMではSTIM2に高いmRNAの発現を認めた.57したがって,モルモット膀胱平滑筋では,PAF刺激の結果活性化されるベラパミル非感受性Ca2+流入経路の実体は,STIM2-Orai1経路若しくはSTIM2-Orai3経路,あるいはその両者であると推察される.すなわち,PAFは,モルモット膀胱平滑筋において,筋小胞体からのCa2+遊離やそれに伴う筋小胞体のCa2+枯渇を引き起こすことでSTIM-Orai経路を活性化し,ミトコンドリアにCa2+を供給することで自発性収縮の振幅を増加させた可能性が考えられる.STIM-Orai経路はヒト膀胱平滑筋でもその収縮に関与しており,過活動膀胱(overactive bladder: OAB)の薬物療法の標的となり得る可能性が指摘されている.76

一方,膀胱平滑筋のCa2+動員におけるVDCCの役割に関しては,以下の報告がされている:1)マウス膀胱平滑筋でのCa2+スパークレット発生頻度はVDCC遮断薬(ジルチアゼム)によって減少したが,振幅は影響されなかった77;2)VDCC遮断薬(ニカルジピン)は,マウス膀胱周皮細胞内の細胞集団内及び細胞集団間のCa2+トランジェントの同期を破壊する.77したがって,PAFによる自発性収縮活動の増加作用では,1)SOCC経路(STIM-Orai経路)を介したCa2+流入を発生源とする自発性収縮活動が発生し,2)その頻度がVDCCを介した細胞集団内及び細胞集団間のCa2+動員の同期によって増加するというスキームが考えられる.OABの治療には,VDCC遮断作用を有する薬物(フラボキサート,オキシブチニン,プロピベリン)が既に臨床で使用されているが,これらの薬物はPAFによって生じる膀胱の収縮異常に対しても改善効果を発揮する可能性がある.

7. 膀胱組織におけるPAFの産生と膀胱疾患との関連

膀胱組織では,PAFは膀胱微小血管内皮細胞や尿路上皮細胞で産生されることが報告されている.46,47われわれが,モルモット及びマウスの膀胱組織で検討したところ,PAF受容体(Ptafr)に加え,PAF合成酵素[LPCAT(Lpcat1, Lpcat2)],更にPAF分解酵素[細胞内I・II型PAF-AH(Pafah1b3, Pafah2)]のmRNA発現を確認した.58興味深いことに,膀胱微小血管内皮細胞,尿路上皮細胞でのPAFの産生は,喫煙により亢進される可能性が指摘されている.46,47,56例えば,ヒトやマウスの泌尿器組織関連細胞[ヒト膀胱微小血管内皮細胞,ヒト尿路上皮細胞,ヒト尿路上皮がん細胞(HTB-9),ヒト膀胱がん細胞(HT-1376),マウス膀胱内皮細胞]では,タバコ煙抽出液(cigarette smoke extract: CSE)の暴露により,PAF蓄積の増加,PAF受容体の発現増加とともに,PAF-AH活性の低下がもたらされる.46,47,56また,マウスにタバコ煙を6ヵ月間曝露すると,膀胱組織でのPAF産生及びPAF受容体発現の増加がもたらされることが報告されている.46 CSEやタバコ煙の暴露によってもたらされるこれらの変化は,カルシウム非依存性ホスホリパーゼA2β(Ca2+-independent PLA2: iPLA2β)の阻害薬やiPLA2βのノックアウトにより抑制されるため,46,47,56喫煙によって増加するPAFの産生にはiPLA2βが重要な役割を担っているものと考えられる.

PAFはIC/BPSの悪化にも関与する可能性がある.これを示すエビデンスとしては,1)IC/BPS患者においては,尿中のPAF量が増加し,喫煙患者ではその増加がより顕著であること,46 2)IC/BPS患者由来の不死化尿路上皮細胞にCSEを暴露させると,健常人から作成した不死化尿路上皮細胞に暴露するよりもPAFがより多く産生されること46が挙げられる.したがって,尿中や尿路上皮細胞でのPAFの産生増加がIC/BPSの原因の1つとなっている可能性が考えられる.このほか,喫煙歴のある膀胱がん患者のがん組織においては,悪性度が高いほどPAFの産生も増加していること,56非喫煙者と比較すると喫煙者では,OABの相対リスクが増加していること,79,80などの報告もある.これらのことから考えると,喫煙は膀胱におけるPAF産生やPAF受容体発現を増加させることにより炎症を引き起こすだけでなく,膀胱平滑筋の収縮活動を亢進させてOABの発症の原因となる可能性が十分にある.PAF合成酵素阻害薬やPAF受容体拮抗薬は,これらの膀胱の各種機能異常に対して予防効果や改善効果を発揮する可能性が考えられ,新たな膀胱疾患治療薬となることが大いに期待される.ただし,OAB患者において,血中及び尿中のPAFの濃度が増加する可能性や膀胱組織におけるPAFの産生・PAF受容体の発現が増加する可能性については,これまでのところ検討されていないため,PAFがOABの発症の原因となる可能性を示すためには今後より詳細な検討が必要となるだろう.

8. まとめ

PAFは,血液凝固促進反応(血小板凝集反応)や炎症性・アレルギー性反応に加え,多くの平滑筋組織において収縮機能を制御する役割を担っている.膀胱平滑筋においても,PAFが基礎張力の上昇や自発性収縮活動の増加をもたらすことから,PAF産生の亢進時において収縮機能の即時的な促進因子として働く可能性がある.PAFによってもたらされる膀胱平滑筋の収縮異常はOABなどの下部尿路機能障害の誘発因子となる可能性があり,PAF合成酵素の阻害薬やPAF受容体拮抗薬はその薬物治療の新たな戦略として期待される.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

REFERENCES
 
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