2024 年 144 巻 12 号 p. 1091-1094
With the increasing separation of dispensing and prescribing, Japanese pharmacists have changed over the past 50 years. Changes affecting pharmacists include the bashing of the separation of dispensing and prescribing, the formulation of the “Vision for Patient-centered Pharmacies” and the implementation of the Action Plan to realize this vision, and the amendment of the “Pharmaceuticals and Medical Devices Act.” By 2025, when many baby boomers will be 75 years of age and older, the construction of the “Integrated Community Care System” is being promoted in various regions, and pharmacists are expected to be involved in community healthcare as members of community support networks based on multidisciplinary cooperation. In Nagasaki City, Japan, a regional medical cooperation system centered on the “Nagasaki Home Doctor Net” has been established, and a multidisciplinary network supports the region. In 2007, volunteers, mainly pharmacy managers, established the “Nagasaki Pharmaceutical Care Net (P-net)” to provide home medical care. To date, these volunteers have been involved in community healthcare while continuing their studies through the group. At the symposium, I introduced my active involvement in community healthcare as a pharmacist and as a member of P-net. I hope this symposium will help pharmacists’ involvement and collaboration in community healthcare.
長崎県は複雑な地形と多数の離島を有しており,人口は約130万人.8つの医療圏に分かれており,日常生活圏域数は124で,都市型,過疎型,離島型と地域差がみられる.高齢化は全国平均よりも早く進んでおり,65歳以上の高齢者人口は2025年には44万人と予測されている.県庁所在地である長崎市の人口は県全体の約30%に当たる39万人だが,近年転出超過が進んでいる.
ペンギン薬局は,長崎市中心部の思案橋から700 mほど坂を上った古くからの住宅地にあり,1997年現在地に移転開業し27年目を迎えている.2022年のデータによれば,近隣地域の高齢化率は46.6%に達している.2022年12月以降,地域連携薬局の認定薬局である.
当薬局のスタッフはパートを含めた計5名で,有資格者は薬剤師2名と登録販売者1名.調剤,訪問指導を中心に一般用医薬品に関する相談販売,衛生材料,化粧品,生活雑貨販売などを行っている.調剤業務に関しては,毎月およそ70–80の医療機関から処方箋を応需し,そのうち在宅訪問患者は約20名.特別養護老人ホーム入所者及びショートステイ利用者約30名の服薬管理を行っている.
当薬局では,外来受診,施設入所及び在宅療養の患者に対して,安全に服薬できるように工夫している.地域住民の高齢化とともに,ハイリスクな患者が多くなっており,病状の進行,肝機能や腎機能の低下,管理能力や服薬能力の低下などが認められるため,患者自身と介護者の状況変化に対応できることが求められている.そのため,採血結果や入退院に際しての情報共有も重要である.基本的にはどのような環境の患者に対しても同様に調剤を行うが,通院か在宅訪問かで報酬の種類は違っている.特別養護老人ホーム入居者に関しては訪問指導の対象外であるが,施設と医師の了解を得て医師の回診に参加し,体調と服薬状況を把握して処方提案などを行い,施設従事者による勝手な薬剤の粉砕などがないように注意を払っている.
長崎市におけるこれまでの医療連携について紹介する.2000年に介護保険制度が開始,2003年には長崎市では在宅医療を進めるべく長崎在宅Dr.ネット(以下,Dr.ネット)が発足した.1,2) Dr.ネットは主治医・副主治医の「連携医」に加えて,皮膚科や精神科などの専門性の高い医師も「協力医」として参加,「病院医師」も参加して専門的助言や病診連携の橋渡しを担うという体制を構築し,画期的なシステムとして全国でも注目を集めた.発足当時,看護師や介護スタッフとの連携は謳われていたものの,「薬剤師」はその連携図に入っていなかった.しかし,Dr.ネットの参加者の一人から「薬剤師に訪問指導を頼んだら断られたけど,どうなってるの?」という苦情から,その4年後の2007年,市内の薬剤師有志が集まり,在宅医療の受け皿となるべく,長崎薬剤師在宅医療研究会(P-ネット)を発足させた.3–5)発足時は27名,現在は42名で構成されている.そのほとんどは薬局開設者又は管理者等,医薬品の発注や業務全般に関して決定権のある立場にある小規模薬局の薬剤師であるが,病院薬剤師もメンバーになっており,貴重な情報交換が行われていることは大きな特徴となっている.定期的に研修会や症例検討会を実施しており,相互に業務の補助や助言を行うなど顔のみえる関係づくりができている.病院や在宅医療関係者から事務局に訪問薬剤指導の依頼があった場合,メーリングリストに公開し,手上げ方式で担当薬剤師とサポート薬剤師を決定する.このようなシステムによって実績を積み上げてきたことで,現在では在宅主治医やケアマネジャー等から会員薬剤師に対して,直接依頼するケースが増えている.薬局からの提案によって在宅訪問の体制を整える場合もある.現在の長崎の地域連携図には「薬剤師」の文字が入っている(Fig. 1).
2008年Dr.ネットの活動が認められ,長崎市は,厚生労働科学研究費補助金 第3次対がん総合戦略研究事業 緩和ケア普及のための地域プロジェクト(outreach palliative care trial of integrated regional model: OPTIM)の対象地区となった.緩和医療を中心としたプロジェクトの研究資金が投入され,多職種での研修事業が開催され,支援ツールは充実し,多職種間の顔のみえる連携が格段に向上した.このプロジェクトを機に緩和ケアの標準化が図られるとともに,地域連携の構築が大きく進んだ.プロジェクト終了後,事業は「包括ケアまちんなかラウンジ」6)に引き継がれている.
P-ネットに参加し,訪問依頼を受け始めた頃,筆者は毎日のように電話やメールでP-ネットの仲間たちに相談しながら活動していた.在宅医療に向けた意欲に加えて,スキルアップや情報交換,連携は不可欠である.地域社会にも薬剤師の活動はほとんど知られていなかったため,地域包括支援センターにこちらから頼んで出前講座を開くこともあった.地域包括支援センターの職員や圏域内のケアマネジャー等を対象に,薬剤師の行う業務といくつかの在宅訪問の事例を紹介していったのである.その後,調剤報酬上でサポーター薬剤師への報酬の手当がなされ,地域薬剤師会でも協力薬局制度ができ,現在では地域ケア会議や多職種研修会へも多くの薬剤師が参加する体制が築かれている.
長崎市には薬剤師だけでなく,看護師,ケアマネジャーなどの様々な医療介護関係職種のネットワークが存在する.そしてそうした方々がそのネットワークの垣根を越えて研修を行い,地域を支えてきた.そしてともに関係学会の開催にも協力してきた.この環境こそが薬剤師の能動的な活動においての重要な要件であると考えている.
例を挙げると人生会議(advance care planning: ACP)について,市民にわかりやすく伝えることを目的として,Dr.ネット主導で市民公開講座を行っている.筆者はこれまで尊厳死に関する研修や,患者の意向を尊重した意思決定のための相談員研修会等を受講しているが,多職種により構成された「劇団 そいでよかさ」(長崎弁で『それでいいよ』の意)の一員としても,この啓発活動にも参加している.2023年は行政からの要請もあり,市民向け啓発動画の作成にも加わった.
地域医療連携に有用なツールとして,「長崎あじさいネット」を紹介する.7)国内でも最大級の地域医療連携ネットワークであり,高いセキュリティの下で医療機関のカルテやサマリーなどが参照できるシステムで,筆者も加入して活用している.外来受診時のカルテ参照のみならず,在宅医療ではチーム機能を使ってタイムリーな情報交換に役立っている.あじさいネットを使った症例を紹介する.
〈39歳女性 子宮頸がん再発症例〉
患者は県外在住でがん治療を行っていたが,best supportive care(BSC)となり実家に帰省.大学病院において「脊髄くも膜下鎮痛法」という輸液ポンプにより麻酔薬を用いた疼痛緩和法を行っていたが,自宅で最期を迎えたいという患者の希望を叶えるため自宅退院となった.在宅チームも初となる特殊な鎮痛法であったため,大学病院の麻酔科医によるレクチャーに始まり,退院直後からあじさいネットを通じたチーム内での情報交換と共有により,自宅での看取りを実現することができた.毎日訪問する看護師からの情報を基に状況把握し,在宅医に対しての麻薬処方の追加依頼を行った.また当初は輸液ポンプカセットへの麻酔薬液や麻薬注射液の追加はないと予想されていたが,麻酔薬液とともに麻薬注射液の追加を行うこととなり,麻酔薬液の処方は院外処方不可,麻薬注射液は院外処方という規制の下,大学病院と在宅医双方からの処方調整を行うことができたことは大変有用であった.
〈16歳男性 X-linked副腎白質ジストロフィー,I型糖尿病〉
大学病院小児科と在宅医の併診.胃ろう造設,気管分離術後.大学病院での定期受診の状況把握にあじさいネットを活用している.
訪問薬剤師として介入以前は,「粉砕」の指示通りにそれぞれの薬剤が粉砕され分包されており,帰宅後に母親が一続きのいくつもの分包を切り離してセットしていた.在宅訪問介入と同時に,在宅医の処方薬と大学病院外来受診の処方薬とを一元的に管理するようになったが,用量は成人と変わらなかったため,錠剤やカプセルのまま水に懸濁して経管投与する簡易懸濁法を提案,薬は一包化したうえで1回分ずつにセットして交付するようにした.また,吸入薬は大学病院からの長期処方だったが,汚染防止を考慮して在宅医より短期の処方に変更して頂いた.小児在宅医療においては医療行為や介護のほとんどを母親が受け持っているというデータがあり,母親の疲弊は患者の生命維持に直結する事態となる可能性がある.この症例も同様の環境であり,この対応により介護者である母親の負担をいくらかでも軽減できたと考えている.現在も本人の体調変化と母親の状況に配慮しながら訪問指導を続けている.
長崎県薬剤師会では毎年在宅医療に関するアンケートを実施しており,令和4年度には回答者の76%が居宅療養管理指導を実施していると回答している(n=304).8)この3年間で他職種との連携について伸びが確認されている.在宅経験がないと回答したものの理由としては「依頼がない34%」,「人的余裕がない(31%)」が多くを占めていた.県薬剤師会では,令和3年度の厚生労働省公募により医療的ケア児等の薬物療法に係る連携体制構築事業を行い,継続事業として,薬剤師の資質向上と連携強化を行っている.また,P-ネット会員に緊急アンケートを実施した結果,以下の回答が得られた.
アンケート結果から,薬局の環境によって訪問指導人数に差があること,訪問薬剤管理指導は薬の期限切れ廃棄ロスや多くの手間と時間を要し,体力的にも厳しい実情があることが推察される.様々な解決しなければならない課題があると考えている.
薬剤師の地域医療への関与の歴史はまだ浅い.薬剤師の職能を発揮し,多職種連携による地域包括ケアへの貢献に向けて積極的な活動をしていくべきである.そのためには知識・技能・態度,環境整備,報酬の確保が望まれる.「知識・技能・態度」は資質向上にほかならない.自ら情報発信し共有することが必要であり,責任をもって即決する勇気も必要であろう.「環境整備」にはリーダーが必要であり,仲間を作り切磋琢磨し分かち合う環境は不可欠と考える.まずは地域医療ネットワークには積極的に参加し,お互いの仕事を理解し顔のみえる環境を構築することが重要だ.「報酬」がなければ雇用も環境整備もできない.特殊な調剤の時間も作れない.実績を公表して行く努力も必要である.それぞれの地域において,薬剤師がその職能を発揮して社会に貢献して頂きたい.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,日本薬学会・日本医療薬学会・日本学術会議共同主催シンポジウム「薬剤師に期待する地域医療への能動的関与」で発表した内容を中心に記述したものである.