YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
The Role of Laboratory Data on Outpatient Prescriptions in Improving Collaboration with the Community and Health Outcomes
Itsuko Ishii
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2024 Volume 144 Issue 12 Pages 1095-1099

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Summary

Although there have been appeals for regional cooperation for a considerable time, are hospitals and local communities really working together? Hospitals typically permit a variety of professionals to work together, share information via medical records, and directly discuss patients. A problem with treating patients at home in local communities is that doctors and pharmacists do not share the same workplace; hospitals, clinics, and pharmacies do not have a common information source equivalent to medical records. Prescriptions and medical notes are the only things that connect health provision to the community. We have added laboratory data to prescriptions for outpatients to eliminate confusion. This has improved efficacy and made it easier to avoid serious side effects. It has also prevented economic losses to some extent. An important goal of medicine is to provide individualized care. This current endeavor may be a small but steady step towards this goal.

1. はじめに

医薬分業の目的は,医師が患者に処方箋を交付し,薬剤師がその処方箋に基づき調剤を行い,医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担することによって,医療の質の向上を図ることを目指すものとされている.医師と薬剤師が相互に専門性を発揮することによる効果として,1)薬剤師による薬剤服用歴(服薬状況,副作用やアレルギー歴などの状況,相談内容等)の確認により,患者の服薬情報を一元的・継続的に把握したうえで,薬剤師の持つ薬理学,薬物動態学,製剤学などの薬学的知見に基づいて薬学的管理・指導が行われること,2)複数診療科受診による重複投薬,相互作用の有無の確認なとどが可能となること,3)薬剤師が処方した医師・歯科医師と連携して,薬の効果,副作用,用法などについて患者に説明(服薬指導)することにより患者の薬に対する理解が深まり,調剤された薬を適切に服用することが期待できることが,平成29年版 厚生労働白書に明記された.1そして,1997年に厚生労働省が院外処方箋受取率70%以上を指示したのに対し,2020年には処方箋受取率は75%に到達した.2

一方,処方箋受取率が目標点に到達していても,多くの薬局が個別化医療の実現に向けた薬学的管理が実践されているまでに至っていない.その主たる原因は,処方する医師と調剤をする薬剤師との間で処方箋上の基本情報とお薬手帳による限られた情報しか共有されていないからである.特に,臨床検査値(検査値)は患者の状態を示し,処方鑑査にとって欠かせない情報である.そこで,千葉大学医学部附属病院(当院)では,2014年10月より,院外処方箋に臨床検査値の付記を開始した.本稿では,地域医療における過去8年間の実績と今後の課題を紹介する.

2. 臨床検査値を用いた処方鑑査の意義

当院の院外処方箋には,16項目の固定検査値と当院薬剤部が開発した医薬品別検査値が記載されている.3 16項目の固定検査値は厚生労働省が監修する重篤副作用疾患別対応マニュアル4にて,自覚症状で早期発見できない副作用や自覚症状よりも先に臨床検査値が変動する副作用の指標として「早期発見と早期対応のポイント」の項目に記載のある検査値を取り上げた.つまり,固定検査値は副作用の回避を目的とする.

一方,医薬品別検査値は禁忌投与や過量投与の回避のために掲載している.禁忌投与回避は,添付文書の禁忌・警告において具体的に検査項目が記載されているもの,また,検査値に置き換えられる病名が記載されているものを取り上げた.過量投与については,添付文書や日本腎臓病学会編集chronic kidney disease(CKD)ガイドライン5に記載されている腎機能調節が必要な医薬品が対象となる.医薬品別検査値のデータベース開発は当院薬剤部にて行った.詳細は論文を参照して頂きたい.3医薬品別検査値は,個々の医薬品についてどの検査値を確認すればいいのか一目でわかる便利なツールであり,薬剤師のキャリアによらない処方鑑査が実現できるものである(Fig. 1).

Fig. 1. Example of Laboratory Test Values Attached to a Prescription

3. 臨床検査値を用いた疑義紹介の過去8年間の成績

Figure 2に過去8年間における院外処方箋の検査値に関する疑義照会(Fig. 2A)と処方変更件数を示す(Fig. 2B).検査値を付記する前には1年間に4件の疑義照会であり,そのいずれもが透析患者であった.検査値付記後1年目から600件を超え,6年後は900件を超えるまでに至った.全体の処方件数より換算すると0.22–0.39%に相当する.当院の院外処方箋の疑義照会率は毎年約2%であることから,疑義照会中の約1割が検査値関連であったことがわかる.疑義照会の中で処方変更に至った数は,年々増加した.検査値付記後1年目には処方変更件数は疑義照会数の21%であったのに対して,7年目には32%に達している.

Fig. 2. Number of Inquiries Regarding Laboratory Data (A) and Prescription Changes Related to Laboratory Data (B)

処方変更にならなくても,検査値に基づく疑義照会は医師の行動変容を促す.例えば,患者の状態の変化に気づきその後の診察や処方に影響を与える,カルテの記載が増える,面倒だと感じていた疑義照会の対応を有益かつ必須な行為を捉え直すなど,薬物治療の安全性や有効性を発揮するうえで大きく貢献している.

Table 1に疑義照会の発端となる検査値の分類を示した.最も多く活用されたのが,腎機能に関する検査値である.これは当院の患者の約7割が65歳以上であり,加齢により腎機能のベースが落ちていることによる.また,特定機能病院であることから,多くの患者の状態が複雑で合併症を持ち,多剤併用も余儀なくされている状況も否めない.このような背景も腎機能をより低下させる原因となっている.次に多いのがカリウム値であるが,電解質異常についても腎機能の悪い高齢者で発症し易く,また脱水なども引き起こし易いことなどが原因である.

Table 1. Number of Prescription Changes Due to Prescription Inquiries Related to Laboratory Data

Laboratory items that triggered prescription inquiriesBefore1st year2nd year3rd year4th year5th year6th year
Renal function2108116131196205260
Potassium0111413191414
Liver function0411334
Calcium0071150
Hemoglobin0111024
White blood cell count0121102
Sodium0110013
Neutrophil count0200201
Others0414225

Table 2の上段に疑義照会の目的分類を示した.疑義照会の目的分類で最も多いのが,副作用の未然回避であり,1年目から80%を超え,5, 6年目は90%を超えていた.副作用重篤化の回避は毎年20件程度であり,効果の向上について数は少ないものの少しずつ増えている.私たちはこれまで毎年2–4回の勉強会を開いており,安全性だけなく有効性の向上についても事例を示してきた.定期的な勉強会の継続の重要性を改めて感じている.Table 2下段に,検査値に基づく処方監査により処方変更に至った疑義照会件数の年度推移をカテゴリー別に示した.腎機能が最も多かった.これは,腎機能に注意すべき医薬品が多く存在することと,Table 1が示すように腎機能が悪い患者が多いことに起因する.禁忌については毎年40件程疑義がなされていることが明らかになった.なお,これらの疑義照会は主に医薬品別検査値により指摘されていることが薬局へのインタビューで明らかになっている.キャリアに乏しい薬剤師も医薬品別検査値を活用することによって,疑義を指摘することができることも明らかになっている.

Table 2. Classification of Prescription Inquiries That Led to Prescription Changes

ClassificationBefore1st year2nd year3rd year4th year5th year6th year
Nature of prescription inquiries
To avoid adverse drug reactions2110117128189210265
To avoid exacerbation of adverse drug reactions0192417241219
To improve the effect of drug therapy032711109
Selection criteria for drug- linking laboratory data
Dose adjustment according to renal function29099115158178223
Contraindication0364028494153
Warning0001110
Others0648161217

これまでも医薬品の副作用による経済的負担が,薬剤師の薬学的介入により改善されることが報告されている.6,7しかし,これらの報告では算出方法に医薬品の副作用発現率が考慮されず過大評価となっていることが問題となっていた.そこで私たちは,当院の3年間の外来症例を疑義照会内容に応じ副作用の重篤化回避,未然回避,薬物治療効果の向上に分類し,診断群分類別包括評価支払い制度の点数から算出した平均入院費を用いて推算した.8その結果,既報の方法では3年間で1億2000万円の医療費が削減されることになるが,本研究では420万円と推算した.すなわち,経済効果の推算をするにも明確な根拠が示され,より現実的な値が示せるようになったのである.以上のように,検査値を用いた疑義照会は患者の薬学的管理に直結し,薬物治療の有効性や安全性を担保するだけなく,患者の個別化医療につながる.また,医師との適切な連携が取れ,経済効果もより現実的に算出できるようになったのである.

一方,まだまだ課題もある.医薬品別検査値を疑義照会のシグナルとして明記した頃から,私たちは検査値に関する疑義照会率は100%に近いことを期待した.そこで,当院が処方箋に検査値付記を開始してから最初の3年間において検査値に関する疑義照会率を調査したところ,フロセミドで約5割,non-steroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)で約3割,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)配合剤で約3割しか疑義照会されていないことが明らかになった.また,検査値に関する疑義照会の約9割は近隣の薬局によるものであった.当院の処方箋の約6割を近隣薬局が受けている.本来ならば,地域の薬局からも検査値に関するより多くの疑義照会があるはずであるが,一向にその数が増えない.その原因として,患者が地域の薬局に検査値を提示していない,地域の薬局は検査値の提示を求めない,地域の薬局は当院の処方箋に慣れていないため検査値を用いた鑑査に消極的であるなどの理由が考えられる.しかし,検査値による疑義照会を行わなかったために,救急搬送され入院に至ったケースもいまだに報告される.また,その中には死亡が報告されるケースもあり口惜しい限りである.

4. トレーシングレポートの有用性

外来患者の薬物治療の流れをFig. 3にまとめた.医師が診察し,薬物治療が必要となれば処方箋が出される.患者は処方箋を保険薬局に持って行く.薬剤師は処方鑑査し疑義があれば医師に照会する.その際,薬剤師は患者の状態や検査値を確認することでより患者に適した処方箋であるかを鑑査する.適切となった処方箋を基に薬剤師は調剤し,更に調剤鑑査後医薬品は患者に交付される.その際,薬剤師は患者に服薬指導する.薬剤師は,患者の服薬アドヒアランスだけでなく,医薬品による有効性や安全性についても評価する.このような流れは,病院の中でも外でも全く同じである.しかし,外来患者の薬学的管理の困難さは,医師は病院やクリニックで診察し,薬剤師は保険薬局にて医薬品を交付し,患者は自宅で薬を服用するというキーポイントが3ヵ所に分かれていることである.病院では患者,医師,薬剤師が場所を共有し,カルテを通して情報も共有している.それだけで不足の場合は,電話1本で議論できる体制にある.では,外来患者が入院患者と同等のケアを受けられるようにするにはどうしたらいいのか.その一つが処方箋への検査値を付記であるが,それでは十分ではない.

Fig. 3. Overview of Outpatient Drug Treatment

そこで,トレーシングレポート(服薬情報提供書)の活用が有用となる.トレーシングレポートとは,かならずしも緊急を要さないものの,担当医師へ提供するべきと考えられる情報[アドヒアランス,残薬の状況,他病院の受診,服薬歴,over the counter(OTC)薬や健康食品の服用,医師に言えなかった本音や身体情報など]をフィードバックするレポートである.保険薬局薬剤師が患者から聞いた情報をFig. 3のように医師にフィードバックすることで,より患者により沿った薬物治療が遂行できる.そして,トレーシングレポートは診療報酬上,「服薬情報等提供料」として算定することができる.

Figure 4は当院におけるトレーシングレポート数の推移である.当院では2017年からトレーシングレポートを開始し,年々その数は増加した.トレーシングレポートは服薬情報等提供料として診療報酬を獲得できるが,特に2018年の改定にて医療機関の求めで情報提供した場合は30点,患者及び家族等からの求め又は薬剤師が必要性を認めた場合を20点と細分化され増額もしている.これが大きな後押しになり,当院へのトレーシングレポート数が増えていると推察される.レポートの内容についてはまだまだ課題があるものの,積極的に進めていくことが望ましい.

Fig. 4. Changes in the Number of Tracing Reports at Chiba University Hospital

5. おわりに

全国各地で処方箋に検査値を付記する医療機関が増えた.一方,少しずつではあるが保険薬局も検査値を用いて処方箋を鑑査することが習慣化し始めた.6年制導入後の薬剤師国家試験は問題に検査値を明記し,受験生が患者の状態を把握したうえで解答することが当たり前になっている.6年制卒業の薬剤師は,既に検査値を活用する資質を有しているのである.近未来には電子処方箋が一般化化され,どの医療機関からも処方箋内容と検査値情報が明示されることになる.日本のどこにいても誰でも一定レベルの薬物治療が受けられる社会の実現のため,私たちは日々の努力が必要である.

謝辞

本研究を遂行するにあたり,横山威一郎氏,新井さやか氏,山崎香織氏,山口洪樹氏,並びに千葉大学医学部附属病院薬剤部の皆様に感謝いたします.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会・日本医療薬学会・日本学術会議共同主催シンポジウム「薬剤師に期待する地域医療への能動的関与」で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
© 2024 The Pharmaceutical Society of Japan
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