YAKUGAKU ZASSHI
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Analysis of Endogenous Metabolite Transporters for the Development of Novel Pharmaceutical Therapies and Drug Targets
Kei Higuchi
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2024 Volume 144 Issue 12 Pages 1051-1054

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Summary

Transporters are critical for maintaining the homeostasis of metabolites within cells, organelles, and extracellular fluids. Various transporters have been targeted for development as pharmaceutical therapies, including glucose transporter (SLC5A2/SGLT2) and urate transporter (SLC22A12/URAT1). The solute carrier transporter family includes many orphan transporters with unknown physiological functions and substrates, largely because of the difficulties in optimizing the transporter probes and constructing convenient evaluation systems for functional analysis. However, the analysis of these transporters is important as they may be potential candidates for pharmaceutical therapies or drug targets. This review focuses on the analysis of the SLC16A family, which encodes monocarboxylate transporters (MCTs), as it contains orphan transporters known to be associated with several disease pathologies. We successfully identified taurine, cephradine, and 5-carboxyfluorescein as new substrates for rat Slc16a6/MCT7, SLC16A13/MCT13, and SLC16A5/MCT6, respectively. These substrates enabled the functional analysis of the transporters in mammalian cells. We found that the co-expression of ancillary proteins, such as ancillary protein basigin/CD147 and embigin/GP70, enhanced the transport functions of these transporters. Interestingly, the functions of MCT6 and MCT13 were affected by extracellular chloride and potassium ions, respectively, but MCT7 was unaffected. These findings are helpful for elucidating the pathophysiological roles and substrates of orphan and uncharacterized MCTs.

1. はじめに

トランスポーターは,細胞内外若しくは細胞質と細胞内オルガネラとのホメオスタシスを保つうえで,重要な膜タンパク質である.近年,尿酸トランスポーターSLC22A12/URAT1やグルコーストランスポーターSLC5A2/SGLT2などの生体内代謝物トランスポーターをターゲットにした医薬品が,開発されている.Urate transporter 1(URAT1)やsodium–glucose cotransporter 2(SGLT2)が属するsolute carrier(SLC)トランスポーターファミリーには,いまだ多くのオーファントランスポーターや,内因性基質が不明であるために生理的機能が未解明なトランスポーターが含まれている.これらの中には,新規の医薬品開発のターゲットとなり得る分子や,いまだ不明な疾患の病態メカニズムを説明し得る分子が存在する可能性がある.しかしながら,それらトランスポーターの機能解析は,容易ではない.その原因として,しばしばトランスポーター機能解析に用いられている哺乳類ホスト細胞にトランスポーターを発現させても,生体内と同様の膜局在を示さないこと,輸送実験時の基質や緩衝液の条件が最適でないと輸送現象が検出されないこと,促進拡散型などの輸送形式では輸送量が低く輸送された薬物を直接定量することが困難であることなどが挙げられる.これらを解決するためには,各トランスポーターに対して,最適な輸送プローブ,ホスト細胞,実験条件を整える必要がある.本総説では,近年成功したオーファントランスポーターや特殊なトランスポーターの輸送解析について紹介させて頂く(Fig. 1).

Fig. 1. Novel Substrates and Transport Characteristics of rMCT7 (A), MCT13 (B), and MCT6 (C)

Illustration of the novel substrates and the transport characteristics of rMCT7, MCT13, and MCT6. These transporters interact with ancillary proteins CD147 and GP70 in HEK293T cells. rMCT7, MCT13, and MCT6 function as an equilibrative taurine transporter, a membrane potential-sensitive cephradine transporter, and a chloride ion-sensitive 5-carboxyfluoresceine (5-CF) transporter, respectively.

2. SLC16A6/MCT7を介したタウリン輸送機能解析1)

モノカルボン酸トランスポーター(monocarboxylate transporter: MCT)ファミリーは,SLC16Aに属する14のアイソフォームから構成されている.典型的なMCTであるSLC16A1/MCT1やSLC16A3/MCT4は,H+を駆動力として乳酸などの短鎖脂肪酸を基質として輸送し,様々な組織やがん細胞において,エネルギー代謝や細胞内pH調整に係わることが知られている.2またMCTファミリーの特徴として,免疫グロブリンスーパーファミリーに属する多機能分子であるbasigin/CD147やembigin/GP70などの補助タンパク質と相互作用し,輸送活性や膜発現量が変化し得ることが挙げられる.その中で,SLC16A6/MCT7は脳,網膜や肝臓などに発現し,げっ歯類では小腸などでもmRNA発現が示されているオーファントランスポーターであった.これまでゼブラフィッシュのオーソログであるslc16a6aの機能解析結果から,3 MCT7はケトン体を輸送するトランスポーターであると考えられてきた.またMCT7は,一部の抗がん剤へ耐性化した卵巣がん細胞において,その発現が亢進することが報告されている.4しかし哺乳類MCT7の輸送基質は同定されておらず,その輸送特性は不明であった.そこで,rat MCT7(rMCT7)を哺乳類細胞であるHEK293T細胞に発現させて機能解析を行った.一部のMCTファミリーが芳香族アミノ酸の輸送能を有することから,rMCT7の基質を探索するために,rMCT7発現細胞のアミノ酸プロファイルを試みた.その結果,β-アミノ酸である細胞内タウリン量の減少が検出された.さらに〔3H〕タウリンの輸送実験から,低親和性ではあるもののrMCT7がタウリンを輸送できること,その輸送特性がH+勾配に依存的である典型的なMCTとは異なり,細胞内外平衡化を促進する促進拡散型であることが示された.また,rMCT7は補助タンパク質であるbasigin/CD147やembigin/GP70と相互作用し,HEK293T細胞に共発現させるとその輸送活性が上昇することも見い出している.これらの知見は,はじめて哺乳類MCT7の輸送基質や輸送特性を明らかにした一方で,rMCT7に対してタウリン輸送が低親和性であることを考慮すると,タウリン以外にMCT7の生理的な内因性基質が存在する可能性も考えられる.今後,MCT7の基質認識性について更なる解析が行われ,その生理的役割や抗がん剤耐性との関連性の解明が期待される.

3. SLC16A13/MCT13を介したオリゴペプチド輸送機能解析5)

SLC16A13/MCT13は,genome wide association study(GWAS)解析より日本人の糖尿病関連遺伝子として報告されたユニークな分子である.6 2021年には,slc16a13ノックアウトマウスの表現系解析の中で,マウスMct13が肝臓において乳酸をナノモルオーダーの親和性で輸送するという可能性が示されていた.7一方でヒトMCT13は,肝臓だけでなく小腸などの上皮細胞系にmRNAレベルで発現することが示唆されているものの,その輸送基質や輸送特性は解析されていなかった.近年,小腸から吸収される食品由来ペプチドの一部が,血糖値制御に係わるdipeptidyl peptidase-4(DPP-4)の阻害活性を有することが報告された.8また小腸上皮細胞の側底膜側に未同定のペプチドトランスポーターが存在することが示唆されていた.911これらから,MCT13の小腸上皮細胞におけるペプチド輸送体として機能についての検討を行った.まず,HEK293T細胞発現系でMCT13の輸送能の評価を試みた.しかし,HEK293T細胞において,MCT13の単独発現では,細胞膜発現がほとんど観察されなかった.そこで,MCT13と補助タンパク質basigin/CD147を共発現させることにより,その細胞膜発現量を増加させた.その共発現系を用いて,機能性ペプチドやペプチド類似構造体の輸送を検討した.その結果,MCT13を介した機能性ペプチドやペプチド類似構造体の輸送が検出され,その中でも既知のペプチドトランスポーター(peptide transporter: PEPT)基質であるセフラジンが効率的に輸送されることが示された.そこでセフラジンを輸送プローブとして,MCT13の輸送特性を解析したところ,その取り込みは,高濃度K+存在下や膜電位消失剤により増加することが示された.これらから,MCT13はH+勾配を利用した典型的なMCTとは異なる膜電位感受性トランスポーターであることが示唆された.さらに消化管上皮におけるMCT13の輸送機能と局在を評価するために,テトラサイクリン誘導性MCT13発現Caco-2細胞を用いて検討を行った.分極させたCaco-2細胞において,MCT13は主に側底膜側に局在し,頂端膜側から側底膜側へのセフラジン透過を促進することが示された.これらから,MCT13は消化管上皮細胞の側底膜側で,細胞内から血液側への基質の排出に寄与できるトランスポーターであることが示唆された.また興味深いことに,MCT13を介したセフラジン輸送は,10 mM乳酸共存下でも阻害されなかった.このことは,ヒトMCT13は高親和性基質として乳酸を認識していない,若しくはヒトMCT13には複数の輸送ポケットが存在する可能性を示唆している.今後,更なるMCT13の内因性基質の同定が進み,MCT13の日本人糖尿病病態における病態生理学的役割の解明につながることを期待している.

4. 5-カルボキシフルオレセイン(5-carboxyfluoresceine: 5-CF)を用いたSLC16A5/MCT6の輸送機能解析12)

SLC16A5/MCT6は,消化管に発現し,ナテグリニドやブメタニドなどの薬物を輸送することが報告されているトランスポーターである.13,14しかし,その輸送機能解析は,哺乳類発現細胞ではなされておらず,その細胞内での輸送特性など不明な点があった.そこで,HEK293T細胞にMCT6を発現させて輸送解析を試みた.MCT6の細胞膜発現量は,MCT13と同様に,補助タンパク質basigin/CD147との共発現により増加した.そこで,その共発現系を用いて,MCT6既知基質であるナテグリニドやブメタニドの取り込みを評価した.しかし,それらの顕著な細胞内への取り込みを検出できなかったことから,細胞取り込みに使用できるMCT6輸送プローブを探索した.その結果,蛍光物質である5-CFがMCT6発現HEK293T細胞に顕著な取り込まれるのを見い出した.そこで5-CFを用いて同細胞で輸送特性を検討したところ,MCT6の輸送は細胞外Clに感受性であり,細胞外に高濃度Clイオンが存在する場合,5-CFの細胞内取り込みが抑制されることが示された.さらに5-CFの取り込み阻害実験では,既知のMCT6基質や阻害剤に加えて,テルミサルタンやベンズブロマロンなどでも顕著に阻害が観察された.またMCT6を介した5-CF輸送はブメタニド輸送と競合的阻害することが確認されたことから,ブメタニドと同じ基質ポケットで輸送されることが示唆された.これらから,5-CFをMCT6の輸送プローブとして用いることで,HEK293T細胞のような哺乳類細胞でのMCT6輸送機能解析が可能となり,さらにMCT6がCl感受性トランスポーターとして機能する可能性が明らかとなった.今後,5-CFを利用することで,より簡便にMCT6の更なる基質認識性の解明や薬物との相互作用可能性についての研究が進むことが期待される.

5. おわりに

本総説では,オーファントランスポーターや特殊なトランスポーターの解析例として,オーファンMCTの輸送機能解析を取り上げた.MCTは,H+共役型短鎖脂肪酸輸送体として発見された.しかし,今回取り上げたMCT7,MCT13,及びMCT6は,哺乳類細胞を用いた解析により,それぞれ促進拡散型輸送,膜電位感受性輸送,及びCl感受性輸送という性質を示した.また,これらの新規基質として,短鎖脂肪酸ではなく,タウリン,セフラジン,及び5-CFが利用できることを明らかにした.このような輸送機能が不明なトランスポーターの解析には,時間とコストがかかる.しかし,これらのトランスポーターの解析は,単に生体内代謝物輸送体としての機能を明らかにするだけでなく,疾患の病態生理メカニズムの解明を通じて,薬物療法や薬剤開発につながる可能性がある重要な研究課題である.

謝辞

これらの研究を行うにあたりまして,多大なる御指導・御協力を頂きました東京薬科大学薬学部 井上勝央教授,岸本久直講師,帝京大学薬学部 出口芳春教授,黄倉 崇教授,慶應義塾大学薬学部 登美斉俊教授,西村友宏准教授(現・順天堂大学薬学部 先任准教授)に謹んで感謝申し上げます.また共同研究を行ってくださった先生方,学会発表等でトランスポーター研究に貴重な御助言くださる諸先生方にも心より御礼申し上げます.本研究成果の一部は,日本学術振興会科学研究費補助金(JSPS科研費)JP21K06694,JP24K09948,糧食研究会一般助成,及び慶應義塾大学薬学部KP会 星野尚美記念 薬学研究・活動助成による助成に基づき実施したものになります.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2023年度日本薬学会関東支部奨励賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
© 2024 The Pharmaceutical Society of Japan
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