2024 Volume 144 Issue 3 Pages 285-290
Many useful radionuclides exist among the halogen elements. Fluorine-18 (18F) is used for positron emission tomography (PET) diagnosis, iodine-123 and iodine-131 (131I) for single photon emission computed tomography (SPECT) diagnosis, 131I for nuclear medicine therapy, and iodine-125 (125I) for research. Astatine-211 (211At), which can be produced by a cyclotron and is attracting attention as a versatile α-ray emitting radionuclide, also belongs to the halogen family. Therefore, if a labeling agent that can stably hold radio-halogens can be developed, it would be useful for the development of radiotheranostic agents that can be expanded from nuclear medicine diagnosis using PET and SPECT to nuclear medicine therapy using β−-rays and even α-rays. Currently, benzoic acid derivatives are widely used as labeling agents for radio-halogens. The compounds labeled with 18F or radioiodine using this structure retain the radionuclide stably in vivo, but when 211At is labeled using this structure, 211At is rapidly released from the structure in vivo. Therefore, it is desirable to develop labeling agents that can stably hold 18F to 211At. Under these circumstances, we have found that a neopentyl structure with diol can stably retain 211At and 125I in vivo. Furthermore, this structure can also stably retain 18F in vivo. In this review, I would like to introduce the characteristics of neopentyl diol as a radio-halogens labeling agent and the development of radiotheranositc agents using neopentyl diol.
少し昔では,分子イメージングといえば核医学分子イメージングであった.しかし近年では,多種多様な分子イメージング技術が開発され,特に解像度の観点から見ると核医学分子イメージングは他の分子イメージング技術に比べ解像度は低く,nuclear imaging(核医学イメージング)はun-clear imaging(鮮明でない画像)と揶揄されることもあった.しかしながら,インビボの分子イメージングでは,定量性,感度の観点から,現在でも核医学分子イメージングは非常に有用な技術と考えられる.さらに,放射性核種を透過性の高い診断用に用いられるγ線放出核種から細胞傷害性のあるα線やβ−線放出核種に変更することで,イメージング薬剤から治療薬剤へと容易に変換できることも非常に有用な点と考えられる.このように今後の核医学分子イメージング薬剤の開発は,インビボのイメージング,更には核医学治療を見据えた薬剤の開発が重要と考えられる.
核医学分子イメージング薬剤(核医学診断薬剤)や核医学治療薬剤,更には放射性薬品など,放射性核種を用いた薬剤(プローブ)の呼び方は数多く存在するが,本稿ではこれらをまとめて放射性核種標識薬剤と表記する.放射性核種標識薬剤とは放射性核種を用いた薬剤であり,その薬効は放射性核種が担う.放射性核種が細胞障害性のあるα線やβ−線を放出するのであれば,核医学治療薬剤として用いられ,透過性の高いγ線やβ+線由来の消滅放射線を放出する放射性核種であれば,核医学診断薬剤として用いられる.放射性核種標識薬剤は,放射性核種を単独,あるいは標的へと送達できるように抗体やペプチド等に結合した形をしており,その使用法としては静脈内投与が一般的である.では,このような放射性核種標識薬剤を設計するうえで一般的な薬剤の設計とはどのように異なるのだろうか(Table 1).一般的な薬剤は,経口で投与されることが多いことから,薬物吸収,溶解度等を考慮した薬剤設計が必要である.また,薬剤は標的に作用して薬効を発揮する.そのため標的がない組織等に集積した場合でも薬効は発揮しない.血液中でも薬効を発揮しないことから,標的に薬物を多く送達するために,血液中の薬物濃度をある程度維持できるような薬剤設計が行われる.一方,放射性核種標識薬剤の場合,薬効は放射性核種から発せられる放射線が担い,その放射線は絶えず放射されている.通常,放射性核種標識薬剤は静脈内投与されるため,投与した直後,すなわち血液中においても薬効を発揮していることになる.放射性核種標識薬剤が血液中に残存すれば,核医学治療薬剤の場合,骨髄毒性の原因となり,核医学診断薬剤の場合,バックグラウンドの上昇による画質の劣化の原因となる.このようなことから,放射性核種標識薬剤の場合,速やかな血液クリアランスが必要となる.また,標的のない組織(非特異的組織)に集積した場合にも薬効を発揮してしまうことから,非特異的組織に集積しない,あるいは集積したとしても速やかに排泄される薬剤設計が必要となる.このように,一般的な薬剤と放射性核種標識薬剤では,薬剤設計が大きく異なり,放射性核種標識薬剤には放射性核種標識薬剤なりの薬剤設計が必要となると筆者らは考えている.
Common drugs | Radionuclides-labeled drugs | |
---|---|---|
Administration method | ·Oral administration | ·Intravenous administration |
Entity that exerts medicinal effects | ·Drugs | ·Radionuclide (Decrease with time) |
How the drug works | ·Interaction with target | ·Radiation |
Action on non-target tissues | ·No action if there is no target | ·Action if drug is present |
Blood clearance | ·Moderate | ·Rapid |
Drug design | ·Considering of drug effect, absorption, solubility, etc. | ·Considering of pharmacokinetics |
放射性核種は核種毎に半減期が決まっており,時間とともに放射能が減少していく.したがって放射性核種標識薬剤の場合,放射性核種の半減期に従い薬効が減少していくことになる.このような点も通常の薬剤とは異なる点である.現在わが国で使用されている放射性核種標識薬剤には多くの放射性核種が使用されているが,その大部分は海外からの輸入に頼っている.1)特に核医学治療に使われる放射性核種に限ってはすべて輸入に頼っている.放射性核種標識薬剤に使用される放射性核種の半減期は比較的短いために空輸されているが,天候や航空機トラブル,更には国際情勢等により遅延が生じた場合,必要量の放射活性が得られないという問題が生じている.特に,核医学治療に使われる放射性核種の場合,必要量の放射能量が得られない場合,患者は治療法の変更や中止を余儀なくされる.このような事象は,患者だけでなく治療計画を立てる医療従事者にとっても非常に大きな問題となっている.このようなことから,放射性核種の自国生産,更には,国内生産可能な放射性核種により核医学診断から核医学治療まで行える放射性核種標識薬剤の開発が求められている.
ハロゲン元素には,positron emission tomography(PET)診断に使用されているフッ素-18(Fluorine-18: 18F),single photon emission computed tomography(SPECT)診断に使用されているヨウ素-123(iodine-123: 123I)やヨウ素-131(iodine-131: 131I),核医学治療に用いられている131I等が存在する.また,半減期が約60日と長いヨウ素-125(iodine-125: 125I)も存在し,前臨床研究に汎用されている.さらに元素周期表の下段に存在するアスタチンには,その同位体としてα線放出核種であるアスタチン-211(astatine-211: 211At)があり,核医学治療への応用が期待されている(Table 2).2) α線は短い飛程中に高エネルギーを付与するため,細胞障害性が非常に高く,近年,核医学治療薬剤への応用研究が盛んに行われている.わが国においても,大阪大学において[211At]NaAtによる甲状腺がんの治療や福島県立医科大学において[211At]-astatobenzylguanidineによる褐色細胞腫の治療の治験が行われている.このように,ハロゲン元素には核医学診断・治療に有用な多くの放射性核種が存在する.さらに,診断用の放射性核種である18F, 123I及び治療用の放射性核種である211Atはいずれもサイクロトロンにより製造可能な放射性核種であり,わが国において製造実績がある.3)このようなことから,これらの放射性ハロゲン核種を用いた放射性核種標識薬剤が開発できれば,放射性核種からわが国で製造可能であり,患者及び医療従事者にとって安全・安心に使用できる放射性核種標識薬剤となると考えられる.
18F | 123I | 125I | 131I | 211At | |
---|---|---|---|---|---|
Radiation | β+-ray | γ-ray | γ-ray | β−, γ-ray | α-ray |
Application | PET | SPECT | Pre-clinical | SPECT, Therapy | Therapy |
Half-life | 2 h | 13 h | 60 d | 8 d | 7 h |
放射性ハロゲン核種を用いた放射性核種標識薬剤の開発には,放射性ハロゲン核種を化合物に導入する標識基(標識部位)が必要となる.一般に,放射性ヨウ素を用いたアルキルヨウ素化合物は生体内においてグルタチオン(glutathione: GSH)等による求核攻撃やシトクロム-P(cytochrome: CYP)450等の酵素によって脱ヨウ素化されるため,アルキルヨウ素化合物を放射性ヨウ素の標識部位として用いることは少ない.4)これに対し,ベンゼン環に導入された放射性ヨウ素標識化合物は生体内で安定に存在するため,放射性ヨウ素を用いた放射性核種標識薬剤ではベンゼン構造を放射性ヨウ素の導入部位とした薬剤が汎用されている.一方,アスタチンに関しては,その同位体のすべてが放射性であり,更に最も半減期の長い同位体(アスタチン-210)でも約8時間と短いため,その化学的性質の大部分はいまだ未解明である.2)このようなことから,211Atを化合物に導入する際には,同族の放射性ヨウ素標識に汎用されるベンゼン環誘導体が汎用されている.しかしながら,ベンゼン環誘導体を211Atの標識基として用いた211At標識抗体や211At標識抗体Fabフラグメントをマウスに投与すると,同様の方法により作製した125I標識抗体や抗体Fabフラグメントと比較して,胃への射能集積が顕著に観察された(Fig. 1).5)さらに低分子の化合物である馬尿酸を211At標識した場合には投与1時間後においても胃への高い集積を示していた(Fig. 2).6)211At単体を生体に投与した場合,胃への集積を示すことが知られていることから,ベンゼン環誘導体に211Atを導入した場合,生体内においてベンゼン環から211Atが遊離していると考えられる.この現象は,組織移行性の速やかな低分子化合物を標識母体として用いた場合により顕著であることから,211At標識化合物が組織に分布し低分子化合物に代謝された後,211Atが遊離したものと考えられる.同様の現象が,抗体などのタンパク質に対する放射性ヨウ素の直接標識においても観察されている.この場合,タンパク質のチロシン残基にヨウ素が導入されるが,組織内代謝により,ヨードチロシンまで代謝されたのち,細胞質で脱ヨウ素化酵素によりヨウ素が遊離する(Fig. 3).4)しかしながら,アスタチンは体内どころか自然界にもほとんど存在しない元素であるため,アスタチンを特異的に認識する酵素が生体内に存在するとは考えにくく,どのような酵素が脱211Atに関与しているのかはわかっていない.211Atの半減期は7時間と短いことから組織移行性の速やかな低分子化合物への応用が適切と考えられるが,ベンゼン環誘導体を211Atの標識部位として用いた場合,速やかな211Atの遊離が懸念される.このようなことから,211Atの核医学治療薬剤への応用には,低分子化合物においても,生体内で211Atを安定に保持できる211At標識基の開発が必要となる.
先にも記したように,アルキルヨウ素化合物は生体内において求核反応やCYP等の酵素により脱ヨウ素化される.このようなことから,核医学領域ではアルキルヨウ素構造を放射性ヨウ素標識部位として用いることは少ない.一方,ネオペンチル構造にハロゲン元素が結合したネオペンチルハライド構造は,その嵩高さから有機化学領域では求核攻撃において安定であることが知られている.一方,生体内における安定性は知られておらず,嵩高い構造による酵素認識阻害の可能性を考え,われわれはネオペンチルハライド構造の生体内安定性について検討することとした.ネオペンチルハライド構造を有する化合物として,PET薬剤である18F標識DiFAが既に報告されていたことから,7)18Fを211Atあるいは125Iに変更した[211At]BHAN, [125I]BHINを作製し(Fig. 4),マウスを用いてその生体内安定性を評価した.対象としてベンゼン環を標識部位として用いた[211At]BnAN, [125I]BnINも作製し(Fig. 4),同様にマウス体内動態を評価した.8)[125I]BnINをマウスに投与したところ,胃への集積は観察されず,また速やかに血液から消失した.一方,[211At]BnANは,胃への高い放射能集積が観察され,また,211Atの再分布と考えられる血液クリアランスの遅延も観察された.これらの現象は,ベンゼン環誘導体を用いて211At標識した際に観察される生体内における脱211Atを再現していると考えられる.一方,ネオペンチル基を用いた[211At]BHANは,[125I]BHINと同様に,胃への集積は低く,また速やかな血液クリランスを示した(Fig. 5).このような結果は,[211At]BHANが生体内において脱211Atに対して安定であることを示し,211Atを標識するための標識基としてネオペンチル誘導体が有用であることを示す.一方,ネオペンチル基とは,ネオペンタン構造[C(CH3)4]に由来する構造であり,本評価化合物のように水酸基は必要ない.そこで,水酸基の影響を検討する目的で,水酸基を1分子にしたEHIN,水酸基を持たないDEINを設計,合成し(Fig. 6),その125I標識体における生体内安定性を評価した.その結果,水酸基の数が減少するにつれて,胃や脾臓における放射活性が増加した.このような結果は,ハロゲン元素を生体内で保持するためには,ネオペンチル構造だけでなく,2分子の水酸基の存在が必要であると考えられた.この現象を更に詳細に検討するために,インビトロの系において生体内で高濃度に存在する求核剤であるGSH,あるいはCYPに対する安定性を評価した.GSHによる求核攻撃に対する安定性では,いずれの125I標識化合物とも安定に存在した(Table 3).有機化学の分野ではネオペンチルハライドは求核攻撃に対して安定であることが知られていることから,本研究結果は妥当と考えられる.一方,CYPに対する安定性を評価したところ,水酸基を2分子有する[125I]BHINは,安定に存在していたのに対して,水酸基を1分子含む[125I]EHINや水酸基を含まない[125I]DEINでは,ヨウ素画分に放射活性が観察され,CYPによる脱ヨウ素が示唆された(Table 3).さらにその脱ヨウ素の量は,水酸基の数が減少するにつれて増加していることから,CYPの認識に対して,水酸基が阻害しているものと考えられる.以上の結果より,生体内におけるネオペンチルハライドの安定性は,ネオペンチル骨格だけでなく2分子の水酸基が必要であり,この2分子の水酸基を含むネオペンチル(NpG)骨格は放射性ハロゲンの標識基として有用であると考えられる.そこでわれわれは,本骨格を用いた放射性核種標識薬剤の開発を検討した.低分子化合物から高分子化合物までの応用を考え,低分子化合物としてアミノ酸,中分子化合物として前立腺がんに高発現している前立腺がん特異的膜抗原(prostate specific membrane antigen: PSMA)を標的とした薬剤,高分子化合物として抗体を用い,それぞれにNpGを標識基を用いて標識した(Fig. 7).これらの化合物をマウスに投与したところ,いずれの化合物においても胃への放射能集積は低く,生体内で高い安定性を有していると考えられた.今後,これらの化合物の臨床応用も見据え研究を行っている.
Stability to GSH | Stability to CYP | |
---|---|---|
[125I]BHIN | 96.6±1.0 | >99.8 |
[125I]EHIN | 96.4±0.3 | 72.0±2.0 |
[125I]DEIN | 95.1±0.7 | 2.2±0.1 |
今回紹介したNpG骨格は,生体内で安定に211Atを保持できる有用な標識基であり,低分子化合物から高分子化合物まで応用可能である.さらにNpG骨格はPET診断で汎用される18Fへの展開も可能であり,PET診断からα線治療へと展開できるセラノスティクス薬剤開発にも展開可能である.また,これらの放射性核種はサイクロトロンにより製造可能であり,わが国においても多くの施設で製造されている.このような成果は国内リソースのみで,診断から治療へと展開できる放射性核種標識薬剤が開発できることを示し,近い将来,NpGを用いた臨床研究がスタートできれば,と考えている.
本研究で行った211Atを用いた研究は,福島県立医科大学,大阪大学医学部,量子科学技術研究開発機構,及び短寿命RI供給プラットフォーム(16H06278)のご協力の下に行った.また,NpGの設計,合成に関しては東京工業大学と共同で行った.また,本成果は千葉大学大学院研究院の多くの学生によって行われた.本研究は科学研究費補助金(19K08222, 22K07686, 23H02852)及びA-STEPによる資金で行われた.この場を借りて深謝いたします.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,日本薬学会第143年会シンポジウムS23で発表した内容を中心に記述したものである.