2024 年 144 巻 5 号 p. 489-496
The tumor necrosis factor receptor (TNFR)-associated factor (TRAF) family of molecules are intracellular adaptors that regulate cellular signaling through members of the TNFR and Toll-like receptor superfamily. Mammals have seven TRAF molecules numbered sequentially from TRAF1 to TRAF7. Although TRAF5 was identified as a potential regulator of TNFR superfamily members, the in vivo function of TRAF5 has not yet been fully elucidated. We identified an unconventional role of TRAF5 in interleukin-6 (IL-6) receptor signaling involving CD4+ T cells. Moreover, TRAF5 binds to the signal-transducing glycoprotein 130 (gp130) receptor for IL-6 and inhibits the activity of the janus kinase (JAK)-signal transducer and activator of transcription (STAT) signaling pathway. In addition, Traf5-deficient CD4+ T cells exhibit significantly enhanced IL-6-driven differentiation of T helper 17 (Th17) cells, which exacerbates neuroinflammation in experimental autoimmune encephalomyelitis. Furthermore, TRAF5 demonstrates a similar activity to gp130 for IL-27, another cytokine of the IL-6 family. Additionally, Traf5-deficient CD4+ T cells display significantly increased IL-27-mediated differentiation of Th1 cells, which increases footpad swelling in delayed-type hypersensitivity response. Thus, TRAF5 functions as a negative regulator of gp130 in CD4+ T cells. This review aimed to explain how TRAF5 controls the differentiation of CD4+ T cells and discuss how the expression of TRAF5 in T cells and other cell types can influence the development and progression of autoimmune and inflammatory diseases.
腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-alpha: TNF-α)は,炎症時に産生される代表的なサイトカインであり,当初,腫瘍に出血性壊死を引き起こす因子として発見され,命名された.1) TNF-αは,消耗性疾患である悪液質の原因になるカケクチン(cachectin)と同一分子である.2) TNF-αは,局所で適切に産生されることで感染を防御し,生体に有益な作用を示す.一方で,TNF-αの過剰な産生は有害な作用を惹起し,これが疾患と関連する.TNF-αのこの有益にも有害にも作用し得る,諸刃の剣に例えられる多機能性は,2つのTNF受容体,TNFR1及びTNFR2との結合により発現する.3–5) TNFR2の細胞内ドメインと相互作用する2つのシグナル因子が同定され,腫瘍壊死因子受容体関連因子(TNF receptor-associated factor: TRAF)1及びTRAF2と命名された.6) TNF-α, TNFR-1, -2, TRAF-1, -2は,ファミリー分子を構成し,これら分子群による細胞内外でのネットワークコミュニケーションは,細胞の生死を制御することで,感染,免疫,神経,発生,骨などの生体恒常性の調節,また炎症,自己免疫,がんなどの疾患病態とも密接に関連する.7–9)関節リウマチなどの炎症性・自己免疫疾患に対するTNF阻害薬の治療効果が広く認知され,10) TNFに関連する分子を標的にした治療薬の開発研究が進められている.11)
TRAFは,哺乳類で7種類のTRAFファミリー分子から構成され,TNF受容体やToll様受容体(Toll-like receptor: TLR)のシグナル伝達を制御する(Fig. 1).12) TRAF5は,TNF受容体のファミリー分子であるLT-βR13)やCD4014)に結合する細胞内分子として見い出された.TRAF5は,TRAF2やTRAF3と類似する構造を持つが,15) TRAF5の機能はTRAF2やTRAF3と大きく異なるように思える.例えば,TRAF216,17)あるいはTRAF318)を欠損するマウスが重篤な発生異常を伴い夭折するのに対して,TRAF519)を欠損するマウスは健康に生育する.TRAF5は,T細胞やB細胞などのリンパ球で高い発現が認められるため,免疫に重要な役割を果たすことが示唆される.20)本稿では,TRAF5の生体機能を明らかにするために,特にCD4+ T細胞の機能制御に着目して筆者らがこれまでに行った研究を中心に概説する.
RING, really interesting new gene domain; Zn, zinc finger motif; CC, coiled-coil domain; TRAF-C, tumor necrosis factor receptor-associated factor-C-terminal domain; WD40, short ~40 amino acid peptide, often terminating in a tryptophan (W)-aspartic acid (D) dipeptide.
TNF受容体ファミリー分子であるOX40は,活性化T細胞に発現誘導される免疫制御分子である.21,22)感染や炎症により活性化した樹状細胞などの抗原提示細胞に発現するOX40リガンド(OX40L)と相互作用したOX40は,その細胞内ドメインにTRAFファミリー分子をリクルートすることで細胞内に活性化シグナルを伝達する.研究を開始した当初の疑問は,「TRAF5がOX40のシグナル伝達に係わるか?」であった.
OX40は,T細胞の活性化,分化,生存を促進することで,感染やがんを排除するとともに,炎症性・自己免疫疾患の増悪にも関与する.21,22)喘息や脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis: EAE)のマウスモデルでは,OX40を発現する病原性T細胞が肺や中枢神経系組織に浸潤し,活性化することで炎症反応を惹起し,疾患を増悪させる.したがって,Ox4023)やOx40l24)の欠損により喘息や脳脊髄炎の疾患病態が軽症化する.TRAF5がOX40のシグナル伝達に係わるのであれば,Traf5を欠損するマウスでも同様に喘息や脳脊髄炎が軽症化することが予想された.しかし予想に反して,Traf5欠損マウスの肺や中枢神経系組織で肺炎や脳脊髄炎が亢進し,疾患が増悪することがわかった(Table 1).25,26)以上から,Traf5の欠損とOx40/Ox40lの欠損が対応しないことが明らかになった.驚くべきことは,TRAF5の発現が免疫疾患の発症に対して抑制的に働くという予想外の結果が得られたことである.これが,「TRAF5が疾患を抑制する機序は何なのか?」という疑問に発展した.
Inflammatory diseases | Phenotypes | References |
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Asthma | Increased allergic lung inflammation mediated by inflammatory CD4 T cells in Traf5-deficient mice | 25 |
Experimental autoimmune encephalomyelitis | Increased neuroinflammation mediated by inflammatory CD4 T cells in Traf5-deficient mice | 26 |
Delayed-type hypersensitivity | Increased footpad swelling mediated by inflammatory CD4 T cells in Traf5-deficient mice | 27 |
Obesity | Increased diet-induced obesity and inflammation in the adipose tissue in Traf5-deficient mice, decreased TRAF5 gene expression in blood leukocytes and adipocytes in humans | 28 |
Atherosclerosis | Increased atherosclerosis in Traf5/Ldlr-deficient mice | 29 |
Coronary heart disease | Decreased TRAF5 gene expression in blood leukocytes in humans | 29 |
Nonalcoholic fatty liver disease | Increased hepatic steatosis in Traf5-deficient mice, decreased TRAF5 protein expression in livers of humans | 30 |
Cardiac hypertrophy | Aggravated cardiac hypertrophy, dysfunction and fibrosis in Traf5-deficient mice | 31 |
Myocardial ischemia reperfusion injury | Exacerbated inflammation and cell death after myocardial ischemia reperfusion injury in Traf5-deficient mice | 32 |
Wound repair | Increased pDC-mediated wound repair inflammatory responses in Traf5-deficient mice | 33 |
Ankylosing spondylitis | Enhanced methylation of CpG island of TRAF5 gene promoter and decreased TRAF5 gene expression in blood leukocytes in humans | 34 |
Rheumatoid arthritis | A SNP mapping upstream of TRAF5 gene and affecting a putative transcription factor binding site in humans | 35 |
Uveitis | SNPs in TRAF5 gene in humans | 36 |
Systemic lupus erythematosus | Increased TLR7 signaling in B cells with decreased expression of TRAF5 in humans | 37 |
Sjögren syndrome | Decreased TRAF5 gene expression in the temporal bulbar conjunctiva in humans | 38 |
Spinal cord injury | Increased TRAF5 protein expression in injured spinal cord in rats | 39 |
Ischemic brain infarction | Decreased brain ischemia/reperfusion injury in Traf5-deficient mice | 40 |
Neointima formation | Decreased neointimal formation in carotid arteries in Traf5/Ldlr-deficient mice, increased Traf5 mRNA in carotid arteries after wire injury in mice | 41 |
Atherosclerosis | Increased TRAF5 mRNA and protein in arteriosclerosis obliterans in humans | 42 |
上記の喘息や脳脊髄炎では,CD4+ヘルパーT細胞の炎症機能が疾患病態と密接に関係する.したがって,Traf5の欠損がCD4+ T細胞の分化に影響を与える可能性が示唆された.OT-IIマウスは,卵白アルブミンの部分ペプチド(chicken ovalbumin 323–339 peptide: OVA323–339)をMHCクラスII分子(I-Ab)拘束性に認識するモノクローナルなT細胞抗原受容体(T cell receptor: TCR)を発現するTCRトランスジェニックマウスである.43)このマウスから精製した単一の抗原特異性を持つTCRを発現するCD4+ T細胞を用いて,Traf5の欠損がCD4+ T細胞の分化に及ぼす影響を調べた.OT-II野生型マウスあるいはこのマウスとTraf5欠損マウスとを交配させたマウス,それぞれのマウスからナイーブCD4+ T細胞を精製し,これらの野生型あるいはTraf5欠損T細胞を抗原提示細胞とOVA323–339抗原ペプチドを用いてin vitroで刺激し,培養上清中に産生されるサイトカインをenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)でスクリーニングした.その結果,Traf5欠損OT-II T細胞の培養液中にinterleukin-17(IL-17)やIL-21が高産生されることが判明した.26) IL-17やIL-21は,T helper 17(Th17)細胞などから産生されるサイトカインであり,IL-6が上流でこれらのサイトカインの産生を誘導する.このことから,TRAF5がIL-6の機能を制御することが示唆された.
Traf5の欠損が,「IL-6の産生量を増加させること」,あるいは「IL-6受容体の感受性を亢進させること」,これら2つの可能性が考察された.上記のOT-II CD4+ T細胞の培養上清中に含まれるIL-6の産生量を計測した結果,Traf5の欠損の影響は認められなかったため,前者の可能性は低いことが示唆された.一方,OT-II CD4+ T細胞の分化培養液にリコンビナントIL-6を加えたところ,濃度依存的にIL-17やIL-21の産生が誘導され,Traf5の欠損によりこれらの分泌量が有意に増加することがわかった.26)抗OX40刺激抗体(OX86)をOT-II CD4+ T細胞の分化培養液に加えることによってもIL-6濃度が上昇したが,その産生量においてTraf5欠損の影響は認められなかった.このOX40刺激で誘導されるIL-6が,IL-17やIL-21の分泌量の増加につながることも合わせて確認できた.さらに,IL-6に依存的なTh17細胞の分化がTraf5の欠損により亢進することを確認できた.野生型あるいはTraf5欠損ナイーブOT-II CD4+ T細胞を野生型C57BL/6レシピエントマウスに移植した後に,フロイント完全アジュバント(complete Freund’s adjuvant: CFA)とOVA抗原でレシピエントマウスを免疫し,in vivoでのTh17細胞の分化を評価した.その結果,OT-II CD4+ T細胞のTraf5の欠損がTh17細胞の分化効率を有意に高めることを確認できた.26)
EAEにおける脳脊髄炎は,Th17細胞の炎症機能により発現する.このEAEにおいて,脳炎惹起抗原であるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗原に対するTh17細胞の応答がTraf5の欠損により有意に亢進し,脳脊髄炎が増悪することを確認できた.さらに,CD4+ T細胞に発現するTraf5の欠損がEAE病態の増悪と関連することを確認できた.26)また,Traf5の欠損によるIL-6受容体機能の亢進が,肺組織でのCD4+ T細胞による炎症病態と関連することも強く示唆された.25,44)
以上から,Traf5の欠損によりIL-6受容体の感受性が増すことで,Th17細胞などの炎症性CD4+ T細胞の分化が起こりやすくなり,これが疾患の増悪につながることが明らかになった.
TRAF5の発現がIL-6受容体の機能に抑制的な影響を及ぼすことを糸口にして,TRAF5がIL-6受容体のシグナル伝達分子であるgp130と相互作用することを見い出した.gp130の欠失変異体を用いた免疫沈降実験から,TRAF5がgp130の細胞内領域の中央部にあるアミノ酸配列と相互作用することがわかった.さらに,野生型及びTraf5欠損マウスから精製したCD4+ T細胞のgp130をIL-6–IL-6R複合体で刺激したときに認められるjanus kinase 1(JAK1)やsignal transducer and activator of transcription 3(STAT3)のリン酸化のレベルが,Traf5欠損CD4+ T細胞で増加することがわかった.26,45) CD4+ T細胞をIL-10やIL-21で刺激したときに認められるSTAT3のリン酸化レベルは,Traf5欠損の影響を受けなかったことから,TRAF5のSTAT3に対する抑制作用はIL-6受容体に特異的であることを確認できた.CD4+ T細胞におけるTraf5の発現量の増加が,IL-6刺激に依存したSTAT3のリン酸化を抑制し,これによりTh17細胞の分化が制限されることがわかった.Traf5の相対発現量が低いマクロファージでは,IL-6受容体シグナルに対するTraf5欠損の影響が認められなかったことから,CD4+ T細胞におけるTraf5の高い発現量がその抑制機能と関連することが示唆された.26,45,46)
JAKは,IL-6受容体のgp130に会合するチロシンキナーゼである.IL-6–IL-6Rは,gp130を二量体化することで,JAKの2分子を近接化させる.これにより自己リン酸化し活性化したJAKは,gp130やSTAT3をチロシンリン酸化し,JAK–STAT3シグナル伝達経路が開始する.47,48) TRAF5がgp130と相互作用するため,この一連のJAKの活性化機構にTRAF5が阻害的に働くことが示唆された.そこで,TRAF5のJAK活性化における役割を調べるために新たな実験系を構築した.ホタルルシフェラーゼ分子の活性構造の再構築を指標にしたprotein-fragment complementation assay49,50)により,gp130の二量体化に伴うJAK–JAKの二量体化形成反応をルシフェラーゼ活性として検出し,TRAF5の発現がこの活性を抑制するかを検討した.細胞表面に発現するgp130をIL-6–IL-6R複合体で刺激したとき,5分をピークとする時間依存的なルシフェラーゼ活性(JAK1のホモ二量体化反応)の上昇が誘導された.TRAF5を細胞に共発現させることにより,このルシフェラーゼ活性が有意に減少した.さらに,gp130に存在するTRAF5との相互作用領域を欠失させたgp130変異体を用いた場合には,このTRAF5の抑制作用は認められなかった.また,E3ユビキチンリガーゼ活性に係わるreally interesting new gene(RING)フィンガードメイン(Fig. 1)を欠失させたTRAF5においてもこの抑制作用が発現し,C末端にあるTRAFドメインがgp130と結合することがその抑制作用に関与することがわかった.45)以上の実験から,gp130に結合したTRAF5のある種の立体障害的作用が,IL-6–IL-6R刺激に依存したgp130の二量体化反応を阻害し,このことにより,gp130と相互作用するJAKの二量体化反応及びJAKの自己リン酸化によるJAK–STAT3経路の活性化反応が制限される作用機序の存在が示唆された.
以上から,TRAF5のgp130への結合は,IL-6受容体によるJAK–STAT3シグナルの活性化に対して抑制的に働くことが明らかになった.
TRAF5がIL-6受容体のgp130に対して抑制作用を示すことから,gp130を共通鎖として用いるほかのIL-6ファミリーサイトカインで同様の作用が認められるかを検討した.IL-27は,IL-27p28とEBV-induced gene 3(EBI3)から構成され,gp130とWSX-1(IL-27RαあるいはTCCR)から構成される受容体に結合するIL-6ファミリーサイトカインである.CD4+ T細胞は,IL-6受容体(gp130及びIL-6R)と同じくIL-27受容体(gp130及びWSX-1)を発現し,IL-27刺激によりSTAT3よりもSTAT1優位のシグナル経路が活性化される.実際に,野生型及びTraf5欠損マウスから精製したCD4+ T細胞をIL-27で刺激したところ,Traf5欠損CD4+ T細胞においてSTAT1のリン酸化レベルの有意な亢進とこれによるIL-27標的遺伝子の発現が有意に増加した.27) IL-27受容体とTCRの共刺激でCD4+ T細胞を活性化したところ,IL-10やIL-21,更にTh1細胞分化に係わるT-betやinterferon(IFN)-γの発現量がTraf5の欠損により有意に増加した.これに加えて,IL-27刺激に依存した細胞増殖応答がTraf5の欠損で有意に亢進した.27)一方,CD4+ T細胞にはTNF受容体ファミリー分子であるGITRが発現し,TRAF5はそのシグナル伝達を促進する.野生型及びTraf5欠損CD4+ T細胞をTCRとGITRに対する2種類のアゴニスト抗体で刺激し,細胞増殖応答及びIL-2産生能を測定した.その結果,Traf5の欠損により細胞増殖やIL-2産生が有意に減弱した.27)すなわち,TRAF5がIL-27受容体のgp130に対して抑制的に働き,逆にTNF受容体のGITRに対しては促進的に働くことが示唆された.したがって,同じCD4+ T細胞に発現する異なる2つの受容体に対して,TRAF5が正反対の機能を示すことがわかった.
遅延型過敏症(delayed-type hypersensitivity: DTH)反応は,抗原と反応したT細胞の活性化により起こる組織障害であり,Th1細胞から産生されるINF-γなどの炎症性サイトカインの放出が組織炎症を誘導する.炎症局所へマクロファージ等が集積し,血管透過性が亢進し,血漿成分の滲出により浮腫が起こる.IL-27は,Th1細胞の誘導を介してDTH反応を亢進させる.そこで,DTHマウスモデルを用いて,Traf5欠損の影響を調べた.野生型及びTraf5欠損マウスにメチル化牛血清アルブミン(methyl bovine serum albumin: mBSA)抗原とCFAを皮下免疫するとともに,IL-27を投与する群と投与しない群を準備した.免疫1週間後に,これらのマウスの足蹠にmBSAを注射し,24時間後に足蹠の腫脹を計測することでDTH反応を定量化した.その結果,IL-27を投与したTraf5欠損マウスにおいて,有意な足蹠の腫脹の増大が認められた.IL-27投与Traf5欠損マウスから調製した脾臓細胞をmBSAで再刺激した結果,有意なT細胞増殖応答とIFN-γ産生の増加を確認できた.27)以上から,Traf5の欠損により,IL-27受容体のシグナルが増強することで抗原特異的なTh1細胞の分化が亢進し,これによりDTH反応が増強される機序が推察された(Table 1).
上記では,CD4+ T細胞におけるTRAF5の欠損が,IL-6やIL-27刺激によるgp130–JAK–STATシグナルの感受性を増強し,これが炎症性T細胞の分化を促進し,最終的に喘息,脳脊髄炎,遅延型過敏症の増悪に至る機序を説明した.ほかのグループの研究からも,Traf5欠損マウスで疾患病態の増悪が報告されている.例えば,Traf5欠損マウスに高脂肪食を与えることで肥満(obesity),脂肪組織の炎症,28)動脈硬化症(atherosclerosis),29)非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)30)が増悪する.また,心臓肥大(cardiac hypertrophy)31)や虚血再灌流障害(ischemia reperfusion injury)32)のモデルにおいても,Traf5の欠損が病態を増悪させる(Table 1).これらの疾患モデルにおいて,CD4+ T細胞におけるTraf5の欠損がどの程度疾患の発症や進展に関与するかは不明であるが,CD4+ T細胞以外の細胞や組織に発現するgp130に対するTraf5の関与も推察される.一方,Traf5の欠損はB細胞51)や形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell: pDC)33)のTLRの機能を亢進させる.つまり,TRAF5はTLRの機能を制限することでも疾患を増悪させる可能性がある.これらを総括して考えると,TRAF5の発現量低下により,IL-6,IL-27,TLRリガンドの刺激を受けた細胞が活性化しやすくなり,この状況が疾患発症に対して促進的に働くことが推察される.
ヒトのTRAF5の遺伝子変異解析から,強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis),34)関節リウマチ(rheumatoid arthritis),35)ぶどう膜炎(uveitis)36)とTRAF5との関連性が示唆されている.また,TRAF5の発現量低下が全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus),37)シェーグレン症候群(Sjögren’s syndrome),38)冠動脈疾患(coronary heart disease),29)肥満,28) NAFLD30)の患者で観察されることから,TRAF5の発現量低下と疾患の増悪との関連性が示唆される(Table 1).
CD4+ T細胞に発現するTRAF5は,IL-6やIL-27の受容体であるgp130と相互作用することでJAK–STATシグナルの機能を制限する.TRAF5は,この抑制機能によりCD4+ヘルパーT細胞の炎症機能を制御し,正常な免疫系の構築に関与すると考えられる.TRAF5は,CD4+ T細胞を含むリンパ球に特に高い発現が認められるため,TRAF5の発現量の変化がリンパ球の応答性に影響を及ぼすことが示唆される.TRAF5の欠損やその発現量の低下がヘルパーT細胞の機能を亢進させ,これにより組織傷害を伴う過剰な免疫応答が誘導され,その結果,炎症性・自己免疫疾患の発症に至る機序の存在が示唆される.この考え方が正しければ,TRAF5を高く発現させることがgp130シグナルの抑制につながるため,この作用を疾患の治療に応用できる可能性がある.
非免疫系の細胞や組織に発現するTRAF5も同様に,疾患病態と関連する可能性がある.疾患に関連するある特定の組織傷害の過程で,TRAF5の発現量の増加が観察されるが(Table 1),31,32,39–42)そのTRAF5の機能的意義は現在のところ不明である.TRAF5が,病気を抑制するように働いているのかもしれない.TRAF5は,gp130やTLRに対してだけでなく,従来のTNF受容体に結合するアダプター分子としてのシグナル促進機能を併せ持つ.したがって,TRAF5がTNF受容体ファミリー分子の機能制御を介して疾患を増悪させる可能性も存在する.TRAF5が体内の様々な細胞内において,gp130,TLR,TNF受容体をどのように制御するかについての科学的検証はいまだ不十分である.20)
今後,疾患が起こる背景で,種々の細胞内に発現するTRAF5がgp130,TLR,TNF受容体の機能をどのように調節し,これが疾患に対してどのように抑制的に働くのか(あるいは促進的に働くのか)という重要な疑問を明らかにする必要がある.このTRAF5の制御機構を明らかにできれば,自己免疫疾患や循環器疾患などの発症機序の理解が進み,この機序を基にした治療薬の開発が可能になると考える.
本研究は,ラホヤ免疫研究所(La Jolla Institute for Immunology,旧名La Jolla Institute for Allergy and Immunology)及びカリフォルニア大学サンディエゴ校の教授であるMichael Croft先生のご指導の下で開始し,東北大学医学系研究科の教授である石井直人先生のご助言とご指導の下研究を進展させ,現在に至ります.東邦大学医学部の教授である中野裕康先生から貴重なTraf5欠損マウスをご提供頂き研究を継続しています.ラホヤ免疫研究所時代には,Carl F. Ware教授,Amnon Altman教授を始めとする共同研究者の方々にご指導頂き,大変お世話になりました.学生時代から助手までの期間を過ごさせて頂きました九州大学薬学部では,井本泰治教授,植田 正教授を始め,教室員,大学院生,学部学生の皆様には,本研究の基盤になる研究の考え方について学ばせて頂き,大変感謝しています.九州大学薬学部の学生時代に九州大学歯学部に出向することで免疫学について学ばせて頂きました.古賀敏生教授,平田雅人教授,伊藤博夫教授,並びにそのほかの関係する歯学部の先生方に対して大変感謝しています.東北大学医学系研究科免疫学分野及び富山大学薬学部分子細胞機能学研究室の教室員,大学院生,学部学生の皆様,そのほか数多くの共同研究者の方々のこれまでの多大なご協力に心より感謝申し上げます.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,日本薬学会第143年会シンポジウムS57で発表した内容を中心に記述したものである.