YAKUGAKU ZASSHI
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誌上シンポジウム
TCRシグナルの新規制御機構の理解
柏倉 淳一 松田 正
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2024 年 144 巻 5 号 p. 497-501

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Summary

Signal-transducing adaptor protein-2 (STAP-2) is a unique scaffold protein that regulates several immunological signaling pathways, including LIF/LIF receptor and LPS/TLR4 signals. STAP-2 is required for Fas/FasL-dependent T cell apoptosis and SDF-1α-induced T cell migration. Conversely, STAP-2 modulates integrin-mediated T cell adhesion, suggesting that STAP-2 is essential for several negative and positive T cell functions. However, whether STAP-2 is involved in T cell-antigen receptor (TCR)-mediated T cell activation is unknown. STAP-2 deficiency was recently reported to suppress TCR-mediated T cell activation by inhibiting LCK-mediated CD3ζ and ZAP-70 activation. Using STAP-2 deficient mice, it was demonstrated that STAP-2 is required for the pathogenesis of Propionibacterium acnes-induced granuloma formation and experimental autoimmune encephalomyelitis. Here, detailed functions of STAP-2 in TCR-mediated T cell activation, and how STAP-2 affects the pathogenesis of T cell-mediated inflammation and immune diseases, are reviewed.

はじめに

免疫はわれわれの体内に備わる生体防御反応である.免疫応答には自然免疫と獲得免疫があり,特に獲得免疫は病原体の再侵入に対する防御反応として重要な生体反応である.この獲得免疫があることで,われわれの体内では多くの病原体に再度感染することがない,すなわち「2度なし現象」が発生する.これらの特徴を利用して行われているのが,いわゆる予防接種である.獲得免疫の中心的免疫細胞の1つとして,T細胞が広く周知されている.T細胞は胸腺で分化し,T細胞抗原受容体(T cell antigen receptor: TCR)を介して抗原を認識し活性化する.TCRによる抗原認識が発生すると,T細胞内では始めにlymphocyte-specific protein tyrosine kinase(LCK)の活性化が引き起こされる.活性化したLCKはCD3ζ分子内のimmunoreceptor tyrosine-based activation motif(ITAM)をリン酸化する.リン酸化したCD3ζはzeta-chain-associated protein kinase 70(ZAP-70)をリン酸化し,活性化シグナルを下流分子に伝えていく.TCRからスタートしたシグナル伝達は,最終的に転写因子(nuclear factor of activated T-cells: NFAT)の核内移行及びそれに伴うインターロイキン(interleukin: IL)-2産生を引き起こし,T細胞増殖及び獲得免疫誘導が発生する.TCRシグナルカスケードがうまく働かないと免疫不全につながり,一方で暴走は自己免疫疾患やアレルギー疾患につながることから,TCRシグナル伝達の詳細を解明することは様々な免疫疾患の新規治療戦略につながる.

TCRシグナルカスケードには様々な分子が係わっており,その中には上述のようにLCKなどのチロシンリン酸化酵素のみならず,酵素と基質との足場タンパク質として利用されるアダプタータンパク質も必要である.Linker for activation of T cells(LAT)はT細胞の代表的アダプタータンパク質であり,この分子を欠損したマウスではT細胞の分化異常が観察され,1またLATを欠損したヒトT細胞株Jurkat細胞ではTCR刺激後のカルシウム流入不全やAP-1/NFAT転写活性減弱などが起こる.2,3すなわち,アダプタータンパク質の発現・機能制御異常も自己免疫・アレルギー疾患の一端を担っている可能性がある.われわれはこれまでsignal-transducing adaptor protein-2(STAP-2)の様々なシグナルに対する機能解析を行ってきた.STAP-2は分子内に脂質結合能を有するPHドメイン,リン酸化チロシン結合能を示すSH2様ドメイン,SH3領域と結合能を示すプロリンリッチ領域を持つ.STAP-2はbreast tumor kinase(BRK)の基質として同定され,leukemia inhibitory factor(LIF)やepidermal growth factor(EGF)などの刺激後,プロリンリッチ領域に存在するアミノ酸配列(YXXQ)がSTAT3と結合することでBrkとSTAT3の足場タンパク質として機能し,細胞内にシグナルを伝達することが先行研究で明らかにされている.その後の研究で,STAP-2はM-CSF/M-CSF受容体シグナル,4,5 LPS/TLR4シグナル,6,7 FcεRIシグナル8,9など,様々な免疫シグナルに係わることを報告し,免疫反応制御におけるSTAP-2の重要性を示してきた.

TCR非依存性T細胞機能に対するSTAP-2の役割

これまで,われわれはいくつかのT細胞活性化イベントに対するSTAP-2の機能的役割について研究を行ってきた.ケモカインシグナルは細胞遊走を調節するシグナルカスケードであり,特にSDF-1α/CXCR4はT細胞遊走に関与するケモカインシグナルの1つである.STAP-2欠損マウス[STAP-2 knockout(KO)マウス]T細胞では野生型マウス[wild type(WT)マウス]T細胞と比較し,SDF-1α誘導性細胞遊走反応が減弱することから,このシグナルカスケードにおけるSTAP-2の作用機序を調べたところ,STAP-2がPyk2とVAV1の足場タンパク質として機能し,Rac1やCdc42活性化調節に係わることを明らかにした.10,11 STAP-2はT細胞の活性化誘導性細胞死(activation induced cell death: AICD)にも関与している.T細胞は抗原を認識すると活性化し,種々のサイトカインを産生する.それにより病原体などの外来抗原はT細胞を中心とした免疫機構により排他される.外来抗原の排除が完了すると,活性化したT細胞の多くはAICDによりアポトーシス排除される.STAP-2 KOマウスでは抗原免疫後のアポトーシス割合が,WTマウスに比べ低下している.また抗CD3抗体投与により誘導される生体内T細胞死もSTAP-2 KOマウスでは抑制される.そこで,その作用機序の解明に取り組んだところ,STAP-2はFas依存的にcaspase-8と相互作用し,DISC形成及び細胞死シグナル増強を引き起こすアダプタータンパク質であることが解明された.12一方,T細胞の細胞接着に対するSTAP-2の機能的役割を調べた研究では,STAP-2が細胞死や細胞遊走とは異なり,focal adhesion kinaseとの結合によるユビキチン依存性分解を引き起こすことで,T細胞の細胞接着を負に制御をしていることがわかった.13

TCR依存性T細胞活性化イベントに対するSTAP-2の役割

これまで,筆者らはいくつかのT細胞活性化イベントに対するSTAP-2の機能的役割について述べてきた.しかし,T細胞の抗原依存的なシグナル伝達及びそれに伴う活性化イベントに対してSTAP-2は影響を及ぼすのか.この疑問を解決するために,われわれはまずWTマウス,STAP-2 KOマウス及びリンパ球特異的STAP-2トランスジェニックマウス[STAP-2 transgenic(Tg)マウス]のCD4+ T細胞を用いて,TCR介在性刺激後のT細胞増殖反応及びサイトカイン産生を解析した.するとSTAP-2 KOマウスT細胞ではこれらの活性化イベントが有意に減少し,STAP-2 TgマウスT細胞ではIL-2産生が有意に増加している結果が観察された.またTCR架橋後のTCRシグナルカスケードの変化を調べたところ,STAP-2 KOマウスT細胞ではZAP-70, PLC-γ1及びERKのリン酸化が減弱し,一方でSTAP-2 TgマウスT細胞ではこれらのリン酸化酵素の活性化増強がみられた.すなわち,STAP-2はT細胞TCRシグナルを「正に制御」していることが示唆された.そこで,われわれはSTAP-2過剰発現Jurkat細胞株(STAP-2/Jurkat)を樹立し,更なる解析を進めた.するとわれわれの予想した通り,STAP-2/JurkatではコントロールJurkat細胞(Mock/Jurkat)と比較してTCRシグナルカスケードの亢進,カルシウム流入の増加,NFAT転写活性増強,それらに伴うIL-2発現上昇が観察された.これらの検討結果は,STAP-2が抗原依存性T細胞活性化反応において必要であることがわかる.

TCRシグナルカスケードにおけるSTAP-2の作用機序

STAP-2がTCR依存性T細胞活性化反応に重要であることを示してきたが,どのような作用機序でSTAP-2はT細胞シグナル伝達に係わっているのであろうか.蛍光免疫細胞染色を用いた検討により,われわれはSTAP-2がTCRの最上流に存在し,TCRシグナル伝達の開始に必須のSrcファミリーチロシンリン酸化酵素LCKと共局在することを見い出した.そこで,われわれは「STAP-2はTCR介在性T細胞活性化反応において,LCK及びその基質でありZAP-70のリン酸化を制御するCD3ζの足場タンパク質として機能している」と仮説を立て,更に研究を進めた.まずSTAP-2がTCR刺激前後にLCKやCD3ζと会合しているかを調べる目的で,STAP-2/Jurkat細胞を用いて共免疫沈降法を行った.すると,STAP-2はCD3ζとは未刺激時から会合している一方で,LCKとは刺激依存的に会合した.さらに同様の検討結果から,刺激依存的にこれら三分子が複合体を形成していることがわかった(Fig. 1).すなわち,T細胞が抗原認識するとSTAP-2/CD3複合体とLCKが三分子複合体を形成し,適切なTCRシグナルがT細胞内に伝達されることが示唆された.同様の結果は,人工的に過剰発現させたSTAP-2/Jurkat細胞のみならず,STAP-2が構成的に強く発現しているヒトT細胞株であるHuT78細胞でも観察された.

Fig. 1. Participation of STAP-2 in LCK-mediated CD3ζ Activation

STAP-2分子内には3つの異なるドメインが存在する.次にわれわれはSTAP-2分子内のどのドメインがLCKやCD3ζとの相互作用に必要なのかを明らかにする目的で,それらのドメインを欠損した変異株発現ベクターを用いて検討を行った.するとLCKはSTAP-2のPHドメインと,CD3ζはプロリンリッチ領域と結合することがわかった.さらに,各ドメインを欠損したSTAP-2を過剰発現したJurkat細胞を用いて機能分析を行ったところ,LCKやCD3ζとの結合能を失った変異体(すなわちPHドメイン若しくはプロリンリッチ領域を欠失したSTAP-2変異体)を過剰発現したJurkat細胞では全長STAP-2を過剰発現したJurkat細胞でみられるNFAT転写活性亢進及びIL-2産生がみられなかったのに対し,これらの分子との結合には影響しないSH2ドメインを欠損したSTAP-2変異体を過剰発現したJurkat細胞では機能消失がみられなかったことから,われわれが立てた「STAP-2がLCKとCD3ζとの足場タンパク質として機能し,T細胞活性化反応に係わる」という考えは正しいことが証明された.

STAP-2 Y250リン酸化とT細胞機能亢進との関係性

STAP-2には複数のリン酸化チロシン残基が存在する.特に250番目のチロシン残基(Y250)はSTAP-2の機能において最も重要なチロシン残基と言っても過言ではない.実際,STAP-2 Y250はBRKによりリン酸化され,このタンパク質修飾はSTAT3やSTAT5の機能に影響をあたえる.14,15 STAP-2 Y250はこのほかにJak2,16 LIF16及びM-CSF4などによってもリン酸化されることがわかっている.果たしてSTAP-2 Y250はLCKによりリン酸化されるのであろうか,また仮にリン酸化されるのであればSTAP-2 Y250リン酸化はT細胞活性化イベントに影響を与えるのであろうか?この疑問を解くため,われわれはHEK293T細胞に様々なリン酸化チロシン残基をアラニンに置換したSTAP-2点変異体をLCKとともに過剰発現させ,リン酸化の有無を検討した.するとSTAP-2 Y250A変異体とLCKを共発現させたHEK293T細胞でのみ,STAP-2のリン酸化がほぼ消失する結果が得られた.さらに,STAP-2 Y250A変異体ではLCKとの結合能が減弱し,それに伴い,IL-2産生がMock/Jurkatとほぼ同レベルまで低下したことから,STAP-2のLCKによるY250リン酸化反応がTCRシグナル伝達に関与していることが明らかとなった.

T細胞依存性生体内免疫応答に対するSTAP-2の機能的役割

これまで筆者らは,試験管レベルでのSTAP-2のT細胞活性化反応に対する役割を述べてきた.STAP-2による影響は生体レベルでも反映されるのであろうか.そこでわれわれは2つの独立したT細胞依存性免疫疾患発症マウスモデルを用いて,この疑問の解明に取り組んだ.Propionibacterium acnes(P. acnes)誘導性肉芽種形成マウスモデルは,死滅化したP. acnesを腹腔内投与することで誘導される肉芽種マウスモデルであり,先行報告でTh17の関与が報告されているマウスモデルである.17本マウスモデルをWTマウス,STAP-2 KOマウス及びSTAP-2 Tgマウスに誘導すると,脾臓における肉芽種形成がWTマウスと比べSTAP-2 KOマウスでは有意に減少し,STAP-2 Tgマウスでは有意に増加することが観察された.さらに脾臓組織のサイトカイン発現を調べたところ,STAP-2 KOマウスではinterferon(IFN)-γ mRNA発現が有意に減少し,STAP-2 TgマウスではIL-2 mRNA及びIFN-γ mRNA発現が有意に増加していた.さらに,T細胞依存性が既に報告されている実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis: EAE)マウスモデル18を用いて同様の検討を行った.それぞれのマウスにミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(myelin oligodendrocyte glycoprotein: MOG)を投与し,臨床スコアの変化を観察したところ,STAP-2 KOマウスでは重症化の抑制が,STAP-2 Tgマウスでは寛解の遅延が観察された.また,これらの表現型に伴い,STAP-2 KOマウスでは疾患発症ピーク時(抗原投与後14日目)の脊椎組織内Th1及びTh17細胞数がWTマウスと比べ減少傾向を示した.一方で,寛解遅延が起きている時期(抗原投与後20日)のSTAP-2 Tgマウス脊椎組織内のTh1及びTh17数をWTマウスと比較したところ,EAE発症に重要な役割を示すことが報告されているTh17細胞数が有意に増加していた.さらにこの反応がT細胞自体に発現するSTAP-2によるものなのかを明らかにするため,細胞移入実験を行い,STAP-2 KOマウスT細胞を移植したリンパ球欠損マウスではWTマウスT細胞を移植したリンパ球欠損マウスと比較して症状の軽減が起こることから,T細胞内のSTAP-2がこれら2種の免疫疾患病態形成に係わることが示唆された(Fig. 2).最後に,われわれは髄鞘特異的タンパク質を認識するT細胞受容体トランスジェニックマウス(2D2マウス)とSTAP-2 Tgマウスを掛け合わせてダブルトランスジェニックマウス(2D2/STAP-2マウス)を作出し,自己抗原反応性T細胞内のSTAP-2の機能解析を行った.すると2D2マウスと比較し,2D2/STAP-2マウスでは生存率の著しい低下が観察された.さらに病理学的解析から,2D2/STAP-2マウスでは脊椎組織への炎症細胞浸潤と,それに伴う脱髄が起こっており,自己反応性T細胞でのSTAP-2異常発現は,自己免疫疾患発症と関連性があることが示唆された.

Fig. 2. Role of STAP-2 for Pathogenesis of P. acnes-induced Granuloma Formation and Experimental Autoimmune Encephalopathy

おわりに

今回の報告で,われわれは①STAP-2がTCRシグナルカスケードを正に制御していること,②STAP-2はLCKとCD3ζとの足場タンパク質として機能すること,③STAP-2の250番目チロシン残基はLCKによりリン酸化され,STAP-2 Y250のリン酸化はLCKとの相互作用の増強に寄与すること,④STAP-2の欠損・過剰発現は炎症性疾患・自己免疫疾患発症に関与することを明らかとした.19筆者らは,現在STAP-2阻害剤の開発及び臨床応用に取り組んでおり,新たなSTAP-2阻害剤の開発に成功した.20今後,開発したSTAP-2阻害剤をいかに早く臨床現場に届けるかを目標に研究を続けていきたい.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第143年会シンポジウムS57で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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