YAKUGAKU ZASSHI
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誌上シンポジウム
創薬開発に向けた基礎免疫学の進歩
柏倉 淳一 西田 圭吾
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2024 年 144 巻 5 号 p. 473-474

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人類の歴史において,われわれは様々な病原体と戦い,勝利を手にしてきた.例えば,天然痘は非常に致死性の高い感染症であったが,18世紀後半にエドワード・ジェンナーにより種痘による予防法の確立がなされ,現在,天然痘は根絶されている.また昨今の新型コロナウイルス感染症に関しても,mRNAワクチンなどによる免疫獲得が,多大な成果をもたらしたことは言うに及ばない.またこれらの生体反応の特徴は「2度なし現象」として知られる免疫記憶である.このようにわれわれに備わっている「免疫反応」は,外来病原体に対する生体防御反応として非常に優秀な反応であり,病原体に対する予防策として,予防接種などが国内問わず行われている.一方で,免疫反応はわれわれにとっては特定の病気の発症にも係わっている.例えば,自己抗原に対して反応するT細胞が特定の条件により活性化してしまい,免疫システムが暴走すると,多発性硬化症やクローン病などの自己免疫疾患が発症する.また外来抗原に対しても,過剰の免疫応答が起こると,われわれの体にとっては不利益な反応が誘導され,その結果,花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー疾患の発症につながる.さらに免疫反応の減弱は易感染症やがん発症の要因となるため,いかに生体内で免疫反応のバランスを正常に保つかが,健康を維持するうえで重要なポイントである.

免疫バランスの異常には様々な要因がある.環境的要因であれば抗原やエンドトキシンなどの暴露量の変化があり,物理的要因であれば皮膚を傷つけるなど障壁防御の変化などがあげられる.また遺伝的要因もあり,アトピー素因はその一つである.自己免疫・アレルギー疾患の治療にはステロイド剤や抗ヒスタミン剤などが古くから使われているが,治療効果は限局的であった.しかし,近年の病態解明や医薬品探索の進歩により,様々な自己免疫・アレルギー疾患の新規治療薬が開発されている.Interleukin(IL)-6は多彩な生理活性を有する炎症性サイトカインであるが,IL-6が過剰に産生されると様々な疾患を引き起こす.特に,リウマチの病態形成には深く係わることが知られており,実際,抗IL-6R抗体であるトシリズマブの開発はリウマチ患者の生活の質を著しく向上させた.また,抗tumor necrosis factor(TNF)-α抗体であるレミケードや,最近ではJak阻害剤などが新たなリウマチ治療薬として用いられている.喘息患者では病態の中心がIL-4やIL-13などのTh2型サイトカインであることから,それらの作用を中和するデュピルマブなどが新規治療薬として使われる.またアトピー性皮膚炎患者でもTh2型サイトカインの関与や,最近ではIL-31がかゆみ誘発を引き起こすサイトカインであることが明らかとなったことから,生物学的製剤のほかにJak阻害剤の外用剤が用いられるようになった.がん患者に対してもニボルマブなど免疫チェックポイント阻害剤などの使用による劇的な治療効果が報告されている.一方で,免疫反応の病態への関与はいまだ不明な点が多く,今後それら詳細が解明されれば,新たな治療薬開発が進むと期待されている.新たに開発される治療薬を臨床の場で使うためには,その現場で実際に働いている薬剤師の基礎免疫学に関する知識のアップデートが必要である.

そこで日本薬学会第143年会シンポジウムS57「創薬開発に向けた基礎免疫学の進歩」では,最先端の免疫・アレルギー研究を5人のシンポジストに紹介して頂いた.西田圭吾氏(鈴鹿医療大学)には大腸がん発症抑制機構における亜鉛の役割を,吉川宗一郎氏(順天堂大学)には精神的ストレスと皮膚アレルギー増悪機構との関係性を,鈴木 亮氏(金沢大学)にはマスト細胞と好中球との細胞間クロストークの意義を,宗 孝紀氏(富山大学)にはT細胞活性化及びT細胞関連免疫・アレルギー疾患に対するTRAF5の機能的役割を,柏倉(北海道科学大学)はT細胞活性化及び自己免疫疾患に対するアダプター分子STAP-2の役割についてそれぞれ講演頂いた.このシンポジウムにより,現在どのような点がいまだ免疫・アレルギー疾患を理解するうえで不明なのか,紹介された研究がどのような観点から発展を遂げ,将来的にはどのように臨床に応用される可能性があるのかについて説明頂き,参加者と議論を深めた.しかし,本誌上シンポジウムではすべての研究内容を発表頂くことができなかったため,本誌上シンポジウムにより可能な限り先生方の最新研究の内容を総説にまとめて頂いた.読者に対して本誌上シンポジウムが最新の免疫・アレルギー学領域を理解するうえで有用なものとなればと考える.

Notes

日本薬学会第143年会シンポジウムS57序文

 
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