YAKUGAKU ZASSHI
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誌上シンポジウム
ナノ粒子化を基盤とした経皮吸収型製剤の開発と薬物送達機構の解明
大竹 裕子 長井 紀章
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2024 年 144 巻 5 号 p. 505-510

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Summary

Transdermal drug delivery is a formulation in which the drug is absorbed through the skin for systemic action. Its advantages include avoidance of first-pass effects, sustained drug supply, and ease of administration and discontinuation. Drugs administered transdermally transfer into the blood circulation through the stratum corneum, epidermis, and dermis. The stratum corneum on the skin surface plays a barrier function in skin absorption. Therefore, developing of transdermal drug delivery systems requires innovations that overcome the barrier function of the stratum corneum and improve skin permeation. This review examines the usefulness of transdermal formulations based on solid nanoparticles using raloxifene. Milled raloxifene was gelled with (mRal-NPs) or without menthol (Ral-NPs) using Carbopol. The drug release and transdermal penetration were measured using a Franz diffusion cell, and the therapeutic evaluation of osteoporosis was determined in an ovariectomized rat model. Although the raloxifene released from Ral-NPs remained in the nanoparticle state, the skin penetration of raloxifene nanoparticles was prevented by the stratum corneum in rat. The inclusion of menthol in the formulation attenuated the barrier function of the stratum corneum and permitted raloxifene nanoparticles to penetrate through the skin. Moreover, macropinocytosis relates to the formulation’s skin penetration, including menthol (mRal-NPs). Applying mRal-NPs attenuated the decreases in calcium level and stiffness of bones of ovariectomized rats. This information can support future studies aimed at designing novel transdermal formulations.

1. はじめに

経皮吸収型製剤は,皮膚を通して薬剤を吸収させることで全身への作用を示す製剤である.そのメリットとして,肝初回通過効果の回避や持続的な薬物供給,投与及び投与中止の容易さが挙げられ,狭心症や気管支喘息,認知症など様々な疾患治療製剤として用いられている.これら経皮投与された薬物は,一般に角質層,表皮,真皮を介し,血液循環に移行する.一方,皮膚表面に存在する角質層は皮膚吸収過程におけるバリアー機能として働くことから,経皮吸収型製剤の開発には角質層のバリアーを克服し,皮膚透過を向上させる製剤工夫が必要である.過去数十年の研究では,物理的手法(マイクロニードル,エレクトロポレーション,イオントフォレシス,ソノフォレシス)やエタノール,l-メントール,オレイン酸などを始めとする吸収促進剤の添加,1そしてリポソームやデンドリマーなどのドラッグキャリアの利用が薬物の経皮吸収性向上に有用であることが報告されている.2また,近年では薬物ナノ粒子を含んだ経皮吸収型製剤において,ナノ粒子の特性(溶解速度の向上,静電気力による細胞間隙への高い付着性)に由来する薬物皮膚透過性の改善が報告され,薬物ナノ粒子を基盤とした経皮吸収型製剤の開発が注目されている.われわれもまた,ビーズミルを用いた湿式破砕法によりナノ粒子を調製し,ゲル製剤化することで,従来の剤形と比較して高い皮膚吸収能が得られることを見い出してきた.35このように,ナノ化技術(ナノテクノロジー)を基盤とした様々な経皮吸収型製剤が研究され,新しいドラッグデリバリー戦略としての実用化が期待されている.本稿では,これらナノ粒子化技術を核とした経皮吸収型製剤に関する知見として,薬物ナノ粒子含有経皮吸収型製剤の作製法について紹介するとともに,本製剤適用時の薬物皮膚透過メカニズムの解明,更に疾患モデル動物を用いた有用性評価について概説する.

2. 経皮吸収型製剤の薬物吸収過程とその課題

経皮吸収型製剤の適用部位である皮膚は,表面側から角質層,表皮,真皮,皮下組織に分けられる.また,皮膚表面には毛が生えており,毛嚢や汗腺などが存在している.皮膚を介した薬物吸収過程は,主に毛嚢や汗腺などを介する付属器官経路と角質細胞を通過する角層実質経路の2つが考えられる.付属器官経路は速やかな皮膚透過を示すものの,皮膚表面積に対する付属器官の割合が0.1%程度であるため,付属器官の皮膚透過における寄与は多くの場合において無視することができる.経皮吸収型製剤は,主に1)濃度勾配に従った,角質層への浸透,2)角質層→表皮→真皮を介した拡散,3)血液循環へ移行という過程で薬物吸収が進行する(Fig. 1).この過程において,薬物の角質層透過が薬物吸収の律速となることが知られている.皮膚の最外部に存在する角質層は,表皮細胞が脱核・角化した死細胞である角層細胞とその間隙を埋める細胞間脂質からなり,レンガ壁のような構造を有している.6厚さは10–30 µmと表皮(平均200 µm)や真皮(3–5 mm)と比較して薄いが,体内からの水の蒸散を抑制しつつ,外界の物質浸入を防ぐバリアーとしての役割を担っている.このバリアー機能が薬物吸収を制限し,経皮吸収型製剤のバイオアベイラビリティ(bioavailability: BA)低下に大きく関与している.

Fig. 1. Skin Absorption Process of Transdermal Formulations

3. 経皮吸収型製剤のバイオアベイラビリティ改善を目的とした製剤工夫

経皮吸収型製剤のBAを高めるためには,角質層のバリアーを克服し,皮膚透過性の向上を目的とした工夫が必要である.現在汎用される工夫として,1)物理学的手法,2)吸収促進剤の添加,3)ドラッグキャリアの利用が挙げられる.1)物理的手法には,マイクロニードル,エレクトロポレーション,イオントフォレシス,ソノフォレシスが知られており,皮膚透過性が極めて低い水溶性薬物や高分子薬物に応用可能であり,ほかの工夫と比較して経皮吸収改善効果が高いという利点を有している.しかし,電気や超音波などのエネルギーを利用する場合(エレクトロポレーション,イオントフォレシス,ソノフォレシス)は,そのエネルギーを発生する機器が必要となる.7 2)吸収促進剤は,薬物膜透過性を一時的に高める添加物であり,薬物の溶解性を高める(エタノール),細胞間隙を拡げて薬物の透過を促す(l-メントール),細胞膜の脂質部分及び膜タンパク部分の流動性を高め,薬物の拡散により透過を高める(オレイン酸),そして細胞間脂質を溶かして,透過性を高める(界面活性剤,dimethyl sulfoxide: DMSO)といったものがある.これらは軟膏剤や貼付剤を始めとする半固形製剤中に配合して用いるといった高い汎用性を示すものの,皮膚刺激性を示す成分が多いため,皮膚透過性改善効果と皮膚刺激性のバランスを鑑みて適用する必要がある.7また近年,リポソームやデンドリマーなどのドラッグキャリアを利用した皮膚透過性改善手法として,デンドリマー内部に薬物を封入させ,適用部分に超音波処理を行うことで皮膚透過性を高めた研究8や皮膚との親和性の高いリポソーム中に薬物を封入させ,ゲル化剤として適用することで皮膚透過性を高めた研究が報告されている.911これらは今後の発展が期待されるものの,外部エネルギーを必要とせず,非侵襲的かつ汎用性の高い新たな手法による皮膚透過性改善の実現が期待されている.

4. ナノ粒子の特性及び作製法

ナノ化技術(ナノテクノロジー)は,物質をナノスケールで制御する技術の総称である.ナノテクノロジーが注目される理由として,粒子サイズにより体内での薬物動態挙動が変化することが挙げられる.1214さらに,200–300 nm程度又はそれ以上の粒子サイズでは溶解度の改善は期待できないが,粒子径を100 nm以下にすることで薬物の溶解度改善が期待できる.また,ナノ粒子は細胞間隙に対し高い付着性を示し,薬物膜透過性や滞留性の亢進につながることから,ナノテクノロジーの特性を利用したドラッグデリバリーシステム(drug delivery system: DDS)製剤の開発が期待されている.薬物・医学領域におけるナノ粒子は,サブミクロン以下(<1 µm)のサイズにした粒子を指し,ナノ粒子の作製法としてビルドアップ法とブレイクダウン法の2つに分類される(Fig. 2).ビルドアップ法は,薬物を溶解した有機溶媒を水などの貧溶媒に添加することで粒子を得る貧溶媒(アンチソルベント)法や超臨界流体を用いた晶析法,噴霧凍結乾燥法などがあり,分子レベルからナノレベルに至るまで原薬を成長させる方法である.一方,ブレイクダウン法は,原薬をナノレベルまで粉砕する方法であり,ビーズミルや高圧ホモジナイザーなどを用いた破砕法である.通常,ビルドアップ法と比較しブレイクダウン法にて得られた粒子の方が安定性が高く(ビルドアップ法で作成された薬物粒子は時間とともに凝集し易い傾向にある),量産性に優れていることから難溶性薬物のナノ粒子化に用いられることが多い.

Fig. 2. Schematic Illustration of the Build-up and Break-down Methods for Preparing the Nanoparticles

筆者らは,ブレイクダウン法の1つであるビーズミルを用いた湿式破砕法による薬物ナノ粒子の作製を試みた.本法にて粒子径100–200 nmの薬物ナノ粒子を得るためには,どの添加物とともに破砕処理を行うかが重要であり,メチルセルロースなどのセルロース誘導体とシクロデキストリンの添加が特に重要であることが報告されている.15セルロース誘導体の添加は,ビーズと原薬との破砕効率を向上させる役割を担っており,添加することで平均粒子径60–200 nmの薬物ナノ粒子分散液の調製を可能としている.また,シクロデキストリンを添加することで,薬物粒子表面にシクロデキストリンが付着し,薬物ナノ粒子分散液の凝集を抑制することが可能である.

5. 薬物ナノ粒子含有経皮吸収型製剤の開発及び皮膚透過性改善機構

筆者らは,ビーズミルを用いた湿式破砕法により作製した薬物ナノ粒子分散液を用い,薬物ナノ粒子含有経皮吸収型製剤の開発を試みた.モデル薬物として,閉経後骨粗鬆治療薬であるラロキシフェン(raloxifene: Ral)を用いた.Ralは,難溶性薬物であり,肝初回通過効果の影響により経口投与におけるBAが約2%と低いため,経皮吸収型製剤として適用することでBA向上を目指した.ビーズミルを用いた湿式破砕法により粒子径約200 nmを示すRalナノ粒子の調製に成功し,ゲル化剤であるカルボポール934と混合することでRalナノ粒子含有経皮吸収型製剤(Ral-NPs)を作製した.さらに比較検討製剤として,Ralマイクロ粒子(粒子径約5–6 µm)含有経皮吸収型製剤(Ral-MPs),Ral-NPs及びRal-MPsに吸収促進剤であるl-メントールを添加したmRal-NPs, mRal-MPsについても作製した.

調製した各Ral製剤について,メンブランフィルターを用いたin vitro薬物放出性実験を行った結果,l-メントール添加による薬物放出挙動の変化は認められなかった.実験終了24時間後におけるRal濃度を比較すると,Ral-NPs, mRal-NPsはRal-MPs及びmRal-MPsと比較して約87.5倍高い薬物放出が確認された.また,放出されたRalはナノ粒子(平均粒子径 約200 nm)を維持した状態で放出されることが明らかとなった.5

さらに,ラット摘出皮膚をフランツセルに設置したex vitro皮膚透過実験にて,各Ral製剤の皮膚透過性について検討した結果,実験開始24時間後において,mRal-NPsはRal-MPs, mRal-MPs, Ral-NPsと比較し,著しく高い皮膚透過性が得られた.5この結果について,吸収促進剤であるl-メントールの寄与は大きいと考えられるものの,マイクロ粒子と比較してナノ粒子であることが皮膚透過性を改善していると考えられ,ナノ粒子の皮膚透過性改善機構について検討を行った.ナノ粒子が生体膜に付着した際にはエンドサイトーシスのようなエネルギー依存性の能動的取り込み機構が働くことが知られている.16,17エネルギー依存性エンドサイトーシスは通常生体内で働く取り込み機構であり,主にカベオラ依存性エンドサイトーシス,クラスリン依存性エンドサイトーシス,マクロピノサイトーシス,ファゴサイトーシスの4種類に分類される.18,19これまでの研究により,4つのエンドサイトーシスは粒子サイズが異なる物質の取り込みに関与することが知られている(カベオラ依存性エンドサイトーシス:80 nm以下の粒子,クラスリン依存性エンドサイトーシス:120 nm以下の粒子,マクロピノサイトーシス:0.1–5 µmの粒子,ファゴサイトーシス:0.5–10 µmの粒子).20そこで本研究では,各エンドサイトーシス阻害剤(カベオラ依存性エンドサイトーシス阻害剤:nystatin,クラスリン依存性エンドサイトーシス:dynasore,マクロピノサイトーシス阻害剤:rottlerin,ファゴサイトーシス阻害剤:cytochalasin D)をそれぞれ用い,21,22ナノ粒子の皮膚透過とエンドサイトーシスの関連性について検討を行った.その結果,mRal-NPsではrottlerin(マクロピノサイトーシス阻害剤)処理において,有意な薬物透過の低下が認められた(Fig. 3).

Fig. 3. Changes in the Areas under the Penetrated Raloxifene Concentration–time Curves (AUCpenetration) of 0.3% mRal-NPs through Endocytosis Inhibitor-treated Rat Skin

The data represent the mean ±S.E., n=5–8. * p<0.05 vs. Sham rats for each category (Dunnett’s multiple comparison).

したがって,吸収促進剤であるl-メントールの作用により細胞間隙が拡がり,この細胞間隙を通じて侵入したRalナノ粒子が表皮や表皮組織でエンドサイトーシスを誘発することが,mRal-NPsの皮膚透過向上に寄与しているものと示唆された(Fig. 4).

Fig. 4. Schematic Representation of Penetration Routes of Raloxifene Nanoparticles throughout the Skin

6. 疾患モデル動物を用いた薬物ナノ粒子含有経皮吸収型製剤の有用性評価

最も高い皮膚透過性を示したmRal-NPs適用時における薬効評価を,閉経後骨粗鬆モデル動物である卵巣摘出ラット[ovariectomized(OVX)ラット]を用いて評価を行った.5 OVXラットは,Shamラットと比較して体重,骨中カルシウム量,骨の硬さが低下することが知られており,これらを有効性の指標として用いた.その結果,mRal-NPsを適用することで体重,骨中カルシウム量,骨の硬さにおいて,Shamラットに近い数値まで回復することが示された(Fig. 5).以上の結果から,l-メントール配合Ralナノ粒子含有経皮吸収型製剤は,角質層のバリアーを克服し,皮膚透過性を高めることで,ラロキシフェンの新たな投与剤形としての提案が可能であることを示した.

Fig. 5. Change in Body Weight, Ca Content of the Bone, and Bone Stiffness in OVX Rats Treated with 0.3% mRal-NPs, Respectively

Body weight (A), Ca content of the bone (B), bone stiffness (C) in OVX rats 28 d after ovariectomy. The data represent the mean ±S.E., n=5–8. * p<0.05 vs. Sham rats for each category (Dunnett’s multiple comparison). ** p<0.05 vs. vehicle for each category (Dunnett’s multiple comparison).

7. おわりに

筆者らは,ビーズミルを用いた湿式破砕法と各種添加剤を組み合わせることで,粒子径100–200 nmを示す薬物ナノ粒子の調製に成功し,薬物ナノ粒子を含有する経皮吸収型製剤を開発した.さらに,開発した薬物ナノ粒子含有経皮吸収型製剤の適用により,薬物の皮膚透過性が改善され,疾患モデル動物において治療効果の向上が認められた.今回紹介した“ナノ化技術を基盤とした経皮吸収型製剤の開発”を始めとするDDS製剤の進歩が革新的な薬物治療の実現につながることを期待する.

謝辞

本研究は,近畿大学薬学部にて行われた研究であり,実験を行った共同研究者を始め研究室に在籍した方々に感謝いたします.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第143年会シンポジウムS42で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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