YAKUGAKU ZASSHI
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誌上シンポジウム
中分子化合物の溶解度及び人工膜・生細胞を用いた膜透過性評価
金光 佳世子 石井 真由美渡邊 恵里宮地 弘幸
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2024 年 144 巻 5 号 p. 529-537

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Summary

In contrast to small molecules, middle molecules present a promising therapeutic modality owing to their elevated specificity, minimal adverse effects, capacity to target protein–protein interactions, and, unlike antibody-based drugs, their suitability for oral administration and intracellular target engagement. Post-oral administration, the paramount considerations encompass solubility and membrane permeability during the initial phase until the drug attains systemic circulation. Furthermore, penetration of the cell membrane is essential to accessing intracellular targets. We evaluated the solubility and membrane permeability of 965 compounds sourced from middle molecule libraries affiliated with Hokkaido University, Kitasato University, and the University of Tokyo. To gauge membrane permeability, we employed both the parallel artificial membrane permeability assay (PAMPA) and Caco-2 cell monolayers. Notably, while membrane permeability in Caco-2 cells exhibited an approximate threefold increase in comparison to PAMPA measurements, certain compounds demonstrated permeability levels less than one-third of those observed in Caco-2 cells. Recognizing the potential involvement of efflux transporters expressed in Caco-2 cells in these variations, we conducted additional assessments involving directional transport in the presence of a transporter inhibitor. Our findings suggest that nearly 80% of these compounds serve as substrates for efflux transporters. Considering the relevance of intracellular targets, we shifted our focus from membrane permeation to intracellular uptake, conducting simulations tailored to assess cellular uptake.

1. はじめに

中分子化合物は,低分子化合物と異なり特異性の高さから副作用が少なくタンパク質間相互作用(protein–protein interaction: PPI)を目指すことができる,更に抗体医薬と異なり経口投与が可能で細胞内標的を指向できる,という点で期待されているモダリティーである.薬物は,経口投与後循環血中に到達するまでの初期段階では,溶解度・膜透過性が重要な因子となり,細胞内標的へ到達する際にも細胞膜を透過する必要がある.筆者はJapan Agency for Medical Research and Development(AMED)次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(革新的中分子創薬技術の開発)(以後中分子事業)において,前仲勝実教授(北海道大学)を研究代表者とする研究課題(以後前仲研究班)の研究分担者として当該事業に参画した.前仲研究班では,“立体構造を基盤とする中分子創薬の合理的設計”の研究課題のもと,中分子化合物の構造と物性の相関を解明し,中分子化合物の受動拡散を精密にシミュレーションできる解析ソフトを開発する研究目標の一環として,北海道大学・北里大学・東京大学から収集した中分子化合物ライブラリー計965化合物について溶解度・膜透過性の評価を実施した.その結果についてまとめ,更に消化管吸収と細胞への取り込みの違い,排泄トランスポーターの関与について考察した.

2. 評価化合物の特徴と溶解度

評価した化合物の内訳は,天然物1割,天然物誘導体(ペプチド・マクロライド・アルカロイド・ステロイド・ヌクレオシド等)7割,合成中分子化合物2割であった.Figure 1には各大学の中分子化合物ライブラリー数と分子量,cLogP(脂溶性の指標の一つである計算値),topological polar surface area(TPSA)(分子の極性表面積)の分布を示した.分子量が500未満を低分子化合物,500以上を中分子化合物と定義すると,低分子化合物では中分子化合物と比較してcLogP, TPSAともに低い値に分布している傾向があった.なお,評価した化合物の一部については既に報告しているが,1本誌上シンポジウム総説では未発表データも含めて報告する.

Fig. 1. Characteristics of the Compounds in the Middle Molecule Library Evaluated in This Study

Histograms displaying (A) molecular weight, (B) cLogP for compounds with molecular weights below 500, (C) cLogP for compounds with molecular weights exceeding 500, (D) TPSA for compounds with molecular weights below 500, (E) TPSA for compounds with molecular weights exceeding 500. White bars represent libraries at the Hokkaido University, black bars at the Kitasato University, and gray bars at the University of Tokyo.

溶解度は,消化管におけるpHに合わせ0.1 mol/Lリン酸緩衝液(pH 6.4)を用いて評価した.各大学のライブラリーに保管されている10 mM又は2 mMのdimethyl sulfoxide(DMSO)ストック溶液を1.2% DMSOになるように緩衝液で希釈し,37°C, 1000 rpmで4時間振とう後,96 well MultiScreen Filter Plate(MSHVN4510, 0.45 µm hydrophilic PVDF membrane, Millipore, Bedford)を用いて遠心した濾液をHPLC-UV又はLC-MS/MSで分析した.100 µM又は20 µMに調製した標準溶液よりも濾液のピーク面積の方が大きい場合,実際は>100 µM又は>20 µMとなるが,Fig. 2の縦軸にはそれぞれ100 µM又は20 µMにプロットしたため100及び20のプロット数が多くなっている.横軸を分子量とした場合,分子量と溶解度の分布に一定の傾向は認められず,幅広い溶解度特性を有する化合物群であることが確認できた.また横軸をcLogPとした場合,脂溶性が低い(cLogP<0)と溶解度の低い(<10 µM)化合物は少ない傾向にあるが,中分子化合物の場合は脂溶性の高い(cLogP>5)化合物でも溶解度の高い化合物が認められた.

Fig. 2. Solubility of the Compounds in the Middle Molecule Library

The correlation between solubility and (A) molecular weight, (B) cLogP for compounds with molecular weights below 500, and (C) cLogP for compounds with molecular weights exceeding 500 is depicted.

3. PAMPA及びCaco-2細胞による膜透過係数の評価結果

溶解度評価時の濾液のLC-MS/MSピーク面積及びS/N比が十分であると判断された化合物について,人工膜であるparallel artificial membrane permeability assay(PAMPA)プレートシステム(Corning Gentest社製)による膜透過性を評価した.消化管吸収を念頭に置き,pH 6.4のリン酸緩衝液に溶解させた化合物溶液(C0とする)をプレートの下側に入れてフィルターをセットし,上側にリン酸緩衝液(pH 7.4)を入れた.37°Cで4時間静置後,上側とC0のピーク面積から,膜透過係数(apparent permeability: Papp, ×10−6 cm/sで表示)を算出した.2 Pappの値が得られ,回収率が50%以上となった化合物についてはCaco-2細胞(ヒト結腸がん由来細胞)を用いた透過性評価を行った.Caco-2細胞(American Type Culture Collection)は24 wellのMillicell cell cultureinsert plates(フィルター面積0.7 cm2,#PSHT010R5及び#PSMW010R5,Millipore)を使用し,4.2×104 cells/wellの割合で播種後3週間培養し,吸収方向(アピカル側,上側→バソラテラル側,下側)の透過性を評価した.3 Caco-2細胞では,様々なトランスポーターが発現していることが報告されているが,4 PAMPAは人工膜であるため受動拡散を評価すると考えられているツールである.

Figure 3には低分子化合物(A, C),中分子化合物(B, D)それぞれについてPAMPA(A, B),Caco-2細胞(C, D)を用いたPappとcLogPとの関係を示した.一般に脂溶性と細胞膜透過性には相関があると考えられているが,今回評価した化合物群では低分子化合物,中分子化合物ともどちらの評価系でもcLogPとPappの相関係数R2は0.14以下と低く,顕著な相関は認められなかった.また,Caco-2細胞ではPappが0.01×10−6 cm/sよりも低い化合物は少なかった.これは,細胞間隙の影響が大きいためと考えられる.つまりPappの小さい化合物では,細胞膜を介した輸送よりも細胞間隙を通過する割合の方が高くなるため,得られたPappは細胞膜透過性を反映していないところに注意が必要である.Figures 3(E, F)には低分子化合物,中分子化合物それぞれについてPAMPAとCaco-2細胞のPappの関係性を示したが,Fig. 3(F)の破線で囲んだ部分に示すように,PAMPAのPappが0.01×10−6 cm/sよりも低い化合物では[PAMPAのPapp] : [Caco-2細胞のPapp]=1 : 1の線から大きく外れており,実際は透過性の低い化合物がCaco-2細胞では高めに出てしまう可能性があると考えられた.Caco-2細胞を用いた膜透過性評価の際,実験前に経上皮電気抵抗(trans-epithelial electrical resistance: TEER)を測定し,実験後には細胞間隙マーカーであるLucifer Yellowの透過を評価している.Lucifer YellowのPappは0.35±0.19×10−6 cm/sとSulfasalazineのPapp 0.035±0.017×10−6 cm/sよりも高い.また生細胞を扱っているためwell間でのばらつきがあることを考えると,Pappの小さいところで化合物間の比較をすることは難しく,第4章に記載するように本来の目的である消化管吸収の指標として,SulfasalazineのPappよりも小さいかどうかを評価するのに留めるべきであると考える.

Fig. 3. Membrane Permeability Coefficient of the Compounds in the Middle Molecule Library

The relationship between (A, B) Papp by PAMPA and cLogP, (C, D) Papp by Caco-2 cells and cLogP, and (E, F) Papp by PAMPA and Caco-2 cells in compounds with (A, C, E) molecular weights below 500 and (B, D, F) molecular weights exceeding 500 is illustrated. Solid lines in (E, F) denote a 1 : 1 Papp in PAMPA and Caco-2 cells, while dashed lines signify a 3 : 1 ratio. Transporter involvement for compounds encircled by the solid lines was examined in Fig. 7.

4. 膜透過係数の解釈と細胞内を標的とした場合の考え方

本章では,中分子化合物に限らず低分子化合物も含めた解釈について記載する.Figure 4にはPAMPA, Caco-2細胞それぞれのPappと,報告されているヒトにおける消化管吸収率2の関係(低分子化合物)を示した.標準物質のヒト消化管吸収率とCaco-2細胞のPappには相関があるが,Pappの絶対値は研究施設や条件などにより異なると言われている.5評価対象化合物を同一の方法で評価することが重要であると考え,本誌上シンポジウム総説にはすべて研究室・環境・方法・実施者を統一して評価した結果を示した.筆者の研究室では,PAMPA·Caco-2細胞のいずれを用いた場合においても,ヒトにおける消化管吸収率が95%と報告されているMetoprololよりも透過係数が高い場合,消化管吸収性に問題なし,吸収率が13%と報告されているSulfasalazineよりも低い場合は消化管吸収が期待できないと判断している.これまで筆者の研究室において7年にわたり60回程度PAMPAの評価を行った結果,MetoprololのPappは1.38±1.74×10−6 cm/sとなっているため,経口投与を考えた化合物の場合「1×10−6 cm/sあれば消化管吸収性に問題なし」と判断し,その旨を合成・薬理などを専門としている方々に伝えている.この「1×10−6 cm/s」が独り歩きしてしまい,「1×10−6 cm/sより低いと膜を通らない」と拡大解釈されることがあるが,全くの誤解である.「通らない」のではなく「通り難い」のであり,言い換えれば「時間をかければ透過する」.同様に,中分子事業では「消化管吸収が期待できないような低い透過性を示す化合物なのに細胞内で薬効を示すのはなぜか?」という疑問も,ほかの前仲研究班員からよく寄せられた.そこで,次に消化管吸収と細胞への取り込みの違いについて記載する.

Fig. 4. Relationship between Membrane Permeability Coefficient and Human Gastrointestinal Absorption Rate

The correlation between the human gastrointestinal absorption rate and (A) Papp in PAMPA and (B) Papp in Caco-2 cells is presented. (C) presents a combined graph of (A) and (B).

細胞に取り込まれる過程は細胞膜を1回透過するだけ[Fig. 5(A)の黒矢印]だが,消化管吸収の場合は細胞に取り込まれた後更に細胞から血管側に出ていく過程があるため,細胞膜を2回透過している[Fig. 5(A)の白矢印].どちらも「膜透過」と表現するため混同し易いが,異なる現象を見ていること,Caco-2細胞の透過性試験で得られるPappは後者であることに注意が必要である.

Fig. 5. Variations in Cell Membrane Permeation Processes between Cellular Uptake and Gastrointestinal Absorption

(A) Differences between intracellular uptake and gastrointestinal absorption during membrane permeabilization processes. (B) Relationship between the membrane permeability coefficient Papp and the single-cell membrane permeability coefficient P. The dashed line represents P : Papp=2 : 1. (C) Simulation of intracellular concentration profiles at each Papp after adding 10 µM of compound to cells. (D) The solid line represents the intracellular concentration of each Papp shown in Fig. 5(C) after 6 h, and the dashed line corresponds to the line in Fig. 4(A). Intracellular volume was computed using the reported value for A549 cells,6) and clearance was determined from the product of P and surface area, assuming the cells were spherical, to simulate intracellular concentration. Papp was further calculated based on the amount of compound that reached the acceptor side from the donor at 4 h assuming the cells were spherical and placed on a 0.3 cm2 filter.

この違いがどこに現れるのかを確認するため,細胞を1回透過する単細胞膜の透過係数をPとおいて細胞内への取り込みをシミュレーションし,更にその後反対側に透過,つまり2回単細胞膜を透過した場合の膜透過係数Pappを計算した[Fig. 5(B)].Pappの値が大きいところ(>0.5×10−6 cm/s)ではP : Papp=2 : 1となる,つまりPappは2回膜を透過するためPの2倍の時間がかかっていると考えられる.一方Pappの値が小さく(<0.05×10−6 cm/s)なるにつれて,Pappは2 : 1のラインから外れて小さくなっており,予想よりもPは大きくなる(例:Papp=0.005×10−6 cm/sの場合Pは0.01×10−6 cm/sではなく約0.03×10−6 cm/sとなる).このPappの値を使って細胞に10 µMの化合物を添加した後の細胞内濃度推移をシミュレーションした[Fig. 5(C)].Pappが高い場合には,添加直後に細胞内濃度も10 µMになるが,Pappが低いと細胞内濃度が細胞外の濃度と同じになるのに時間がかかることがわかる.言い換えると,Pappが低くても時間とともに徐々に細胞に取り込まれている.Figure 5(D)にはこのシミュレーションの結果と,Fig. 4(A)で示したヒトの消化管吸収率の曲線(破線)を合わせて示した.実線は10 µMの化合物を細胞に添加した6時間後の細胞内推定濃度を示している.消化管吸収を期待できない透過係数(0.0001×10−6 cm/s<Papp<0.01×10−6 cm/s)であっても,6時間後の細胞内濃度は3–9 µMになっていると予想された.

このことから,消化管吸収が期待できない程度の低いPappでも,時間をかければ細胞内に取り込まれる(例:Papp=0.005×10−6 cm/sでは6時間後に9 µM)と考えられ,「消化管吸収が期待できないような低い透過性化合物なのに細胞内で薬効を示すのはなぜか?」に対する答えとしては,なんらかの取込み機構がある可能性も否定できないが,「細胞を添加してから薬効評価を行うまでの間に細胞内に化合物が取り込まれ,薬効を発現する濃度に達したから」,という可能性もあると考えている.したがって,透過性が低いと予想される化合物の場合,細胞に暴露させる時間を長めにする,無細胞系で得られた薬効濃度よりも高くすることにより薬効を確認し易くなると考えられる.

細胞内の薬理活性評価を考えた場合,膜透過性を評価するよりも細胞にどの程度取り込まれているかを直接評価した方が解釈し易いが,後に述べるようにその評価は技術的に難しい.第3章でも述べたように,Caco-2細胞ではPappが0.01×10−6 cm/sよりも低い化合物の評価には向かないが,PAMPAであればPappの低い場合でもその値を参考にできるのかどうかについて検証を試みた.細胞内で代謝される低分子化合物Xの溶液(10 µM)を細胞(A549)に添加し,一定時間後の細胞内Xの代謝物濃度を測定した結果を実線で,化合物XのPAMPAによるPapp(0.006×10−6 cm/s)を用いてシミュレーションした細胞内濃度を破線でFig. 6(A)に示した.さらにPAMPAによるPappの異なる化合物を用いて,細胞(HepG2)に化合物溶液(各10 µM)を添加し,一定時間後の細胞懸濁液の濃度を測定した結果をFigs. 6(B–I)に示した.Pappが高いAntipyrine[Papp=17×10−6 cm/s, Fig. 6(I)]では,添加直後から細胞濃度が一定になっており,そのほかの化合物では,細胞の濃度が時間とともに上昇した後低下するものも認められたが,いずれの化合物も時間とともに細胞濃度が上昇する傾向にあった[Figs. 6(B–H)は細胞への取り込みを考え添加直後の細胞濃度を差し引いて,Fig. 6(I)は差し引かずに示している].細胞内への取り込みを直接評価するには

Fig. 6. Cellular Concentration Time Profiles of Compounds

(A) The concentration of compound X-metabolite in the suspension prepared by adding 10 µM of compound X to A529 cells and washing the cells after a certain time. The intracellular concentration was computed using the number of cells (5×106 cells) and the reported cell volume (2.4 pL/cell).6) The dashed line corresponds to the value of the simulation performed in Fig. 5(C). (B–I): The concentration of each compound in the suspension prepared by adding HepG2 cells with 10 µM of each compound solution (in pH 7.4 Krebs Henseleit buffer) and washing the cells after a certain time. Intracellular concentrations were calculated based on the protein concentration in the cell suspension (mg/mL) relative to the protein concentration per HepG2 cell number (2.8 mg/106 cells) and the reported cell volume (2.85 pL/cell).7) In (B–I), the Papp of PAMPA at pH 7.4 was assessed separately.

  • ①   細胞全体の濃度を測定しているため,細胞濃度の上昇が時間依存的な細胞表面への吸着である可能性を否定できない,
  • ②   細胞内容積は報告値6,7を用いたが,実際(接着時)の値と異なる可能性がある,
  • ③   細胞表面や細胞内のタンパク質などに特異的・非特異的に結合している可能性があり,[細胞内濃度]=[細胞外濃度]とならない可能性がある,
  • ④   細胞内で代謝される場合がある,
  • ⑤   トランスポーターの基質になっている可能性がある,

等様々な課題がある.実際Fig. 6(B)の検討では,計算で求めた細胞内濃度が細胞外濃度(10 µM)よりも高くなっており,シミュレーションの結果と直接比較することができず,Fig. 6(A)の結果はたまたま合っていた可能性も否定できない.今後細胞内で薬効を示す化合物を用いて時間依存的な薬効の推移などを評価できれば,この検証を行えるものと考えている.また,細胞内で薬効を示すには,安定性も重要な要因となるため,透過性だけではなく安定性の確認も必要である.

現時点では,細胞を用いた薬理活性評価の際にPAMPAのPappの値からFig. 5(C)の図を基に暴露時間や添加濃度を設定するところまで提案できないが,暴露時間・添加濃度・安定性を考慮に入れた計画立案をする際の参考にはなるのではないかと考えている.

5. 排泄トランスポーターの検討

Figure 4(C)に示すように,ヒトにおける消化管吸収率の報告がある低分子化合物を評価した際のPAMPAとCaco-2細胞の相関曲線を重ね合わせると,Caco-2細胞の方が右にシフトしており,Caco-2細胞の方がPAMPAよりも3–10倍程度膜透過係数が高い傾向にあった.一方Figs. 3(E, F)に示すように,Caco-2細胞とPAMPAの膜透過係数の関係をプロットした際,中にはCaco-2細胞のPappの方がPAMPAよりも低い化合物があった.第3章にも記載したように,PAMPAのPappは受動拡散を反映していると考えられ,Caco-2細胞ではトランスポーターの影響も加味した輸送を評価しているため,Caco-2細胞のPappがPAMPAのPappよりも低いのは,排泄トランスポーターの影響ではないかと考えた.そこで,[PAMPAのPapp]/[Caco-2細胞のPapp]の比が3以上となる化合物について,排泄トランスポーターの関与を考え追加検討を実施した.

Figure 7(A)には,トランスポーターの基質とならない低分子化合物の結果を示した.吸収方向(アピカル→バソラテラル,a→b)でも,逆の排泄方向(b→a)でも透過係数は同程度であり,その比となるEfflux ratio[(Papp, b→a)/(Papp, a→b)]はおおよそ1となった.一方Fig. 7(B)は排泄トランスポーターであるP糖タンパク質(P-glycoprotein: P-gp)の基質となる中分子化合物の結果であり,吸収方向に比べて排泄方向の透過性が高く,5以上あるEfflux ratioは阻害剤カクテル8の添加で半分以下又は1近くにまで低下している.この方法を用いて,先述した[PAMPAのPapp]/[Caco-2細胞のPapp]の比が3以上となる化合物について排泄トランスポーターの影響を評価した.FDAのガイダンスでは,Efflux ratioが2以上で,トランスポーターの阻害剤によりその値が50%以下又は1に近くなれば,排泄トランスポーター(P-gp)の基質であるとされている.9評価の結果,Efflux ratioが2以上で更にトランスポーターの阻害剤により50%以下となった化合物が中分子化合物では約8割あった[Figs. 7(C, D)].抗がん剤では多剤耐性を避けるためにP-gpやbreast cancer resistant protein(BCRP)の基質にならないことが望ましいと考えられており,非臨床試験ではトランスポーターに関する薬物間相互作用の評価も必要となるため,[PAMPAのPapp]/[Caco-2細胞のPapp]>3は一つの指標となる可能性があると考えられた.

Fig. 7. Evaluation of Transporters Using Caco-2 Cells

(A, B) Papp in apical to basolateral (a→b) and b→a directions were evaluated in Caco-2 cells at pH 7.4 in the presence (+) or absence (−) of the inhibitor cocktail [P-gp inhibitor: quinidine, 50 µM; BCRP inhibitor: sulfasalazine, 20 µM; Multidrug resistance-associated protein 2 (MRP2) inhibitor: benzbromarone, 30 µM].8) The efflux ratio was calculated as [Papp_b→a]/[Papp_a→b]. The vertical axis on the left shows Papp, and on the right shows the efflux ratio. (C) The compounds with [Papp_PAMPA]/[Papp_Caco-2]>3 in Figs. 3(E) and (F) were evaluated as in Figs. 7(A) and (B), and the efflux ratio against [Papp_PAMPA]/[Papp_Caco-2] was plotted. Plots with efflux ratios >2 are circled with a dashed line. (D) [Efflux ratio (+) inhibitor cocktail]/[Efflux ratio (−) inhibitor cocktail] against [Papp_PAMPA]/[Papp_Caco-2] is plotted. Efflux ratios below 50% due to inhibitors are circled by dashed lines. In C and D, open circles indicate compounds with molecular weights below 500, and closed circles indicate compounds with molecular weights exceeding 500. The dashed circles in C and D are suggested to be substrates for efflux transporter (P-gp) according to the FDA guidance.9)

6. おわりに

医薬品の開発を考えた場合,溶解度・膜透過性だけではなく安定性やトランスポーターの関与など様々な要因について検討する必要がある.将来的に,これらの様々な必要情報がデータベース化され,前仲研究班の研究目標であった中分子化合物の受動拡散を精密にシミュレーションできる解析ソフト開発・社会実装につなげられることを期待したい.

謝辞

本研究の一部は,AMEDの課題番号JP20ae0101047の支援を受けた.

化合物を提供して頂いた北海道大学大学院薬学研究院創薬科学研究教育センター並びに北里大学大村智記念研究所に感謝申し上げる.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第143年会シンポジウムS15で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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