YAKUGAKU ZASSHI
Online ISSN : 1347-5231
Print ISSN : 0031-6903
ISSN-L : 0031-6903
一般論文
病院実務実習前後に実施したアンケート調査による薬学生の治験及び臨床試験に対する理解の評価
白石 ちひろ小寺 真由美太田 康之武重 榮子南出 ちさと栗本 理恵佐藤 亜紀稲守 美保片岡 美沙紀小椋 透田丸 智巳岩本 卓也
著者情報
ジャーナル フリー HTML
電子付録

2024 年 144 巻 5 号 p. 567-576

詳細
Summary

A questionnaire survey was conducted to evaluate practical training and improve education on clinical trial and research. This survey was based on the results of questionnaire before and after the practical training undertaken by 240 pharmaceutical students (Kanto region; 1 university, Tokai region; 2 university, Kinki region; 9 university) at Mie University Hospital between 2011 and 2022. In the questionnaire before practical training, lectures in university (n=219, 91%) were the main source of information on clinical trials and research. Fifty-two students (22%) correctly answered the contents of phase 1–4 trials. As an occupation that can perform clinical research coordinator (CRC)’s work, only 7 students (3%) answered that “all medical and non-medical professionals” can perform the CRC’s duties. Regarding the understanding of terms related to clinical trials and research, more than 90% of the students understood the meaning of “subjects,” “informed consent,” and “placebo” even before practical training. Otherwise, even after practical training, students’ understanding of “reimbursement,” “follow-up period,” “audit,” or “direct access” was less than 80%. Practical training improved the understanding of terms such as clinical trial (Wilcoxon signed-rank test, p<0.001), clinical research phase 1–4 trials (Wilcoxon signed-rank test, p<0.001), interest in clinical trials and research (McNemar–Bowker test, p<0.001), and understanding of CRC’s work (McNemar–Bowker test, p<0.001). We will improve the content of practical training and bequeath the knowledge and importance of drug discovery and development to the next generation.

緒言

新しい薬剤や医療機器の開発においては,ヒトにおける有効性と安全性を確認する必要がある.Evidence-based medicine(EBM)を構築するためには,信頼できる臨床的根拠に基づいた治験及び臨床研究が必要である.1三重大学医学部附属病院(当院)の臨床研究開発センターは,2005年1月の設立より治験の適正かつ円滑な推進を図るとともに,臨床研究の科学性,倫理性及び信頼性を確保するために,医師主導型治験及び臨床研究の効率的かつ適正な実施に対する支援を行っている.なかでも,臨床研究コーディネーター(clinical research coordinator: CRC)は,医師と被験者及び治験依頼者の間に立ち,good clinical practice(GCP)に則った試験が円滑に実施されるよう支援している.

高度化及び複雑化した医療に貢献できる薬剤師を育成するため,2002年に日本薬学会から「薬学教育モデル・コアカリキュラム」が制定され,一般目標として「医薬品開発において治験がどのように行われるかを理解するために,治験に関する基本的知識とそれを実施するうえで求められる適切な態度を修得する」ことが示された.2薬学教育モデル・コアカリキュラムに基づいて2006年度入学生より6年制教育が開始され,2006年度入学生が5年生となった2010年度より従来の短期見学型から長期参加型の実習へと移行し,臨床知識の習得と臨床にかかる実践的な技能及び態度を有する人材の育成に重点をおいた教育が行われるようになった.薬学教育モデル・コアカリキュラム平成25年度改訂版では,「医薬品の開発から承認までのプロセスと法規範について概説できる」,「治験の意義と仕組みについて概説できる」,「医薬品等の製造販売及び製造に係る法規範について説明できる」,「製造販売後調査制度及び製造販売後安全対策について説明できる」,臨床実習において「治験実施計画書の事前審査を体験する」,「治験薬の処方監査・調剤・服薬指導を体験する」,「適正な治験の実施・管理を体験する」が到達目標として追記された.2薬学教育モデル・コアカリキュラムが制定されて約20年が経過しているが,薬学部において治験及び臨床研究に関する教育は重要視されておらず,卒業後に治験及び臨床研究業務に従事する機会を持った一部の薬学生を除き,一般に薬学生が生涯に治験及び臨床研究に関する知識を得る機会が少ない.

当院では,病院実務実習の一環として薬学生への治験教育を導入し,講義のみならず,接遇や同意説明,被験者対応,治験依頼者[開発業務受託機関(contract research organization: CRO)含む]の担当者との対応を見学し,医薬品開発業務に携わるCRCの職種を知る機会を提供している.これまでに薬学部4年制の薬学生を対象に効率的かつ有意義な治験にかかる実習体制の構築を目的とした研究はあるが,3薬学部6年制の薬学生を対象とした研究は少ない.4本研究の主目的は「大学教育のみでは治験及び臨床研究に関する習得が難しい知識を病院実務実習で習得することができたか」とし,薬学生へのアンケートから評価を行った.副次目的は「治験及び臨床研究に対する教育プログラムが良好な教育効果を与えることができたか」とし,実習コメントから評価を行うこととした.

方法

1. 調査期間及び対象者

2011年度から2022年度に当院にて実習を行った薬学部5年生(関東地方1大学,東海地方2大学,近畿地方9大学)240人を対象に,実習前後に治験(臨床研究)に関するアンケート調査を行った.

2. 実習内容及びスケジュールについて

  • ■   総実習時間:半日
  • ■   実習内容:

    • ・   実習開始前の質問票回答(約15分)
    • ・   臨床研究・治験の全般的講義(約45分):当センターCRC(薬剤師)
    • ・   治験薬管理の講義,治験薬調剤・搬入・回収等の実務見学(約45分):当センターCRC(薬剤師)
    • ・   医療者として必要な接遇研修(約30分):当センターCRC(看護師)
    • ・   CRC業務の見学(約60分):学生1–2人に対して,当センターCRC(看護師,検査技師,薬剤師)1人
    • ・   実習終了時の質問票回答(約15分)

  • ■   実習形式:治験及び臨床研究の全般的講義及び医療者として必要な接遇研修は座学で実施し,治験薬管理の講義,治験薬調剤・搬入・回収等及びCRC業務については見学で実施した.全般的講義及び接遇研修では説明資料を配布した.治験依頼者の機密情報の守秘義務を配慮したうえで実習を行った.
  • ■   実習生の人数:実習生の総数が5人以内であれば,1回に全員を受け入れ,6人以上であれば,2グループに分けて受け入れた.
  • ■   教育内容の変化:全般的講義の説明資料の充実化を行っているが,実習内容の見直しよりも,臨床研究法の発足や国際共同治験の増加による資料のアップデートが大半を占める.臨床研究・治験の全般的講義,治験薬管理の講義,治験薬調剤・搬入・回収等の実務見学,医療者として必要な接遇研修については12年間同じ当センターCRC(看護師,薬剤師)が継続して担当した.

3. アンケート

アンケート内容は,薬学生以外も対象に本実習を行っていたことから質問1では「職種」を尋ねた.大学教育のみでは治験及び臨床研究に関する習得が難しい知識を病院実務実習で習得することができたかを判断するために,質問2から質問6では「今までに治験及び臨床試験という言葉を聞いたことがあるか」,「治験及び臨床試験という言葉の情報源は何か」,「第1–4相試験の内容について」,「CRC業務を行うことが可能な職種」,「学生が理解しているCRCの業務内容について」を尋ねた.実習前後での治験に対するイメージの変化を評価するために,質問7では「自身が将来治験被験者として参加するか」を尋ねた.病院実務実習の一環としての薬学生への治験教育は,CRCの業務内容などに対する理解の向上に寄与しているかを評価するために,質問8では「CRCへの興味」を尋ねた.治験及び臨床研究に対する教育プログラムが良好な教育効果を与えることができたかを評価するために,質問9では「実習に関する希望及び意見」を尋ねた.アンケート調査の拒否の申し出があった学生は除外とした.アンケート内容については「 」を,回答については『 』を用いて示す.アンケート項目についてはFig. 1に示す.臨床試験の第1–4相試験の内容については,記述式の回答とし,各相について正しく記載されていれば1点を加算する方法で記載内容を点数化して理解度を評価した.点数化は,「ICH E8(R1)臨床試験の一般指針の改正」5に基づき,2人の研究分担者が別々に総点数4点として点数化を行った.点数が不一致の場合や判断に迷う際には更に別の研究分担者の評価を加え決定した.

Fig. 1. Questionnaire in Clinical Trials and Research

4. 統計解析方法

統計解析ソフトはJMP®, Version 16.1.0(SAS Institute Inc., Cary)を用いた.「今までに治験及び臨床試験という言葉を聞いたことがあるか」,「治験及び臨床試験という言葉の情報源は何か」,「CRC業務を行うことが可能な職種」,「学生が理解しているCRCの業務内容について」については例数と%で要約した.治験の情報源としてのマスメディアの割合の比較にはFisher’s exact testを用いた.医療現場で日常的に使用されている治験及び臨床研究に関連する言葉の理解度については「A. 聞いたことがあり意味も理解している」=2,「B. 聞いたことはあるが意味はわからない」=1,「C. 聞いたことがない」=0とコード化を行い,Wilcoxonの符号順位和検定を用いて実習前後の比較を行った.ただし,無回答はWilcoxonの符号順位和検定対象から除外した.第1–4相試験の理解度についてはクロス集計表を作成するとともに,Wilcoxonの符号順位和検定を用いて実習前後の比較を行った.「学生自身が将来治験被験者として治験に参加するか」,「CRCへの興味」についてはクロス集計表を作成するとともに,McNemar–Bowker検定を用いて実習前後の比較を行った.統計的仮説検定の有意水準は両側5%とした.

5. 倫理的配慮

当研究は「人を対象とする生命科学医学系研究に関する倫理指針」に基づき,三重大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号H2023-094).アンケートは実習前後に無記名で同じ内容について回答としたが,前後の回答が比較できるようアンケート用紙に番号を付与した.本研究で使用した回答は実習の評価には影響しない.本アンケートを実施するにあたり,実習前にCRCが口頭で目的を説明し,所定の場所に提出してもらい回収した.本研究ではオプトアウトを採用した.

結果

アンケートの回答者は240人で回収率は100%であった.

1. 実習前の結果

1-1.

「今までに治験及び臨床試験という言葉を聞いたことがあるか」という質問に対して,240人のうち,239人(100%)が聞いたことがあると回答した.

1-2.

「治験及び臨床試験という言葉の情報源は何か」という質問に対して,『授業等の講義』が219人(91%),『インターネット』が58人(24%),『テレビ・ラジオ』が58人(24%),『新聞・広告・雑誌』が38人(16%)と回答した(複数回答あり)(Fig. 2).

Fig. 2. The Source of Information on Clinical Trials and Research (Before Practical Training) (n=240)

Categorical data were summarized as numbers (%). Multiple answers were allowed.

1-3.

「CRC業務を行うことが可能な職種」を記載する質問では,『薬剤師』が167人(70%),『医師』が143人(60%),『看護師』が93人(39%),『検査技師』が38人(16%)であった.『誰でもなれる』と回答した学生は7人(3%)のみであった(複数回答あり)(Fig. 3).

Fig. 3. Results of Questionnaire about Occupations That Can Perform the CRC’s Work (Before Practical Training) (n=240)

Categorical data were summarized as numbers (%). Multiple answers were allowed. CRC: clinical research coordinator; CRO: contract research organization.

1-4.

「学生が理解しているCRCの業務内容について」の質問に対する記述式回答の結果,治験を円滑に行うサポートが47人(20%),治験の説明が40人(17%),治験薬管理が39人(16%),データ管理が37人(15%)とCRCの仕事に関する理解が得られていた.一方,治験計画書の作成が40人(17%),監査が6人(3%),統計解析が4人(2%)など,依頼者や臨床開発モニターの仕事も記載されていた(複数回答あり)(Table 1).

Table 1. Results of Free Answers about the CRC’s Work (Before Practical Training) (n=240)

n (%)
Support for smooth clinical trials47 (20)
Preparation of clinical trial protocola)40 (17)
Description of clinical trials40 (17)
Management of investigational products39 (16)
Data management37 (15)
Schedule adjustment29 (12)
Patient information monitoring25 (10)
Mediation between client and hospital23 (10)
Support of informed consent of the subject18 (8)
Mental and physical support for the subject18 (8)
Picking up candidate subjectb)12 (5)
Records of reports8 (3)
Audita)6 (3)
Confirmation of adverse drug reaction5 (2)
Preparation of materials necessary for clinical trials5 (2)
Statisticsa)4 (2)
Cooperation in monitoring and auditing3 (1)
Confirmation of protocol3 (1)
Operation of institutional review board2 (1)
Assessment of investigational productsa)2 (1)
Dosage adjustmenta)1 (0)
Request a clinical trial to a hospitala)1 (0)
Determination of attending physiciana)1 (0)
Determination of attending physiciana)1 (0)
Discussion of the results of each triala)1 (0)
Involved in clinical trials from pre-trial to completion1 (0)
Researchera)1 (0)
Unanswered40 (17)

a)Work for sponsor or contract research organization. b)Other. Categorical data were summarized as numbers (%). Multiple answers were allowed. CRC: clinical research coordinator.

2. 実習前後の結果

2-1.

「医療現場で日常的に使用されている治験及び臨床研究に関連する言葉の理解度」に対してTable 2に示した.実習前においても「被験者」,「インフォームドコンセント」,「プラセボ」の言葉の理解度は『聞いたことがあり意味も理解している』と回答した学生が9割を超えていた.その他の言葉については,実習後の理解度は実習前より有意に上昇したが(p<0.001),「負担軽減費」「追跡期間」「監査」「直接閲覧」においては実習後も『聞いたことがあり意味も理解している』と回答した学生は8割未満であった.

Table 2. Results of Questionnaire about Understanding (Before and after Practical Training) (n=240)

BeforeAfter
ABCUnansweredABCUnanswered
Reimbursement26 (11)108 (45)104 (43)2 (1)138 (58)15 (6)82 (34)5 (2)
Tracking period74 (31)131 (55)33 (14)2 (1)155 (65)78 (33)5 (2)2 (1)
Audit108 (45)120 (50)8 (3)4 (2)163 (68)66 (28)8 (3)3 (1)
Direct access12 (5)106 (44)120 (50)2 (1)182 (76)47 (20)8 (3)3 (1)
Withdrawal34 (14)124 (52)80 (33)2 (1)193 (80)41 (17)1 (0)5 (2)
Follow-up period82 (34)134 (56)22 (9)2 (1)199 (83)36 (15)3 (1)2 (1)
CRC121 (50)116 (48)0 (0)3 (1)202 (84)34 (14)2 (1)2 (1)
Causal relationship188 (78)46 (19)4 (2)2 (1)201 (84)33 (14)4 (2)2 (1)
GCP118 (49)115 (48)5 (2)2 (1)206 (86)32 (13)0 (0)2 (1)
Double blind trial174 (73)63 (26)1 (0)2 (1)210 (88)27 (11)0 (0)3 (1)
Primary endpoint58 (24)133 (55)45 (19)4 (2)212 (88)25 (10)1 (0)2 (1)
Contraindications for co-administration174 (73)63 (26)1 (0)2 (1)211 (88)24 (10)2 (1)3 (1)
Special or specified medical care coverage58 (24)133 (55)45 (19)4 (2)212 (88)23 (10)3 (1)2 (1)
Deviant76 (32)106 (44)56 (23)2 (1)212 (88)23 (10)3 (1)2 (1)
Inclusion criteria34 (14)131 (55)73 (30)2 (1)214 (89)22 (9)2 (1)2 (1)
Case report form111 (46)120 (50)7 (3)2 (1)214 (89)21 (9)3 (1)2 (1)
Monitoring148 (62)87 (36)2 (1)3 (1)220 (92)17 (7)1 (0)2 (1)
Placebo221 (92)16 (7)1 (0)2 (1)221 (92)17 (7)0 (0)2 (1)
Single-blind trial112 (47)99 (41)26 (11)3 (1)225 (94)13 (5)0 (0)2 (1)
Randomization107 (45)110 (46)21 (9)2 (1)225 (94)11 (5)1 (0)3 (1)
Essential documents23 (10)120 (50)94 (39)3 (1)226 (94)11 (5)0 (0)3 (1)
Informed consent form180 (75)50 (21)8 (3)2 (1)229 (95)9 (4)0 (0)2 (1)
Adverse event196 (82)40 (17)2 (1)2 (1)229 (95)9 (4)0 (0)2 (1)
Institutional review board110 (46)127 (53)0 (0)3 (1)229 (95)9 (4)0 (0)2 (1)
Informed consent228 (95)9 (4)0 (0)3 (1)230 (96)8 (3)0 (0)2 (1)
Sponsor149 (62)89 (37)0 (0)2 (1)230 (96)6 (3)0 (0)4 (2)
Subject226 (94)12 (5)0 (0)2 (1)230 (96)6 (3)0 (0)4 (2)
Declaration of Helsinki144 (60)89 (37)0 (0)7 (3)232 (97)4 (2)0 (0)4 (2)
Source documents15 (6)93 (39)129 (54)3 (1)233 (97)3 (1)0 (0)4 (2)
Restricted drug87 (36)109 (45)42 (18)2 (1)237 (99)0 (0)0 (0)3 (1)

A. I have heard and understand what it means, B. I have heard of it but I do not know what it means, C. I have never heard that word. Categorical data were summarized as numbers (%). CRC: clinical research coordinator; GCP: good clinical practice.

2-2.

第1–4相試験に対する理解度を評価した(Fig. 4).実習前より各相に関して正しく理解していた学生は,「第1相試験」が192人(80%),「第2相試験」が157人(65%),「第3相試験」が156人(65%),「第4相試験」が69人(29%)であった.「第1–4相試験」について正しく理解していた内容を各1点として加算し,点数化を行った結果,0点が36人(15%),1点が46人(19%),2点が48人(20%),3点が58人(24%),4点が52人(22%)であった.実習後の理解度において,「第1相試験」が223人(93%),「第2相試験」が221人(92%),「第3相試験」が221人(92%),「第4相試験」が214人(89%)であった.「第1–4相試験」について正しく理解していた内容を各1点として加算し,点数化を行った結果,0点が1人(0%),1点が0人(0%),2点が4人(2%),3点が21人(9%),4点が214人(89%)であった.実習前後を通して第1–4相試験に対する理解度は有意に上昇していた(p<0.001).

Fig. 4. Results of Questionnaire about the Understanding of Phase 1–4 Trials (Before and after Practical Training) (n=240)

Understanding of phase 1–4 trials was evaluated by scoring the written responses. One point was added for each phase if the description was accurate.

2-3.

「学生自身が将来治験被験者として治験に参加するか」という質問について実習前後で比較を行い(Fig. 5),その理由についてTables 3–5に示した.将来治験被験者として治験に参加する可能性について,実習前は『参加する』が49人(20%),『わからない』が152人(63%),『参加しない』が32人(13%),『無回答』が7人(3%)であった.実習後は,『参加する』が90人(38%),『わからない』が134人(56%),『参加しない』が11人(5%),『無回答』が5人(2%)であった.実習前後を通して治験及び臨床試験に『参加する』と回答した学生は有意に上昇していた(p<0.001).実習前に『参加しない』と回答した32人のうち,実習後に10人(31%)が『参加する』,実習前に『わからない』と回答した152人のうち,実習後に33人(22%)が『参加する』と回答した.

Fig. 5. Comparing the Students’ Willingness to Participate in Clinical Trials as Research Subjects (Before and after Practical Training) (n=240)
Table 3. Reasons for Choosing “Participate in Clinical Trials” as a Free Answer (Before and after Practical Training)

Before
n=49
After
n=90
I would like to contribute to the development of medical care24 (49)27 (30)
I would like to experience the clinical trial8 (16)3 (3)
Because I can receive the new drugs5 (10)12 (13)
Depending on the state of illness6 (12)6 (7)
Because I get money5 (10)4 (4)
Because I have no reason to refuse1 (2)0 (0)
Because I can undergo inspection1 (2)0 (0)
Depends on clinical trial content0 (0)9 (10)
Because I understood the clinical trial well0 (0)29 (32)
Unanswered2 (4)5 (6)

Categorical data were summarized as numbers (%). Multiple answers were allowed.

Table 4. Reasons for Choosing “Unwilling to Participate in Clinical Trials” as Free Answer (Before and after Practical Training)

Before
n=32
After
n=11
Scared15 (47)2 (18)
Anxiety8 (25)7 (64)
Depending on the state of illness3 (9)0 (0)
Due to allergy-prone constitution2 (6)1 (9)
Due to drinking a lot of alcohol1 (3)0 (0)
I do not like to take medicine1 (3)0 (0)
Because I do not know the clinical trial well1 (3)0 (0)
I will do the clinical trial when I have time1 (3)1 (9)

Categorical data were summarized as numbers (%). Multiple answers were allowed.

Table 5. Reasons for Choosing “Unknown to Participate in Clinical Trials” as Free Answer (Before and after Practical Training)

Before
n=152
After
n=134
Depends on clinical trial content42 (28)49 (37)
Anxiety27 (18)18 (13)
Depending on the state of illness25 (16)24 (18)
Because I do not know the clinical trial well14 (9)0 (0)
I would like to contribute to the development of medical care12 (8)5 (4)
I do not know how safe it is7 (5)0 (0)
Scared5 (3)0 (0)
I will do the clinical trial when I have time5 (3)5 (4)
Because I can receive the new drugs3 (2)0 (0)
Depending on the amount2 (1)3 (2)
Because I understood the clinical trial well0 (0)6 (4)
I will participate if I have a trusted doctor or CRC0 (0)1 (1)
Due to allergy-prone constitution0 (0)1 (1)
Unanswered29 (19)22 (16)

Categorical data were summarized as numbers (%). Multiple answers were allowed. CRC: clinical research coordinator.

実習後に『参加する』と回答した理由として,『実習を通して治験及び臨床試験についてよく理解できたから』が29人(32%),『医療の発展に貢献したい』が27人(30%)であった.一方,『参加しない』と回答した理由として,『不安が7人(64%),『怖い』が2人(18%)であった.『わからない』と回答した理由として,『治験内容による』が49人(37%),『病気の状態による』が24人(18%),『不安』が18人(13%)であった.実習前後で『怖い』及び『よくわかっていないから』と回答した割合は有意に低下していた[実習前vs.実習後:『怖い』,20人(8%)vs. 2人(1%),p<0.001;『よくわかっていないから』,15人(6%)vs. 0人(0%),p<0.001].

2-4.

「CRCへの興味」に関する質問について,実習前後で比較を行った(Fig. 6).CRCへの興味について,実習前は『興味あり』が64人(27%),『どちらともいえない』が142人(59%),『興味なし』が26人(11%),『無回答』が8人(3%)であった.実習後は『興味あり』が138人(58%),『どちらともいえない』が82人(34%),『興味なし』が15人(6%),『無回答』が5人(2%)であった.実習前後を通してCRCに『興味がある』と回答した学生は有意に上昇していた(p<0.001).実習前に『どちらともいえない』と回答した142人のうち,実習後に71人(50%)が『興味あり』と回答した.

Fig. 6. Comparing the Students’ Interest in the CRC’s Work (Before and after Practical Training) (n=240)

CRC: clinical research coordinator.

3. 実習後の結果

3-1.

実習後に行ったアンケート結果における「CRCへの興味」について,『興味あり』,『どちらともいえない』及び『興味なし』の回答毎に「実習に関する希望及び意見」をTable 6に示した.『現場をみることができ理解を深めることができた』,『将来について考えるきっかけとなった』という前向きな意見のほか,『もう少し実習時間が長いとうれしい』,『実際に病棟での患者への治験の説明をみたかった』,『治験参加者に服薬指導をする機会がほしい』,『一度,CRCの業務を体験してみたい』などの実際の経験を求める意見があがった.

Table 6. Free Answers of Hopes and Comments Regarding Practical Training Categorized by Interest in the CRC’s Work in the Post-practical Training (After Practical Training)

Yes n=138Unknown n=82No n=15Unanswered n=5
I gained a deeper understanding by seeing the actual job firsthand31 (22)1 (1)2 (13)0 (0)
I became interested in the CRC’s work13 (9)0 (0)0 (0)0 (0)
It was informative and easy to understand4 (3)5 (6)1 (7)0 (0)
It provided an opportunity for me to think about my future career4 (3)0 (0)0 (0)0 (0)
I interacted with subjects and professionals from various fields even before the clinical trial, and I realized that it is a profound job2 (1)2 (2)0 (0)0 (0)
It would be better if the practical training hours were a bit longer2 (1)1 (1)0 (0)0 (0)
I felt the need for English1 (1)0 (0)0 (0)0 (0)
The lecture on hospitality was unexpected but informative1 (1)0 (0)0 (0)0 (0)
I would like to participate in a clinical trial if the opportunity arises1 (1)0 (0)0 (0)0 (0)
I realized the need for knowledge and consideration0 (0)0 (0)1 (7)0 (0)
I understood the adequate support, which has changed my awareness of clinical trials0 (0)3 (4)1 (7)0 (0)
I thought it was unique, different from the typical image of pharmacists, with a focus on research0 (0)1 (1)0 (0)0 (0)
I want to experience CRC work such as medication counseling for subjects0 (0)2 (2)0 (0)0 (0)
Unanswered79 (57)67 (82)10 (67)5 (100)

Categorical data were summarized as numbers (%). CRC: clinical research coordinator.

考察

治験及び臨床試験の言葉の情報源として,『授業等の講義』が219人(91%)に加え,『インターネット』『テレビ・ラジオ』『新聞・広告・雑誌』などのマスメディアの割合もそれぞれ約20%の回答が得られた.2005年に4年制の薬学生を対象として行われた調査研究3では,インターネット及び雑誌を介して治験及び臨床研究という言葉を聞いたことがある学生は163人の内,各1人(1%)であった.2017年頃から『インターネット』,『テレビ・ラジオ』の回答の割合が増加していた[2011年から2016年vs. 2017年から2022年:インターネット,20/120人(17%)vs. 38/120人(32%),p=0.010;テレビ・ラジオ,21/120人(18%)vs. 37/120人(31%),p=0.023](Supplementary Fig. 1).わが国では,行政機関が2003年に「全国治験活性化3ヵ年計画」を,2007年に「新たな治験活性化5ヵ年計画」を,2012年3月に「臨床研究・治験活性化5か年計画2012」をまとめ,治験及び臨床研究の普及啓発が図られてきた.これらの活動が治験及び臨床研究の認知度の増大につながった可能性が考えられる.6一方,本研究は6年制の学生のみを対象としているが,4年制の学生を対象とした既報3の報告と同様,学生の治験及び臨床研究に関する理解はかならずしも十分とはいえなかった.大学の講義を通して習得した基本事項に対するイメージと医療機関で行われる実際の業務とが一致していないことが考えられた.大学での講義内容やテキストでは治験の制度に関する内容が網羅されているにもかかわらず,実習前の学生の治験に対する知識や理解度,関心度は低かった.なお,モデル・コアカリキュラムの改訂の影響があるかどうかを評価するために,医療現場で日常的に使用されている治験及び臨床研究に関連する言葉の理解度が年によって異なるかを確認したが,大学での講義内容が本調査に与える影響は低いと考えられた(データ未記載).実習前後で治験やCRCに対する印象が有意に向上していたことから,治験実務実習は,治験の位置づけやCRCの職能を学ぶ重要な役割を担っていると考えられた.

今回の調査から,大学の講義で習得した治験に対する理解度には個々の学生で差があり,全体の傾向として治験業務を系統立てて理解していないことも判明した.治験施設支援機関や医薬品開発業務受託機関とCRCの係わりや仕事内容の違い,学生が理解し難いと感じている「負担軽減費」,「追跡期間」,「監査や直接閲覧」などの言葉説明をより丁寧に行い,学んだ知識を深い理解に導くことが効率的かつ有意義な実習を提供するために重要であると考えられた.実習前の第1–4相試験についての回答では,非臨床試験,臨床試験,製造販売後調査の違いが混在している回答,及び第1–4相の目的の違いを理解していない回答が多くみられた.実習後は第1–4相の理解度が有意に上昇しており,実習が治験及び臨床研究の理解の向上に寄与したと考えられた.令和5年3月に,文部科学省薬学系人材養成の在り方に関する検討会から薬学教育モデル・コアカリキュラム令和4年度改訂版が公表された.令和4年度改訂版では,「医療や研究における患者及び研究対象者の自律尊重」,「医薬品開発を取り巻く国内外の動向を知り,医薬品の開発が世界レベルで進められており,国際的な状況が日本の医療に直接影響することを説明する」が項目として新たに追加されている.2今後はこれらの項目も病院実務実習の内容に組み入れていく必要がある.

日本では2002年に日本薬学会から「薬学教育モデル・コアカリキュラム」が制定されているが,欧州諸国には日本のモデル・コアカリキュラムに相当するものがなく,各大学薬学部は,薬学教育の認証評価機関が定めた評価基準等に沿って教育プログラムを作成している.日本と同様に6年一貫教育課程を提供している米国のラトガーズ大学を例にあげると,研究に関する教育は,日本のように教員の研究プロジェクトに参加するやり方は選択科目として設定されていて,優秀な学生は履修できるが,一般的ではない.必修科目としては,principles of pharmaceutical researchといった研究の進め方,文献の調査や評価方法などを享受する科目はある.7米国におけるレジデントプログラムは,薬学部を卒業し,薬剤師資格取得後の卒後教育として2年間で構成されており,1年目のレジデンシーはジェネラリストとしての臨床薬剤師の養成を目的としている.1ローテーションあたり6週間で構成されており,選択ローテーションの1つに「治験」が含まれている.8オランダではCRCのほとんどが看護師であり,薬剤師は医師と同じ「アカデミア」という認識がありCRCになることはほとんどないなど,国際間でのCRCの職種の位置づけは異なる(池原ほか,2016年度日本臨床薬学会CRC海外研修報告書—オランダにおける臨床試験の実際).9わが国においては,認定CRCの資格取得者の医療資格のうち,薬剤師は32%を占めている.10薬剤師が治験及び臨床研究業務に関与する意義として,治験薬の薬物動態,薬理作用,副作用の知識を持ち合わせており,新規薬開発の意義が薬理学的な側面からも理解できていることなどが挙げられる.11数多くの新規医薬品を直接手に取る薬剤師にとって,医薬品に情報が付加される治験及び臨床研究のステップ及びそれに携わる様々な職種の役割を理解することは重要な意味がある.また,創薬及び育薬の過程や被験者保護の倫理を理解しておくことは,エビデンスに基づく医療の提供及び研究倫理を理解したうえでの研究実施に重要である.

有田ら12が薬学部4年次生を対象に行った治験関連の教育内容についての調査では,「より臨床現場に近いところで具体的なことを学ぶ体験型学習への要望が高いこと」が示されており,「より実践的な教育プログラムを構築する必要があること」が提言している.大学の講義に加え,患者との係わりや研修経験がある学生については,治験及び臨床研究に関する興味や関心が高かった[治験及び臨床研究に関する興味や関心:「実習前に治験及び臨床試験に参加している患者さまに係わった若しくは研修(院内・院外)の経験」において『あり』が25/31(81%)vs.『なし』が39/209(19%),p<0.001](Supplementary Fig. 2).一方,実習後においてもCRCに『興味なし』と回答した学生が15/240人(6%),『わからない』と回答した学生が82/240人(34%)であった(Fig. 6).実習後のコメントには「CRC業務の体験」や「実習時間の延長」を望む要望も挙がっており実習時間内での説明が不足していた可能性も考えられる.限られた実習期間を通して創薬や育薬の知識や重要性を次世代につなげていくためには,学生の能力や適性,学修現場の環境に合わせた適切な方略を大学と医療機関が連携して準備し実施することが重要と考えられる.また,令和5年度6年生薬学生の卒業後就職状況の1例として,保険薬局29%,ドラックストアの調剤部門20%,病院薬剤部6%,試験・研究機関0.1%,行政1%,企業(医薬品開発企業)2%であり,13卒業後の就職先として医薬品開発に携わる職種への希望は残念ながら少ない.当院の実務実習を通じてCRCへの興味は上がっており(Table 6),こうした取り組みにより薬剤師CRCが増えることを期待する.

本研究の限界点として以下の点が挙げられる.無記名のアンケートのため回答者の大学名はわからず大学間の比較は実施できなかった.各大学での教育状況,大学と医療機関の連携状況,実習内容,実習期間の違いによる影響については今後の検討課題である.また,医薬品開発に係わる職種に関する業界研究の進捗状況や治験及び臨床研究への就職を視野にいれているか否かで,実習に取り組む姿勢及び理解度に違いが出ることが考えられるため,今後更に検討する必要がある.さらに,回答者が正確に回答するかどうかによって結果が大きく異なる可能性は否定できない.

病院実務実習の一環としての薬学生への治験教育は,治験及び臨床研究に係わる言葉やCRCの業務内容などに対する理解の向上に寄与したと考えられた.本研究結果を鑑み,更なる実習内容の充実を図り,創薬や育薬の知識や重要性を次世代につなげていきたい.

謝辞

三重大学医学部附属病院での薬学生の病院実務実習にご協力くださった皆様に感謝申し上げます.また本研究に協力頂いた学生の皆様に御礼申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Supplementary materials

この論文のオンラインにSupplementary materials(電子付録)を含んでいる.

REFERENCES
 
© 2024 公益社団法人日本薬学会
feedback
Top