YAKUGAKU ZASSHI
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総説
抗腫瘍性環状ペプチドRA-VIIのアナログ合成と構造–活性相関研究
一栁 幸生
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2024 年 144 巻 5 号 p. 553-565

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Summary

A series of antitumor bicyclic hexapeptide RA-VII analogues modified at residue 2, 3, or 6 were prepared by the chemical transformation of the hydroxy, methoxy, or carboxy groups or the aromatic rings of natural peptides RA-II, III, V, VII, and X. Analogues with modified side chains or peptide backbones, which cannot be prepared by the chemical transformation of their natural peptides, and newly isolated peptides from Rubia cordifolia roots were synthesized by using protected cycloisodityrosines prepared by the degradation of bis(thioamide) obtained from RA-VII or the diphenyl ether formation of boronodipeptide under the modified Chan–Lam coupling reaction conditions. Studies of the conformational features of the analogues and the newly isolated peptides and their relationships with cytotoxic activities against the HCT-116, HL-60, KATO-III, KB, L1210, MCF-7, and P-388 cell lines revealed the following: the methoxy group at residue 3 is essential for the potent cytotoxic activity; the methyl group at Ala-2 and Ala-4 but not at D-Ala-1 is required to establish the bioactive conformation; the N-methyl group at Tyr-5 is necessary for the peptides to adopt the active conformation preferentially; and the orientation of Tyr-5 and/or Tyr-6 phenyl rings has a significant effect on the cytotoxic activity.

1. はじめに

RA-VII(1)は,糸川らが植物抽出エキスの抗腫瘍活性スクリーニングにより発見した環状ペプチド化合物である.アカネ科植物アカネRubia argyi(H. Lév. & Vaniot)H. Hara ex Lauener & D.K. FergusonやRubia cordifolia L.の根(茜草根)よりRA-I(2)–RA-III(4), RA-X(5)を含む三十余種のRA系化合物が単離されている.13また,同科植物のBouvardia ternifolia(Cav.)Schltdl.からも類縁体のbouvardin(NSC 259968)(6), deoxybouvardin(RA-V)(7)が単離されている(Fig. 1).4 RA-VII(1)は2分子のL-アラニン,1分子のD-アラニン,1分子のN,O-ジメチル-L-チロシンと,N-メチル-L-チロシル-N,O-ジメチル-L-チロシンのC末端側チロシンのε位炭素原子とN末端側チロシンのヒドロキシ基の酸素原子がエーテル結合した,特異な14員環構造を持つシクロイソジチロシンにより構成されている.RA-VII(1)は種々の腫瘍細胞株に対して強い細胞毒性を示す(Table 1).1は80Sリボソームに作用し,タンパク質の合成を阻害することにより抗腫瘍活性を示すと考えられている.5,6また,1は真核生物翻訳伸長因子2(eukaryotic translation elongation factor 2: eEF2)を阻害することや,7 F型アクチンのコンホメーションを変化させ,細胞周期をG2期で停止させることが明らかとなっている.8 RA系化合物のうち,RA-VII(1)については,わが国において制がん剤としての第1相臨床試験が行われている.9,10ここでは筆者らが実施したRA-VIIアナログのデザインと合成による構造–活性相関研究,及び新たに単離した類縁化合物の構造証明について概説する.

Fig. 1. Structures of RAs and Bouvardins
Table 1. Cytotoxic Activities of RA-VII (1) against Various Cell Lines

Cell lineIC50 (nM)
L1210 (murine leukemia)1.6
P-388 (murine leukemia)1.7
ACHN (human renal cell carcinoma)3.4
HCT-116 (human colonic carcinoma)4.3
HL-60 (human promyelocytic leukemia)3.2
KATO-III (human gastric carcinoma)3.8
KB (human epidermoid carcinoma of nasopharynx)3.0
MCF-7 (human mammary carcinoma)16

2. 天然由来RA系ペプチドのアミノ酸側鎖を用いた化学修飾

筆者らはまず茜草根より得られたRA系ペプチドの化学修飾による誘導体化を検討した.RA-VII(1)ではペプチド側鎖に修飾可能な官能基を持つチロシン残基3及び6について,RA-III(4), RA-X(5)では残基2側鎖について実施した.

2-1. 芳香環の置換基

アミノ酸の側鎖構造のうち,チロシン残基のζ位置換基の修飾を行った.RA-VII(1), RA-II(3)及びdeoxybouvardin(RA-V)(7)を用い,チロシン残基3(Tyr-3)及び6(Tyr-6)のメトキシ基を水素原子やヒドロキシ基で置換したアナログ813を合成した.Tyr-3のメトキシ基を水素原子で置換した化合物は,マウス白血病細胞株P-388に対する細胞毒性のIC50値(モル濃度)が1の1/25(9)–1/310(8)であり,ヒドロキシ基で置換すると1/7900(12)–1/8100(11)以下に低下した(Fig. 2).一方,1のTyr-6のメトキシ基を水素原子(13, 1/20)やヒドロキシ基(7, 1/2.1)で置換した化合物ではTyr-3の置換体ほどの毒性の低下は認められなかった.11また,1のTyr-3のメトキシ基をメチル基(14, 1/14),エチル基(15, 1/5.5),プロピル基(16, 1/15)で置換したものは10よりも細胞毒性が強いことから,Tyr-3のζ位置換基は活性発現に関与することが示唆された.12ウサギを用いた代謝研究では,RA-VII(1)よりTyr-3及びTyr-6のメトキシ基が脱O-メチル化されたRA-II(3)及びdeoxybouvardin(7)が生成する.13代謝に対する安定性を高める目的で,これらのメトキシ基をジフルオロメトキシ基又はフルオロメトキシ基で置換したアナログ1722を合成した.1のTyr-3残基のメトキシ基をジフルオロメトキシ基(17)又はフルオロメトキシ基(18)で置換すると,ヒト前骨髄性白血病細胞株HL-60に対する細胞毒性はそれぞれ1の1/24及び1/21に低下した.一方,Tyr-6残基のメトキシ基を同様に置換した19及び20では,それぞれ1の1/2.1及び1/1.4の細胞毒性を維持していた.また,Tyr-3とTyr-6両方のメトキシ基を置換した21及び22では,それぞれ1の1/10及び1/12の活性に減弱したことから,RA系化合物ではTyr-3残基のメトキシ基は修飾せず保持することが好ましいと考えられた.14

Fig. 2. Structures of RA-VII Analogues Modified at Residues 3 and/or 6 and Their Cytotoxic Activities against the P-388 Cell Line (Shown in Parentheses), the HL-60 Cell Line (Brackets), and the L1210 Cell Line (Curly Bracket) Relative to 1

新たにR. cordifoliaから単離したRA-XVIII(23)は1のTyr-6残基のεa位にヒドロキシ基を持ち,P-388細胞株に対し,1の1/3.9の細胞毒性を示した.一方,ヒドロキシ基をδa位に持つ24の活性は1の1/30であった(Fig. 2).ヒドロキシ基以外にニトロ基やアミノ基を導入した化合物の場合もδa位を置換したアナログの細胞毒性は,εa位を置換したものに比べてそれぞれ1/5.6, 1/99に低下したことから,Tyr-6残基のδa位への置換基の導入はεa位の場合に比べて大きく活性が低下することが示された.15

RA-VII(1)は,水に対する溶解度が低いことが製剤設計をするうえで制約となる.1のTyr-6のζ位メトキシ基の修飾は細胞毒性への影響は小さいと考えられたことから,この部位に酸と塩を形成して水溶性を改善できる種々の2-(ジアルキルアミノ)エチル基を導入した.それらのうち,2-(ジイソプロピルアミノ)エチル体25はマウス白血病細胞株L1210及びヒト胃がん細胞株KATO-IIIに対してそれぞれ1の1/3.2及び2.2倍の細胞毒性を示し,in vivo実験(P-388, i.p., days 1–5)では1[increased life span: ILS=63%, Eq.(1)]よりも高い延命率(ILS=70%)を示した(Fig. 2).16

  
(1)

2-2. 残基2側鎖を修飾したアナログ

RA-VIIの残基2のL-アラニン(Ala-2)がL-セリンあるいはL-グルタミン酸で置換したRA-III(4)及びRA-X(5)のヒドロキシ基やカルボキシ基を足掛かりに,アナログ2641を合成した(Fig. 3).17,18末端に類似の官能基を持つ側鎖構造の化合物についてP-388細胞に対する細胞毒性の強度を比較すると,ヒドロキシ体では4>33>34>35,末端ビニル基を持つものでは36>37,アルキル基の場合は1>38の順になることから,アルキル側鎖の伸長に従い活性が低下することが示された.RA-VII(1)は残基3, 5, 6にN-メチルアミノ酸を持つため,溶液中では残基3(Tyr-3)及び5(Tyr-5)の窒素原子が作る第三級アミド結合のシス/トランス異性による2–3種類の配座異性体の混合物として存在する.NMRスペクトルにおいてAla-2/Tyr-3,Ala-4/Tyr-5,及びTyr-5/Tyr-6間の第三級アミド結合がそれぞれトランス,トランス,シス配置のA配座と,シス,トランス,シス配置のB配座が各種重水素化溶媒中で常に観測され,重DMSO中ではこれらの第三級アミド結合がいずれもシス配置をとるC配座も観測される(Fig. 4).1921 A–C配座のうち,A配座の存在比が最も高い.一方,残基2にL-プロリンやL-ピぺコリン酸を持つ40及び41は,残基2と3がトランスアミド結合したA配座のシグナルだけが観測された.401に比べて細胞毒性は1/58に低下したものの優位に強い活性(IC50, 0.099 µM)を持ち,in vivo実験においても延命効果(ILS=32%; active, ≥25%)を示したことから,A配座の構造は活性発現に関与すると考えられた.18

Fig. 3. Structures of RA-VII Analogues Modified at Residue 2 and Their Cytotoxic Activities against the P-388 Cell Line Relative to 1 (Shown in Parentheses)
Fig. 4. Conformer Population and Key Sequential NOE Correlations (Arrows) Observed in 1 in Solution

2-3. RA-IIIの骨格変換

セリン残基を持つ鎖状ペプチドを酸処理すると,セリンのアミノ基に結合したペプチド鎖がセリンの側鎖ヒドロキシ基へ容易にNO-アシル転位するが,残基2にL-セリンを持つRA-III(4)ではNO-アシル転位が進行し難い.これは環状ペプチド構造により配座構造の自由度が制限され,ヒドロキシ基によるN末端側結合残基のカルボニル炭素への攻撃を妨げるためと考えられた.4をトリフェニルホスフィンとアゾジカルボン酸ジエチルを用いる光延反応の条件で処理したところ収率良く脱水反応が進行し,オキサゾリン体42が得られた.42をトリフルオロ酢酸処理すると容易にオキサゾリン環が開裂し,NO-アシル転位体43に変換できた(Fig. 5).22 43のP-388及びヒト扁平上皮がんKB細胞に対する細胞毒性はそれぞれ1の1/14及び1/12であったが,P-388担がんマウスを用いたin vivo実験では1より良好な延命率(ILS=76%)を示した.一方,43をアセタミドとしたのち,アンモノリシスして得られるセコ体44は細胞毒性を示さないことから,18若しくは19員マクロ環構造が活性発現に重要であることが示唆された.

Fig. 5. Structures of 4247 and Their Cytotoxic Activities against the P-388 Cell Line Relative to 1 (Shown in Parentheses)

3. RA-VIIのペプチド骨格と残基1–4の修飾

RA-VII(1)の6ヵ所のアミド結合は,試薬に対する反応性がそれぞれ大きく異なる.筆者らは,それらのうち第二級アミド結合に着目し,ペプチド骨格の化学変換を基に残基1–4を修飾したアナログの合成を行った.

3-1. ペプチド骨格のN-メチル化アナログ

RA-VII(1)が持つアミド結合のうち,アラニンの窒素原子が作る3ヵ所の結合は第二級アミドである.そのうちAla-2のアミド水素原子は分子内水素結合に関与しないため,Ala-1及びAla-4のアミド窒素原子に比べて反応性が高いと考えられた.筆者らは1を臭化テトラブチルアンモニウム存在下,ジクロロメタン中で水酸化ナトリウム水溶液と種々のアルキル化剤で処理すると,構成アミノ酸の立体配置の異性化を伴うことなくAla-2残基の窒素原子にメチル基,エチル基,置換アリル基,2-(ジアルキルアミノ)エチル基を導入したアナログを合成できることを見い出した.これらのうち,3-メチル-2-ブテニル基を導入した45のP-388細胞に対する細胞毒性は1の1/4.1を示し,in vivo実験による延命率(ILS=74%)は1より良好であった(Fig. 5).一方,2-(ジアルキルアミノ)エチル基を導入した化合物の細胞毒性はいずれも1に比べて大きく低下(1/9.9–1/910)した.3,2325

RA-VII(1)の18員環ペプチド骨格は,溶液中においてD-Ala-1 C=OとAla-4 NH間,及びAla-4 C=OとD-Ala-1 NH間で水素結合を形成して安定化している.19,21これらの分子内水素結合がペプチド骨格の配座構造におよぼす影響を明らかにするため,D-Ala-1とAla-4残基をN-メチル化したアナログ46及び47を合成した(Fig. 5).26 46は相間移動触媒にヨウ化テトラブチルアンモニウムを用いて1をヨウ化メチルと水酸化ナトリウム粉末で処理して得られた.Ala-2残基にN-メチル基を持たない47は,Ala-2のアミド窒素原子をアミノ基で保護したのち同様にメチル化後,脱アミノ化して得た.46及び47のP-388細胞に対する細胞毒性は,それぞれ1の1/1400, 1/4500であった.46の臭化物46a47の結晶構造はRA-II(2)のそれと大きく異なり,ともにAla-2/Tyr-3, Tyr-3/Ala-4間のアミド結合がシス配置を有し,Tyr-3の芳香環の配向に大きな相違が認められた.また,4647の重クロロホルム溶液中のNMRスペクトルでそれぞれ93%, 99%の存在比で観測される主配座体の構造は,それらの結晶構造とほぼ一致した.したがって,D-Ala-1とAla-4残基間の分子内水素結合が1の活性配座を維持するために重要であることが確認できた.

3-2. アラニン残基1,2,及び4の立体異性化アナログ

生理活性ペプチドを構成するα-アミノ酸の1つを立体反転させた化合物の合成は,耐酵素分解性を向上させたアナログの創製や,ペプチドの活性発現部位の特定に重要な手段となる.27タンパク質を構成するアミノ酸で作られた鎖状ペプチドの場合は,順次アミノ酸を結合させて容易にD-アミノ酸含有アナログを合成することができるが,cyclosporin A(免疫抑制剤)やRA-VII(1)などの天然由来の生理活性環状ペプチド化合物は合成困難な異常アミノ酸を含むものが多く,マクロ環化反応を行う位置の選択の難しさと併せ,全合成法により様々な誘導体を作製することは難しい.チオノペプチドは,チオ化試薬によりペプチドから容易に合成できる誘導体である.環状ペプチドにおいては,環構造により配座が固定されるため,特定のペプチド結合が選択的にチオ化されることが多い.28,29またチオアミド基は反応性に富み,アミド結合と区別して化学修飾が可能である.チオアミド基が隣接するペプチド結合と縮合してオキサゾール環へ変換できれば,その加水分解によりエピ化アナログへ誘導できると考え,RA-VII(1)を用いてオキサゾールを経由するエピ化反応を検討した.RA-VII(1)をLawesson試薬を用いてチオ化すると,Tyr-3残基のカルボニル基がチオ化されたチオアミド48が収率80%で得られた(Fig. 6).30一方,1をDavy-Reagent-Methylでチオ化すると,Tyr-3及びTyr-6残基がともにチオ化されたビス(チオアミド)49が主生成物(38–54%)として得られた.31 49をDDQ酸化(79%)してチオアミド50を得た.48をメチルチオイミノエーテルとしたのち,1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane: DME)中テトラフルオロほう酸銀で処理すると,オキサゾール51及び52がそれぞれ87%, 0.8%の収率で得られた.32,33また,48をプロピルチオイミノエーテルとしたのちDME中酢酸水銀(II)で処理すると,51及び52がそれぞれ3.0%, 55%の収率で得られた.一方,50をプロピルチオイミノエーテルとし,アセトニトリル中テトラフルオロほう酸銀で処理すると52及び53がそれぞれ4.1%, 27%の収率で得られた.オキサゾール体53, 52及び51をそれぞれ酸性条件下部分加水分解することで,[L-Ala-1]RA-VII(54), [D-Ala-2]RA-VII(55), [D-Ala-4]RA-VII(56)を得た.5456のP-388細胞に対する細胞毒性は,それぞれ1の1/130, 1/3700, 1/3500であった.これらの化合物の結晶構造及び溶液中の構造の比較から,54, 56の細胞毒性が低いのは,ともに主配座の構造がアミド配置を含めて1のそれと大きく異なるためと考えられる.551の主配座と各アミド結合が同一の立体配置を持ち,残基3–6は類似の空間配置をとるが,1の主配座とは異なる空間配置を占める残基1, 2部位が80Sリボソームへの結合を妨げて活性が減弱している可能性がある.

Fig. 6. Structures of 4856 and Cytotoxic Activities of 5456 against the P-388 Cell Line Relative to 1 (Shown in Parentheses)

3-3. 残基2側鎖に芳香環を導入したアナログ

植物から得られるRA類では,化合物17の残基2のL-アラニンがL-セリン(RA-I, III),L-トレオニン(RA-VIII, XXII),L-グルタミン酸(RA-X, XI),L-ピログルタミン(RA-IX),3 L-グルタミン(RA-XXIII, XXIV),34 L-ロイシン(RA-XIX),L-2-アミノ酪酸(RA-XX, XXI)35で置換した類縁体が存在するが,芳香族アミノ酸で置換したものは単離されていない.残基2の側鎖構造の違いにより細胞毒性が大きく変化する17,18ことから,オキサゾール中間体を用いて残基2側鎖へ芳香環を導入したアナログを合成した.RA-IIIアセテートのTyr-3残基をチオアミド化したのち,Li2CO3存在下酢酸水銀(II)で処理してオキサゾール体としたのち,メタノール置換によりメトキシル体57を得た(Fig. 7).インドール,置換インドール,ピロール,フラン,アズレン,レゾルシノールを導入後,部分加水分解により残基2のL体58ag及びD体59agのアナログが得られ,レゾルシノール体はジアセテート58h, 59hとして単離した.NMRスペクトルの解析から,溶液中の58ahのペプチド骨格はいずれも天然型RA類と同一の配座構造をとり,59ahは[D-Ala-2]RA-VII(55)のものとほぼ同一であった.アナログ58ah59ahについてP-388細胞を用いて評価したところ,意外にも59a1の1/2.9の強い細胞毒性が認められた.[D-Ala-2]RA-VII(55)がほとんど活性を示さないことから,59aではインドール環が活性発現に寄与していると考えられた.これは,インドール環を持つ59a, b, d58a, b, dより活性が強く,インドール環上の置換基により活性が大きく変化することからも示唆された.36

Fig. 7. Structures of Oxazole Intermediate 57 and RA Peptide Analogues Incorporating an Aromatic Amino Acid at Residue 2 and Their Cytotoxic Activities against the P-388 Cell Line Relative to 1 (Shown in Parentheses)

3-4. RA-VIIの分解反応によるシクロイソジチロシンの取得

アナログ合成の自由度を高めるために,シクロイソジチロシンが必要であった.筆者らは茜根草より効率的にRA-VII(1)を取り出す方法を確立していたため,1の分解反応によりシクロイソジチロシンを得ることを検討した.1のAla-2残基をN-メチル化したのちDavy-Reagent-Methylで処理すると,ビス(チオアミド)60が収率91%で得られた.60をビス(メチルチオイミノエーテル)61に変換後,希塩酸で処理してトリペプチドとし,エドマン分解によりアラニン残基(Ala-4)を外したのちメチルエステル62及びベンジルエステル63へ誘導した(Fig. 8).本反応は1より60%以上の収率で進行し,効率的にシクロイソジチロシンを得ることができた.37 62及び63を用いて種々のアナログ及びR. cordifoliaから単離したRA-XVII, RA-XIXとRA-XXを合成した.35

Fig. 8. Chemical Degradation of Bis(thioamide) 60

3-5. グリシン置換アナログ

3-2節で述べたとおり,RA-VII(1)のアラニン残基のいずれか1つの立体配置を反転させるとペプチド骨格の配座構造が変化することから,アラニン残基の側鎖メチル基が配座構造に関与していると考えられた.筆者らは,1の分子中に存在する3ヵ所のアラニンの側鎖メチル基が配座構造並びに細胞毒性に及ぼす影響に興味を持ち,各アラニンをグリシンで置換した[Gly-1]RA-VII(64), [Gly-2]RA-VII(65), [Gly-4]RA-VII(66)をデザインした(Fig. 9).38 6466は,それぞれ残基1–4のテトラペプチドと63を連結してヘキサペプチドとしたのち,残基1,残基6間でマクロ環化して合成した.NMRスペクトルより64は,1と同様に重クロロホルム中でAla-2/Tyr-3間がトランス配置とシス配置をとる2種類の配座異性体A, Bが89 : 11の比率の混合物として存在し,66は重メタノール中でその比率は28 : 72であった.65は共鳴線の線幅の広がりが起こり,配座構造を明らかにすることはできなかった.アナログ6466のP-388細胞に対する細胞毒性はそれぞれRA-VII(1)の1/3.8, 1/8.6, 1/43であり,66の活性が低いのはA配座の存在比が低いためと考えられた.これらのことから,RA-VII(1)において,D-Ala-1のメチル基は配座構造とそれらの存在比に影響を与えないこと,Ala-2のメチル基は安定な配座構造の維持に必須であり,Ala-4のメチル基は各配座構造に影響しないが,活性配座の存在比を高めるために重要であることがわかった.

Fig. 9. Structures of 6470 and Their Cytotoxic Activities against the P-388 Cell Line Relative to 1 (Shown in Parentheses)

3-6. 残基1の修飾

R. cordifoliaの根(50 kg)より新規RA系化合物を探索する過程で,微量成分としてRA-XVII(67)を単離した.39機器スペクトル解析によりその構造をdeoxybouvardin(7)の残基1 D-アラニンのD-2-アミノ酪酸置換体と推定したが,収量が少ない(0.24 mg)ため合成して構造を確認した.また残基1の側鎖構造が活性に及ぼす影響を検証するため,併せてRA-VII(1)の残基1をD-2-アミノ酪酸(68),D-ノルバリン(69)で置換したアナログを合成した(Fig. 9).6869は,NMRスペクトルより重クロロホルム中でA配座とB配座がともに1と同様の89 : 11の比率で存在する.67の細胞毒性は,P-388細胞に対し1の1/12であった.一方,68及び69の細胞毒性は,それぞれ1の1/3.3, 1/11であった.これより残基1側鎖を伸長してもペプチド骨格の配座構造には影響しないが,炭素鎖の伸長に従って細胞毒性は低下することがわかった.天然由来のRA類ではアラニン残基2が他のアミノ酸で置換したものが存在するが,RA-XVII(67)は他の残基に既知化合物と異なるアミノ酸を持つ最初の例である.また,2-アミノ酪酸(残基1)が他のRA類と同様にD-アミノ酸であることも,その生合成経路を考察するうえで興味深い.

3-7. Ala-2/Tyr-3間のペプチド結合をシス配置に固定したアナログ

RA-VII(1)の溶液中の主配座(A配座)構造は,活性を示す配座構造であることを2-2節で述べた.しかし,Ala-2/Tyr-3間のアミド結合がシス配置をとるB配座が活性を示すか否か不明であった.そこで,アミド結合を1,2,4-トリアゾール環を用いてシス配置に固定する方法を検討し,40アナログ70を合成した(Fig. 9).41 70のペプチド骨格は重メタノール中で単一の配座構造をとり,nuclear Overhauser effect spectroscopy(NOESY)スペクトルの解析から,701のB配座と酷似した構造を有すると考えられた.70はP-388細胞に対し毒性を示さないことから,Ala-2/Tyr-3残基間がシスアミド結合を持つ1の副配座(B配座)構造は,活性発現に関与しないと考えられた.

3-8. 18員環ペプチド骨格の配座固定アナログ

RA-VII(1)のA配座は活性配座であることを先に述べた.ペプチド骨格の配座構造をA配座に固定する目的で,1の残基1と残基4をテトラメチレン鎖で連結した71を合成した(Fig. 10).42 NOESYスペクトルの解析から,71は重クロロホルム中で2種類の配座異性体が65 : 35の比率の混合物として存在し,その主配座構造(65%)はすべてのアミド結合がトランス配置を持ち,副配座構造(35%)はAla-2/Tyr-3間がシス配置,残る5つのアミド結合がトランス配置を有していた.71のHL-60及びヒト大腸がん細胞株HCT-116に対する細胞毒性は,それぞれ1の1/25000, 1/20000の強度であった.両配座構造ともにTyr-5/Tyr-6間のアミド結合が1と異なるトランス配置をとり,主配座構造では3つのチロシン残基の芳香環の空間配置は1と類似するものの,Tyr-6残基の芳香環の配向が一部異なっていた.したがって,Tyr-6の芳香環が活性発現に関与することを示唆するものと考えられた.

Fig. 10. Structures of 7173 and Their Cytotoxic Activities against the HL-60 Cell Line (Shown in Parenthesis), the P-388 Cell Line (Bracket), and the L1210 Cell Line (Curly Bracket) Relative to 1

3-9. Tyr-5の還元ペプチドアナログ

先に述べたとおりRA-VII(1)は水に難溶である.1の構造中のアミド結合の一部を塩基性のアミン結合で置き換えると,25と同様に酸と塩を形成して水溶性が増大することが期待できる.RA-VII(1)のTyr-5/Tyr-6残基間のアミド結合を還元ペプチド(–CH2NMe–)で置換した[Tyr-5-ψ(CH2NMe)-Tyr-6]RA-VII(72)では,本結合が配座自由度の低いシクロイソジチロシン構造及び18員環のヘキサペプチド環を構成するため,そのC–N結合の回転が制限されて1と類似の配座構造を持つと考えられた(Fig. 10).Tyr-6にN-メチル基を持たない[des-N-methyl-Tyr-6]RA-VII(73)では,1と同一の配座構造を維持し,強い細胞毒性を示す.43また,モンテカルロ法により求めた72の安定配座構造は1の結晶構造に類似しているが,Ala-2/Tyr-3間のアミド結合がシス配置を持つものが,トランス配置のものよりわずかに安定であった(ΔE=−1.1 kcal/mol).7263の脱Boc化体をボラン処理して還元ペプチドとしたのち,テトラペプチドを連結後マクロ環化して合成した.44 72のNMRスペクトルでは重ピリジン中3種類の配座異性体が54 : 44 : 2の比率で存在するが,NOESYスペクトルの解析から,存在比の高い2種類の配座構造は,それぞれ計算により得られたAla-2/Tyr-3間がトランス及びシス配置の構造を持つことが示唆された.72のP-388細胞に対する細胞毒性は1の1/1200であった.72の予想外に低い活性は,そのペプチド骨格の配座構造の1とのわずかな違いやTyr-5のカルボニル酸素原子の欠損によるものと考察した.

4. シクロイソジチロシンの合成法の開発とアナログ合成

RA-VII(1)の部分分解反応で得られるシクロイソジチロシンは,残基1–4を化学修飾したアナログの合成に利用できるが,残基5, 6の修飾には制約があった.そこで,この部位の化学修飾を目的にシクロイソジチロシンの効率的な合成法の開発を検討した.

4-1. シクロイソジチロシンの合成

筆者らがシクロイソジチロシンの合成に着手した時点では,その合成法として山村らが開発した硝酸タリウムによるフェノールオキシデーティブカップリングを用いる稲葉らの方法,45 BogerのUllmann反応を用いる方法,46 Zhuの芳香環上の求核置換反応による方法47が知られていた.稲葉らの方法は環化反応の収率が低く,Bogerの方法では熱力学的に安定なC末端側チロシンのエピ化体が生成することが後に明らかとなった.48 Zhuの方法は,環化反応は良好に進行するが,その基質に用いるジペプチドのアミノ酸ユニットの不斉合成を含め,長い行程を必要とした.筆者らは,緩和な条件でジフェニルエーテル結合の形成が可能なChan–Lamカップリング反応に着目した.入手が容易な3-ヨード-L-チロシンよりC末端側,あるいはN末端側チロシンの3位にボロノ基を持つL-チロシル-L-チロシン誘導体74及び75を合成し,これらをジクロロメタン中4 Åモレキュラーシーブス(molecular sieves: MS)存在下に酢酸銅(II)と4-(ジメチルアミノ)ピリジン[4-(dimethylamino)pyridine: DMAP]で処理すると,それぞれ収率56%, 35%でシクロイソジチロシン76及び77が得られた(Fig. 11).49

Fig. 11. Synthesis of Cycloisodityrosines 76 and 77

4-2. Tyr-3側鎖構造の配座固定アナログ

76を用い,まずTyr-3側鎖の配座固定アナログの合成を行った.50 Tyr-3側鎖のp-メトキシフェニル基は,2本のσ結合の回転により自由に配向することができるが,この側鎖部位の活性配座は不明であった.そこで,Ala-2とTyr-3をシクロイソジチロシンで置き換えることでチロシンのフェニル基の配向を固定した,ビス(シクロイソジチロシン)アナログ78をデザインした(Fig. 12).7876の両窒素原子にメチル基を導入して得た62と,76のN末端側にそれぞれL-アラニンとD-アラニンを結合させたのち連結してヘキサペプチドとし,そのマクロ環化反応により合成した.78の結晶構造は,RA-II(3)の結晶構造とTyr-3のベンゼン環の空間配置を含めてかなり類似しており,1の最安定配座構造を模倣していると考えられた.また,78の重クロロホルム中におけるNMRスペクトルは1種類の配座構造のシグナルとして観測され,NOESYスペクトルの解析から,結晶構造と基本的に同一の配座構造をとることが示唆された.本アナログのP-388細胞に対する細胞毒性は1の1/4700であった.この結果から,RA-IIの結晶構造で示される1のTyr-3側鎖の配座構造は活性発現に関与しないものと考えられるが,78では1のAla-2のβ炭素とTyr-3のε炭素間に嵩高いフェノキシ基が存在するため,この部位がTyr-3側鎖のリボソーム上の結合部位への接近を阻害する可能性も否定できない.

Fig. 12. Structures of 7882 and Their Cytotoxic Activities against the P-388 Cell Line (Shown in Parentheses) and the MCF-7 Cell Line (Brackets) Relative to 1

4-3. Tyr-5残基の芳香環にフッ素原子を導入したアナログ

RA-VII(1)をウサギの血管内に投与すると,胆汁中にTyr-3残基の脱O-メチル化体と脱N-メチル化体,Tyr-6残基の脱O-メチル化体(7),Tyr-3及びTyr-5残基の芳香環のε位のヒドロキシ化体が認められた.それらのうち,Tyr-5残基のεa位あるいはεb位がヒドロキシ化された79及び80はヒドロキシ基とTyr-6残基のメチルエーテル酸素原子間の水素結合により,シクロイソジチロシン環の配座構造が変化する.79及び80では細胞毒性が大きく低下しており,芳香環のヒドロキシ化は1の生体内不活性化の過程とみなされる.13そこで,Tyr-5残基のεa位又はεb位のヒドロキシ化を妨げる目的で,1のそれらの位置の水素原子をフッ素原子で置換したアナログ81, 82を合成した(Fig. 12).51 81はHL-60及びHCT-116細胞株に対し,それぞれ1の1/2.1及び1/1.4の細胞毒性を持ち,ヒト乳がん細胞株MCF-7では同等の活性を示した.82はこれらの細胞株に対し,それぞれ1/6.0, 1/14及び1/7.7の活性であった.したがって,Tyr-5残基のεa位の水素原子のフッ素原子置換は,細胞毒性にあまり影響しないと考えられた.

4-4. アザシクロイソジチロシアナログ

既に述べたとおり,Tyr-5残基のεa位やεb位,あるいはTyr-6残基のδa位やεa位にヒドロキシ基を導入すると細胞毒性が低下するが,13,15これがその導入に伴う芳香環の電子密度の変化によるのか,ヒドロキシ基の立体的な嵩高さや極性,あるいは配座構造の変化によるのか不明であった.RA系ペプチドのシクロイソジチロシンの芳香環の電子密度が細胞毒性に与える影響を検証するため,シクロイソジチロシンのジフェニルエーテル酸素原子を窒素原子で置換したアナログ83を合成した(Fig. 13).52化合物83のアザシクロイソジチロシン骨格は,末端を保護した4-アミノ-L-フェニルアラニル-N,O-ジメチル-3-ボロノ-L-チロシンのChan–Lamカップリング反応により合成した.モンテカルロ法により求めた83の最安定構造は,RA-VII(1)の結晶構造とほぼ一致することが示された.83のHL-60及びHCT-116細胞株に対する細胞毒性は,それぞれRA-VII(1)の1/7.2及び1/5.1に低下したことから,Tyr-5とTyr-6の芳香環の電子密度を高めると,活性は減弱すると考えられた.

Fig. 13. Structures of 83 and 84 and Their Cytotoxic Activities against the HL-60 Cell Line Relative to 1 (Shown in Parentheses)

4-5. レトロインバーソアナログ

L-配置のアミノ酸で構成されたペプチド化合物は,生体内に取り込まれると加水分解酵素による代謝を受けてアミノ酸に分解される.代謝を受け難いアナログデザインの一つに,構成アミノ酸それぞれの対掌体(D-体)を用意し,それらを元のペプチドと逆の順序でつなげたレトロインバーソアナログがある.53 RA-VII(1)のレトロインバーソアナログとして84をデザインした(Fig. 13).54 84では,D-Tyr-2/D-Ala-3間のアミド結合をトランス配置に維持するため,残基3にN-メチル基を持たないD-アラニンを使用した.NMRスペクトルより,84は重DMSO中で2種類の配座異性体が比率85 : 15の混合物として存在し,NOESYスペクトルの解析から主配座異性体のD-Tyr-5/D-Tyr-6間のアミド結合はシス配置,それ以外のアミド結合はトランス配置を持つことが示された.また,84のX線結晶解析で得た構造をRA-VII(1)の結晶構造と比較すると,D-Tyr-2のχ1結合の回転により活性発現に重要な3ヵ所の芳香環が,互いにほぼ同じ位置に配置できることが示唆されたが,84はHL-60, HCT-116及びMCF-7細胞株に対して細胞毒性を示さなかった.その理由として,ペプチド骨格が異なることや,3ヵ所のアラニンのメチル基がそれぞれ1のそれらと異なる場所に配置し,リボソーム上の作用部位への接近が妨げられることが考えられた.

5. 天然RA系ペプチドの合成

RA系ペプチドにおいて種々の類縁化合物が知られている.これらのうちの多くはRA-VII(1)と同じペプチド骨格を持ち,N-メチル-L-チロシル-N-メチル-L-チロシンのN末端側チロシンの側鎖ヒドロキシ基と,C末端側チロシンのε位炭素原子との間でジフェニルエーテル結合したシクロイソジチロシン構造を有し,1とほぼ同一の配座構造をとるため,NMRスペクトルにより容易に構造を推定することができる.一方,ペプチド骨格あるいはシクロイソジチロシン構造がRA-VII(1)と異なるとNMRスペクトルは大きく変化し,NMRスペクトルから各アミノ酸の立体配置を推定することは困難になる.筆者らは茜草根に含有されるRA系ペプチドを精査したところ,残基1若しくは残基2のアミノ酸,又は残基6の側鎖構造が異なるRA-XVII–RA-XXIV15,34,35,39以外に,ペプチド骨格やシクロイソジチロシン部位の構造が異なる1の類縁化合物や,二量体構造を持つ化合物を単離した.これらの化合物の構造は,主に合成的手法により明らかにした.

5-1. RA-XXV及びRA-XXVI

RA-XXV(85)とRA-XXVI(86)は,それぞれRA-VII(1)及びdeoxybouvardin(7)のTyr-5残基のデス-N-メチル体であるが,それらのNMRスペクトルは17のものと大きく異なっていた(Fig. 14).85及びRA-XXVI acetate(87)のX線結晶解析により相対配置を決定し,85はその全合成により,8685との化学的関連付けによりそれらの絶対配置を決定した.55化合物85は,C末端側チロシンの3位をボロノ化した保護化L-チロシル-N-メチル-L-チロシンの環化反応により得たN-メチルシクロイソジチロシンを用いて合成した.RA-VII(1), RA-XXV(85)及びRA-XXVI acetate(87)の結晶構造を比較すると,87のペプチド骨格の構造は1のものと酷似しているが,85の構造とは異なっていた.NMRスペクトルより,重クロロホルム中において8586はともに4種類の配座異性体の混合物として存在するが,最も高い存在比(それぞれ69%, 68%)を示す配座異性体の構造は,1, 85, 87いずれの結晶構造とも異なる構造を持ち,活性配座構造(A配座)の存在比(同25%, 28%)は低かった.RA-XXV(85)とRA-XXVI(86)のHL-60及びHCT-116細胞株に対する細胞毒性は,それらのN-メチル体のRA-VII(1)とdeoxybouvardin(7)に比べてそれぞれ1/19及び1/6.5,1/12及び1/7.3であった.したがって,Tyr-5のN-メチル基はRA系化合物が活性配座構造(A配座)の存在比を高めるために重要であることがわかった.

Fig. 14. Structures of 8591 and Their Cytotoxic Activities against the HL-60 Cell Line Relative to 1 or 7 (Shown in Parentheses)

5-2. allo-RA-V, neo-RA-V, O-seco-RA-V及びO-seco-RA-XXIV

RA-VII(1)やdeoxybouvardin(7)などのRA系ペプチドとは異なり,allo-RA-V(88)ではTyr-5のε位炭素原子とTyr-6のヒドロキシ基の酸素原子との間でジフェニルエーテル結合したシクロイソジチロシン構造を有する.neo-RA-V(89)は,Tyr-5のε位とTyr-6のε位との間でC–C結合した12員環シクロジチロシン構造を持つ.O-seco-RA-V(90)はこれらのチロシン側鎖間で環構造を持たない単環性ペプチドであった(Fig. 14).56 allo-RA-V(88)はN末端側チロシンの3位をボロノ化した保護化L-チロシル-L-チロシンの環化反応により得たシクロイソジチロシンを用いて合成し,neo-RA-V(89)はN末端側とC末端側のチロシンの3位にそれぞれボロノ基とヨウ素原子を導入した保護化L-チロシル-N-メチル-L-チロシンの分子内鈴木–宮浦クロスカップリングにより得たシクロジチロシンを用いて合成して構造を証明した.O-seco-RA-V(90)は,7から誘導したシクロイソジチロシン部位が開環した化合物との化学的関連付けにより,その構造を証明した.allo-RA-V(88)のHL-60とHCT-116細胞株に対する細胞毒性をRA-VII(1)及びdeoxybouvardin(7)と比較すると,それぞれ1/1000, 1/800及び1/840, 1/600であった.一方,neo-RA-V(89)及びO-seco-RA-V(90)は活性を示さなかった.189の結晶構造,及びモンテカルロ法により求めた88の最安定配座構造を比較すると,これらの化合物の18員環ペプチド骨格の構造はほぼ一致することから,細胞毒性発現にはTyr-5とTyr-6の両芳香環,又はいずれか一方の配向が重要であると考えられた(Fig. 15).化合物88, 89及び90がdeoxybouvardin(7)とともにR. cordifoliaから単離されたことは,907, 88及び89の共通の生合成前駆体であることを示唆するものと考えられた.また,90と同様にシクロイソジチロシン構造を持たないO-seco-RA-XXIV(91)を単離し,X線結晶解析及び分解反応により構造を確認した(Fig. 14).57

Fig. 15. Superposition of the Crystal Structures of RA-VII (1, Blue) and neo-RA-V (89, Green), and the Energy-minimized Structure of Allo-RA-V (88, Red)56)

Reproduced with permission from Hitotsuyanagi, Y., et al. Chem. Eur. J., 18, 2839–2846 (2012). Copyright 2012 John Wiley and Sons. (Color figure can be accessed in the online version.)

5-3. RA-dimer A

RA-dimer A(92)は機器スペクトルの解析から,deoxybouvardin(7)のTyr-6のεa位炭素原子と,もう1分子の7のTyr-6のヒドロキシ基の酸素原子との間でジフェニルエーテル結合した構造を持つと推定された(Fig. 16).7のTyr-6のεa炭素原子に臭素原子を導入後,ヒドロキシ基をメトキシ基に変換したのち,7とのUllmann反応により得た93は,92O-メチル化して得た化合物と一致した.92はP-388細胞に対し,RA-VII(1)の1/57の細胞毒性を示した.58

Fig. 16. Structures of 9294 and Their Cytotoxic Activities against the P-388 Cell Line (Shown in Parenthesis) and the HL-60 Cell Line (Bracket) Relative to 1

5-4. RA-dimer B

RA-dimer B(94)は機器スペクトルの解析から,allo-RA-V(88)のTyr-6のεa位炭素原子と,deoxybouvardin(7)のTyr-6のヒドロキシ基の酸素原子間でエーテル結合した構造と推定され,合成により絶対立体構造を明らかにした(Fig. 16).59化合物94は,Tyr-6のεa位にボロノ基を導入したallo-RA-V誘導体を合成し,7とChan–Lamカップリング反応により連結後,脱保護化して合成した.94はHL-60及びHCT-116細胞株に対し,RA-VII(1)と比べてそれぞれ1/54及び1/95の細胞毒性を示した.

6. おわりに

筆者らはRA-VII(1)の誘導体のデザインと合成を行うとともにアカネ科植物R. cordifoliaの根から新規類縁体を単離し,それらの化合物の生物活性試験により1の構造–活性相関について多くの知見を得ることができた.研究を開始した当初はRA系化合物の反応性を把握することが難しく,結果的にかなりの時間を要することとなった.本稿が読者の研究において参考になるところがあれば幸いである.

謝辞

本研究は,実施する機会を与えてくださった東京薬科大学故 糸川秀治先生,研究を遂行するにあたり貴重な助言を頂いた竹谷孝一先生,森田博史先生,青柳 裕先生,蓮田知代先生,朴 炫宣先生をはじめ,昼夜を問わず実験に励んだ大学院生,卒論研究生の方々の協力により行われたものです.細胞毒性試験の一部とin vivo試験は,大正製薬総合研究所でお世話になりました.また,研究者としての基礎をご指導頂いた千葉大学大学院故 坂井進一郎先生,相見則郎先生,医薬品化学並びに計算化学についてご教示くださった吉富製薬株式会社故 田原哲冶先生,故 中 洋一先生に深く感謝いたします.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2022年度退職にあたり在職中の業績を中心に記述されたものである.

REFERENCES
 
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