2024 Volume 144 Issue 6 Pages 615-624
Worldwide interest in teaching medical professionalism has increased drastically over the past two decades and is recognized as an important core competency. It is also essential in pharmacy education. However, there is no single definition of medical professionalism owing to its multifaceted nature, leading to difficulty in understanding it. The foundational concept of professionalism are the social contract and accountability, which describe the relationship between the profession and the society which it serves. Profession must understand expectations from the society, which is trustworthy, assures competence, and devoted to the public good for the contract based on their mutual trust. In “teaching,” three basic educational actions (“setting expectations,” “providing experiences,” and “evaluating outcomes”) are required. There are two learning goals of professionalism education: the minimum goal of not doing unprofessional acts and the aspirational goal of pursuing a higher level of interiorized professionalism which leads to the professional identity formation. The true professionals are “reflective practitioners,” who have the ability to manage ambiguous problems using their interiorized professionalism in complicated situations. Therefore, reflection is one of the central concepts of professionalism education. The Professionalism Mini-Evaluation Exercise (P-MEX), an observational tool to evaluate medical professionalism, has some favorable aspects; the Japanese version is available and is a guide to specific actions for professionalism through its items, although some cautions must be exercised when using it. Considering that teaching professionalism includes not only formal but informal and hidden curricula, all of the staff in the educational environments should consider professionalism education by understanding professionalism.
「医師のプロフェッショナリズム」は,1990年代以降多くの研究がなされており世界の各種団体や大学が文書として報告している.しかし「薬剤師のプロフェッショナリズム」として明示されているまとまったものは多くない.わが国においてしばしば報道される薬剤師による不正は薬剤師のプロフェッショナル意識の欠如によるところが大きいと考えられ,薬学生の5年次実務実習においても実習生のトラブルは毎年後を絶たない.1つには,薬学部でのプロフェッショナリズム教育の不足が挙げられるが,2024年から始まる次期改訂薬学教育モデル・コア・カリキュラムでは医学/歯学教育モデル・コア・カリキュラムとの共通化・整合性が図られ,生涯にわたって目標とする「薬剤師としての基本的資質・能力」の筆頭にプロフェッショナリズムが掲げられ注目されている.2つ目としては,薬剤師のプロフェッショナリズムの的確な評価方法が日本にないため,薬剤師/薬学生のプロフェッショナリズムの現状の問題や改善すべき課題の検討が十分に行われていないこと,したがって薬剤師や薬学生自身がプロフェッショナリズムに係わる行動について理解していない,あるいは課題として認識できていない可能性も考えられる.
プロフェッショナリズムを教育するためには,教育する側が「プロフェッショナリズムとは何なのか」ということを理解し,言語化・明示する必要がある.本稿では,プロフェッショナリズムの基盤概念に基づくプロフェッショナリズムの考え方とプロフェッショナリズム教育について紹介したい.
医療者や医療系学生のプロフェッショナリズムの問題と教育の重要性は世界中で認識され,プロフェッショナリズムは医療学生の教育におけるKeyコンピテンシーの1つとなっている.米国の研究で,学生時代にアンプロフェッショナルな行動・態度(懲戒処分,無責任な行動,向上能力の欠如)をとる医学生は医師になった後も懲戒処分を受ける可能性が高い,すなわち,医学生のアンプロフェッショナルな行動は卒業後の懲戒処分の予測因子になることが報告されており,1)学生時代の不適切な行動・態度を見過ごすことなく早期に介入・改善する必要性とプロフェッショナリズム教育の重要性を示している.この論文では欠席・遅刻,指摘しても改善しない,やる気がない,人間関係(ほかの学生,教員,他職種,患者,家族など)に問題がある,などがアンプロフェッショナルな行動のカテゴリーに分類されており,わが国の薬学教育の現状と変わりない.
プロフェッショナリズムの基盤概念:社会契約と説明責任普遍的合意のあるプロフェッショナリズムの定義は存在せず,このことがプロフェッショナリズムの理解を困難にしている.医療プロフェッショナリズムは,ヒポクラテスが,医師という特別な専門職に求められるもの(ヒポクラテスの誓い)として表して以降,その精神の多くが現代にまで引き継がれている.近年ではFlexnerのプロフェッションの定義,ジュネーブ宣言やマドリッド宣言(世界医師会),新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム2)などのほか,わが国では医の倫理綱領や医師の職業倫理指針(日本医師会),薬剤師綱領や薬剤師行動規範(日本薬剤師会)など世界で広義・狭義様々に定義された多くのプロフェッション/プロフェッショナリズムについての文書が発表されている.3)いずれもプロフェッショナリズムの要素を含んでいるが,学術的立場の違い,国や文化の違い,時代背景,更に医療者が置かれた環境・状況によっても求められるプロフェッショナリズムは異なるため,これらをすべて包括した普遍的定義を定めることは困難である.
一方,プロフェッション(専門職集団)/プロフェッショナリズムの基盤概念は「社会契約」という互恵的な権利と特権に基づく考え方で端的に説明され(Fig. 1),4,5)相互の信頼に基づく無書面の「社会契約」と言われる.社会(国民・市民,公衆,患者など)は自らが有しない専門能力を持つ医療専門職(専門職集団又は個人)を信頼し,特権(医療者の自律性,専門資格取得,自己統制等)を付与することでその専門性に期待する.この契約の下で医療専門職は,“信頼できること”,“能力を保証すること”,そして“公共の利益のために献身すること”が期待され,このような社会からの期待やニーズに自らのプロフェッショナリズムにより責任を持って応える「説明責任」の義務がある.この観点からすれば,プロフェッショナリズムとは医療専門職側が定義するのではなく,専門職集団に権力と責任を委譲する社会が定義・規定するものであり,医療専門職側は社会が規定するアイデンティティを獲得しなければならないということである.4,6)社会の複雑で困難な場面でプロフェッショナルが社会の求める期待に応えるためには様々な能力や資質,知識,価値観を有し,適切な態度,行動を示すことが求められ,それらがプロフェッショナリズムの要素であるためコンピテンシーとして教育可能であると考えられている.プロフェッショナリズムとは「社会の信頼を得るため,社会からの信頼を維持し,期待・ニーズに応えるために必要なもの」と言える.もっとわかり易く言えば,「自分の行動や態度,医療技術は,患者・社会の期待に応えられ得るものであろうか?」と常に自問自答し,患者の視点,他職種の視点,社会の視点のレンズを通して自らを見つめ振り返ること(省察),そしてそれを日々繰り返し実践しながら高みを目指すことがプロフェッショナリズムを醸成させる.これらの姿勢は日常生活の中での“プロフェッショナリズムからの逸脱”(本来は正しく行える能力があるにもかかわらず,ある場面において確立されているプロフェッショナリズムの規範と反する形で行動してしまう判断,技術,態度の誤り)7)回避にもつながる.

Medical profession is expected to have competence, trustworthy and devoting public good. Modified citation from Nomura H, Rigaku ryohogaku, 42, 730–731 (2015), Cruess S. R., Clin. Orthop. Relat. Res., 449, 170–176 (2006)4) and Cruess R. L., et al., J. Am. Board Fam. Med., 33(Suppl), S50–S56 (2020).6)
しかし基盤概念は抽象的である.学修者の理解,学修と実践を促進するためには目標とすべき具体的なプロフェッショナリズムの要素を明示する必要がある.世の中でほぼコンセンサスが得られ,医療現場や学修の場で運用上有用なプロフェッショナリズム定義の例として,Arnold and Sternの神殿モデル(Fig. 2)8)や「新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム」(Table 1),2,9) Swickの「医療プロフェッショナリズムの規範的定義」10)がある.薬学では,米国で2000年に米国薬学会薬学生アカデミー,米国薬科大学協会・学部長会議(The American Pharmaceutical Association Academy of Students of Pharmacy: APhA-ASP, The American Association of Colleges of Pharmacy Council of Deans: AACP-COD)のプロフェッショナリズムに関するタスクフォースによる「薬学生のプロフェッショナリズムに関する白書(White paper on pharmacy student professionalism)」,11) 2009年には米国臨床薬学会(The American College of Clinical Pharmacy: ACCP)白書「学生のプロフェッショナリズムの育成(Development of student professionalism)」が出されており(Table 2),12)薬学生・薬剤師のプロフェッショナリズムにおいても社会契約を支える相互の信頼関係がプロフェッショナリズムの本質である特性は医のプロフェッショナリズムと変わりない.上記はいずれも医療者の義務としてプロフェッショナリズムの要素が明示的に記述されているため,とくに個々の要素が示された行動規範等はわかり易い行動目標となる.しかし,現実社会の複雑で難しい場面の中で医療者が求められ期待される行動や態度,求められる能力はそれぞれの状況に応じて異なり多面的であるため,1つ1つの要素を満たすことは最低限の目標であり,真のプロフェッショナリズムの獲得とは言えない.

Modified citation from Arnold L., et al., “What is Medical Professionalism?” ed. by Stern D. T., New York, Oxford University Press, 2006, pp. 15–37.8)
| The Three Fundamental Principles(3つの基本的原則) |
|---|
| 1. Principle of primacy of patient welfare(患者の福利優先の原則) |
| 2. Principle of patient autonomy(患者の自律性に関する原則) |
| 3. Principle of social justice[社会正義(social justice,公正性)の原則] |
| A Set of Professional Responsibilities(プロフェッショナルとしての一連の責務/10の責務) |
| 1. Commitment to professional competence(プロフェッショナルとしての能力に関する責務) |
| 2. Commitment to honesty with patients(患者に対して正直である責務) |
| 3. Commitment to patient confidentiality(患者情報を守秘する責務) |
| 4. Commitment to maintaining appropriate relations with patients(患者との適切な関係を維持する責務) |
| 5. Commitment to improving quality of care(医療の質を向上させる責務) |
| 6. Commitment to improving access to care(医療へのアクセスを向上させる責務) |
| 7. Commitment to a just distribution of finite resources(有限の医療資源の適正配置に関する責務) |
| 8. Commitment to scientific knowledge(科学的な知識に関する責務/科学的根拠に基づいた医療を行う責務) |
| 9. Commitment to maintaining trust by managing conflicts of interest(利害衝突に適切に対処して信頼を維持する責務) |
| 10. Commitment to professional responsibilities[プロフェッショナル(専門職)]の責任を果たす責務 |
| The traits of Student Professionalism in the White Paper from APh-A-ASP and AACP-COD (2000) |
|---|
| 1. Knowledge and skills of a profession(専門職の知識と技能) |
| 2. Commitment to self-improvement of skills and knowledge(知識と技能の自己研鑽) |
| 3. Service orientation[奉仕(貢献)の姿勢の原則] |
| 4. Pride in the profession(職業への誇り) |
| 5. Covenantal relationship with the client[クライアント(患者,社会)との契約] |
| 6. Creativity and innovation(創造と革新) |
| 7. Conscience and trust worthiness(誠実さと信頼) |
| 8. Accountability for his/her work(説明責任) |
| 9. Ethically sound decision making(倫理的に正しい意思決定) |
| 10. Leadership(リーダーシップ) |
| The traits of Student Professionalism in the White Paper from ACCP (2009) |
| 1. Responsibility(責任) |
| 2. Commitment to excellence(卓越性の責務) |
| 3. Respect for Others(他者を尊重する) |
| 4. Honesty and Integrity(誠実さ) |
| 5. Care and Compassion(配慮と共感) |
a)Japanese translation by Suzuki
医療現場には患者,家族,医療者,組織などそれぞれの事情や状況が複雑に絡み合った困難状況が溢れており,医療者は専門職として社会の信頼に応える判断と実践が求められる.Schönは,専門的能力とは,実際の知識や明確な解決策による問題解決能力以上のもの,つまり曖昧な問題を管理し,不確実性を許容し,限られた情報の中で判断を下す能力であり,プロフェッショナルは実践の過程で自らを振り返りながら学びを深めていく「省察的実践家(reflective practitioner)」であるという考えを提唱した.13) 「省察的実践家」は医療に限らず専門的職業における継続的な専門能力開発の理論的背景となっているものであり,省察は医療者の生涯学習においても有用なコアスキルとして認識されている.14)
Sternらはプロフェッショナリズムの教育者に「期待の設定(setting expectation)」,「適切な体験学習の提供(providing curriculum)」,「学習成果の評価(evaluating outcomes)」の3つを求めている.15)プロフェッショナリズムとは何なのか,学修者に目指すものを明示し,適切な教育プログラムと環境を提供し,正しく評価し必要な対応を行うことがプロフェッショナリズム教育に求められる.
プロフェッショナリズムの学修目標プロフェッショナリズム教育の学修目標は2つある.1つは知識・技能・態度,倫理,法的理解などの獲得・達成を目指す最低限の目標であり,もう1つはプロフェッショナルとして「どうあるべきか」ということを常に考え高みを目指し続ける姿勢を持つ,持ち続けることである.Millerの学習ピラミッドでは「行動できることDoes(Action)」が目指すべき到達目標となっているが,16)本来行動は,「どうあるべきか(Is)」を理解したうえでのものであるべきである(Fig. 3).16,17)前者は“Doing”,“Presentation Professionalism”と言われ目に見える態度・行動を対象としているのに対し,後者は“Being”,“Existential Professionalism”と言われ,18)プロフェッショナルの中に内在し生涯を通じて醸成されるプロフェッショナリズム・アイデンティティ形成(professionalism identity formation: PIF)により,場面に適した判断と実践が行われることを期待するものである.19)米国AACPは2021年,PIFの実践を進める最初のステップとして,PIFを推進するために薬剤師のIdentityを定義することや学生のPIF支援等について報告している.20)

“Doing”, “Being”, “Professionalism Identity Formation” and an arrow in the figure were added by the author. “Being” is more essential for the professionalism than “doing.”
プロフェッショナリズム教育に確立された方略はまだないが,多くの実践が報告されている.真のプロフェッショナルは「省察的実践家」であり,「省察」に注目したGibbsの省察サイクルやsignificant event analysis(SEA)を利用した「振り返り学習」はプロフェッショナリズムの滋養に有用である.21,22) SEAの起源は1950年代に開発された米国空軍の危機管理トレーニング(critical incident technique: CIT)であり,起きた出来事について1)当事者が振り返る,2)言語化する,3)その後の改善につなげる,ことを目的としたものであり,1980年代より医療現場で起きた重大事象の分析にも使用されている.SEAは,自身が体験した心揺さぶられるような出来事や行為について振り返り(reflection on action),出来事(significant event)を記述し,それはなぜ起こったのか(要因),そのときの気持ち,自分がうまく行えたこと,うまく行えなかったこと,最初に考えたことやそのときの気持ち,もっとこうしたらよかったと思うこと,出来事から学んだことや次へのアクションプラン(reflection for action)について構造的に振返り言語化することで深い学びにつなげるものである.本学部ではプロフェッショナリズム教育に係わる6年次選択科目の中でSEAを利用した実務実習についての振り返りを行っており,学生達が医療現場の中で自身の置かれた学生としての立場と指導者や患者との狭間で様々な気持ちやジレンマを抱えていることがわかる.SEAを通して学生達の考えや認識が再構築され(認識変容),将来直面する困難な場面では新たな価値観に基づく行動が期待される(変容学習).ただし記述した振り返り文章(プロダクト)が成績に係わる場合,学生達は評価者が求める言葉を使い自身の深い考察に至らない記載となる恐れがある.振り返り学習の効果を十分に発揮させるためには,教育者は学修者にその意図を十分に伝え,十分な記述となるよう準備や工夫が必要であり,23)われわれもそれを実感している.
正規カリキュラム,非正規カリキュラム,隠れたカリキュラムプロフェッショナリズム教育では,プロフェッショナリズムに関する知識習得やproblem-based learning,実習・演習といった正規カリキュラムのみならず,日常や実践の場でのロールモデルの行動や態度,目撃したプロフェッショナリズムからの逸脱行為に対するその場でリフレクションやフィードバックなど,授業や実習以外の時間や場所で非正規に学ぶカリキュラム(非正規カリキュラム)の影響が大きい.プロフェッショナルな行動の生じ易さには多くの要因が影響しているがとくにロールモデルの影響は大きくポジティブにもネガティブにも作用する(Fig. 4).7)ロールモデルとなる教育者が,教えたことと一致しない行動を示せば正規カリキュラムを覆す隠れたカリキュラム(hidden curriculum)となる.それは教育者/指導者に限らず,例えば大学生であれば,日常生活の中に埋め込まれている大学教職員全員の行動・態度が意図せず隠れたカリキュラムとして学ばれているということである.したがって,教育の提供とは教育プログラムのみならず,学生が真に正しいプロフェッショナリズム行動を示したときにそれが否定されない環境と雰囲気を整備して提供すること,目撃したプロフェッショナリズムからの逸脱行動を見過ごさずに対応することも含まれる.教育者の心構えと実践,組織全体での取り組みが必要である.

Positive and negative causes professionalism lapses (A) and triggers for unprofessional behaviors (B). Modified citation from Levinson W., et al., “Resilience in Facing Professionalism Challenges,” Understanding Medical Professionalism, New York, McGraw-Hill Education, 2014, pp. 17–36,7) and Levinson W., et al., “When Things Go Wrong: The Challenge of Self-Regulation,” Understanding Medical Professionalism, New York, McGraw-Hill Education, 2014, pp. 243–275,24) (B). The Japanese texts in the figure were referred form the Japanese translation version by Miyata Y., et al., “Resilience in Facing Professionalism Challenges,” Understanding Medical Professionalism, Saitama, Kai-shorin Co., Ltd., 2018, pp. 17–38, and were added by the author.
日常の中でプロフェッショナリズムからの逸脱行動やアンプロフェッショナルな行動を目撃したときはどうすべきなのか.確立された対処方法はないが,介入の段階的アプローチが提案されている(Fig. 5).24,25)軽度から中等度の単発事例(レベル1)には助言や即時指導が正しい解決方法であり,行動の深刻さに応じて強い介入を行う.大学や医療現場でプロフェッショナリズムからの逸脱と思われる行動・態度があれば,それを見過ごさずにすぐに指導することが大切である.見過ごせば周囲はその不適切な行動に無関心であると認識され(社会心理学における傍観者効果),その状況が広がり日常となり,隠れたカリキュラムとなるのである.プロフェッショナリズム教育を行うにあたり,教育者/指導者個人はもとより組織にもその役割を全うするための自己管理責任があり,教育する立場としてのプロフェッショナリズムも問われるのではないだろうか.

Modified citation from Levinson W., et al., “When Things Go Wrong: The Challenge of Self-Regulation,” Understanding Medical Professionalism, New York, McGraw-Hill Education, 2014, pp. 243–275, 24) and Hickson G. B., et al., Acad. Med., 82, 1040–1048 (2007).25) The Japanese texts in the figure were referred from the Japanese translation version by Miyata Y., et al., “When Things Go Wrong: The Challenge of Self-Regulation,” Understanding Medical Professionalism, Saitama, Kai-shorin Co., Ltd., 2018, pp. 247–279, and were added by the author.
最低限の目標とは言え,やはり具体的な行動目標や態度・姿勢を明示することは学修者にとってイメージし易く,理解と実践を促すために有用である.そして,学修効果(学生達に認識・行動変容をもたらしたかどうか)を判断し,必要な対応と学びの意欲を高めるためには評価を行う必要がある.
プロフェッショナリズムの評価方法は方略により異なるが,26)医療の実践の場で比較的実施し易いものとして,観察可能なプロフェッショナリズムの行動評価が可能な評価ツールThe Professionalism Mini-Evaluation Exercise(P-MEX)がある.27)観察可能な行動・態度評価ツールの1つであるMini-Clinical Examination Exercise(mini-CEX)は臨床現場で観察される医師の行動評価ツールとして知られているがプロフェッショナリズムを評価するために必要な具体的な行動が特定されていない.P-MEXは2006年にカナダのMcGill大学でCruessらにより開発された医師(研修医)の観察可能な行動及び態度を評価するプロフェッショナリズム評価ツールであり,「医師・患者関係構築能力」,「省察能力」,「時間管理能力」,「医療者間関係構築能力」の4領域と具体的な行動・態度の23項目(1項目は2領域に含まれ重複)で構成されている(Table 3).27,28) P-MEX日本語版は日本の医学教育においてその妥当性及び信頼性が証明され,28–31)行動観察評価ではあるが後から評価者が思い出して評価しても妥当性,信頼性は失われない.30)多忙な臨床現場においても比較的実施し易い方法と考えられる.P-MEXは,「ほぼ期待通り(3点)」を基準とする5つのカテゴリーで評価され,評価対象者の行動・態度が観察者(評価者)の期待を満たしているかどうかが評価基準となる.まさにプロフェッショナリズムの基盤概念である社会・公衆の医療者に対する期待基準を満たしているか,信頼を裏付ける行動ができているかを測定するものと理解できる.P-MEXは,複数の評価者による多面的評価(360度評価)の平均値をプロフェッショナリズム各項目のスコアとして定量的に評価できるため,職場や教育プログラムの中で経時的に測定することにより学修者のプロフェッショナリズムの成長を定量的に評価することが可能である.更にP-MEXには医療者に求められるプロフェッショナリズムの基本的行動・態度が具体的に記述されているため学修者にとっては目指すべき目標が明確でわかり易い.評価者によるフィードバック及び自己評価と組み合わせることで形成的評価も可能であるため振り返り(省察)にも有効とされている.ただし,「省察」はP-MEXの1領域として含まれてはいるが評価項目は個別の行動要素であるため,省察に係わる他の評価尺度の併用が推奨される.32)また,大学での単位認定などcriticalな評価を目的として総括的評価を行う場合には信頼性の観点から多数の評価者(360度評価では18名,指導医の評価では8名など)が必要であると報告されており,29)このような目的でP-MEXを使用する際には各施設で評価法としての妥当性の検証が必要である.
| P-MEX (original version) | P-MEX (Japanese version) | |
|---|---|---|
| F1 | Doctor-patient relationship skills | 医師・患者関係構築能力 |
| P1 | Listened actively to patient | 患者の話を意欲的に聴いていた |
| P2 | Showed interest in patient as a person | 患者に対し一人の人間として関心を示していた |
| P3 | Showed respect for patient | 患者に敬意を示していた |
| P4 | Recognized and met patient needs | 患者のニーズを認識し,そのニーズに合っていた |
| P5 | Accepted inconvenience to meet patient needs | 患者のニーズに応じるために不都合があっても受け入れた |
| P6 | Ensured continuity of patient care | 患者ケアの継続を保証していた |
| P7 | Advocated on behalf of a patient and/or family member | 患者や患者の家族の立場を代弁していた |
| P12 | Maintained appropriate boundaries with patients/colleagues | 患者や同僚と適切な境界線を保つことができていた |
| F2 | Reflective skills | 省察能力 |
| P8 | Demonstrated awareness of limitations | 自分の限界に気づいていることを示していた |
| P9 | Admitted errors/omissions | 自分の失敗や怠慢を素直に認めていた |
| P10 | Solicited feedback | 他者からのフィードバックを積極的に求めていた |
| P11 | Accepted feedback | 他者からのフィードバックを快く受け入れていた |
| P13 | Maintained composure in a difficult situation | 困難な場面でも平静さを保っていた |
| F3 | Time management | 時間管理能力 |
| P15 | Was on time | 時間に正確であった |
| P16 | Completed tasks in a reliable fashion | 仕事をきちんと信頼できるやり方で遂行した |
| P18 | Was available to patients or colleagues | 患者や同僚の求めに対し,すぐに対応できる状態であった |
| F4 | Interprofessional relationship skills | 医療者間関係構築能力 |
| P12 | Maintained appropriate boundaries with patients/colleagues | 患者や同僚と適切な境界線を保つことができていた |
| P14 | Maintained appropriate appearance | 身だしなみをきちんとしていた |
| P17 | Addressed own gaps in knowledge and skills | 地震の知識や技術の不足している部分について認めていた |
| P19 | Demonstrated respect for colleagues | 同僚に敬意を示すことができていた |
| P20 | Avoided derogatory language | 相手の名誉を損なうような言葉遣いを避けていた |
| P21 | Assisted a colleague as needed | 必要に応じて同僚を補助していた |
| P22 | Maintained patient confidentiality | 患者についての守秘義務を遵守していた |
| P23 | Used health resources appropriately | 医療資源を適切に使用していた |
| P24 | Respected rules and procedures of the system | 組織のルールややり方を尊重していた |
| 4-point scale: 4=exceeded expectations, 3=met expectations, 2=below expectations, 1=unacceptable. There was also a fifth category entitled “not observed” or “not applicable.” | 4点.期待を超えてとてもよかった,3点.ほぼ期待通りであった,2点.期待以下であった,1点.不適切であった,0点.評価不能(3点を基準点とするように採点し各項目でそれぞれ評価する) | |
本学部では,学生及び実習施設双方の同意が得られた学生を対象にP-MEXを用いた実務実習生のプロフェッショナリズム評価による現状調査と問題点の抽出と改善に向けた取り組みを行っている.本シンポジウムでは本学の薬局実習生を対象とし,11週間の実習初期・後期の2回,P-MEXを用いた他者評価及び実習生自己評価を実施した結果の一部を紹介した(「慶應義塾大学薬学部 人を対象とする研究倫理委員会」の審査において研究倫理審査対象外).内容妥当性,内的整合性,基準関連妥当性等により評価の妥当性を確認し解析した結果,実習後期の他者評価で「3」以上(すなわち,「ほぼ期待通り」以上)と評価された実習生の自己評価は他者評価とほぼ一致していたが,他者評価で「3」未満(すなわち,「期待以下」,「不適切」)と評価された一部の実習生の自己評価はほぼすべての項目で自己評価が他者評価を上回る乖離を示し,自己を過大評価していることが明らかとなった.本学学生のみを対象とした結果ではあるが,薬学実務実習生においてもプロフェッショナリズムに懸念のある学生が改善すべきはやはり省察能力であることが窺われた.33)
薬学領域では「プロフェッショナリズム」が新たな薬学教育モデル・コア・カリキュラムに導入されその重要性に注目が集まっている.プロフェッショナリズムは,教育者/指導者のみならず教育/指導が行われる組織の人達すべてがロールモデルとなっていること,プロフェッショナリズムの醸成が邪魔されない環境や雰囲気を整えプロフェッショナリズムが育つ風土を作ること,そのためには組織全体の合意が得られる必要があるため簡単なことではない.しかし,教育・指導する側も学生を教育するという役割を担う立場にあり,これもまた社会との契約であり,省察的実践家(reflective teacher)であることを忘れてはならない.個々の教育者のみならず組織全体が学生を適切に教育するという社会ニーズに応えられなければ教育のプロフェッショナルとしての責任は果たせない.
P-MEXを用いた実務実習生のプロフェッショナリズムの調査にともに取り組んだ慶應義塾大学薬学部医療薬学・社会連携センター医療薬学部門の学生諸君,スタッフ及びP-MEX評価にご協力頂きました実務実習施設の先生方・スタッフの皆様に感謝申し上げます.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,日本薬学会・日本医療薬学会・日本学術会議共同主催シンポジウム「薬剤師のプロフェッショナリズムを考える」で発表した内容を中心に記述したものである.