2025 Volume 145 Issue 1 Pages 17-21
Functional foods have attracted increasing attention. To prevent diseases using functional foods, various unhealthy conditions must be addressed, such as blood lipids, blood sugar, and blood pressure. However, there are insufficient functional ingredients available to address these unhealthy conditions. For example, five main ingredients (such as γ-aminobutyric acid) currently predominate in foods with functional claims, and account for approximately 38.2% of the total registered products in Japan. These data suggest that some functional and safe ingredients are widely used. From this perspective, enhancing the lineup of functional ingredients is necessary to address unhealthy conditions and develop various functional foods in the future. Flavoring agents are attractive ingredients. However, studies on flavoring agents have focused only on psychological functions, such as relaxation. In this study, we discuss the potential use of flavoring agents as functional ingredients.
わが国は超高齢社会を迎え,平均寿命が伸び続ける一方で,自立した生活を送れる期間である健康寿命との差,つまり,体が不自由で支援や介護が必要な期間は平均約10年とされている.そのため,国民の健康増進はもとより,医療費抑制にも健康寿命の延伸が喫緊の課題である.このような背景からこれまで,疾患治療を第一として医療が提供されてきたものの,現在の新薬開発は厳しい状況に置かれている.そのため,今後は予防医学の観点から,疾患の前段階である未病状態への移行,そして,疾患状態への移行を抑え込み,健康維持することが重要である.その点,ほとんどの人が口にする食品は,機能性関与成分を摂取する経路として理想的である.したがって,将来的に疾患・未病状態を制御するために保険機能食品は大きな役割を担うと考えられる.
実際,機能性表示食品の2024年度売上高は,約7500億円以上と予想され,市場は右肩上がりに拡大し,その届出数も比例して年々増加している.しかしながら,その届出の中身を精査すると,2024年の7月19日時点で届出されている8566件のうち,γ-アミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid: GABA)やドコサヘキサエン酸/エイコサペンタエン酸(docosahexaenoic acid/eicosapentaenoic acid: DHA/EPA)など,主要5成分で届出数の38.2%を占めているのが現状である(Table 1).これは機能と安全性が保証された既存成分について,各社が多用していることを示しており,これでは今後,様々な体の不具合に対応しようにも機能の範囲が限られてしまう.
Rank | Functional ingredient | Number of notification (Ratio) |
---|---|---|
1 | γ-Amino butyric acid | 1104 (12.8%) |
2 | Resistant maltodextrin | 629 (7.3%) |
3 | Docosahexaenoic acid/eicosapentaenoic acid | 617 (7.2%) |
4 | Lactic acid bacterium | 511 (6.0%) |
5 | Lutein | 420 (4.9%) |
The table was created using database from the Consumer Affairs Agency, Government of Japan, as of July 19, 2024 (Total 8566 notification).
ここで,この現状がなぜ起きているかを医薬品と食品の違いで考えてみると,医薬品は厳密な用法用量があってリスクとベネフィットが天秤にかけられて利用されている.例えば,抗がん剤では悪心・嘔吐など厳しい副作用を耐えてでもがん治療効果に期待するケースも少なくない.一方,食品は厳密な用法用量が設定されていないため,摂取量や摂取間隔は,利用者次第であり,利用者のほとんどは食品で有害反応が起きることを想定していないのが現状である.そのため,自社の食品摂取で有害事象が起きて自主回収などになってしまうと,企業イメージや収益の低下につながるため,既存成分の利活用に留まっていることが推測される.つまり,食品には限りなくゼロリスクが求められる難しさがあるうえ,医薬品とは異なり,安価で,ニーズの移り変わりが早い食品において,新規成分の同定から承認・製品化もハードルが高い.そのうえで,様々な体の不具合に対応するためには,多種多様な機能を有した機能性関与成分を取り揃える必要があり,このジレンマを打開する必要がある.
その点,筆者らは,この打開策として,機能性関与成分を探索するための化合物ライブラリを充実させる必要があると考えている.そこで筆者らは次項目の特徴を有する香料に着目し,機能性関与成分としての潜在性を評価している.本稿ではそれらの取り組みについて紹介させて頂きたい.
香料は,食品の製造又は加工の工程で,香気を付与又は増強するために添加される添加物及びその製剤と規定されている.その分類としては,植物や動物から直接抽出して得られた天然香料と,化学的に合成された合成香料に大別される.両種の香料は合わせて3000種以上にものぼり,われわれも一般食品・お菓子や飲料を通じて日常的に摂取している.このように香料は,多数の化合物が認可・使用され,食経験も豊富であるために,機能性関与成分のリソースとして魅力的である.
これまで,香料の機能研究においては,リラックス効果など,香りとしての精神作用に関するものがほとんどである.例えば,古くはレモンの香りが抗うつ効果を持つことから始まり,最近では,香気によってモノアミン神経伝達が調節されることまで明らかになりつつある.1,2)一方で,香料は化合物である以上,経口・経肺などの経路で摂取した場合,受容体を介したシグナル刺激によって血圧や血液生化学値など,生化学マーカーが変動する可能性がある.しかし,これら香料の生理活性について,香りとしての精神作用以外ほとんど明らかになっていない.したがって,香料の新規生理機能の発掘は,機能性関与成分のラインナップ拡充につながると期待できる.
そこで,本研究では香料における,精神作用以外の機能を見い出すべく,脂質異常症をモデルに,中性脂肪を低下させ得る香料を提示し,香料の機能性関与性成分としての潜在性を評価した.
本研究で検証した香料は,レモンに含まれるリモネンをはじめ,食品へ汎用されている香料や,高濃度でも香りが良好で,実験に適した香料,クルクミン3)やレスベラトロール4)など,血中TG低下作用や抗酸化作用を持つポリフェノール系化合物と構造が類似した香料を20種類選定した(Table 2).また,TG低下作用の評価にあたって,in vitroでは,peroxisome proliferator activated receptor α(PPARα)の活性化を標的とするハイスループットスクリーニング系を活用した(Fig. 1).
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A luciferase reporter plasmid was transfected to HepG2 cell line. PPARα binds to peroxisome proliferator response element (PPRE) as a heterodimer with Retinoid X receptors (RXR). Consequently, luciferase activity as reporter gene shows the PPARα activation.
PPARαは,主に肝臓において脂質代謝の中心を担う核内受容体であり,フィブラート系薬剤のターゲットとして知られている.PPARαがリガンドによって活性化されるとβ酸化を促進し,肝臓及び血中のTG濃度を低下させる.このPPARαに対する化合物のリガンド活性は,tetracycline系抗生物質を用いて目的遺伝子の発現を調節するTet-on/offシステムを活用したHepG2-tet-off-hPPARα細胞を用いることで,高効率なスクリーニングが可能であることをこれまでにも示してきた.5)本細胞株は,培地中にtetracyclineが存在するとPPARαは発現せず(Tetracycline+),tetracyclineを除去することでPPARα発現量が上昇する(Tetracycline−).さらに,この細胞のゲノムには,ヒトPPARαの応答配列peroxisome proliferator response element(PPRE)を含むプロモーターの下流にルシフェラーゼをコードする遺伝子が組み込まれているため,ルシフェラーゼ活性を指標にすることで,各種サンプルのPPARαに対する活性化効果を評価することができる.このように,HepG2-tet-off-hPPARα細胞は,全長のヒトPPARαの発現量を制御可能であるうえ,またレポーター遺伝子もゲノム上に組み込まれていることから,生体内に近い条件で活性評価が可能で,優れたスクリーニング細胞株である.6)
そこで,まず,20種類の香料の中にPPARαのリガンドとなって,活性化させ得る候補があるかスクリーニングすべく,HepG2-tet-off-hPPARα細胞に20種の香料をPPARαの活性化を発光量で比較した.その結果,20種類のうち,6種類の香料でコントロール群よりも高い発光が観察された.とりわけ(E)-anetholeで顕著な発光が認められ,香料もPPARαの活性化を介して,TGを低下させる機能を有している可能性が示された.さらに,in vivoの評価としては香料の摂取による肝臓重量を比較した.PPARαが活性化されると,β酸化が促進し,肝臓・血中のTG濃度を低下させる.それと同時に,げっ歯類特有の現象ながら,PPARαの活性化は,サイクリンD1の発現を増加させることにより,細胞増殖を活性化させ,肝臓重量の増加を引き起こすことが報告されている.7,8)そこで,先ほどのin vitro試験でPPARαの活性化を示した香料を7日間マウスへ連続経口投与し,肝臓重量を評価した.その結果,コントロール群と比較して(E)-anethole投与群で肝臓重量の増加が認められた.したがって,(E)-anetholeは,in vivoにおいてもPPARαを活性化していることが示唆され,β酸化を亢進し,TGを低下させている可能性が示された.以上により,20種類の香料ライブラリのうち,機能性関与成分の候補分子として(E)-anetholeを見い出すことに成功した.したがって,香料は精神作用以外の機能も有し,様々な体の不具合に適応可能な機能性関与成分になることが提示された(Fig. 2).
Among the 20 types of flavoring agents, we successfully identified (E)-anethole as a candidate molecule for functional ingredients. Furthermore, (E)-anethole was found to have PPARα agonist activity in vivo. It is suggested that (E)-anethole has triglyceride-lowering effect in the blood.
様々な香料についてPPARαの活性化を介したTG低下作用を解析したところ,(E)-anetholeが,PPARαを活性化したため,香料であっても機能性関与成分になり得ることが示された.この(E)-anetholeは主にセリ科のアニス種子に含まれる甘い香味成分であり,クミンやシナモンなどとともにスパイス・ハーブとして煮込み料理やケーキなどの菓子類に利用されている.9)また,その化学構造を眺めると,脂溶性が高いことから,油に溶け易いと考えられる.そのため,食用油に配合することで,油を摂取してもTGの分解を補助する機能性食用油としての応用も期待される.また,現在,食品中における香料の濃度はppb–ppmレベルという極少量で利用されているため,今後,単一香料の利用を考える場合には,濃度を上げたときの安全性評価は必須と考えられる.その一方で,香料は一般的に,複数混合することで複雑な香りを表現しているため,将来的には,(E)-anetholeのみならず,PPARαアゴニスト活性を有するほかの香料との混合で各香料の濃度を低下させることが期待される.また,抗酸化活性などの別の機能を有する香料との混合により,1つの食品で複数の機能を発現できる可能性も考えられる.今後,本研究が起点となって,香料を用いた機能性食品の開発が進展することを祈念している.
本研究のPPARαアゴニスト活性評価に際し,細胞の提供及び貴重な御助言を頂きました,大阪大学大学院薬学研究科 土井健史先生,橘 敬祐先生,更に,構造活性相関に関して,貴重な御指導,御助言を頂きました,大阪大学大学院薬学研究科 有澤光弘先生に感謝申し上げます.最後に,本研究の進行にあたり,多大な御協力と御支援を頂きました,三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 伊藤友彦様,西野雅之様,坂田 慎様,中尾友洋様に深謝申し上げます.
本研究の一部は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社からの共同研究費で実施された.
本総説は,日本薬学会第144年会シンポジウムS02で発表した内容を中心に記述したものである.