YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
Anti-skin Aging Effects of Kale-derived Exosome-like Nanoparticles
Shigeru Katayama
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2025 Volume 145 Issue 1 Pages 29-33

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Summary

In an aging society, there is a growing interest in functional foods that offer anti-aging benefits. Food-derived bioactive compounds such as carotenoids and polyphenols can enhance skin elasticity and delay aging. However, the mechanisms by which these orally ingested compounds directly impact the skin are not fully understood. Recent studies on exosomes have suggested significant physiological functions, including their potential for intercellular communication. Similar to mammalian exosomes, plant-derived exosomes are known for their functional roles, including cross-kingdom communication, and their ability to target specific organs in animal models as delivery vehicles. The authors have been investigating the anti-aging effects of kale and have previously reported its benefits on cognitive function and skin aging in mouse models. Long-term oral administration of glucoraphanin-enriched kale suppresses the senescence symptoms in skin and hair and increases type I collagen and antioxidant enzyme expression in skin tissues, indicating its role in promoting skin health. Exosome-like nanoparticles (ELNs) from glucoraphanin-enriched kale appear to modulate the expression of extracellular matrix-related genes. Kale-derived ELNs exhibit great potential for ameliorating skin aging, suggesting their ability to promote skin health through targeted cellular mechanisms and supporting their use as an active natural compound in nutraceuticals and functional beverages.

1. はじめに

高齢化社会においては,アンチエイジングに対する関心が高まり,手軽に摂取できる機能性食品の人気が高まっている.特に,シワやたるみ,色素沈着など皮膚の老化は見た目に大きな影響を及ぼすため,アンチエイジング効果が期待される食品が注目されている.カロテノイドやポリフェノールなどの機能性成分は皮膚の弾力性を高め,シミやシワの形成を遅らせる効果があることが示唆されている.1,2機能性食品として経口摂取された場合,関与成分が皮膚に到達し直接的に作用することが期待されるが,これらの成分は体外に排泄されることもあり,直接的な効果の具体的なメカニズムについては未解明な部分が多い.

近年,エクソソームに代表される細胞外小胞の研究が進展し,その多様な生理機能や病態発症との関連性が示唆されている.エクソソームとは細胞から分泌されるナノレベルの粒子であり,核酸やタンパク質といった情報伝達物質を内包し,細胞間のコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしている(Fig. 1).35さらに,エクソソームは脂質二重膜構造を有し,内部の内包物が細胞外プロテアーゼによる分解から保護され,長期にわたって高い安定性を維持することができる.6一方,植物にも同様の細胞外小胞が存在し,エクソソームと類似した役割を果たすことが示されている.7,8植物由来の細胞外小胞がマウスに対して機能性を発揮することが報告されており,異なる生物界間でのコミュニケーションが可能であることが示唆されている.なお,哺乳類のエクソソームは典型的な表面マーカーとしてCD63やCD9を有しているが,植物由来の細胞外小胞の表面マーカーはまだ特定されていない[そのため,エクソソームとは言い難く,本稿ではエクソソーム様ナノ粒子(exosome-like nanoparticles: ELNs)と称す].

Fig. 1. Schematic Representation of Exosomes

Exosomes possess nanoscale lipid bilayer structure with embedded membrane proteins, and containing cargo proteins, nucleic acids (DNA, mRNA, miRNA), and other biomolecules.

筆者は青汁の原料として知られるケール(Brassica oleracea var. acephala)のアンチエイジング作用についての研究を行っており,これまでにケール摂取が老化促進モデルマウス(senescence-accelerated mouse: SAM)P8の認知機能低下を抑制させることを報告してきた.9,10また,品種改良種であるグルコラファニン高含有ケールでは,老化促進モデルマウスSAMP1の皮膚老化を抑制する効果を見い出している.11現在,ケール中のELNsがこれらの効果に関与していると仮説し,その詳細な作用機序の解析を進めている.本総説では,ケール及びケール由来ELNsの皮膚アンチエイジング効果に関する研究について紹介する.

2. ケール摂取による皮膚アンチエイジング効果

ケールはアブラナ科に属する緑色の葉物野菜であり,ビタミン類やカロテノイド,ポリフェノールを豊富に含有している.12また,アブラナ科植物特有の成分としてグルコシノレート類が含まれており,その代表例としてスルフォラファンやその前駆体であるグルコラファニンが挙げられる.13スルフォラファンは転写因子であるnuclear factor erythroid 2(NF-E2)-related factor 2(Nrf2)の強力な活性化剤として知られており,Nrf2が活性化されると核内に移行し,抗酸化応答配列を介して第二相解毒酵素群を誘導する.そのため,酸化ストレス,発がん物質,異物などに対する生体防御機能を発揮することが報告されている.1416しかし,スルフォラファンは揮発性が高く不安定であり,加熱加工時に消失し易いという欠点を抱える.このような問題を解決するため,スルフォラファンの前駆体であるグルコラファニンを高含有した品種改良ケール(glucoraphanin-enriched kale: GEK)が開発された.GEKは従来品種のケールと比較して30–120倍のグルコラファニンを含有しており,ケール独特の強い青臭さを軽減しているため,摂取し易いことが特徴である.

GEKの皮膚アンチエイジング作用を評価するため,老化促進モデルマウスSAMP1を用いてin vivo試験を行った.加齢により皮膚は表皮が萎縮し,真皮線維芽細胞が減少することで,コラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリックスの減少が進み,皮膚の弾力性が失われていく.17 SAMP1は老化アミロイドーシスのモデル系統として知られるが,この系統では外見上の老化が特に顕著で,被毛の粗雑化,脱毛,光沢の減少などが観察される.18 GEK混餌飼料を39週間摂取させた結果,外見上の老化がコントロール群に比べて顕著に抑制された.10さらに,GEK摂取群では皮膚の菲薄化が抑制され,皮膚中のI型コラーゲン量が増加したため,GEKの長期摂取が皮膚の自然老化を抑制する可能性が示された.また,GEK摂取により,皮膚組織においてNrf2の核内への移行や抗酸化酵素であるヘムオキシゲナーゼ-1(heme oxygenase 1: HO-1)の発現が増加した.トランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor-β: TGF-β)のII型受容体及びSmad3の発現もGEK投与群でコントロール群よりも高かった.したがって,GEKはNrf2経路を介して抗酸化作用を促進し,TGF-β/Smad経路を介してI型コラーゲン生成を促進させることが示唆された.I型コラーゲンは細胞外マトリックスの主要成分として体内で最も豊富に存在し,皮膚の強度と弾力性に貢献している.したがって,ケール摂取による皮膚アンチエイジング作用には,抗酸化酵素の発現誘導に加えて,I型コラーゲンの産生促進が関与することが示唆された.

3. 植物由来ELNsの皮膚アンチエイジング効果

エクソソームは直径30–150 nm程度の細胞外小胞であり,内部にはタンパク質や核酸[mRNA, microRNA(miRNA)など]といった多様な生体分子を含んでいる.これらは脂質二重膜によって保護されており,細胞間の情報伝達において重要な役割を果たしている.35近年,植物中にもエクソソームに類似した細胞外小胞(ELNs)が存在することが報告されている.植物由来ELNsはDNA,mRNA,miRNA,タンパク質を含み,植物の成長や発達,病原体の感染や環境ストレスに対する重要な防御機能を果たしている.19,20 miRNAはタンパク質に翻訳されない機能性non-coding RNAの一種であり,細胞内でmRNAと結合し,遺伝子発現の制御に関与することが知られている.例えば,観賞用ケールの葉ではbol-miR156j, bol-miR172a, bol-miR858a及びbol-miR858bがアントシアニン生合成に関与していることが報告されている.21

一方で,植物由来ELNsがマウスに対して機能性を発揮することが明らかになっており,ELNsを介した異なる生物間での細胞間コミュニケーションが可能であることが示唆されている.例えば,ショウガ由来ELNsは活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)の生成を抑制し,マウスのアルコール誘発性肝障害を改善することが報告されている.22アルコール由来の代謝産物がROSや炎症性サイトカインの生成を増加させるのに対して,ショウガ由来ELNsは肝臓においてNrf2を活性化し,抗酸化遺伝子の発現を促進させ,肝障害を軽減することが示されている.また,ブロッコリー由来のELNsが酸化ストレスによって引き起こされたマウスの大腸炎を抑制する効果も報告されている.23

植物由来ELNsの皮膚へのアンチエイジング効果に関する研究報告は,現時点では非常に限られている.アイリス(Iris germanica L.)根茎由来ELNsは初代正常ヒト表皮ケラチノサイトでの酸化ストレス誘発性細胞障害を軽減し,老化関連β-ガラクトシダーゼ(senescence-associated β-galactosidase: SA-β-gal)活性の低下と細胞周期停止マーカーp21の発現低下を介して,細胞老化を抑制する.24また,カクレミノ(Dendropanax morbifera)葉由来ELNsはB16BL6マウスのメラニン生成とチロシナーゼ活性を低下させ,美白効果をもたらすことが期待される.25高麗人参(Panax ginseng)由来ELNsはヒト表皮ケラチノサイトHaCaT細胞において,細胞外マトリックス分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase: MMP)12及びMMP13の遺伝子発現を抑制し,線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor: FGF)12やリシルオキシダーゼ(lysyl oxidase: LOX)などの皮膚再生関連遺伝子や長鎖脂肪酸延長酵素(elongation of very long chain fatty acids protein: ELOVL)3などの皮膚バリア関連遺伝子の発現を促進する.26さらに,朝鮮人参由来ELNsは紫外線照射されたHaCaT細胞において,細胞死やROSの生成を抑制する.その作用機序として,プロアポトーシス遺伝子であるBcl-2-associated X protein(BAX)やカスパーゼ群の発現低下,更にactivator protein-1(AP-1)シグナル伝達経路の抑制によるMMP群やシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase: COX)-2の発現低下が関与することが示唆されており,皮膚のシワ形成や炎症の予防に寄与することが期待される.27

4. ケール由来ELNsの皮膚アンチエイジング作用

ケール搾汁粉末からELNsを超遠心法により単離し,透過型電子顕微鏡で観察したところ,球状の小胞が確認された.NanoSight粒子解析により,ケール由来ELNsの粒子径は一般的なエクソソームと同程度のサイズであった.ケール由来ELNsを正常ヒト皮膚線維芽細胞に添加したところ,I型コラーゲンの遺伝子発現は顕著に増加した.コラーゲン産生にはTGF-β/Smadシグナル経路の関与が報告されている.ケール由来ELNsはNB1RGB細胞において,転写因子であるSmad3のリン酸化を亢進させた.TGF-β/Smadシグナル経路はTGF-βが受容体に結合することによって活性化される.28細胞質においては,Smad2とSmad3が二量体の形で存在し,シグナル伝達により,これらはリン酸化される.リン酸化されたSmad2とSmad3は,Smad4と結合して三量体を形成し,その後核内に移行してCOL1A1などの遺伝子の発現を誘導する.一方,Smad7はSmad2及びSmad3のリン酸化を阻害し,TGF-β/Smadシグナル経路を抑制的に制御する.29なお,miRNAは標的mRNAに結合することで,その遺伝子発現を抑制することでタンパク質の発現を阻害する.したがって,ケール由来ELNsに含まれるmiRNAがI型コラーゲン産生に関与するTGF-β/Smadシグナル経路の抑制因子であるSmad7を阻害することが示唆された(Fig. 2).このmiRNAは標的となるSmad7のmRNAの比翻訳領域(untranslated region: UTR)に塩基相補的(又は部分相補的)に結合し,翻訳の抑制又はmRNA分解により,Smad7タンパク質の発現を低下させると考えられる.

Fig. 2. Proposal Mechanism of Collagen Production Enhancement by Exosome-like Nanoparticles Isolated from Glucoraphanin-enriched Kale (GELNs)

皮膚の弾力性には,コラーゲンだけでなく,ヒアルロン酸やエラスチンといったほかの細胞外マトリックスも深く関与している.ケール由来ELNsから単離したTotal RNAをNB1RGB細胞にトランスフェクションし,DNAマイクロアレイ解析を行って遺伝子発現を網羅的に解析したところ,コラーゲン形成関連遺伝子群だけでなく,細胞外マトリックス形成に関与する多数の遺伝子群の発現も増加することが確認された.I型コラーゲンに加えて,IV型及びV型コラーゲン,エラスチン,ヒアルロン酸の合成酵素,及びヒアルロン酸結合因子,更にTGF-β1の発現が増加することが明らかになった.IV型及びV型コラーゲンは皮膚の基底膜の構造を安定化し,エラスチンは皮膚の柔軟性と弾性を担う.30ヒアルロン酸は保水力が高く,肌の保湿を維持し,弾力性を促進する.また,ヒアルロン酸結合因子はヒアルロン酸と結合して細胞外マトリックスを強化する.TGF-β1はこれらの成分の生成と修復を調節し,皮膚の健康維持において重要な役割を果たす.したがって,ケール由来ELNsの皮膚アンチエイジング効果はI型コラーゲン合成に限定されるものではなく,細胞外マトリックスの構成因子にも影響を与えることが示唆された.これらの効果にはELNsに内包されるRNAが関与していると推測される.

5. おわりに

本稿では,ケール摂取が老化促進モデルマウスの皮膚に及ぼすアンチエイジング効果について説明し,更にケール中のELNsがその効果に関与していることについて,われわれの最近の研究成果を踏まえて紹介した.経口摂取した食品中の機能性成分が皮膚に効果をもたらす際には,腸内細菌やその代謝産物を介して間接的に作用することもあれば,直接的に作用することも考えられる.しかし,生体内の代謝過程を考慮すると,直接的な作用を期待するよりも,機能性成分が何かしらの運び屋によって輸送されると考える方が合理的であると考える.植物由来ELNsは安定性が高いため,天然の輸送体として利用できる可能性を秘める.標的臓器に移行するELNsを植物から特定できれば,治療薬や治療効果をもたらすmiRNAを内包させることで,ドラックデリバリーシステムとしての利用が期待される.今後,新たな知見が集積されることで,植物由来ELNsの皮膚アンチエイジング作用に関する詳細な分子機構が明らかになり,その応用が可能になることが期待される.

謝辞

本研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成金「官民による若手研究者発掘支援事業」の支援とヤクルトヘルスフーズ株式会社の研究助成を受けて実施されました.本研究に携わった信州大学農学部食品化学研究室の大学院生及び学部学生の皆様に,心より感謝申し上げます.

利益相反

品種改良ケール(GEK)はヤクルトヘルスフーズ株式会社から提供され,同社から研究助成金を受領した.

Notes

本総説は,日本薬学会第144年会シンポジウムS02で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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