2025 Volume 145 Issue 1 Pages 15-16
近年の医療の発展にともなって,わが国を始め,世界各国で平均寿命が延伸している.1)その一方で,自立した生活を送れる期間である「健康寿命」は,わが国を含む世界各国で平均寿命に比較して約10年短いのが現状である.2)そのため,国民の健康増進はもとより,医療費の抑制という観点からも,健康寿命を延伸させ,平均寿命との差を縮めていくことが喫緊の課題となっている.健康寿命を延伸させる方策としては,①疾患を治癒させて,健康を回復させる手法や,②疾患に罹ることを予防し,健康を維持させる手法が考えられる.しかし,現代の新薬開発は難化しており,1つの医薬品を創出するにも,莫大な資金と労力が必要であることから,日常生活から健康を保つことに注目が集まっている.様々な健康維持法の中でも,保健機能食品を始めとした機能性食品の活用は,日常から口にすることができ,誰もが簡単に長く続けられる手法として期待されている.そのため,保健機能食品の市場は拡大の一途を辿っている.実際,消費者庁に届出することによって事業者責任で食品機能を表示可能な「機能性表示食品」としては,2024年7月19日現在で,8591件の届出があり,2015年に始まった制度であるため,平均で年1000件にも迫っている.3)しかし,届出された機能性表示食品を眺めてみると,たった上位5成分だけで全体の4割弱を占めており,3)機能と安全性が担保された成分を使い回している傾向にある(詳細は,山下琢矢氏執筆の稿17–22ページを参照).そのため,このままでは,様々な体の不具合に対応することは困難で,健康寿命の延伸は限局化されてしまう.この要因としては,食品は医薬品とは異なり,安価でニーズのターンオーバーも早いため,新規成分の同定から,存在しえないゼロリスクを追求したうえで,承認・製品化に至らせること自体が困難なことがあげられる.したがって,今後,様々な体の不具合に対応するためには,多種多様な成分を取り揃える必要があり,安全で高品質な機能性食品を効率よく開発するための戦略基盤が必要である.本目的を達成するためには,薬学のみでは達成し得ず,薬学の範疇を超えた学際研究が重要視されている.とりわけ,わが国の機能性食品の研究や法制度については,1984年に発足した特定研究「食品機能の系統的解析と展開(代表者:藤巻正生氏)」によって,栄養機能を1次機能,感覚機能を2次機能,体調調節機能を3次機能と規定し,3次機能を有する食品を機能性食品として,世界で初めて日本で定義されるなど,農学分野の貢献は大きい.そこで,次世代保健機能食品開発に係わる農学と薬学の先生方に,今後の開発のあり方などについて,本誌上シンポジウムに執筆をお願いした.
具体的には,最初に,山下琢矢氏(和歌山県立医科大学薬学部)には,香料が秘める次世代機能性食品としての潜在性について,中性脂肪の低下機能に焦点をあてて,論じて頂いた.また,井上 順氏(東京農業大学応用生物科学部)には,機能性を持つ食品由来成分の探索と農産物の付加価値向上について,その分子機序を含めて記述頂いた.さらに,片山 茂氏(信州大学大学院総合理工学研究科)には,ケール由来エクソソーム様ナノ粒子について,皮膚アンチエイジング効果への影響を紹介頂いた.最後に,中川晋作(大阪大学大学院薬学研究科)からは,独自開発した非晶質β-カロテンについて,その体内動態と安全性から総合的に有用性を評価した.
以上,各稿で紹介させて頂いた機能性食品研究が,最終的に,次世代の保健機能食品の開発の一助となることを願っている.
日本薬学会第144年会シンポジウムS02序文