YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
Basic and Clinical Research on Placental Function for Drug Development Research
Kazuma Higashisaka Mikihiro Yoshie
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2025 Volume 145 Issue 1 Pages 41-42

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近年,低出生体重児や早産の母体などが飛躍的に増加し,少子高齢社会の大きな問題となっている.とりわけ,日本における全体の出生数に占める低出生体重児の割合は,先進国の中でも際立って増加している.さらに,Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)仮説(胎児期や生後直後の健康・栄養状態が,成人になってからの健康に影響を及ぼすという考え方)にて警鐘が鳴らされているように,これら低出生体重児の将来的な健康リスク(精神疾患や生活習慣病の発症リスク)が懸念されている.したがって,わが国の将来を担う子供の健康をみつめ,将来的な健康リスクの早期発見・予防を講じるためには,その大きな要因として疫学的にも示されている「胎児期における発育や環境改善」を図り,発症させないことが重要となる.

発生過程において,胎児は母体から独立して存在するのではなく,胎児の器官が形成される時期から出産までを,胎盤を介して母体と共存する.この胎盤は,胎児発育のためのトランスポーターを介した栄養素輸送・異物排泄や妊娠維持のためのホルモン産生,生体外異物からの胎児保護のための胎盤関門形成を担うなど,妊娠の成立・維持,胎児の健やかな成長には,胎盤の正常な維持と発達が不可欠である.そのため,胎盤は胎児にとって出産までの仮の臓器として重要であり,胎児の器官形成期に重要な役割を果たす胎盤に障害が生じれば,胎児へ悪影響がおよぶことは想像に難くない.実際に,胎盤形成不全や胎盤機能異常は,妊娠高血圧症候群や胎児発育不全につながるだけではなく,将来的な疾患リスクになることが示唆されている.しかし,次世代の健康に影響をおよぼす胎盤機能異常の評価,胎盤形成メカニズムの理解はいまだ十分には進んでいない.

そこで本シンポジウムでは,(1)胎盤機能不全とその異常がもたらす病態の解明・治療戦略の開発に向けた基礎的・臨床的研究,(2)胎児環境の制御に働く胎盤透過機能や胎盤形成の理解に資する研究,(3)胎盤毒性の観点からみた生体外異物の健康影響評価に関する研究についてその最新トピックを講演頂き,胎盤を通じた次世代の健康確保・増進について議論した.東京薬科大学の恩田健二博士には「妊娠高血圧腎症における抗酸化ストレス分子を標的とした既存薬の橋渡し研究」と題して,プロトンポンプ阻害剤による妊娠高血圧腎症の予防又は治療の可能性ついて発表頂いた.さらに,本稿の共著者である吉江からは「胎盤における絨毛栄養膜細胞の分化・融合,微絨毛形成の役割とその評価モデルの応用」と題して,胎盤形成機構と妊娠関連疾患の病態解明,定量的な栄養膜の細胞融合システムやマイクロ流体デバイスを用いた絨毛形成を活用した胎盤機能評価とその将来展望について紹介した.そして,奥羽大学の櫻井敏博博士には「妊娠初期の漢方薬(生薬)服用による妊娠及び胎盤形成への影響」と題し,漢方薬の妊婦への適正な使用に向けた安全性評価研究の成果と,漢方薬が妊娠・胎盤形成に及ぼす影響に関する既存の知見について統括的に紹介頂いた.なお,本誌上では以上の3名の先生に寄稿頂いたが,そのほかにも富山大学の中島彰俊博士には,妊娠高血圧腎症の新規治療法開発を目指した,胎盤形成におけるオートファジーの役割について,慶應義塾大学の登美斉俊博士には,胎盤関門における薬物輸送体の動物種差と薬物の胎児移行性におよぼす影響について紹介頂き,最後に,大阪大学の東阪からは化学物質曝露に起因した有害妊娠転帰の発症機序解明に向けた,化学物質による胎盤での毒性発現とその機序解明について発表した.シンポジウム全体としては,参加者から多くの質問やコメントがあり,非常に有意義なシンポジウムになったと確信している.

謝辞

日本薬学会第144年会におけるシンポジウム講演,並びに,本誌上シンポジウムの執筆という貴重な機会を与えて下さいました日本薬学会第144年会組織委員会並びに関係者各位,ご快諾下さいましたシンポジストの先生方にこの場を借りて心より御礼申し上げます.

Notes

日本薬学会第144年会シンポジウムS33序文

 
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