2025 Volume 145 Issue 10 Pages 801-807
In cancer drug therapy involving anti-epidermal growth factor receptor (EGFR) antibody drugs, skin disorders such as acneiform rash are frequently observed and often progress to severe forms, resulting in treatment discontinuation. The severity of these skin disorders has been reported to correlate with therapeutic efficacy. Therefore, appropriate management is essential to avoid interruption of treatment due to severe dermatological toxicity. Identifying patients at risk of developing serious skin disorders at the start of anti-EGFR antibody drug therapy is necessary to enable prophylactic or early intervention. However, risk factors for skin disorders induced by anti-EGFR antibody drugs remain poorly understood, and predicting the severity of these conditions is challenging. This review highlights findings from retrospective and prospective observational studies conducted to predict the severity of skin disorders associated with anti-EGFR antibody drugs.
近年,がん薬物療法は分子標的薬の登場により飛躍的な発展を遂げ,分子標的薬を用いたがん薬物療法が,各種がん領域における標準治療のひとつとして位置づけられており,がん患者の生存期間の延長に大きく寄与している.1,2)分子標的薬はがん細胞の増殖に係わる特定の分子を標的とすることで,従来の殺細胞性抗がん剤では認められなかった新たな副作用が発現するようになった.
一方,がん薬物療法を受けている患者の苦痛度に変化が見られ,1990年代までの調査では悪心・嘔吐が常に患者苦痛度の上位を占めていた.3,4)しかしながら,2002年のCarelleらの調査では,5-HT3受容体拮抗薬やニューロキニン-1受容体拮抗薬の登場,並びに制吐薬ガイドラインの策定により悪心嘔吐対策が確立されたことで,これまでに問題となっていた悪心・嘔吐に代わり,家族やパートナー,社会への影響等の精神的・社会的な不安が患者苦痛度の上位となった.5)さらに,2013年のNozawaらの調査では,がん薬物療法は入院から外来への治療にシフトし,仕事を行いながら治療することが多くなった等の環境変化により,脱毛,むくみ,湿疹等の外からみられる身体症状が新たな患者苦痛度の上位となり,6)これらの外見に影響を及ぼすがん薬物療法への副作用対策が課題となっている.
分子標的薬の中で,上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)を標的とする抗EGFR抗体薬を用いたがん薬物療法では,EGFRが正常な皮膚にも発現しているため,ざ瘡様皮疹や爪囲炎,皮膚乾燥等の皮膚障害が高頻度で認められる.7,8)これらの抗EGFR抗体薬による皮膚障害は,外見的な変化に伴う心理的な苦痛のみならず,患者QOLにも影響を及ぼすとの報告がある.9)実際,臨床現場において抗EGFR抗体薬を用いたがん薬物療法を受けている患者の中で,特に,女性患者あるいは対人関係の仕事を行いながら治療を受けている患者では,皮膚障害に対する不安が強く,外見に現れる皮膚障害が治療の妨げとなり,治療延期や変更を余儀なくされる場合がある.一方,抗EGFR抗体薬に起因する皮膚障害のgradeと治療効果が相関するとの報告があることから,1,2)皮膚障害が重篤となって治療が中止にならないように適切にマネジメントすることが極めて重要である.そのためには,抗EGFR抗体薬の投与開始時に皮膚障害が重篤となる可能性のある患者をあらかじめ予測し,予防的な,あるいは早期からの副作用対策が望まれる.しかしながら,抗EGFR抗体薬に起因する皮膚障害に影響を及ぼす要因に関する報告は限られており,皮膚障害重篤化を予測することは難しいのが現状である.こうした背景を踏まえて,筆者は抗EGFR抗体薬の初回投与患者を対象として,これまでに以下の臨床研究を行ってきた.
初めに,抗EGFR抗体薬に起因する皮膚障害に影響を及ぼすリスク因子を同定し,皮膚障害の重篤化を回避する方法について後方視的に検討した.次に,リスク因子として同定された要因が生存率に及ぼす影響について後方視的に検討を行った.また,抗EGFR抗体薬の休薬・減量・中止が治療継続率に及ぼす影響についても検討した.さらに,抗EGFR抗体薬投与患者の皮膚状態を継続的に定量評価し,皮膚状態が皮膚障害のコントロールマーカーとして使用できるか前方視的に検討を行った.
本総説では,これらの研究で得られた知見を中心に論述する.
筆者は,初めて抗EGFR抗体薬が投与された患者を対象として,Fig. 1に示す方法で後ろ向き観察研究を行った.
Target patients, survey items, study design, exclusion criteria, and primary endpoint are presented.
初めに,抗EGFR抗体薬に起因する皮膚障害に影響を及ぼすリスク因子について解析した.その結果,男性及び身長や体重の大きい患者では重篤な皮膚障害で休薬・減量・中止となる患者が多く,これらの要因について多変量解析を行ったところ,体重がざ瘡様皮疹による休薬・減量・中止に影響を及ぼすリスク因子として同定された.10)これらの結果は,高体重の患者では,抗EGFR抗体薬を用いたがん薬物療法において皮膚障害が重篤化し,休薬・減量・中止となる可能性が高いことを示唆している.
ざ瘡様皮疹とそのリスク因子との関連性について,EGFRに作用する薬剤では以下の報告がある.抗EGFR抗体薬であるセツキシマブによるがん薬物療法を受けた大腸がん患者において,男性又は若年がgrade 2–3のざ瘡様皮疹のリスク因子となることが報告されている.11)一方,EGFR阻害薬によるざ瘡様皮疹がアンドロゲンによって調節されるとの報告がある.12)さらに,EGFR阻害薬であるエルロチニブあるいはゲフィチニブが投与された非小細胞肺がん患者において,ざ瘡様皮疹が発現した患者は,発現しなかった患者よりも投与前の皮脂量が高い傾向がみられ,各評価時点での皮脂量については有意に高い値を示したとの報告がある.13)したがって,筆者の研究10)において男性の方が女性よりも休薬・減量・中止となった患者の割合が多かった理由として,男性ホルモンによる影響が考えられ,抗EGFR抗体薬によって男性ホルモンの分泌が調節され,その結果,皮脂の分泌が促進されてざ瘡様皮疹が発現した可能性がある.一方,筆者の研究10)において,体重がざ瘡様皮疹のリスク因子として同定されたが,これまでに体重とEGFRに作用する薬剤によるざ瘡様皮疹との関連性を示した報告はない.高体重が重篤な皮膚障害のリスク因子となる理由については以下のように考えられる.Body mass index(BMI)が高い患者では,経皮水分蒸散量(transepidermal water loss: TEWL)が高い値を示すとの報告がある.14) TEWLは皮膚バリア機能の指標とされており,15)皮膚が損傷すると損傷部位からの水分喪失が増加するため,TEWLが高い値を示す.体重が大きくなるとBMIの値も大きくなるため,筆者の研究10)での高体重の患者ではBMIの値が大きく,皮膚バリア機能の低下によって,抗EGFR抗体薬による皮膚障害の影響を受け易くなった可能性がある.体重とBMIは互いに関連性が高く,多変量解析を行う際に多重共線性を起こす可能性があるため,筆者の研究10)ではBMIについては一緒に解析することができなかった.BMIがリスク因子となるかどうかは,今後詳細な検討が必要である.
次に,筆者は,抗EGFR抗体薬による皮膚障害重篤化の回避方法として,ミノサイクリンの予防投与と治療投与での開始時期による効果の違いについて検討した.その結果,ミノサイクリンの予防投与を行った患者は,行わなかった患者よりもざ瘡様皮疹のgradeが有意に低かった.10)また,ざ瘡様皮疹の程度がgrade 1の段階でミノサイクリンの投与を開始した患者では,grade 2の段階で開始した患者に比べて,休薬・減量・中止となった患者の割合が少なかった.10)これらの結果は,ミノサイクリンの予防投与により,抗EGFR抗体薬による皮膚障害を軽減させる可能性を示唆している.また,ミノサイクリンをざ瘡様皮疹発現後に治療的に使用する場合には,皮疹が悪化する前から早めに投与することで休薬・減量・中止を回避できる可能性が示唆される.
これまでに抗EGFR抗体薬によるざ瘡様皮疹に対して,ミノサイクリンの予防投与が皮膚障害の重篤化を軽減するとの報告があり,16)筆者の研究でも同様の結果が得られている.10)ミノサイクリンのざ瘡様皮疹に対する効果は,抗菌薬としての作用とともに,抗炎症作用によるものとされている.17)一方,予防的効果の検討とは対照的に,ミノサイクリンの治療的効果に関する無作為化比較試験は存在せず,開始時期についても詳細な検討は行われていないが,筆者の研究10)の結果から,抗EGFR抗体薬によるざ瘡様皮疹対策としてミノサイクリンを治療的に使用する場合には重篤化する前から早めに投与した方がより効果的であることが示唆される.しかしながら,後ろ向き観察研究の結果であるため,今後,前向き研究等での検討が必要であると考えられる.
以上の結果から,高体重の患者に対して,抗EGFR抗体薬を用いたがん薬物療法を行う際には,ミノサイクリンを予防的に投与することで重篤化を回避できると考えられる.
筆者は,初めて抗EGFR抗体薬が投与された患者を対象として,Fig. 2に示す方法で後ろ向き観察研究を行った.初めに,先の筆者の研究10)でざ瘡様皮疹のリスク因子として同定された体重が生存率に及ぼす影響について検討した.その結果,高体重の患者は,低体重の患者に比べて生存期間が有意に長く,また,ざ瘡様皮疹のgradeが有意に高かった.18)抗EGFR抗体薬によるざ瘡様皮疹のgradeと生存率との関連性について,ざ瘡様皮疹のgradeが高いほど,生存率が高くなることが報告されている.1,2)したがって,筆者の研究18)において,高体重の患者で生存期間が長くなった理由のひとつとして,生命予後の指標となる抗EGFR抗体薬に起因するざ瘡様皮疹が発現し易かったことが影響している可能性がある.一方,低体重自体が生命予後に影響を与える可能性も否定できないため,今後詳細な検討が必要であるかもしれない.
Target patients, survey items, study design, exclusion criteria, and primary endpoint are presented.
次に,筆者は,抗EGFR抗体薬の休薬・減量・中止が治療継続率に及ぼす影響について検討した.その結果,「休薬又は減量あり」,「休薬・減量・中止なし」,「中止あり」の順で治療継続期間が長かった.18)また,患者背景の比較において,「休薬又は減量あり」と「中止あり」の患者は,「休薬・減量・中止なし」の患者に比べて,体重がいずれも有意に大きかった.18)これらの結果は,「休薬又は減量あり」と「中止あり」の患者は,いずれも高体重であることから重篤なざ瘡様皮疹を発現する可能性があり,皮膚症状をコントロールできなければ治療が中止に至り易く,結果として治療継続期間が短くなる可能性を示唆している.一方,休薬あるいは減量により皮膚症状をコントロールできれば治療中止を回避することができ,結果として治療継続期間が長くなる可能性が示唆される.
この研究の対象である治癒切除不能な進行あるいは再発の大腸がん患者に対する標準治療として,抗EGFR抗体薬以外には,抗血管内皮増殖因子抗体薬であるベバシズマブ19,20)やマルチキナーゼ阻害薬であるレゴラフェニブ21)等がある.レゴラフェニブで起こる特徴的な副作用として手足皮膚反応があり,レゴラフェニブによる手足皮膚反応のgradeと生存期間との関連性22,23)あるいは生存期間に影響を及ぼす予後因子23)について,以下の報告がある.レゴラフェニブが投与された大腸がん患者を対象としたフェーズIIb試験において,grade 2以上の手足皮膚反応を発現した患者は,grade 0–1の患者に比べて,生存期間が長いことが報告されている.22)また,大腸がん患者を対象としたレゴラフェニブの大規模前向き試験において,生存期間の延長が早期の手足皮膚反応や良好なperformance status(PS)と関連することが報告されており,その理由として良好なPSの患者ではウォーキング等の活発なライフスタイルによって手足皮膚反応が発現し,それが生存期間に影響しているのではないかと考察されている.23)また,その論文の中で体表面積が大きいこと(1.6 m2以上)も生存期間に影響を及ぼす予後因子のひとつとして同定されているが,この点に関する考察はされていない.筆者の研究18)では,抗EGFR抗体薬以降のがん薬物療法の影響について検討することができなかったことから,今後はより詳細な検討が必要である.
以上の結果から,高体重の患者に対して,抗EGFR抗体薬を用いたがん薬物療法を行う際には,ざ瘡様皮疹の発現について注意深く観察し,治療を継続させるためには適切なタイミングでの休薬や減量が有効であることが示唆される.また,休薬や減量により治療の中止を回避することができれば,生存期間の延長につながる可能性が考えられる.
筆者は,初めて抗EGFR抗体薬が投与される患者を対象として,Fig. 3に示す方法で前向き観察研究を行った.この研究では全症例が抗EGFR抗体薬としてパニツムマブを使用していた.抗EGFR抗体薬の投与による皮膚状態の変化について,これまでにセツキシマブによる報告はあるものの,24)パニツムマブによる報告はない.重篤な皮膚障害の発生予防は,保湿と清潔を中心としたスキンケアが基本となり,治療前からの皮膚バリア機能の維持が必要である.そこで,皮膚バリア機能維持に重要な天然保湿因子,皮脂,角質間脂質の状態について,TEWL,角質水分量,皮脂量をコントロールマーカーとして継続的に定量評価し,皮膚状態が皮膚障害のコントロールマーカーとして使用できるか検討した.
Target patients, consent and enrollment, endpoints and evaluation period, study design, exclusion criteria, and primary endpoint are presented.
初めに,筆者は,抗EGFR抗体薬投与後の各患者における皮膚状態(TEWL,角質水分量,皮脂量)を経時的に測定し,抗EGFR抗体薬投与に伴う皮膚状態の変化について観察した.その結果,顔・胸・背中のTEWLは,初回投与時に比べて投与6週目においていずれも有意に高い値を示した.25)一方,顔・胸・背中の角質水分量は,初回投与時に比べて投与6週目においていずれも有意に低い値を示した.25)皮脂量については,初回投与時に比べて,いずれの時点でも有意な差は認められなかった.25)ゲフィチニブが投与された非小細胞肺がん患者11名において,TEWLは通常に比べ,より高い値を示したとの報告があり,26)筆者の研究の抗EGFR抗体薬でも同様の結果が得られている.25) TEWLは皮膚バリア機能の指標とされており,15)皮膚が損傷すると損傷部位からの水分喪失が増加するため,TEWLが高い値を示す.したがって,抗EGFR抗体薬の投与により皮膚バリア機能が低下することを示唆している.
次に,筆者は,ざ瘡様皮疹のgradeに基づき分類した各群について,皮膚障害と皮膚状態(TEWL,角質水分量,皮脂量)との関連性について検討した.その結果,grade 2以上の患者では,grade 1以下の患者に比べて,顔(投与2週目)・胸(初回投与時,投与2週目,投与6週目)・背中(投与2週目)のTEWLはいずれも有意に高い値を示した.25)一方,角質水分量と皮脂量についてはいずれの時点でも2群間に有意な差は認められなかった.25) TEWLの比較において4週目以降で差が出難かった理由は,抗EGFR抗体薬の投与とともに角質水分量の低下が認められ,結果として蒸散する水分が少なくなったためと考えられる.なお,grade 2以上に分類された患者2名は,投与2週目まではいずれもgrade 0–1で推移していたが,4週目以降にgrade 2以上となった.25)これらの結果は,抗EGFR抗体薬の投与2週目にTEWLが高い患者では,皮膚障害が重篤化する可能性が高いことを示唆している.エルロチニブあるいはアファチニブが投与された非小細胞肺がん患者において,grade 2以上のざ瘡様皮疹を発現した患者は,grade 1以下の患者に比べて,TEWLが有意に高い値を示したとの報告があり,24)筆者の研究の抗EGFR抗体薬でも同様の結果が得られている.25)一方,皮膚障害と角質水分量又は皮脂量との関連性について以下の報告がある.セツキシマブによるがん薬物療法を受けた大腸がん患者において,grade 2以上のざ瘡様皮疹を発現した患者は,grade 1以下の患者に比べて,頬の角質水分量が有意に低い値を示したとの報告がある.24)筆者の研究においては有意差が認められなかったものの,grade 2以上の患者では,grade 1以下の患者に比べて,投与6週目での顔・胸・上腕・背中の角質水分量が少ない傾向がみられた.25)一方,エルロチニブあるいはゲフィチニブが投与された非小細胞肺がん患者8名において,ざ瘡様皮疹が発現した患者は,発現しなかった患者よりも各評価時点での皮脂量が有意に高い値を示したとの報告がある.13)筆者の研究においては有意差が認められなかったものの,grade 2以上の患者では,grade 1以下の患者に比べて,投与2週目での顔と胸の皮脂量が多い傾向がみられた.25)
以上の結果から,TEWLが抗EGFR抗体薬によるざ瘡様皮疹のコントロールマーカーとして使用できる可能性が示唆される.特に,抗EGFR抗体薬の投与2週目にTEWLが高い患者では,皮膚障害が重篤化する可能性があるため,ざ瘡様皮疹の発現について注意深く観察し,皮膚障害対策の強化が必要であると考えられる.
臨床への応用抗EGFR抗体薬による皮膚障害対策として,J-STEPP試験では保湿剤とステロイド外用剤,ミノサイクリン経口薬の予防投与により,重篤な皮膚障害の発現頻度が低下することが報告されている.27)しかしながら,ステロイド外用剤による皮膚萎縮等の副作用を懸念して,臨床現場ではステロイド外用剤の予防投与はほとんど行われていない.本研究により明らかとなった皮膚障害の重篤化が予想される高体重の患者あるいは投与2週目にTEWLが高い患者に限定して,J-STEPP試験による副作用対策を予防的にあるいは早期から適用することで,皮膚障害のコントロールが可能になると考えられる.その結果,治療の完遂,患者QOLの向上,更には生存期間の延長につながるものと考えられる.
本研究は,JSPS科研費JP19K16419の助成を受けたものです.本研究を行うにあたり多大なる御指導・御鞭撻を賜りました工藤賢三先生(岩手医科大学薬学部臨床薬学講座臨床薬剤学分野教授/岩手医科大学附属病院薬剤部薬剤部長),並びに附属病院薬剤部や化学療法センターのスタッフの皆様に深く御礼申し上げます.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,2024年度日本薬学会東北支部奨励賞の受賞を記念して記述したものである.