YAKUGAKU ZASSHI
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Clinical Pharmacological Research Aiming to Optimize Therapeutic Strategies in Specific Populations
Ryota Tanaka
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2025 Volume 145 Issue 10 Pages 843-847

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Summary

In the field of drug development, pharmacokinetic studies primarily focus on adult and pediatric populations, resulting in limited pharmacokinetic data for specific populations such as neonates, pregnant women, and critically ill patients. Optimizing drug therapy for these populations requires dosing strategies that are personalized for individual patients, and are based on pharmacokinetic/pharmacodynamic analyses and therapeutic drug monitoring. In our study of patients admitted to intensive care unit (ICU), the pharmacokinetic parameters of doripenem differed from those in non-ICU patients, with higher pharmacokinetic/pharmacodynamic breakpoints in ICU patients. Population pharmacokinetic modeling of doripenem revealed that prolonged infusion for 4 h was necessary for critically ill patients undergoing continuous renal replacement therapy. In patients with hematological malignancies, inflammatory markers such as C-reactive protein (CRP) significantly affected the intra-individual pharmacokinetic variability of voriconazole, highlighting the need for dose titration according to CRP levels. Furthermore, febrile neutropenia (FN) significantly increased vancomycin clearance in children, requiring higher daily doses than in children without FN. In contrast, augmented renal clearance, but not FN, significantly affected teicoplanin clearance in adults. Physiologically based pharmacokinetic modeling of sublingual buprenorphine facilitated prediction of drug exposure in pregnant women and their fetuses. Post hoc optimization of sublingual absorption using concentrations observed in the mothers markedly improved prediction of fetal exposure. These findings underscore the importance of personalized pharmacokinetic assessments to improve individualized therapeutic strategies in specific populations, and to aim for optimizing efficacy while minimizing adverse effects. Future research integrating mathematical modeling and simulation techniques is expected to improve dosing precision.

1. はじめに

すべての医薬品には添付文書上で用法用量が定められているが,臨床開発段階で薬物動態(pharmacokinetic: PK)試験の対象となるのは基本的には成人や高齢者,幼児以上であり,超高齢者や乳児,新生児,妊婦が対象となることは少ない.また,臓器移植や,手術侵襲,敗血症や発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)といった,生理機能や代謝機能が変化する特殊病態時においては一般集団とは異なるPKや薬物感受性(pharmacodynamic: PD)を示すことが指摘されている.13さらに,これらの病態に対して持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy: CRRT)や体外式膜型人工肺などの特殊な治療法が施行されると薬物のPKは更に複雑になる.2,3これらの集団に対して最適な薬物療法を実践するためには,それぞれの集団においてPKが変化する要因を把握し,それらの要因を考慮した投与量設定が重要となってくる.また,抗微生物薬を中心に,薬物の治療効果を最大限に引き出すためには,PK/PD理論に基づいた投与設計やtherapeutic drug monitoring(TDM)による用量調節が重要となる.筆者はこれまでに,それらの特殊集団における医薬品の個別化医療を実現するために,様々な課題に着手してきたため,本稿ではその研究成果を概説する.

2. 集中治療部(intensive care unit: ICU)入室患者を対象としたドリペネムの個別化医療に関する研究

ICUでは特殊な患者背景かつ特殊病態を有する患者が多いのが特徴である.特に重症患者の場合,人工呼吸器や血管内カテーテルなどの侵襲的な診断・治療デバイスの多用に加え,身体状態が悪化しているため重篤な感染症を発症するリスクが高い.1カルバペネム系抗菌薬の一つであるドリペネムは幅広い抗菌スペクトルを有しており,ICU患者では敗血症などの重症感染症時に使用されることがある.4しかし,水溶性薬物であるため,重症感染症時にsystemic inflammatory response syndrome(SIRS)に至ると血管透過性の亢進により分布容積は増加し,腎血流量の上昇により腎clearance(CL)が亢進する可能性がある.その一方で,急性腎障害を発症すると逆に腎CLは低下する恐れがある.筆者らはICU患者12例を対象に,ドリペネム投与後1, 2, 4, 6, 8時間の血中濃度データと母集団PK(population PK: popPK)モデルを用いてPK解析を実施したところ,ベイズ推定後のCLは推定前と比較し低下する一方で,分布容積は増加することを確認した.また,モンテカルロシミュレーションを実施し,Cockcroft–Gault式によるestimated creatinine CL(eCCr)別の高用量レジメンと標準用量レジメンにおいて,有効性の指標である40%time above minimum inhibitory concentration(MIC)5を90%達成する最小のMICで定義したPK/PDブレイクポイントを算出したところ,ICU患者におけるPK/PDブレイクポイントは,過去の非ICU患者を対象とした研究6よりも高値を示すことを明らかとした.7これは重症患者における分布容積の増大によりピーク濃度が低下する一方で,acute kidney injury(AKI)の発現頻度が高いICU患者の場合,eCCrでは腎機能を過大評価することでトラフ濃度が高くなり,8有効性の指標であるtime above MICが高値を示した可能性が考えられた.それに伴いPK/PDブレイクポイントも非ICU患者と比較し高値を示した可能性が推察された.

このようにICU患者におけるドリペネムのPKは非ICU患者とは異なるため,その最適な用法用量を決定するためには独自のpopPKモデルを活用することが望ましい.また,重症感染症時にはSIRSやAKIに対してCRRTが施行される頻度が高く,分布容積が小さくタンパク結合率も低いドリペネムはCRRTにより除去される可能性がある.9そのため次に,ICU患者21症例,うちCRRT施行9例を対象にドリペネムのpopPKモデルを開発し,CRRT施行時と非施行時における最適な用法用量の確立を試みた.NONMEMを用いてBase modelを検討したところ,ΔOFVが有意に低下したことから2-compartment modelの中心compartmentに濾液流量と遊離型分率で示した腎外CLを追加したモデルをBase modelとした.次に,変数増減法を用いて共変量を検討した結果,体CLにeCCrを組み込んだモデルをFinal modelとした.バリデーションにより構築したモデルの信頼性とパラメータの頑健性を検証した後,モンテカルロシミュレーションを実施した結果,40%time above MICについてはCRRTの有無にかかわらず1日3回の用法用量でMICが2 µg/mLの菌[The European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)の緑膿菌に対するブレイクポイント]に対して有効性が期待できる一方で,重症患者で推奨されている100%time above MICを達成するためには4時間のprolonged infusionを検討する必要があることが示唆された.10

3. 血液悪性腫瘍(hematological malignancy: HM)患者を対象とした抗真菌薬のPKに関する研究

HM患者はその治療法により易感染性の宿主が多く,深在性真菌症予防目的に抗真菌薬であるボリコナゾールがしばしば使用される.ボリコナゾールは個体内・個体間変動の大きな薬剤であり,剤形,肝機能,年齢,体重,遺伝子多型や併用薬など様々な因子が影響を与えることが報告されているが,近年特に着目されている因子に「炎症」がある.11,12炎症時に発現が亢進するinterleukin-6(IL-6)やtumor necrosis factor(TNF)-αなどの炎症性サイトカインは,CYP3AやCYP2C19などの薬物代謝酵素の発現を低下させることが報告されている.13そのため,感染により炎症性サイトカインの発現が亢進すると,ボリコナゾールの代謝が阻害され血中濃度が高値を示す可能性が考えられる.一方,HM患者では抗菌治療の成功や造血幹細胞移植後の定着など,炎症反応を低下させる要因も多数存在する.そこで筆者らは,ボリコナゾールの個体「内」変動に影響を与える因子として炎症反応(C-reactive protein: CRP値)が同定されるかほかの因子と比較検討した.対象は深在性真菌症予防目的にボリコナゾール内服薬が投与され,TDMが複数回実施されたHM患者42例とした.全228ポイントのトラフ値と同日の臨床検査値を用い,それぞれの変化量(Δ臨床検査値)と投与量当たりのトラフ濃度(C/D)の変化量(ΔC/D)との相関性を検討した結果,ΔC/DとΔCRPとの間には有意な正の相関性が確認された.14また,重回帰分析の結果,ΔC/Dに影響を与える有意な因子として,ΔCRPとΔγ-glutamyl transpeptidase(GTP)が同定され,その寄与率はΔCRPの方が顕著に高値を示した.以上より,HM患者にボリコナゾールを使用する際は,CRP値の変動に応じたTDMの提案及び用法用量の再設定が必要であることが示唆された.

一方,HM患者に対してはボリコナゾール以外のアゾール系抗真菌薬(フルコナゾール,イトラコナゾール,ポサコナゾール,イサブコナゾール)も使用され,ボリコナゾールを含む5剤とイトラコナゾールの活性代謝物であるヒドロキシイトラコナゾールは,粘膜障害の有無や相互作用,食事の影響などによりPKの個体間変動が大きい可能性が示唆されている.それらを確認する目的で,超高速高分離液体クロマトグラフ–タンデム型質量分析を用いたハイスループットかつ高感度な6成分の同時定量法を確立し臨床適応性を確認したところ,HM患者におけるアゾール系抗真菌薬の個体間変動は大きいことを明らかとした.15

4. FNやaugmented renal CL(ARC)の有無が抗methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)薬のPKに与える影響の評価

好中球数が500/µL以下に減少した際に生じた腋窩体温37.5°C以上の発熱はFNと定義される.その予後の悪さから原因菌が判明する前に広域抗菌薬を投与することが推奨され,効果不十分な場合には抗MRSA薬であるバンコマイシンやテイコプラニンが追加される.16 FNもSIRSを発症することが多く,バンコマイシンやテイコプラニンなどの水溶性薬物は分布容積と腎CLが亢進し,血中濃度が低下する可能性がある.3一方,小児にバンコマイシンを使用する際は成熟と成長を考慮する必要があり,2歳前後までは腎機能が未発達であるため,それまでは成熟度を考慮した用量設定が必要である.17また,2歳以降も薬物の消失能力にはアロメトリーな関係式が成り立つため,単純に成人の用量を体重換算することは不適切であり,バンコマイシンにおいても年代別の用法用量が設定されている.そこで筆者らは,FNの有無がバンコマイシンの小児PKに与える影響について,当院小児科入院中にバンコマイシンが静注投与され,eGFR<90 mL/min/1.73 m2などの9つの除外基準を満たさなかった患児112例を対象に年代別に評価した.その結果,すべての年代でFN患児におけるバンコマイシンのC/Dは非FN患児と比較し低値を示し,CLは高値を示す傾向にあり,またその差は1–6歳の幼児期において特に顕著であった.以上の結果より,FN患者では小児においても非FN患者とは異なる年代別の用法用量を設定する必要があることが示唆された.18

一方,これまでにFNやARCにおけるバンコマイシンのPKに関する報告は多数あるが,同系統のテイコプラニンに関するエビデンスは不足している.そこで筆者らは,当院でテイコプラニンが投与され,eGFR<60 mL/min/1.73 m2などの除外基準を満たさなかった94例を対象に,FNやARCの有無がテイコプラニンの血中濃度に与える影響を評価した.その結果,バンコマイシンとは異なりFNの有無でテイコプラニンのC/DやCLに有意差は認められなかったものの,ARC群は非ARC群と比較してC/Dが有意に低値を示した.また,ARC群は非ARC群と比較し,48時間累積投与量に差はないものの初回トラフ濃度が15 µg/mL以上を達成した患者の割合が低い傾向にあった(16.0% vs. 33.3%, p=0.101).以上の結果より,FNの有無にかかわらず,ARC患者ではテイコプラニンの初回トラフ濃度が低値になるため,非ARC患者とは異なる負荷投与量を設定する必要がある可能性が示唆された.19

5. 妊婦・胎児を対象としたブプレノルフィン舌下薬のphysiologically based PK(PBPK)モデリング

PBPKモデルはヒトの生理学的な情報と医薬品の生化学的・物理化学的な情報を基に構築されたモデルであり,少ない採血ポイントによるデータを用いてPKを推定することが可能である.そのため,特に複数回の採血が困難な小児や新生児,特定の背景を有する患者群で活用されているが,近年妊婦・胎児におけるPBPKモデリングが着目されている.20ブプレノルフィン舌下薬はopioid use disorderの治療に最も多く処方される治療薬である一方で,21 μ受容体の部分作動薬として機能するため,出生時に母親からの供給が急に途絶えると,新生児オピオイド離脱症候群(neonatal opioid withdrawal syndrome: NOWS)を発症することがある.22ブプレノルフィンは脂溶性が高く胎盤を容易に通過するため,出生前の胎児の曝露量が増えるとNOWSがより重症化する可能性が考えられるが,その胎児内動態については明らかとされていない.そこで筆者らは,ブプレノルフィン舌下薬の妊婦・胎児におけるPBPKモデルを開発し,その体内動態の推定を試みた.ブプレノルフィン舌下薬は投与量と剤型によって舌下吸収量が異なることが報告されている.23そのためまず,Simcypを用いて成人を対象に吸収過程の非線形性を反映させたPBPKモデルを確立し,既報における実測パラメータを用いて,構築したモデルのバリデーションを実施した.その結果,予測値と実測値の比であるpredicted/observed(P/O)ratioは許容範囲内であり,用量の変動に伴う舌下吸収率の変化もPKパラメータを推定するのに適していることが判明した.24次に,確立した成人モデルを用いて妊婦・胎児モデルへの拡張を試みた.ブプレノルフィンの舌下吸収率は唾液中のpHによって変動し,妊娠時には唾液中のpHが非妊娠時と比べ低下することが報告されている.25唾液中のpHとブプレノルフィンの口腔内残存量との関係式より,妊婦における舌下吸収率は24.6%程度低いことが想定された.そのため,この妊娠時における舌下吸収の低下を反映させ,妊婦の循環動態から胎児の循環動態への生理学的な移動を表現したモデルを構築した.なお,ブプレノルフィンの胎盤透過性は既報を参照し,化合物の極性表面積と水素結合数を基に算出した.26既報の血中濃度データを用いて構築したモデルの妥当性を検証したところ,妊娠第2三半期,第3三半期及び分娩時のいずれにおいても開発された母体PBPKモデルは,妊婦の血漿濃度推移を適切に予測しており,各PKパラメータの予測値と実測値の比率も1に近く許容範囲内であった.次に,母体と臍帯血の両方の濃度を測定している既報を用いて検証したところ,個々の母体における実測値を過小評価する傾向にあり,それに伴い臍帯血濃度も実測値より低値を示す傾向にあった.この原因として,舌下吸収率の個体差が非常に大きい点が挙げられたため,次に,母体における実測値により適合できるように各患者の舌下吸収率をpost hoc(事後)に最適化したところ,対応する胎児の臍帯血濃度のフィッティングが向上し,予測性能が明らかに改善することが判明した.以上より,開発したPBPKモデルを用いて妊婦の血漿濃度を基に舌下吸収率をpost hocに最適化することで,個々の胎児における曝露量をより正確に推定可能であることが明らかとなった.27

6. おわりに

以上,本稿では,PKが一般集団とは異なる特殊な背景又は病態を有する患者群を対象に,抗微生物薬を始めとした種々の薬物におけるPKの変動要因の解明や,個別化医療を実現するためのTDMや投与設計に関連した医療薬学・臨床薬理学研究について,筆者がこれまでに展開してきた研究を中心に概説した.今後は数理モデルやシミュレーション技術を使った定量的なアプローチにより,上記の患者群における薬物の最適な個別化投与法を開発していきたいと考える.

謝辞

本研究遂行にあたり,終始多大なる御指導・御鞭撻を賜りました大分大学医学部附属病院薬剤部 伊東弘樹教授に謹んで深謝申し上げます.また,本研究に際し多大なる御指導・御助力を頂きました福山大学薬学部臨床薬効解析学 佐藤雄己教授,明治薬科大学薬剤情報解析学 鈴木陽介講師,大分泌尿器科病院 後藤孝治博士,安田則久博士,大分大学医学部麻酔科学講座 大地嘉史講師,大分赤十字病院薬剤部 野々下航学士,シンシナティ小児病院医療センター臨床薬理学部門 Alexander A Vinks教授,水野知行准教授,Matthijs W van Hoogdalem博士に深く感謝いたします.最後に,ともに研究を遂行し,多大なる御協力を頂きました大分大学医学部附属病院薬剤部職員一同に心より感謝申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2024年度日本薬学会九州山口支部学術奨励賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
© 2025 The Pharmaceutical Society of Japan
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