YAKUGAKU ZASSHI
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Exploration of New Treatment Methods by Using Data Science
Kenta Yagi
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2025 Volume 145 Issue 11 Pages 895-898

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Summary

Although the primary effects of most drugs have been well verified, their secondary effects remain less understood. Therefore, concomitant medications used to prevent side effects may attenuate the efficacy of the primary therapeutic agent. In this study, we investigated whether concomitant medications that maximize therapeutic efficacy can be used to reduce the effectiveness of the main therapeutic agent. In particular, we focused on anti-vascular endothelial growth factor (anti-VEGF) drugs, which are essential for cancer treatment. We demonstrated that the therapeutic outcome of anti-VEGF drugs can be changed by the concomitant use of gastric acid secretion inhibitors and identified a potential involvement of estrogen receptors in the mechanism underlying this interaction. Therefore, we are examining the mechanism in detail and conducting further studies, including the exploration of drugs that may exert stimulatory or inhibitory effects on estrogen receptors as a secondary action, through omics data analysis. This approach can be applied to a wide variety of drugs and is expected to improve therapeutic outcomes of various drug treatments.

1. はじめに

抗がん薬による治療を行う際には数多くの併用薬が用いられている.それら併用薬の副作用予防効果などの主作用に関しては十分に検証されている一方,副次的な作用に関しては十分に検証されていない.そのため,併用薬が抗がん薬の効果を増強・減弱している可能性や,抗がん薬の副作用の発現に影響している可能性がある.そのため,がん化学療法の効果を最大化できる併用薬や副作用の発現を最小化できる併用薬を明らかとすることは,治療成績の向上に寄与し得る課題である.

がんの進行・転移に関与する血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)は,がんの予後不良因子として知られているが,抗VEGF薬の登場によりがん患者の予後は大きく改善した.抗VEGF薬は上市から15年以上が経過した今でもがん化学療法に欠かせない薬剤の1つであり,近年では免疫チェックポイント阻害薬や経口分子標的治療薬との併用療法の有効性も示され,その使用機会は広がっている.そこで筆者は,抗VEGF薬に着目し,併用薬との相互作用について探索を行った.

2. 抗VEGF薬による治療に影響を及ぼす薬剤の探索

抗VEGF薬の特徴的な副作用の1つに血圧上昇が挙げられる.血圧上昇との因果関係が否定できない死亡例も報告されており,血圧がコントロール可能となるまでベバシズマブの休薬が求められるなど,治療継続にはその予防が欠かせない.そこで,筆者は血圧上昇の抑制はベバシズマブを用いる治療の継続に寄与できる可能性があるのではないかと考え,有害事象自発報告データベースFDA Adverse Event Reporting System(FAERS)を用いた解析を行った.その結果,支持療法薬としてがん種を問わず広く用いられており,最も強力な胃酸分泌抑制作用を示すプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor: PPI)が高血圧の発症を抑制する作用を持つ可能性を見い出した.

しかし,ベバシズマブの投与により引き起こされる血圧上昇とその治療効果との間には相関があることが示されている.そこで,PPIの使用がベバシズマブの治療効果に与える影響を観察研究により検証したところ,PPI併用患者では血圧が低い一方,PPIはベバシズマブの抗がん作用を減弱させる可能性が示された.そこで,ヒトがん細胞株を用いてそのメカニズムについて検証を行ったところ,PPIがVEGFの発現を誘導することが明らかとなった(Fig. 1).また,この作用はいずれのPPIでも同様に確認されたため,PPIはVEGFを誘導することで抗VEGF薬の抗がん作用を減弱させる可能性がある.1

Fig. 1. Effect of PPIs on Cell Survival and Promotion of Angiogenesis

h-VEGFA mRNA expression in LS174T cells (n=7) treated with PPIs, famotidine, or CoCl2 at 100 µM for 24 h. Eso: Esomeprazole, Ome: omeprazole, Pan: pantoprazole, Fam: famotidine. Data are expressed as mean fold change relative to control±S.E.M. (** p<0.01, *** p<0.001). Reproduced from Yagi K., et al., Cancer Med., 10, 164–172 (2021).1) Copyright 2021 John Wiley & Sons, Inc.

3. がん細胞におけるVEGF発現にボノプラザンが与える影響

相互作用を起こす可能性がある場合は,一方の薬剤の中止や代替薬への変更を行うことが望ましい.しかし,PPIの投与を中止すると,がん化学療法の継続に影響を及ぼす有害事象である消化管出血などの発症リスクを高める可能性がある.そこで,筆者は2014年に承認され,PPIと同様に強力な胃酸分泌抑制効果を示すボノプラザンがVEGF発現に及ぼす影響を検討し,その詳細なメカニズムを検討した.

はじめに,大腸がんを含む様々ながん細胞株を用いて検討したところ,ボノプラザンはPPIと異なりVEGF発現誘導作用を示さないことが明らかとなった.PPIとボノプラザンでは化学構造の基本骨格が異なる.そこで,基本骨格に基づいた受容体活性化能の予測をToxicity predictor v1.5を用いて行い,PPIとボノプラザンでは,エストロゲン受容体(estrogen receptor: ER)及びERと関連する様々な受容体への活性が異なる可能性を見い出した.共同研究者が樹立したERに対する薬剤の結合の親和性を測定できるdocking simulationモデルを用いて行った検討でも,PPIのERに対する結合親和性は生体内リガンドであるエストラジオールと同程度であるのに対し,ボノプラザンのERに対する結合親和性はPPIよりも低いことを確認した.さらに,がん細胞においても,PPIによるVEGF遺伝子発現及びタンパク分泌上昇作用はER阻害薬であるフルベストラントによって抑制された(Fig. 2).

Fig. 2. Effects of an Estrogen Receptor Alpha (ER-α) Inhibitor on VEGF Expression Changes Induced by Lansoprazole or Vonoprazan

LS174T cells were treated with lansoprazole (Lanso) or vonoprazan (Vono) at 100 µM, or with fulvestrant (Ful) at 1 µM. After 24 h, culture supernatants were collected, and VEGF concentrations were measured. Total protein concentration in cell lysate was measured to correct for variations in cell numbers. Data are expressed as mean±S.D. (** p<0.01). S.D.: standard deviation, VEGF: vascular endothelial growth factor. Reproduced from Ando-Matsuoka R., et al., Drug Dev. Res., 84, 75–83 (2023).2) Copyright 2023 John Wiley & Sons, Inc.

これらの結果から,PPIはエストロゲン受容体を介したVEGF誘導作用を示す一方で,ボノプラザンはVEGF誘導作用を示さないため,抗VEGF薬治療時においてPPIの代替薬となる可能性が示された.2

4. ベバシズマブの有効性に対するボノプラザンとプロトンポンプ阻害薬の影響

がん細胞において,PPIはVEGFを誘導するが,ボノプラザンはVEGFを誘導しないことを示した.しかし,ボノプラザンが実際にベバシズマブの治療効果に与える影響は明らかになっていない.ベバシズマブは,大腸がん,乳がん,肺がん,卵巣がんなど,多くのがん種に適応を有し,抗VEGF薬の中で最も使用頻度の高い薬剤である.また,PPIを使用している患者は胃腸障害のリスクが高い可能性があり,胃内pHの変化はがんの治療にも影響があることが示唆されている.そこで,胃酸分泌抑制作用を有するPPI又はボノプラザンの服用がベバシズマブの治療効果に与える影響を調査した.大部分の患者ではベバシズマブを延命目的で使用している.そのため,ベバシズマブの投与を中止する主たる理由は,腫瘍の増大など治療効果が低下した場合や副作用の発現により継続困難となった場合である.そこで,評価項目はベバシズマブによる治療を継続した期間とした.また,ベバシズマブによる治療を1コースしか受けていない患者は,アナフィラキシーによる中止など,治療効果とは無関係な治療中止である可能性が高いと考え,解析対象から除外した.

対象患者はPPI群190人,ボノプラザン群32人であり,両群間の患者背景(年齢,性別,がん種)に差はなかった.また大腸がんは,エストロゲン曝露の影響がほかのがん種と異なることが報告されている.PPIがVEGFを誘導するメカニズムにはエストロゲンが関与している可能性があるため,エストロゲン発現が予後良好因子である大腸がんと,エストロゲン発現が予後不良因子であるほかのがんについて,それぞれ検証を行った.その結果,大腸がんではPPI,大腸以外のがん種ではボノプラザンを併用した群の方がベバシズマブの有効性が高くなる可能性を見い出した(Fig. 3).ボノプラザンを併用した大腸がん以外のがん患者では,治療期間が中央値で217日増加したのに対し,ボノプラザンを併用した大腸がん患者では,治療期間が135日短縮した.承認時の臨床試験において,化学療法にベバシズマブを上乗せすることで大腸がんでは無増悪生存期間が約40日,最も長く延長する乳がんにおいては165日延長することが報告されている.本研究で得られた日数にどの程度の意味があるのかについては議論が必要ではあるが,PPIやボノプラザンの併用の有無で治療効果が大きく向上するのであれば,本検討の結果はがんの治療の発展に有用な情報となる可能性がある.

Fig. 3. Effects of Vonoprazan and Proton Pump Inhibitors on the Duration of Bevacizumab Treatment

The duration of bevacizumab treatment was analyzed using the Kaplan–Meier method, and the curves were compared using the Wilcoxon rank test. Reproduced from Yagi K., et al., Clin. Exp. Med., 23, 2799–2804 (2023).3) Copyright 2023 Springer Nature.

しかし,VEGFの誘導だけでなく,エストロゲン受容体の刺激そのものが抗VEGF薬の治療効果に影響を与えている可能性もある.現在,ホルモン療法を行っていない腫瘍においても,エストロゲンを考慮した治療が一定の効果を示す可能性があると考えられているため,本論文で得られた結果を基に,更なる基礎研究,臨床研究を実施することでデータを蓄積し,様々な前向き臨床研究につなげることが重要であると考えている.3

5. おわりに

がん化学療法に用いられる支持療法薬は多岐に渡るが,大部分の同種同効薬について抗がん薬の治療効果に対する影響についての検証は進んでいない.本論文では偶然にもすべてのPPIで類似の結果が得られたが,類似薬の間でも抗がん薬の治療効果に差異が生じる可能性がある.これらの研究結果を臨床で活用できるエビデンスとするためには,より詳細な作用メカニズムを解明し,大規模な臨床研究を実施する必要がある.このような取り組みでがん化学療法における最適な支持療法薬を明らかとすることができれば,がん化学療法の治療成績がより向上する可能性がある.また,この研究で調査した胃酸分泌抑制薬を始めとする薬剤は,いずれも既に臨床で使用されているため,研究で得られた成果を迅速に臨床応用につなげることができる.

筆者は,本研究結果を踏まえて,今後も最適な支持療法薬についてのエビデンス構築を進めていくことで,同種同効薬間における適正な薬剤の選択につながるのではないかと考えている.筆者は,本総説で紹介した研究をはじめとして,ほかにも様々な疾患に対してよりよい治療環境を構築することを目指して研究を行っている.今後も更に研究を発展させ,それらの成果を臨床へ還元できるよう取り組んでいくつもりである.

謝辞

本研究の実施及び論文作成にあたり,終始甚大なる御指導,御鞭撻を賜りました,徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床薬理学分野 石澤啓介教授に深甚なる謝意を表します.さらに,本研究の実施にあたり多大なる御指導,御助言,御協力を頂きました徳島大学病院総合臨床研究センター 相澤風花特任講師,新村貴博特任助教,徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床薬理学分野 川田 敬講師,四国大学生活科学部 石澤有紀教授,広島大学薬学部 合田光寛教授,岡山大学病院薬剤部 座間味義人教授,濱野裕章講師,旭川医科大学病院薬剤部 中馬正幸准教授に心より御礼申し上げます.

最後に,本研究に際し,終始温かく見守り続け御協力頂きました,徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床薬理学分野の皆様,並びに徳島大学病院薬剤部,総合臨床研究センターの皆様に心から感謝いたします.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2024年度日本薬学会中国四国支部奨励賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
© 2025 The Pharmaceutical Society of Japan
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