YAKUGAKU ZASSHI
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Advancing Drug Interaction Management Based on the Pharmacokinetic Drug Interaction Significance Classification System (PISCS)
Yoshiyuki Ohno
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2025 Volume 145 Issue 11 Pages 863-870

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Summary

I worked in a hospital pharmacy department, where I was responsible for managing drug safety information within the hospital, providing patient-specific drug information to physicians and other healthcare professionals, and offering medication guidance to patients. Through these responsibilities, I became keenly aware of the need to develop methodologies for predicting drug–drug interactions (DDIs) and to improve the communication of such information. To address these challenges, we have been working over the past 20 years on a pharmacokinetic drug interaction significance classification system (PISCS), designed for clinical use. We were the first to develop the PISCS as an alert system that can easily and comprehensively predict changes in drug clearance caused by cytochrome P450-mediated interactions on the basis of the contribution ratio of target metabolizing enzyme to the oral clearance of substrates (CR) and the inhibition ratio of inhibitors (IR) (the CR–IR method). Leveraging these research findings, I have actively promoted DDI management through academic conferences, committee work, lectures, and publications. Moreover, I have contributed to the development of guidelines based on PISCS concepts for evaluating DDIs and disseminating information related to drug development. Notably, in July 2018, the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan issued the Guideline on drug interaction for drug development and appropriate provision of information, which is currently internationally harmonized as the International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use (ICH) M12 guideline. Consequently, DDI evaluations in drug development are being conducted in accordance with this guideline, and the descriptions of DDIs in drug package inserts have been significantly improved.

1. はじめに

1993年に日本で起きた抗ウイルス薬と抗がん薬との薬物相互作用により生じたソリブジン事件は,15人もの犠牲者を出し,これを受けて医薬品添付文書(以下,添付文書)の問題点が議論され,記載要領が改定された.1しかし,その後も死亡例を含む薬物相互作用による重篤な被害が多数報告されている.2,3有効かつ安全な薬物療法を行ううえで,併用薬剤などによる血中濃度変動の影響を考慮するためには,薬物のクリアランス経路とその変動要因を適切に評価することが必須である.しかし,添付文書などの重要な情報源においても,これらの情報が十分でないという問題が生じていた.筆者は,病院薬剤部に所属し,院内での安全性情報管理,及び患者個別に対応した医師等への医薬品情報提供,並びに患者への服薬指導等を担当していたが,このような業務を通じて薬物相互作用の予測の方法論及び情報提供の在り方を検討する必要性を痛感していた.本総説では,それらの課題を解決するために,筆者が20年間で組んできたpharmacokinetic drug interaction significance classification system(PISCS)を基盤とした薬物相互作用マネジメントの推進について紹介する.

2. CR-IR法(the contribution ratio of target metabolizing enzyme to the oral clearance of substrates–the inhibition ratio of inhibitors: CR-IR)の開発とPISCSの構築

添付文書は法的な根拠を有する医薬品情報源であり,医療保険や医療訴訟等での「医療水準の推定根拠」としても用いられる臨床で最も重要な医薬品情報の1つである.4しかし,この信頼すべき情報源としての添付文書は,相互作用情報の程度の記載が不明確であることや可能性のあるすべての組み合わせが網羅されていないなど,臨床における適正使用の実現には不十分なことが多い.例えば,CYP3Aの阻害作用を有するアゾール系抗真菌薬であるボリコナゾールの添付文書において,トリアゾラムは併用禁忌として記載されているが,その相互作用の程度に関する記載はない.そして,併用禁忌であればトリアゾラムの代替薬を検討する必要があるが,代替薬に関する提案はされていない.また,HMG-CoA還元酵素阻害薬は併用注意として記載されているが,やはり程度に関する記載はなく,HMG-CoA還元酵素阻害薬は成分によってCYP3Aの代謝への寄与の程度が異なるが,その違いも判断できない記載となっている.

筆者は,医師より「トリアゾラムを使用している患者にボリコナゾールの内服を開始することになった.併用禁忌のため,トリアゾラムをほかの睡眠導入剤に変更したいが,ブロチゾラムでよいか?」との質問をされたことがある.トリアゾラムとブロチゾラムのそれぞれの添付文書を確認しても,ボリコナゾールとブロチゾラムの組み合わせは併用禁忌にも併用注意にも指定されていない.では,添付文書では注意喚起されていない組み合わせなので大丈夫であろうか.そのようなはずはなく,ボリコナゾールはCYP3Aの阻害剤であることはわかっており,ブロチゾラムは主としてCYP3Aで代謝されるので,当然相互作用が起こり得るのだが,添付文書では併用注意にも指定されていないことになる.また,ボリコナゾールとブロチゾラムの相互作用に関する臨床報告もなかった.

薬物の開発時においては,in vitro実験により得られるデータを用いてin vivo薬物相互作用を定量的に予測する方法が検討される.この予測方法は,基本的に相互作用部位における薬物濃度とin vitroにおける酵素阻害/誘導強度のパラメータを適用している.しかし,in vitroデータからin vivoでの相互作用の程度を正確に予測することは容易ではない.この主な理由として,1)肝臓中での遊離薬物濃度の推定,2)代謝物の関与,3)Mechanism-based inhibitionの機序などのin vivoで実際に起きる可能性のある事象の複雑さが挙げられる.58そのため,新薬開発時にin vitroデータから薬物互作用の危険性が予測される場合には,多くのin vivoでの相互作用試験が実施されていた.しかし,これらの検討は,薬物の開発時になんらかの薬物相互作用を引き起こす可能性のある新薬を検出する点に重点が置かれており,実際に医療現場で使用される膨大な数の医薬品との組み合わせについて,それぞれの相互作用を予測するものではない.したがって,用量調節,回避・代替手段の提供など,医療現場における薬の適正使用,個別化医療を直接支援するものとは言い難い.これまでに,薬の適正使用のために医療現場で使用される多数の薬剤との薬物相互作用を,網羅的で精度よく予測する試みは全く報告されていなかった.そこで,特にCYPの活性変動により動態が変化する薬物相互作用の予測について新しい方法論を確立し,多くの相互作用の予測することを目的に研究を始めた.

まず,最も重要な薬物代謝酵素であるCYP3Aの阻害を介する経口薬の薬物相互作用について検討を行った.CYP3Aの阻害による相互作用について,競合阻害や不可逆阻害など,多くの機構を内包する薬物相互作用の程度を単純化して示す方法を考察し,阻害薬の併用による経口投与時の基質薬の血中濃度曲線下面積(area under the blood concentration time curve: AUC)の変化比(AUC ratio: AUCR)をEq.(1)で表した.

  
(1)

ここで,CRCYP3Ain vivoにおけるCYP3Aの基質薬の経口クリアランスへの寄与率(CR),IRCYP3AはCYP3Aに対する阻害薬の阻害率(IR)を表す.この式から,CR及びIRの値が定まれば,どのような組合せの相互作用もAUCRが推定できる.また,同じ式によって,AUCRからCRあるいはIRを算出することも可能である.収集した相互作用試験の報告からEq.(1)を利用して基質薬14剤のCRCYP3Aと阻害薬18剤のIRCYP3Aを算出した.9これらのパラメータを用いて,251種類の組み合わせの相互作用を予測し(Fig. 1),予測値と実際のAUCRとの関係を検証したところ95%の組み合わせで報告値の50–200%の範囲で一致し,良好な予測方法であることが示された.911

Fig. 1. Predicted Area Under the Concentration–Time Curve Ratio of Substrate Drugs for Various Drug Interactions10)

The area under the concentration–time curve ratio (AUCR) of substrate drugs for various drug interactions was predicted on the basis of the ratio of the contribution of CYP3A to oral clearance (CRCYP3A) and the time-averaged apparent inhibition ratio of CYP3A (IRCYP3A). Open arrowheads indicate the drug combinations used to calculate CRCYP3A and IRCYP3A. Closed arrowheads indicate the combinations for which the AUCR was appropriately predicted using this method. This figure was reproduced from Hisaka A., et al., Pharmacol. Ther., 125, 230–248 (2010)10) with kind permission from Elsevier.

さらに,この方法を改良してCYP3Aの誘導による基質薬の血中濃度の減少に関しても検討した.阻害による相互作用の場合と同様の考察に基づき,CYP3Aの誘導に基づく相互作用による経口投与時の基質薬のAUCRをEq.(2)として定式化し,誘導薬によるCYP3Aのクリアランスの増加(increase in clearance of substrates produced by induction of CYP3A: ICCYP3A)を算出することにより,多くの誘導による基質薬の血中濃度の変化の程度を網羅的に予測した.12

  
(2)

収集した相互作用試験の報告から誘導薬7剤のICCYP3Aを算出した.この情報を基質薬22剤のCRCYP3Aと組み合せることにより,154種類の相互作用の予測が可能であり,予測値を実測値と比較したところ誘導前のAUCの20%以内の誤差範囲で正確であった.12

その後,本予測方法はCYP2D6, CYP2C9などのほかの多くの代謝酵素への拡張可能なことも報告されている.1316

そして,本予測方法をより積極的に添付文書などの記載に利用することを考慮し,予測に用いるパラメータで薬剤を層別化して,AUCRの大きい可能性のある組合せは,将来発売されるものも含めて網羅して注意喚起する方法,PISCSを提案した.17モデル薬剤として,スタチン系薬,カルシウム拮抗薬,及びベンゾジアゼピン系薬に関して,予測されるAUCRから注意喚起の合理的な重要度の区分を試みた.その結果,臨床試験が行われていない相互作用も含めて,より適切に注意喚起できるシステムが構築された(Fig. 2).PISCSの注意喚起と現在の日本,米国,英国の添付文書情報を調査した結果,特にニソルジピンやボリコナゾールのように臨床試験が少ない薬剤では,添付文書の注意喚起が不十分である傾向が3ヵ国共通に認められた.一方で,3ヵ国間で注意喚起の記載区分が異なる相互作用の組み合わせが半数程度認められるなど,多くの矛盾が明らかとなった.PISCSは医薬品開発が国際化する中で,将来は薬物相互作用についても注意喚起の基準を明確にし,また将来発売されるものも含めて網羅して注意喚起するための今後の情報提供の在り方の1つのモデルになると考えられた.

Fig. 2. Comparison of Predicted Area Under the Plasma/Serum Concentration–Time Curve Ratio Increases Between the Current Alert Classification of Oral Drug–Drug Interaction Combinations (a) and the Proposed Classification by the Pharmacokinetic Interaction Significance Classification System; (b) for HMG-CoA Reductase Inhibitors (statins), Calcium Channel Antagonists/Blockers (CCBs), and Benzodiazepines (BZPs)17)

The predicted area under the plasma/serum concentration–time curve ratios (AUCRs) are presented as box and whisker plots for all possible drug combinations analyzed in this study, and the observed AUCR increases are presented as solid circles for combinations in which a clinical study has been performed. In the box and whisker plot, the top, midline, and bottom of the box represent the upper, median, and lower quartiles, respectively. The bars represent the range of values within a 1.5-fold height of the box from the edge. Values beyond this range are plotted individually. Numerals in parentheses indicate the total number of drug-drug interactions in Japan, UK, and USA, allowing reiteration of the same combination in different countries. C=contraindication; N=non-alerted; W/U=warning/caution. This figure was reproduced from Hisaka A., et al., Clin. Pharmacokinet., 48, 653–666 (2009)17) with kind permission from Springer Nature.

3. PISCSとガイドライン及び添付文書

薬物相互作用は新薬開発においても大きなリスクとなり,実際に薬物相互作用に関連した副作用により実際に発売中止に至った薬は,ソリブジン,テルフェナジン,ミベフジル,アステミゾール,シサプリド,セリバスタチンなど多数ある.5,18,19このリスクを避けるためには,発売前に十分な臨床試験を行うことは重要であるが,薬物相互作用の場合は対象となる薬物が多いため,これを合理的に絞り込む必要がある.この相互作用検討のプロセスを標準化するために,日米欧の当局はそれぞれ規定を設けている.併用禁忌や併用注意などの分類,あるいは相互作用に関する情報を記載している添付文書は,これらの規定に従って実施された試験の成績に基づいて定められている.米国では2006年に薬物相互作用ガイダンス案が発表され,2020年に最終案が公表された.その間に欧州医薬品庁(European Medicines Agency: EMA)では2012年に相互作用ガイドラインを定めた.日本においては,2001年に「薬物相互作用の検討方法について」という解説文書が発表されていたが,米国,欧州の流れとの調和を考慮して「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」の策定が進められ,2018年に正式に発出された.20筆者は,このガイドライン作成において,主に情報提供のあり方に関して分担研究者として係わった.さらに,現在はこれらの背景のもとに薬物代謝及びトランスポーターを介した薬物の代謝・排泄における相互作用に関しては,薬物相互作用は医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use: ICH)でトピックM-12として発出されている.21なお,薬物の吸収・分布における相互作用や,薬物相互作用試験の情報に関する添付文書等における情報提供に関する基本となる考え方は,ICHガイドラインの適用範囲外である.なお,日本のガイドラインのみが表題に「適正な情報提供のための」との修飾句が入っており,これは,薬物相互作用を確実にマネジメントするためには,新薬承認に必要な情報を開発の過程で収集するだけではなく,その情報をわかりやすく医療従事者に伝える必要があることを強調するものである.薬物相互作用の規制文書は,いずれの国でも非臨床試験を評価の開始点としていることから,従来のin vitroのパラメータを使った考え方が基本となってまとめられており,CR, IRあるいはPISCSといった用語としては,ガイドラインの中では使われていない.むしろ,ガイドラインの中では,生理学的薬物速度論(physiologically-based pharmacokinetic: PBPK)に関する記載が多数ある.しかし,日常の臨床でPBPKを利用するのは難しく,正しく用いるならPBPK解析もCR–IR法も同じクリアランス理論に基づいているので,結果に大きな違いは生じない.一方で,ガイドラインにはPISCSに似た枠組みが存在している.それは,阻害薬及び誘導薬を「強い」,「中程度」,「弱い」の3段階に分類している点である(Table 1).20,21阻害薬及び誘導薬の分類の基準は,「感度の高い基質」のAUCを「強い阻害薬」あるいは「強い誘導薬」は5倍以上あるいは1/5以下に変動させる,というように臨床試験の結果が基となっている.この分類は日米の規制文書で基本的に一致しており,PISCSでは強い阻害薬はIRが0.8以上に対応する.筆者は,このガイドライン作成の検討に入る前から,この強度分類に基づいた基質,阻害薬,誘導薬のリストを作成して公表していた.22そして,その強度分類の考え方がガイドラインでも取り入れられた.日米の規制文書の分類の目的は,添付文書などで薬物相互作用の可能性を述べるときに,分類を明確にしてわかり易くすることにあるが,これに対してPISCSでは,分類するだけでなく様々な組み合わせで実際に起こる相互作用の程度を予測することが含まれている.そのような多少の違いがあるが,臨床上の管理はin vivoにおけるAUCR,すなわちクリアランスの変化に基づいて行うことが適切であり,この分類が重要との点でガイドラインとPISCSは一致している.

Table 1. Drug–drug Interaction Strength Classification20,21)

Classification systems for CYP enzymesChange in exposure (change in AUC in interaction studies with strong/sensitive index drugs)
Sensitive substrateincrease the AUC by ≥5-fold (or a decrease in the CL/F to <1/5)
Moderately sensitive substrateincrease in the AUC by ≥2-fold but <5-fold (or a decrease in the CL/F to <1/2 but ≥1/5)
Strong inhibitorincrease the AUC by ≥5-fold (or a decrease in the CL/F to <1/5)
Moderate inhibitorincrease in the AUC by ≥2-fold but <5-fold (or a decrease in the CL/F to <1/2 but ≥1/5)
Weak inhibitorincrease in the AUC by ≥1.25-fold but <2-fold (or a decrease in the CL/F to <1/1.25 but ≥1/2)
Strong inducerreduce the AUC to ≤1/5 (or increase the CL/F ratio by >5-fold)
Moderate inducerreduce the AUC to ≤1/2 but >1/5 (or increase the CL/F by ≥2-fold but <5-fold)
Weak inducerreduce the AUC to ≤1/1.25 but >1/2 (or increase the CL/F by ≥1.25-fold but <2-fold)

2017年に発出された添付文書の新しい記載要領では,相互作用の項で,「血中濃度の変動により相互作用を生じる場合であって,その発現機序となる代謝酵素等に関する情報がある場合は,前段にその情報を記載すること」とある.23薬物相互作用ガイドラインの質疑応答集では,ここの情報の記載例として「薬物相互作用を生じる経路のin vivoでの寄与率(例えばCR等を参考に算出する)等を踏まえ,「主にCYP○○で代謝され,一部はCYP▲▲で代謝される」のように記載する.なお,具体的な寄与率等に関する情報は薬物動態の項等であわせて情報提供することが望ましい」と記載されており,相互作用の項目の前段で,起こり得る相互作用の概要,代謝酵素分子種とその寄与割合の目安,代謝酵素分子種への阻害又は誘導作用などの概要を把握し易くなった.24

さらに,ガイドライン質疑応答集において,添付文書においてCYPを介した薬物動態学的相互作用を注意喚起する場合の「相互作用」の項の記載方法については,「併用注意の場合の「薬剤名等」の欄への記載については,「強いCYP3A阻害薬」,「CYP3Aにより代謝される薬剤」等,併用注意となる対象をカテゴライズする表現を記載したうえで当該カテゴリー内の代表的な一般的名称を例示として併記することと述べている.すなわち,記載している薬剤の一般的名称は代表例に過ぎず,ほかにも併用注意の対象となる薬剤があることを医療現場に情報提供するために適切にカテゴライズすることとなった.24

また,添付文書の新記載要領において,薬物動態の項の「16.7薬物相互作用」として,原則として,「10. 相互作用」に注意喚起のある薬物相互作用について,臨床薬物相互作用試験の結果を相互作用の程度が定量的に判断できるよう,血中濃度や主要な薬物動態パラメータの増減等の程度を数量的に記載することとしている.23すなわち,典型的な薬物との薬物相互作用試験が実施され,そのAUCRなどが添付文書で確認できることになった.これにより,添付文書に記載されている薬物相互作用試験の結果から,その薬剤のCRやIRを算出可能となり,PISCSに基づいて相互作用マネジメントの検討が可能となる.

筆者は,このガイドラインの発出と添付文書の記載要領の改訂によって,添付文書における薬物相互作用の網羅的な注意喚起が改善されていることも報告している.25また,その報告で問題定義した複数の事例について,その後,医薬品医療機器総合機構(Pharmaceutical and Medical Devices Agency: PMDA)において検討され,添付文書の記載が見直された事例も複数ある.26,27

4. PISCSを基盤とした相互作用マネジメントの推進

前述のとおり,新しいガイドラインや添付文書における注意喚起においては,相互作用薬の強度分類を行い,医療現場に情報提供するために適切にカテゴライズすることとなった.すなわち,「薬動態学的な相互作用をグループとグループの組み合わせとして考える」ことにより,すべての薬に適切な網をかけることが可能になる.しかし,この方法論の課題としては,一つはグループ分けには薬物代謝酵素やトランスポーター等の薬物動態の基礎知識が必要となる.もう一つの課題は,グループとグループの境界をどう適切に定めるかという点である.また,潜在的な相互作用が抽出された場合に,医療現場においてどうマネジメントするかが重要である.これらの課題に対する筆者の取り組みについて以下に紹介する.

CR–IR法やPISCSを発表後の2009年頃から,薬剤師向けの情報誌であるPharmaTribuneや月刊薬事などにおいて連載記事などによる多数の解説記事を執筆し,啓発活動を行った.PharmaTribuneでは,重要なCYP分子種を網羅した相互作用に関係する基質,阻害薬,誘導薬の一覧表のポスターを作成し,毎年新薬の情報を更新して2019年まで継続された.22その間,複数の特集記事や関連の漫画までが掲載された.月刊薬事の連載記事はそのご書籍として発刊して,またPharmaTribuneの一覧表の情報は,現在「治療薬ハンドブック(じほう社)」に引き継がれている.そして,ガイドラインが発出され,添付文書においても「強いCYP3A阻害薬」などと,相互作用薬を強度分類したカテゴリーでの注意がなされることになったため,ガイドラインを作成したメンバーが中心となって,P450分子種及びトランスポーターの基質,阻害薬,誘導薬のリストを作成して公表した.28

また,筆者が副委員長を務めた日本医療薬学会医療薬学学術第一小委員会より2019年11月に「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」が発表され,厚生労働省のガイドラインと添付文書の記載要領改正も踏まえて,医療現場において薬物相互作用をどのように評価し,マネジメントすればよいかという基本的な考え方を示された.29このガイドでもPISCSについて解説され,その普及に貢献している.さらに,同じく筆者が副委員長を務めた日本医療薬学会医療薬学学術第四小委員会では,coronavirus disease 2019(COVID-19)感染拡大時に,「パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)の薬物相互作用マネジメントの手引き(2022年2月)」及び「ゾコーバ(エンシトレルビル)の薬物相互作用マネジメントの手引き(2023年1月)」を公表しており,広く活用されている.30,31この手引きのリストもPISCSが基盤となっている.

今後は,このような薬物相互作用マネジメントの支援活動を特定の薬剤に限らずに継続的に行っていくこと,不足している情報を補強していくこと,薬剤師のマネジメント能力を育成することが,医療現場における適切な薬物相互作用マネジメントの質向上とその普及のために極めて需要な課題である.これらの課題の解決に向けて,2024年6月より筆者は日本医療薬学会医療薬学学術第2小委員会の委員長として,医療現場における適正な薬物相互作用マネジメントのための包括的な基盤を構築するための活動を開始している.本委員会の活動は,①教育・啓発活動,②情報基盤(プラットフォーム)整備,③情報創出・解析の3つの課題で構成しており,企業,大学,研究機関,学会,行政,医療機関と協力,連携,情報共有をしながら,課題の解決に向けた取り組みを行っている(Fig. 3).2025年1月にその活動の一環として,「代謝酵素(P450分子種)及びトランスポーターを介する相互作用において留意すべき薬物のリスト—第1版—」を日本医療薬学会のホームページに公開した.32今後,その情報のアップデート,活用のためのシンポジウムやワークショッの開催なども通じて,普及・啓発活動を行っていきたい.

Fig. 3. Toward a Comprehensive Foundation for the Appropriate Management of Drug–Drug Interactions in Clinical Practice

5. おわりに

筆者のモットーは「薬剤師として医療に貢献する」である.薬剤師ならではの視点,学問,感性を大事にして,医療従事者として医療に貢献したい,そのような思いが強かったために,本研究テーマに出会えて,続けられたのだと思う.引き続き,PISCSを基盤とした相互作用マネジメントの推進活動を継続して,一人でも多くの薬剤師にPISCSの考え方を活用してもらい,それが一人でも多くの患者の役に立てば幸甚である.

謝辞

本受賞研究は,筆者が東京大学医学部附属病院薬剤部在籍中に行ったものです.共同研究者として参画頂いた多くの方に心より御礼と感謝を申し上げます.特に,Pharmacist–Scientistとして医療現場における問題点を研究で解決することの重要性について情熱を持って御指導頂きました鈴木洋史先生(東京大学名誉教授),学問面での御指導は言うまでもなく,その温かい人柄でメンターとなり支えて頂いた樋坂章博先生(千葉大学前教授)に深く感謝申し上げます.最後になりますが,選考及び承認を賜りました日本薬学会及び佐藤記念基金の関係各位に謹んで御礼申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2025年佐藤記念 医療貢献薬剤師賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
© 2025 The Pharmaceutical Society of Japan
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