2025 Volume 145 Issue 2 Pages 79-84
Serotonergic neurons play a critical role in processing reward and aversive information. Rewarding stimuli activate serotonergic neurons in the dorsal raphe nucleus (DRN), whereas optogenetic activation of DRN serotonergic neurons induces reward-like effects. However, the pharmacological enhancement of serotonin neurotransmission does not induce rewarding or aversive effects. These findings suggest the presence of another serotonergic neuron that plays a role opposite to that of the DRN in processing reward and aversion information. Previous reports suggested that the median raphe nucleus (MRN) processes negative emotional stimuli. To elucidate the function of MRN serotonergic neurons in these processes, we recorded the changes in serotonergic activity in mice in response to rewarding and aversive stimuli. We also used optogenetic manipulation to determine whether these changes could induce rewarding and aversive behaviors. The activity of MRN serotonergic neurons decreased in response to rewarding stimuli and increased after aversive stimuli. Optogenetic inhibition of MRN serotonergic neurons induced reward-related behavior, while optogenetic stimulation induced aversion-related behavior. Furthermore, we found that the projection pathway from MRN serotonergic neurons to the interpeduncular nucleus is crucial for these processes. These results indicate that MRN serotonergic neurons play a pivotal role in processing reward and aversive information, functioning oppositely to DRN neurons.
快及び不快情報の処理は生物の生存に必須である.この情報処理の背景にある神経活動の異常は,外部刺激に対する価値判断の異常につながり,薬物依存症及びうつ病を含む精神疾患患者において頻繁に観察される.1,2)したがって,快及び不快情報処理の基盤となる神経メカニズムを理解することは重要であると考えられる.過去の報告から,この情報処理におけるセロトニンの重要性が明らかとなっている.情動に関与する主要なセロトニン起始核には背側縫線核(dorsal raphe nucleus: DRN)及び正中縫線核(median raphe nucleus: MRN)が知られているが,これまでほとんどの研究はDRNに焦点を当てている.DRNセロトニン神経の光遺伝学的活性化は報酬作用を引き起こし,またDRNセロトニン神経は報酬刺激によって活性化することが報告されている.3,4)一方で,全脳において細胞外セロトニン濃度を上昇させる選択的セロトニン再取り込み阻害薬の全身投与は,明確な報酬効果を示さないことが知られている.5)これらの結果は,快及び不快の情報処理に対してDRNと正反対の役割を果たしている別のセロトニン神経の存在を強く示唆している.
以前の報告ではこれらの情報処理に対するMRNの役割が示されている.セロトニン神経に選択的ではないものの,MRNの薬理学的阻害は条件付け場所嗜好性とエタノール探索行動を誘発する.6)またMRNの電気刺激は報酬に関連付けられたレバー押し行動を抑制する.7)しかしながら,MRNセロトニン神経の快/不快刺激の情報処理における詳細な役割は多くが明らかにされていない.
本稿では,快/不快刺激のうち,特に報酬/嫌悪刺激に対する応答をMRNセロトニン神経選択的に記録し,更に投射領域選択的な神経活動記録も実施した.続いて,セロトニン神経活動の活性化及び抑制が報酬/嫌悪刺激それぞれにより惹起される行動を引き起こすのに十分であるか検証するために,得られた神経活動を模した光による神経活動調節及び薬理学的検討を行った.8)
MRNセロトニン神経の活動変動を記録するため,マウストリプトファンヒドロキシラーゼ2(tryptophan hydroxylase 2: Tph2)プロモーター制御下で蛍光Ca2+プローブGCaMP6s遺伝子9)又はVenus遺伝子10)を発現するように設計したアデノ随伴ウイルス(adeno associate virus: AAV)をMRNに投与した(Fig. 1a).自由行動マウスに対してファイバーフォトメトリー法を適用し,スクロース溶液の飲水(報酬刺激)前後におけるMRNセロトニン神経活動の変動を,神経由来の蛍光の変動として記録した.その結果,スクロース溶液飲水に応答したGCaMP蛍光の減少が観察され,対照群のVenusマウスでは飲水前後において蛍光変動は観察されなかった(Fig. 1b).また飲水時のGCaMP蛍光は,対照群と比較して有意に減少し,報酬刺激はMRNセロトニン神経を抑制することが明らかとなった(Fig. 1c).
a, d, e: Schematic of the experiments. b: Mean GCaMP signals (left) and Venus signals (right) before and after sucrose consumption. Lines and shaded areas indicate mean and S.E.M., respectively. n=7 (GCaMP) and 6 (Venus) mice. c: The mean ΔF/F0 at 3 s after lick onset. * p<0.05. n=6 (Venus) and 7 (GCaMP) mice. f: Left; CPP scores in the Venus and eArchT mice. CPP scores were calculated by subtracting the time spent in a light stimulation-associated compartment in the pretest from that in the posttest. * p<0.05. Right; The time spent in each of the compartments. *** p<0.001 (eArchT Pre vs. eArchT Post). n=8 (Venus) and 13 (eArchT) mice. Adapted from Kawai H., et al., Nat. Commun., 13, 7708 (2022).8)
次に,MRNセロトニン神経活動の減少と報酬関連行動との因果関係を明らかにするため,条件付け場所嗜好性(conditioned place preference: CPP)試験11)を用いてMRNセロトニン神経の光遺伝学的抑制がマウス行動に与える影響を検討した.MRNセロトニン神経に光活性化プロトンポンプであるeArchT12)又はVenusを導入し,光照射によって条件付けを行った(Figs. 1d, e).結果として,eArchTマウスのCPPスコアはVenusマウスのCPPスコアに対して有意に高値であった(Fig. 1f).さらに,光照射と関連付けられたチャンバーへの滞在時間は,eArchTマウスではプレテストと比較してポストテストで有意に増加したのに対して,Venusマウスでは変化しなかった(Fig. 1f).これらの結果から,MRNセロトニン神経の活動抑制は報酬関連行動を強化することが示唆される.
嫌悪刺激に対するMRNセロトニン神経の活動応答を観察するため,テールピンチ(嫌悪刺激)前後でのMRN由来GCaMP蛍光を測定した(Fig. 2a).GCaMP蛍光はテールピンチ後に上昇した一方で,Venusマウスにおいて蛍光上昇は観察されなかった(Fig. 2b).またテールピンチ時のGCaMP蛍光は,対照群と比較して有意に上昇し,嫌悪刺激はMRNセロトニン神経を活性化することが明らかとなった(Fig. 2c).
a, d, e: Schematic of the experiments. b: Mean GCaMP signals (left) and Venus signals (right) before and after tail pinch. Lines and shaded areas indicate mean and S.E.M., respectively. n=7 mice per group. c: The mean ΔF/F0 at 3 s after tail pinch. ** p<0.01. n=7 mice per group. f: Left; CPA scores in the Venus and CheRiff mice. CPA scores were calculated by subtracting the time spent in a light stimulation-associated compartment in the pretest from that in the posttest. ** p<0.01. Right; The time spent in each of the compartments. ** p<0.01 (CheRiff Pre vs. CheRiff Post). n=8 (Venus) and 9 (CheRiff) mice. Adapted from Kawai H., et al., Nat. Commun., 13, 7708 (2022).8)
MRNセロトニン神経の光遺伝学的活性化が嫌悪関連行動に与える影響を明らかにするため,条件付け場所嫌悪性(conditioned place aversion: CPA)試験を実施した.効果の指標にはCPAスコアを用いた.マウスMRNセロトニン神経に興奮性の光遺伝学的アクチュエーターであるCheRiff13)又はVenusを導入し,MRNに光照射を行い条件付けした(Figs. 2d, e).CheRiffマウスのCPAスコアは,VenusマウスのCPAスコアに対して有意に低値であった(Fig. 2f).この結果と一致して,光照射と関連付けられたチャンバーへの滞在時間は,CheRiffマウスではプレテストと比較してポストテストで有意に減少したのに対して,Venusマウスでは変化しなかった(Fig. 2f).すなわち,中立的な文脈におけるMRNセロトニン神経活動の活性化は,回避的な行動を惹起することが示唆される.
MRNセロトニン神経のどの脳領域に投射する経路が報酬や嫌悪の情報処理を制御するのか検証するため,以降ではMRN–脚間核(interpeduncular nucleus: IPN)経路に着目した.IPNは依存性薬物の嗜好性制御に重要な領域として知られており,更にMRNセロトニン神経の順行性トレーシングを行った既報において,IPNはMRNセロトニン神経から密な神経投射を受けることが明らかにされている.14)
MRNセロトニン神経の神経末端における活動変動を測定するために,MRNセロトニン神経に,神経末端に高効率で輸送されるGCaMP6s変異体axon-GCaMP6s15)を導入した.MRNにaxon-GCaMP6sを導入した後,光ファイバーをIPNに留置することで,IPNに投射するMRNセロトニン神経由来のaxon-GCaMP蛍光を記録可能にした(Fig. 3a).IPNから取得したaxon-GCaMP蛍光は,MRNセロトニン神経の細胞体での検討と同様に,スクロース消費時に減少した(Fig. 3b).またこの蛍光減少の程度は,対照群であるVenusマウスのそれと比較して有意に大きかった(Fig. 3c).
a, d, f, i: Schematic of the experiments. b: Mean axon-GCaMP signals (left) and Venus signals (right) in the IPN before and after sucrose consumption. Lines and shaded areas indicate mean and S.E.M., respectively. n=7 mice per group. c: The mean ΔF/F0 at 3 s after lick onset. ** p<0.01. n=7 mice per group. e: Left; CPP scores in the Venus and eArchT mice. * p<0.05. Right; The time spent in each of the compartments. ** p<0.01 (eArchT Pre vs. eArchT Post). n=9 mice per group. g: Mean axon-GCaMP signals (left) and Venus signals (right) in the IPN before and after tail pinch. Lines and shaded areas indicate mean and S.E.M., respectively. n=7 (axon-GCaMP) and 6 (Venus) mice. h: The mean ΔF/F0 at 3 s after tail pinch. ** p<0.01. n=6 (Venus) and 7 (axon-GCaMP) mice. j: Left; CPA scores in the Venus and CheRiff mice. * p<0.05. Right; The time spent in each of the compartments. * p<0.05 (CheRiff Pre vs. CheRiff Post). n=7 mice per group. Adapted from Kawai H., et al., Nat. Commun., 13, 7708 (2022).8)
上記のMRNセロトニン神経–IPN経路の活動変動が報酬関連行動を制御するか検討するため,これらの神経経路を選択的に抑制し,CPP試験によってその影響を検証した.eArchTをMRNに導入し,IPNにおいて光照射することで,神経経路特異的な活動抑制を可能とした(Fig. 3d).IPNへの光照射は,eArchTマウスにおいてVenusマウスと比較して有意にCPPスコアを増加させた(Fig. 3e).またeArchTマウスにおいては光照射に関連付けられたチャンバーへの滞在時間が有意に増加していた(Fig. 3e).これらの結果は,報酬情報の適切な処理においてIPNに投射するMRNセロトニン神経が重要な役割を果たすことを示唆している.
続いて,マウスに嫌悪刺激を負荷した条件において,MRNセロトニン神経–IPN経路の活動変動を測定した(Fig. 3f).細胞体での検討と同様に,テールピンチ後のIPN由来axon-GCaMP蛍光は上昇した(Fig. 3g).また,この蛍光変化はVenusマウスのそれと比較して有意に大きかった(Fig. 3h).
観察された神経経路活動の上昇と不快情動関連行動との因果関係を検証するため,CheRiff又はVenusをMRNに導入し,IPNを光照射してCPA試験を実施した(Fig. 3i).結果として,CheRiffマウスにおいて有意にCPAスコアが減少し,光照射と関連付けられたチャンバーへの滞在時間も有意に減少した(Fig. 3j).これらの結果より,MRNセロトニン神経のIPNに至る経路は嫌悪情報処理において中心的な役割を果たすことが示唆される.
どのセロトニン受容体によってMRN由来のセロトニンシグナルが媒介されるか検討するため,セロトニン受容体アンタゴニスト及びアゴニストを用いた薬理学的検討を実施した.以前の報告より,5-HT1A受容体及び5-HT2A受容体のアンタゴニストの全身投与は,電気ショック後のフリージング行動を緩和することが知られている.16)そこで,CPA試験においてCheRiffマウスの条件付け5分前に,5-HT1A受容体アンタゴニストWAY-100635,5-HT2A受容体アンタゴニストMDL-100907又はvehicle(saline)をIPNに局所投与し,行動学的影響を評価した(Figs. 4a, b).結果として,MDL-100907をIPNに局所投与した実験群では,MRN活性化により誘発されるCPAスコア減少効果が消失した.WAY-100635群及びvehicle群においてはこの作用は観察されなかった.さらに,光照射に関連付けられたチャンバーへの滞在時間減少についても,vehicle群及びWAY-100635群においては観察された一方で,MDL-100907群においては観察されなかった(Fig. 4c).続いて,IPNに存在する5-HT2A受容体の活性化が嫌悪関連行動の発現に十分であるか検討するために,5-HT2A受容体アゴニストTCB-2をIPNに局所投与し,その影響をCPA試験にて評価した.条件付けは条件付けセッション開始5分前にTCB-2又はvehicle(saline)をIPNに局所投与することで行い,光照射は行わなかった(Figs. 4d, e).TCB-2群においてCPAスコアは有意に減少し,加えて薬物処置に関連付けられたチャンバーへの滞在時間も有意に減少した(Fig. 4f).以上の結果は,嫌悪刺激の情報処理に対してIPNの5-HT2A受容体が不可欠な役割を果たすことを示している.
a, b, d, e: Schematic of the experiments. c: Left; CPA scores in drug-administered CheRiff mice. * p<0.05 (Vehicle vs. MDL-100907, WAY-100635 vs. MDL-100907). Right; The time spent in each of the compartments. * p<0.05 (Vehicle Pre vs. Vehicle Post, WAY-100635 Pre vs. WAY-100635 Post). n=10 mice per group. f: Left; CPA scores in drug-administered mice. * p<0.05. Right; The time spent in each of the compartments. ** p<0.01 (TCB-2 Pre vs. TCB-2 Post). n=9 mice per group. Adapted from Kawai H., et al., Nat. Commun., 13, 7708 (2022).8)
本稿では,快及び不快刺激に関連する報酬及び嫌悪刺激の情報処理に重要な神経としてMRNセロトニン神経を同定し,同神経のIPNへの投射がその情報処理において特に重要であることを紹介した.加えて,MRNセロトニン神経の活動亢進を介する嫌悪関連情報の調節をIPNの5-HT2A受容体が担っていることも示した.以上の結果は,MRNセロトニン神経が快及び不快情報の処理において重要な役割を果たし,DRNの対となる機能を有することを示している.
本稿は筆者が論文として報告した研究成果に基づくものです.本研究の遂行において多大なる御支援を賜りました京都大学名誉教授 金子周司先生,大阪公立大学大学院医学研究科脳神経機能形態学教授 近藤 誠先生,北京脳科学研究所研究室主宰者 大村 優先生,京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野准教授 白川久志先生,京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野助教 永安一樹先生には厚く御礼申し上げます.また京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野を始めとする共著者の諸氏にも深く感謝しております.併せて心より御礼申し上げます.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,2023年度日本薬学会関西支部奨励賞(生物系薬学)の受賞を記念して記述したものである.