2025 年 145 巻 3 号 p. 195-200
Familial hypercholesterolemia (FH) is characterized by high serum low-density lipoprotein cholesterol (LDL-C) levels from birth, tendon/skin xanthomas, and premature coronary artery disease. The prevalence of FH is 1 per 300 individuals in the general population. FH is caused by a pathogenic (rare) variant in the LDL receptor (LDLR), apolipoprotein B (APOB), and proprotein convertase subtilisin/kexin type 9 (PCSK9) genes. In Japan, there has been only one reported case of a family with FH caused by the known APOB p.(Arg3527Gln) variant. Those without pathogenic variants in the LDLR or PCSK9 genes account for approximately 36% of patients with FH. Novel causative genes/variants of FH have been explored in patients with FH worldwide, but no gene variants with a large effect size have been found. Polygenic hypercholesterolemia accounts for approximately 10% of patients with clinical FH. We performed whole-exome sequencing in 122 families without pathogenic variants in the LDLR and PCSK9 genes. However, we could not find novel causative genes/variants of FH via family analysis. We examined all the APOB variants and showed that the low-frequency APOB p.(Pro955Ser) variant has a moderate effect size in FH patients via functional analysis of hepatocytes. We also reported that low-frequency PCSK9 variants contribute to the severity of the FH phenotype in patients with FH harboring an LDLR pathogenic variant. Thus, the combination of low-frequency variants and age, environmental factors such as diet, or other genetic factors contribute to the severity of or variability in the FH phenotype.
家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia: FH)は生下時より血中の低比重リポタンパク質コレステロール(low-density lipoprotein cholesterol: LDL-C)が高値であり,アキレス腱の肥厚や肘や瞼にコレステロールが沈着した隆起(黄色腫)が出現するという特徴がある.また,LDL-Cの蓄積により動脈硬化が進行し若年齢で冠動脈疾患(狭心症,心筋梗塞)に罹患する確率が高くなる.動脈硬化とLDL-Cの関係については,LDL-C値×年数の積算値にイベント発症の閾値があるというLDL蓄積仮説が提唱されており,1)冠動脈疾患予防においてLDL-C値の管理は非常に重要である.FHは常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる遺伝性疾患であり,集団内の頻度が1%以下(レア)の病原性バリアント(遺伝子の変化)が原因とされる.FHヘテロ接合体は国内では一般人口の300人に1人の高頻度で認められ,最も頻度の高い遺伝性疾患である.FHホモ接合体はLDL-C値は370 mg/dL以上と高値であり,36–100万人に1人以上の頻度で存在し,指定難病とされる.一方,FHヘテロ接合体の20–40%は既知の原因遺伝子に病原性バリアントを認めず,原因不明である.本稿では,FHの原因遺伝子の解説とわが国における遺伝学的特徴,新しいFH原因/関連遺伝子の同定と機能解析について述べる.
1973年にGoldstein博士とBrown博士がFHホモ接合体患者由来線維芽細胞を用いた実験により,FHはLDL受容体(LDL receptor: LDLR)をコードするLDLR遺伝子の異常を原因とする遺伝性疾患であることを報告した.2)これまでに全世界で2000種類以上のLDLR遺伝子のバリアントが報告されている.3) LDLR遺伝子の病原性バリアントにはLDLR活性が2–25%残存する機能不全型(defective type)と活性が2%未満である機能完全欠損型(negative type)が存在する.報告されたバリアントには機能不明のものも多い.1987年にFHの第2の原因遺伝子として,LDLRのリガンドであるアポリポタンパクB-100[apolipoprotein B(APOB)-100]をコードするAPOB遺伝子が報告された.4) APOBタンパク質は,3つの両親媒性α-ヘリックスドメインと2つの両親媒性β-ストランドドメインの5つのドメイン(NH2-βα1-β1-α2-β2-α3-COOH)を有しており,β-ストランドドメインが脂質とAPOBタンパク質との親和性に寄与するとされる.5) APOB遺伝子の既知の病原性のp.(Arg3527Gln)バリアントはヨーロッパで報告されており,APOB-100とLDLRとの結合親和性が低下するが,LDLRとの結合部位(3359–3369)の外側に存在する.4) APOB遺伝子の病原性バリアントはLDLR遺伝子の病原性バリアントを原因とするFHに比較すると病態はmildであると言われている.6)わが国では2020年にわれわれがp.(Arg3527Gln)を原因とするFH 1家系を初めて報告したが,APOB遺伝子の病原性バリアントを原因とするFHの頻度は非常に低い.7)中国ではp.(Arg3527Trp)が病原性バリアントとして報告されている.8) FHの第3の原因遺伝子として,2003年にAbifadelらにより,ポジショナルクローニング法によりプロタンパク転換酵素サブチリシン/ケキシンタイプ9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9: PCSK9)遺伝子が同定された.9) PCSK9はシグナルペプチド,プロドメイン,触媒ドメイン,C末ドメインの4つのドメインから構成され,自己分解により切断したプロドメインが触媒ドメインに結合して自身の加水分解酵素活性を失い,成熟型PCSK9となり,LDLRの分解活性を得る.LDLRは,血中からLDLを取り込んだ後,細胞表面に150回程度リサイクルされることが報告されているが,PCSK9が結合したLDLRはリサイクリングされずにライソゾームで分解される.PCSK9遺伝子の病原性バリアントの1つであるp.(Asp374Tyr)バリアントは,LDLR活性を大きく低下させ,LDLR遺伝子の病原性バリアントと同程度のFHの病態を呈する.このバリアントはLDLR分解活性と関連する触媒ドメインに存在し,LDLR分解活性が上昇することが実験的に示されている(Fig. 1).10)
The exons in the PCSK9 gene are shown in boxes with the exon number. The 21 variants in the top row were detected in this study. The p.(Glu32Lys), p.(Asp129Asn), p.(Arg215His), and p.(Arg496Trp) variants were defined as pathogenic. p.(Asp374Tyr) is a pathogenic variant detected in Western countries. The p.(Arg93Cys) variant is a loss-of function variant associated with a decrease in LDL-C.
われわれは大阪の国立循環器病研究センター(国循)において日常臨床として約1550名のFH·FH疑い患者に対し,LDLR·PCSK9遺伝子解析を行ってきた.11) FHヘテロ接合体と臨床診断された発端者650名のうち,57%(n=368)の患者でLDLR遺伝子の137種類のバリアントを認めた.メンデル遺伝性疾患では,米国臨床遺伝・ゲノム学会(American College of Medical Genetics: ACMG)と分子病理学会(Association for Molecular Pathology: AMP)により臨床遺伝子診断のための世界基準のACMGガイドラインが作成されている.12)このガイドラインに従い,92バリアントを病原性バリアントと判定し,2バリアントを病原性なしと判定した.13,14)LDLR遺伝子バリアントのうち,5種類の病原性バリアントが30.4%を占めていた.その内訳はエクソン/イントロン接合部でスプライシングエラーを引き起こすc.1845+2T>Cが7.5%,アミノ酸置換を引き起こすp.(Cys338Ser)が6.4%,p.(Lys811*)が5.8%,p.(Asp433His)が5.5%,p.(Leu568Val)が5.2%であった.92バリアントを病原性と定義したが,残りのバリアントについては家系数が少ないこともあり,機能不明バリアント(variant of uncertain significance: VUS)に分類された.そこで,日本のFH患者は国循(大阪)と金沢に集積していることから,症例数を増やしてVUSを再定義するために,金沢大学と共同で472家系についてLDLR遺伝子のバリアントの意義付けを行い,132バリアントを病原性バリアントと判定した.15)金沢大学ではLDLR遺伝子の病原性バリアントのうちp.(Lys811*)が41%を占めており,大阪と金沢では地域差が認められた.p.(Lys811*)バリアントの集積については,ある1つのバリアントが狭い地域の特定の集団で広まる創始者効果や金沢では国立循環器病研究センターの位置する大阪に比較して人口流入が少ないことが原因であると考えられる.
FHヘテロ接合体発端者の7.8%(n=51)でPCSK9遺伝子の21バリアントを認めた.ACMGガイドラインに従い,4バリアント:p.(Glu32Lys),p.(Asp129Asn),p.(Arg215His),p.(Arg496Trp)を病原性バリアントと判定した(Fig. 1).p.(Glu32Lys)バリアントは,検出されたPCSK9遺伝子の病原性バリアントのうち88%を占めていた.11)わが国のLDLR遺伝子とPCSK9遺伝子の病原性バリアントを有する患者の臨床データを比較すると,未治療時平均LDL-C値は275±73 vs. 201±42 mg/dL,アキレス腱肥厚の頻度は82 vs. 44%であり,PCSK9遺伝子の病原性バリアントの病態はLDLR遺伝子の病原性バリアントに比較してmildであった.このことから,PCSK9遺伝子のp.(Glu32Lys)バリアントの有無を臨床診断から予測することは難しい.p.(Glu32Lys)バリアントのFHの病態に与える効果量は,海外で検出されるp.(Asp374Tyr)バリアントに比較して小さい.
FHヘテロ接合体と臨床診断された発端者650名のうち,64%はFHと確定診断されたが,残り36%はLDLR·PCSK9遺伝子に病原性バリアントを認めず,遺伝要因が不明であった.そこで,新規FH原因遺伝子を明らかにするため,原因不明FH家系について全ゲノム/エクソン解析を実施した.7人兄弟全員が心筋梗塞を発症した濃厚なFHの家族歴を有する家系員22名の大家系について全ゲノム解析を行い,LDLR遺伝子の新規の大規模重複変異が原因であることをゲノム上の重複変異の正確な位置を含めて同定した.16)原因不明の日本人FH 122家系については全エクソン解析を実施したが,新しい原因遺伝子を見つけることはできなかった.世界中のFHヘテロ接合体の20–40%は原因不明であり,新規原因遺伝子の探索が行われてきたが,効果量の大きいバリアントは同定されていない.FHはレアバリアントを原因とした単一遺伝子疾患であると考えられてきたが,2013年にヨーロッパで,原因不明FHはLDL-C値上昇に寄与する11遺伝子(APOE, SORT1, LDLR, APOB, PCSK9, HFE, ABCG8, NYNRIN, MYLIP, SLC-22, ST3GAL4)の12個(APOE遺伝子のバリアントは2個)の高頻度の遺伝子多型(single nucleotide polymorphisms: SNPs)の蓄積に伴う多遺伝子性のFH(polygenic FH)であると報告され,17) FHの10%を占めると言われる.そこで,わが国のFHでは非常に頻度の低いAPOB遺伝子に着目した.24バリアントが検出され,p.(Pro955Ser)バリアントのアレル頻度は日本人の一般人口で3.4%であったが,FH患者では15%と有意に高いことに気がついた(オッズ比4.9[95% CI 3.4–7.1]; p=6.9×10−13).このバリアントの家系内の浸透率は低く,FHの原因とは言えなかったが,このバリアントを有する患者はFHヘテロ接合体発端者(n=645)の9.8%を占めていた(Fig. 2).このバリアントの機能を明らかにするために,p.(Pro955Ser)バリアントをホモ型で有するFH発端者の家系において,発端者とp.(Pro955Ser)バリアントをヘテロ型で有するその子供の血液からLDLを分離し,蛍光ラベルを行った.コントロールとして,健康成人及び既知の病原性p.(Arg3527Gln)バリアントをヘテロ型で有する発端者の血液からLDLを分離し,蛍光ラベルを行った.各蛍光ラベルLDLを培養肝細胞に添加し,LDLの取り込み量をフローサイトメーターで確認したところ,p.(Pro955Ser)バリアントをホモ型で有するFH発端者のLDLの取り込み量は,健康成人の44%であり,既知のAPOB遺伝子の病的バリアントをヘテロ型で有する患者のLDL取り込み率と同程度であった(Fig. 3).APOB遺伝子のp.(Pro955Ser)バリアントの東アジア人の一般集団における頻度は0.6%であり,そのほかの人種では報告されていない.また,p.(Pro955Ser)バリアントは日本の一般集団において,LDL-Cの上昇や冠動脈疾患と関連することがゲノムワイド関連解析(Genome-wide association study: GWAS)から報告されている.18) APOB遺伝子の低頻度p.(Pro955Ser)バリアントは東アジア人特有の高LDL-C血症とFHに共通する遺伝要因であり,環境要因やほかの遺伝要因と重なることにより,FHの病態に寄与すると考えられる.19)
Among the 645 unrelated FH patients, 55.7% (n=359), 7.9% (n=51), and 0.16% (n=1) were genetically diagnosed with FH with LDLR, PCSK9, and APOB, respectively. In patients nongenetically diagnosed with FH (n=234), the p.(Pro955Ser) variant in the APOB gene accounted for 9.8% (n=63) of these patients.
LDL internalization efficiency after a 30-min incubation at 37°C. The mean fluorescence intensity was measured [mean±S.D. (n=3)]. LDL from a proband with homozygous p.(Pro955Ser) variants in the APOB gene, a child with the heterozygous variant, a patient with the known pathogenic p.(Arg3527Gln) variant, and a healthy individual were isolated. * p<0.01 between the healthy individual and each variant and between heterozygous and homozygous p.(Pro955Ser) variants.
FHホモ接合体は両親からそれぞれLDLR遺伝子の病原性バリアントを引き継ぐ真性ホモ接合体若しくは複合ヘテロ接合体である.わが国では,2011年にLDLR遺伝子の病原性バリアントにPCSK9遺伝子p.(Glu32Lys)バリアントが重なるダブルヘテロ型FHが重症であることが報告された.20)われわれは,LDLR遺伝子の病原性バリアントにPCSK9遺伝子の新規p.(Val4Ile)バリアントが重なることでLDL-C値の上昇とともに冠動脈疾患リスクが40%上昇することを報告した.21)また,LDLR遺伝子の病原性バリアントにPCSK9遺伝子p.(Glu32Lys)やp.(Val4Ile)バリアントが重なることで予後不良であることも報告している.22)これらのダブルヘテロ型FHも臨床診断においてFHホモ接合体に分類される.PCSK9遺伝子のp.(Glu32Lys)とp.(Val4Ile)バリアントの一般人口における頻度は1.1%,1.3%で低頻度バリアントである.11)多田らは,LDLR遺伝子の病原性バリアントにABCG5,ABCG8,APOE,LDLRAP1遺伝子のレアバリアントが重なることで病態が重症化するオリゴジェニック(数個の遺伝子が重なる)FHについて報告している.23)最近,フランスで,LDLR遺伝子の病原性バリアントにAPOE遺伝子のレアバリアントが重なることで,LDL-Cの上昇や冠動脈疾患の頻度が上昇することが報告されている.24) LDLR遺伝子の病原性バリアントに未知のLDL-C上昇に係わるバリアントが重なることでホモ接合体/重症FHの病態を呈すると考えられるが,十分な機能解析はなされていない.われわれはLDLR遺伝子の病原性バリアントをヘテロ型で有するが,ホモ接合体と臨床診断される数家系を見つけている.これらの家系について,ゲノム解析と合わせて患者由来人工多能性幹(induced pluripotent stem: iPS)細胞を樹立し,肝細胞を作製して機能評価を行っている.25)
FHの病態の多様性は以前から知られていたが,次世代シーケンサーによる網羅的な解析が可能になったことで,多様性を規定する様々な遺伝要因が明らかになってきた.FHの新規原因遺伝子の発見から,スタチンやPCSK9阻害薬が開発され,FHのみならず高LDL-C血症の治療に大きく貢献し,世界の公衆衛生にインパクトを与えたという歴史的経緯がある.次世代シーケンサーにより得られる膨大な遺伝情報を元に,適切なバリデーションを行うことで,FHや高LDL-C血症の真の病態及び新しい治療標的の開発に微力ながら貢献していきたい.
本研究は国立循環器病研究センター研究所病態代謝部及び名古屋大学環境医学研究所内分泌代謝分野(2020年7月より)にて実施されたものです.大阪医科薬科大学の斯波真理子先生,国立循環器病研究センター研究所の高橋 篤先生,大阪大学大学院薬学研究科水口裕之先生及び各研究室のスタッフ,国立循環器病研究センター遺伝子検査室の方々には共同研究者として多大なる御協力を頂きました.関係するすべての先生方,研究室の皆様に厚く御礼申し上げます.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,日本薬学会第144年会シンポジウムS05で発表した内容を中心に記述したものである.