YAKUGAKU ZASSHI
Online ISSN : 1347-5231
Print ISSN : 0031-6903
ISSN-L : 0031-6903
Reviews
Development of Intraoperative Near-infrared Fluorescent Ureteral Imaging Agent to Prevent Iatrogenic Ureteral Injury
Katsunori Teranishi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 145 Issue 5 Pages 451-459

Details
Summary

The adult ureter is a delicate structure with an approximate internal diameter of 5 mm located deep within the lower abdomen and surrounded by various tissues. Therefore, due to its positioning, visual identification of the ureter is challenging. Iatrogenic ureteral injuries, which can lead to severe illness, occur during both open and laparoscopic abdominal surgeries, posing a serious clinical concern. Reliable intraoperative identification of the ureters is essential to prevent inadvertent injuries. Ureteral stenting or catheter placement, commonly used procedure for ureteral identification, involve insertion via the urethra and bladder. However, these techniques have limitations, including prolonged surgery time, risk of urinary tract complications, limited diagnostic capability for ureteral injury, and higher medical costs. Optical imaging has the potential to assist in surgeries involving invisible tissues. Recently, novel fluorescent compounds, ASP5354, ZW800-1, and IS-001, has entered phase 3 clinical trials for intravenous use in intraoperative ureteral identification and injury diagnosis. These compounds possess a heptamethine cyanine skeleton that generates near-infrared fluorescence (700–900 nm), exhibit excellent tissue permeability, enable ureteral visualization throughout minimally invasive laparoscopic procedures, and are safe and well tolerated. Notably, no adverse events have been reported in clinical trials to date. This review provides an overview of these promising compounds and their potential effect in improving surgical outcomes.

1. はじめに

成人の尿管は内径約5 mm・長さ約30 cmの損傷し易い器官であり,下腹部臓器や周囲の組織にうずもれている.そのため目視検査により尿管を識別することは容易ではなく,術中に意図せず尿管を損傷させる医原性尿管損傷が起こることがある.このため泌尿器,結腸直腸,及び婦人科での開腹下腹部内手術の際には視診に加え触診によって尿管の存在を特定し,医原性尿管損傷を起こさないように注意する必要がある.統計では医原性尿管損傷の発生率は1%を超え,この損傷のリスクは触診できない腹腔鏡下腹部手術で著しく高くなる.13腹部手術中の尿管損傷に関する報告によると,医原性尿管損傷の62%が術後に特定されたことが示されており,術中に特定される損傷よりも治療が困難となる.4医原性尿管損傷は尿管の狭窄や閉塞,尿管と膣との瘻孔,腎不全などの長期にわたる合併症を引き起こし,医原性尿管損傷の際には尿管吻合術や尿管膀胱新吻合術等の更なる手術が必要となる.したがって,医原性尿管損傷を予防するために,視診・触診以外に簡便で効果的な尿管の術中での特定及び尿管損傷の術中診断が必要である.

従来の術中での尿管の特定には,触診用尿管ステント留置術,尿管カテーテル留置術,蛍光で観察する蛍光尿管カテーテル留置術等がある.これらの尿道・膀胱を経由し挿入する術式では,手術時間が長くなる,尿路合併症のリスクがある,医療費が高くなる,尿管の損傷の診断がし難い,等の問題がある.5,6

本総説では,術中での尿管の特定と診断において,ステント留置術やカテーテル留置術に代わる尿管の近赤外蛍光イメージング術の現状と近い将来において臨床での適用の可能性が高い近赤外蛍光イメージング薬候補の概要を提供する.

2. 蛍光イメージング

尿管損傷の診断として画像診断は有用な技術であり,コンピュータ断層撮影法,磁気共鳴画像法,蛍光イメージング法が用いられている.この中でも,蛍光イメージングは用いる装置が小型で簡便に操作できるため,コンピュータ断層撮影法や磁気共鳴画像法を補う術中診断を可能とする.蛍光イメージング診断の歴史は古く,1871年にアドルフ・フォン・バイヤー(1905年ノーベル化学賞受賞)によって見い出された緑色の蛍光を発するフルオレセインは,50年ほど前から静脈投与による網膜の血管造影剤として利用されている.

蛍光イメージングの光学的要件には,深部組織での光透過,組織の低い自己蛍光,高い蛍光効率,光学的安定性,及び組織による低い光吸収と低い光散乱等が重要である.光はヘモグロビンなどの生体組織に内在する化合物によって吸収され,一般的に光吸収と光散乱は長波長になれば低減され光透過性は高まる.7可視領域の光は組織表面での診断に留まるが,“生体の窓”とよばれる近赤外領域(波長域約700 nmから900 nm)の光は組織表面より下層の診断も可能にする.薬学的要件としては,化学的安定性,水溶性,低い非特異的結合性,低毒性,診断目的に適した排泄経路及び排泄速度,等である.

2000年代に入り,近赤外蛍光イメージングが注目され,7それに対応した臨床用蛍光イメージング装置が多くの医療用メーカーから販売されるようになり,8近赤外蛍光イメージングを使用した診断が行われるようになった.手術では,近赤外蛍光を発する蛍光薬を全身あるいは局所に投与し,所定の時間後に近赤外光を患部に照射し,投与した蛍光化合物あるいは代謝産物が発する近赤外蛍光をCharge-Coupled Deviceカメラで観察する.近赤外光は目には見えないため装置システムで疑似カラー化されリアルタイムで画像として映し出され,外科医はこの画像を見ながら手術を行う.投与する近赤外蛍光化合物は微量のため,目視下での組織の色調変化を起こすことはなく手術に影響を及ぼさない.この診断技術は,開腹手術,腹腔鏡手術,内視鏡手術,ロボット支援下手術などで使用できる.特に腫瘍イメージングのための近赤外蛍光イメージング化合物は数多く開発されている.916しかし,尿管の特定や診断のために開発された近赤外蛍光イメージング化合物は少なく,更に光学的及び薬学的要件を満たす化合物は少ない.また臨床での尿管の特定のために使用が報告された医薬品は既存薬のメチレンブルー(methylene blue: MB)とインドシアニングリーン(indocyanine green: ICG)(Fig. 1)のみである.

Fig. 1. Chemical Structure of a Near-infrared Fluorescent Imaging Compound for Ureteral Visualization

3. 臨床での尿管近赤外蛍光イメージング

近赤外蛍光性化合物を全身あるいは局所投与する尿管イメージング術には,尿管組織を蛍光化する手法と尿管内の尿を蛍光化する手法が考えられる.前者の場合,尿管組織に特異的に結合する蛍光性化合物が必要であるが,その特性を有する化合物は見い出されておらず,現在,後者の手法がMBとICGで臨床報告されている.

米国食品医薬品局が承認した医薬品であるMBをヒト静脈内投与した後,尿中に移行したMBの赤色蛍光を使用して術中に尿管を特定することが報告された.1721しかし,MBは690 nm付近で蛍光を放出し,蛍光の短波長域は生体の窓の波長域から外れ,生体組織や臓器によって干渉を受け易い.更にMBは肝排泄され易いため,MBは術中尿管特定と診断には十分でない.

ICGは米国食品医薬品局の承認を受けた蛍光波長が800 nm以上ある医薬品であるが,50年以上前から近赤外蛍光イメージング化合物としてではなく肝臓で代謝されて胆汁排泄される性質を活かした肝機能検査薬として使用されてきた.2000年代に入り眼科血管造影や心臓血管手術などでの血管蛍光イメージング,がん手術中でのセンチネルリンパ節蛍光イメージングなどに広く利用されている.22 ICGは静脈から全身投与されると血漿タンパク質に急速に結合し,肝臓で捕捉され胆汁中に送られ排泄される.したがって,ICGの静脈投与後の尿への移行は効率的でなく,この投与方法による尿管イメージングは効果的ではない.またICGはおおむね安全だが,アナフィラキシーの症例も報告されている.これらを背景に尿管カテーテルを用いたICGの尿管への局所投与による尿管近赤外蛍光イメージングが行われた臨床使用が報告され,本方法によって尿管の特定が可能であることが示された.2328

2024年,Brolloらは,2000年以降に報告された尿管ステントと尿管カテーテルの術式のグループとMB静脈投与とICG尿管カテーテル投与のグループにおける医原性尿管損傷の予防を評価した.29前グループと後グループでの医原性尿管損傷の発生率は,それぞれ0–1.9%と0–1.2%であった.急性腎障害の発生率は,それぞれ0.4–32.6%と0–15.0%であり,尿路感染症発生率は,それぞれ0.4–17.3%と0–6.3%であった.これらの分析より,蛍光イメージングの優位性が示された.

4. 尿管近赤外蛍光イメージング化合物の開発

MBの蛍光波長は組織透過には十分でなく,尿として尿管への移行も効率的でない.ICGは波長800 nm以上の近赤外蛍光を発するが,静脈投与後は特異的な肝排泄性であるため尿に移行し難く,尿としての尿管の近赤外蛍光イメージングには適さない.これまでの報告では,ICGは尿路カテーテルから尿管に局所投与する方法がとられたが,尿路カテーテルの挿入は手術時間を長くし感染症等も発生する.2007年,Frangioniのグループは,腎排泄性が高くない既存の近赤外蛍光標識化合物であるCW800-CA(Fig. 1)をヨークシャブタに静脈投与し,開腹下でCW800-CAが発する近赤外蛍光による尿管の特定に成功した.30筆者が知る限りでは,これが動物での静脈投与による尿管の近赤外蛍光イメージングの初めての報告である.その後,近赤外蛍光薬を術中に静脈投与し,効果的に早急かつ選択的に尿管に移行させ,尿管を蛍光イメージングする診断薬の開発研究が活発に行われている.これまでに開発された化合物の概要を以下に記す.

ASP5354

筆者は2009年から研究を開始し,術中での静脈投与直後から尿に移行し尿管内で近赤外蛍光を放つ化合物CD-NIR-1(Fig. 1)及びその類縁化合物TK-1(一般名Chloro Pudexacianinium,製薬企業コードASP5354)(Fig. 1)を開発した.3133 ASP5354は,2023年8月に米国臨床試験第3相に入り,2024年11月現在,試験が進行中(ClinicalTrials.gov ID: NCT05754333, NCT05999747)にある尿管近赤外蛍光イメージング候補薬であり,2010年に日本国特許出願(特願2010-017255)及び国際出願(PCT/JP2011/000489),その後の日本国特許,米国特許,欧州特許,中国特許等の特許取得,大学から製薬企業への技術移転,製薬企業による前臨床試験及び臨床試験に至っている技術である.3437これらに関して以下に詳細に説明する.

筆者らの開発戦略の一つは,蛍光特性である.ICG分子の近赤外蛍光を発する分子部位はヘプタメチンインドシアニン骨格であり,この骨格を持ち静脈投与後に選択的に尿に移行する化合物であれば,現在多用されているICG用のイメージング機器をそのまま利用することができ,医療現場への導入が容易と考えた.第二の開発戦略は特異的かつ高速な腎排泄特性であり,第三の開発戦略は生体に対する低吸着性である.第2・第3の戦略を満足させる分子としてシクロデキストリン(cyclodextrin: CD)を採用した.グルコースのα-1,4-結合環状構造を持つCD分子は,底の抜けたバケツ様の立体分子構造をしており,内側に疎水性の分子を包接する空洞を有し,外側は親水性である.38 CDは医薬品製剤や食品に使用され,体内では難消化性・腎排泄性・低結合性である.39

ヘプタメチンインドシアニン骨格に存在するナフチル基は疎水性であり,その大きさは7個のグルコースからなるβ-CDの空洞に適合することから,β-CDをヘプタメチンインドシアニン骨格に共有結合することとした.ヘプタメチンインドシアニン骨格とβ-CDを繋ぐ原子鎖長は,ナフチル基をβ-CDの空洞に強固に分子内包接するための重要な因子である.分子設計により,この原子鎖長をFig. 1に示すCD-NIR-1分子の原子鎖長とし,CD-NIR-1の化学合成を行った.31 CD-NIR-1の立体化学構造は,核磁気共鳴法解析によって,水溶液である重水(D2O)溶液中ではナフチル基がβ-CDの空洞に分子内包接され,有機溶媒であるジメチルスルホキシド-d6溶液中では包接されないことを確認した.また,原子鎖が更に長い化合物を化学合成し,D2O溶液中での包接能が弱いことを確認した.CW800-CAを対照としてCD-NIR-1のラットを用いた試験を行った.CW800-CA(25 nmol/kg体重)の尾静脈投与後,3分において尿管から近赤外蛍光が観察されたが,周囲の組織,肝臓,腎臓,腸からの近赤外蛍光も比較的強く生じた(Fig. 2A).CD-NIR-1(25 nmol/kg体重)は尾静脈投与後,選択的に腎臓及び尿管を通って膀胱内に急速に移行し,その際尿管内で強い近赤外蛍光を放った(Fig. 2B).また,CD-NIR-1の投与量が2.5 nmol/kg体重の場合でも尿管は明確に近赤外蛍光イメージングできた(Fig. 2C).CD-NIR-1の投与後90分の肝臓,肺,心臓,脾臓での残留は著しく少なく(Fig. 3A),投与後の最初の放尿で投与量の約96%が化学構造の変化なく排泄された(Fig. 3B).さらに,分子内包接の効果を検証するため,β-CDが結合していても原子鎖が短く,更に狭い空洞口である1級水酸基面がナフチル基の侵入口としかならなく,確実に分子内包接しない状態のCD-NIR-2(Fig. 1)も化学合成し,動物試験を行った.31ラット試験においてCD-NIR-2(25 nmol/kg体重)を尾静脈投与すると,投与後3分では尿管から強い近赤外蛍光が生じたが,10分以降は著しく弱い蛍光であった(Fig. 2D).投与後2日間にわたる各臓器での残留と腎排泄能を調べた結果,尿管以外の組織への残留も確認された(Fig. 3A).CD-NIR-2はゆっくりと尿中に排泄され,2日間での尿内へのCD-NIR-2の排泄率は約70%であり(Fig. 3B),尿管イメージングには効果的ではなかった.これらの結果は,CD-NIR-1の水溶液中でのβ-CDのナフチル部位の分子内包接は尿管イメージングに効果的な急速な尿管への移行を生み出し,体内での残留を抑制することが示唆された(体内においてもβ-CDのナフチル部位の分子内包接が生じているという直接的な分析は行われていない).CD-NIR-1の静脈投与による尿管イメージングは,カニクイザルでも成功した.31

Fig. 2. Near-infrared Fluorescence Images of Rat Ureter Following Administration of CW-800-CA (A), CD-NIR-1 (B, C), and CD-NIR-2 (D)

A single dose was administered via the tail vein at the doses depicted in the Fig. 2, and all images were acquired with the same imaging system, sensitivity, and fixed distance between the camera and ureter, without any adjustments between images. Near-infrared fluorescence is represented in white. Bl: Bladder, In: intestine, Ki: kidney, Li: liver, Ur: ureter. Scale bar: 10 mm. Teranishi K., Mol. Pharm., 17, 2672–2681 (2020).31) Used with permission from Copyright 2020 American Chemical Society.

Fig. 3. Pharmacokinetics of CD-NIR-1 and CD-NIR-2 in Rats

A: Representative near-infrared fluorescence images of rat organs 90 min after a single intravenous administration (25 nmol/kg body weight) of CD-NIR-1 (upper left) or CD-NIR-2 (lower left). The sensitivity of the near-infrared fluorescence camera system is higher than that in Fig. 2. Relative near-infrared fluorescence intensity of organs following a single intravenous administration (25 nmol/kg body weight) of CD-NIR-1 (upper right) or CD-NIR-2 (lower right), with each bar representing the mean±S.D. (n=3 rats). He: Heart, Ki: kidney, Li: liver, Lu: lung, Sp: spleen. B: Contents of CD-NIR-1 and CD-NIR-2 in each urine after a single intravenous administration (25 nmol/kg body weight). Data represent the mean±S.D. (n=7 rats). Teranishi K., Mol. Pharm., 17, 2672–2681 (2020).31) Copyright 2020 American Chemical Society, used with permission.

TK-1(Fig. 1)は,CD-NIR-1の体内動態特性を保持し,CD-NIR-1の化学的な安定性を高めた化合物である.31抗菌薬ゲンタミシンの投与により腎機能障害(主に近位尿細管障害)を有したラットにおいて,重症でないラットでもTK-1の尾静脈投与による尿管の近赤外蛍光イメージングは成功した.33

TK-1(以降ASP5354と記載する)の前臨床試験がアステラス製薬株式会社によって行われた.34健康なミニブタにおいて0.001及び0.01 mg/kg体重の用量で静脈内投与し,開腹下で尿管の近赤外蛍光イメージングが行われ臨床医によって視覚的に評価された.ASP5354の投与後3時間までに尿管が観察できた個体の割合は,0.001 mg/kg体重の投与で33%,0.01 mg/kg体重の投与で100%であった.カニクイザルにおける毒性試験では,ASP5354は有意な影響を示さなかった.これらの結果は,外科手術中での尿管のイメージングには0.01 mg/kg体重のASP5354が最適な用量であることを示した.

2020年,ASP5354の医薬品開発は米国食品医薬品局からファストトラック指定を受けた.米国食品医薬品局によるファストトラック指定制度は,アンメットメディカルニーズが高い重篤又は生命を脅かす恐れのある疾患に対する治療薬の開発及び審査の迅速化を目的とするものである.

ASP5354の安全性,忍容性及び薬物動態を評価するため,米国臨床第1相試験が実施された.35健康な成人ボランティアにASP5354の0.5, 2, 8, 24 mgの用量変化試験(静脈単回投与)が行われ,投与後24時間にわたって薬物動態が評価された.ASP5354に関連する有害事象は確認されず,平均血漿最終排泄半減期は2.1–3.6時間の範囲であり,未変化のASP5354が投与後24時間以内にほぼ完全に尿中排泄された.また,直線的かつ用量比例的な薬物動態が示された.

米国臨床第2相試験では,腹腔鏡下結腸直腸手術を受ける成人に,0.3 mg(3人),1.0 mg(6人)又は3.0 mg(3人)のASP5354が単回静脈内投与され,ASP5354投与後30分と手術終了時の尿管の近赤外蛍光(Fig. 4A)及び安全性と薬物動態が評価された.36術中の尿管イメージングは,0.3, 1.0又は3.0 mgのASP5354をそれぞれ投与された患者2, 5及び3人で成功した.血漿ASP5354濃度は用量依存性であり,手術中に尿中に排泄されたASP5354は,0.3 mg用量では22.3±8.0%,1.0 mg用量では15.6±10.0%及び3.0 mg用量では39.5±12.4%(平均±S.D.%)であった.この試験では,1.0及び3.0 mgのASP5354投与により,腹腔鏡下結腸直腸手術中に尿管の可視化が明確にでき,安全で忍容性も確認された.また,外科医がASP5354を使用した手術の画像で尿管を識別し,「尿管はどの程度目立つか」という項目を1=なし(自明ではない)から5=優れている(非常に自明である)までの5段階リッカート尺度で評価した.その結果,米国食品医薬品局の基準で要求される評価者間及び評価者内信頼性の統計的に有意なレベルであった.40

Fig. 4. Near-infrared Fluorescence Imaging of the Ureter in Phase 2 Clinical Trials of ASP5354 (A) and ZW800-1 (B)

Near-infrared fluorescence is pseudocolored green. A: Adapted from Albert, M., et al., Surg. Endosc., 37, 7336–7347 (2023),36) with permission from Copyright 2023 Spriger Nature. B: Adapted from de Valk K. S., et al., Nat. Commun., 10, 3118 (2019),43) with permission from Copyright 2019 Spriger Nature.

ZW800-1

Frangioniのグループは,2009年,“charge-balanced imaging agent“ を戦略とし組織のイメージング化合物を開発した(国際出願PCT/US2010/023305).蛍光化合物の分子全体をバランスの取れた正負電荷で覆い双性イオン化した分子は,肝排泄され難いことを見い出した.2011年Choiらは,その特性を有した一つの化合物としてICGと同様なヘプタメチンインドシアニン骨格を有する化合物ZW800-1が静脈投与直後から特異的に腎排泄され尿として尿管を近赤外イメージングできることをマウス試験で示した.41 2012年Hyunらは35 kgのヨークシャブタを用いた試験を行い,ZW800-1の静脈投与4時間後までの尿排泄率は1.15 mg投与では81.9±10.7%,11.5 mg投与では56.7±10.3%であり,尿管の近赤外イメージングも成功した.42

2019年Valkらは,16人の健康な成人と腹腔鏡下腹骨盤手術を受けた12人の患者(男性9人,女性3人)において,3つの用量(1.0, 2.5,及び5.0 mg)のZW800-1の単回静脈投与による尿管の近赤外蛍光イメージングを報告した(Fig. 4B).43 ZW800-1の投与量が1.0 mgでは,投与後1時間で尿管がはっきりと特定でき,2.5 mgでは尿管の蛍光視認性は1.0 mgに匹敵した.2時間後では,2.5 mgの場合,近赤外蛍光強度は1.0 mgと比較してかなり高く,時間の経過とともに蛍光はわずかに減少したが3.6時間後でも尿管がはっきりと特定できた.1.0 mgと2.5 mgの両方の用量で,バックグラウンド蛍光は無視できたが,5.0 mgでは,周囲の組織及び主要な血管でバックグラウンド蛍光が高く,近赤外手術野の視認性を妨げた.これらの評価より2.5 mgの用量が好ましいと判断された.ZW800-1に起因する急性毒性や過敏性反応は誘発されず,重篤な有害事象は報告されなかった.2024年6月に米国臨床第3相試験(NCT06101745)に入り,2024年11月現在,試験が進行中である.

IS-001

近赤外蛍光イメージング化合物IS-001の前臨床試験及び臨床試験第1相に関する情報は乏しい(筆者の知る限りでは,IS-001の化学構造式は明らかにされていない).IS-001は,米国臨床試験第1相(NCT03006237)が2017年に終了,ロボット支援子宮摘出手術を対象にした第2相(NCT03937505)が2019年から2021年に行われた.44第2相試験では子宮摘出患者に10, 20, 40 mg用量の静脈投与が試験された.血漿からの平均半減期は0.5–2.5時間であった.投与後10分において尿管の蛍光強度は,10 mg用量群では8人中5人,20 mg用量群では8人中3人,40 mg用量群では8人中8人が「強い蛍光」と評価された.投与後30分においては,10 mg用量群では8人中0人,20 mg用量群では8人中1人,40 mg用量群では8人中5人が「強い蛍光」と評価された.投与後60分では,10 mg及び20 mg用量群での「強い蛍光」は0人であり,40 mg用量群でも8人中1人の結果であった.なお,IS-001の投与量がASP5354とZW800-1よりも10倍高かった点と投与後60分での尿管の近赤外蛍光イメージングの評価がIS-001は低いことに注視すべきである.現在,IS-001は,大腸手術を対象にした2023年からの第2相(NCT05769257)及び婦人科手術を対象にした2024年からの第3相(NCT05954767)が実施されている.

リポソームICG・UreterGlow・UL-766

Portnoyらは,肝排泄性のICGをリポソームカプセル化し腎排泄性を高めたが,バックグランド蛍光が高く,また臨床試験は行われていない.4547 Mahalingamらは,近赤外蛍光性のインドシアニン化合物UreterGlow及びその類縁化合物を化学合成し,ブタでの静脈投与による尿管イメージングを報告したが,腎排泄性は高くなく臨床試験には至っていない.48,49 Chaらは,ZW800-1と同様なインドシアニン化合物を正負電荷で覆った双性イオン化と短鎖エチレングリコールを結合したUL-766を化学合成し,蛍光腹腔鏡システムを用いたブタでの静脈投与(0.12 mg/kg体重)後の高い腎排泄性とそれによる尿管の近赤外蛍光イメージングを報告した.50,51 UL-766の尿管の蛍光は投与後少なくとも4時間観察でき,蛍光は標準的な腹腔鏡検査では観察されなかった部分的な尿管損傷を提示した.なお,臨床試験の詳細は不明である.

まとめ

尿管の術中での静脈投与による近赤外蛍光イメージングは,尿管ステントや尿管カテーテル留置に代わる医原性尿管損傷を予防する効果的な技術と期待される.光学的及び薬学的な要件を満たし,現在,米国臨床試験第3相にあるASP5354, ZW800-1及びIS-001は近い将来,静脈投与による術中尿管蛍光イメージング薬となる可能性が高い.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

REFERENCES
 
© 2025 The Pharmaceutical Society of Japan
feedback
Top