2025 年 145 巻 6 号 p. 561-569
This study evaluated the educational impact of dental seminars involving practicing pharmacists and dentists on pharmacy students. Its primary objective was to assess changes in learning attitudes and improvements in oral care knowledge through lectures and group discussions. The dental seminars were conducted during October–November 2024, and participants included 14 second-year pharmacy students. Participants completed surveys before and after the seminars that addressed topics such as “antibiotics in dental care” and “pharmacist–dentist collaboration.” Survey results indicated that the proportion of students recognizing the relationship between pharmacy and dentistry increased from 71.5 to 100%. Furthermore, the percentage of students who expressed a desire to learn more about dentistry increased from 42.9 to 85.7%. Knowledge assessments revealed significant improvements in the understanding of appropriate use of antibiotics for tooth extraction and oral care during cancer therapy. However, no improvement was observed in foundational knowledge of dental anatomy, underscoring the necessity of reinforcing basic education. This study provided preliminary insights into the effectiveness of incorporating dental education into the pharmacy curricula. These findings can contribute to the development and refinement of educational programs at other universities and institutions.
近年,口腔ケアの重要性は医療の多岐にわたる分野で強調されており,薬剤師においてもその必要性が認識されつつある.医療現場においては,歯科医師による専門的な講義を受けた薬剤師が服薬指導を実施することで,口腔粘膜炎の重篤化を抑制できたとの報告もある.1,2)また,令和4年に改訂された「薬学教育モデル・コアカリキュラム」では,口腔ケアが薬物治療,地域医療,公衆衛生の重要な要素の一つとして位置づけられた.3)こうした背景を受け,薬学生は口腔ケアに関する知識を深めるとともに,歯科領域の理解を実務に生かす能力が求められている.しかし,現行の薬学教育において歯科領域に関する教育は十分であるとは言い難いのが現状である.
本研究は,がん化学療法における口腔粘膜障害や歯科領域における抗菌薬の知識を主要な焦点とし,薬剤師が実務で必要な知識と技能を習得できる歯科ゼミナールを薬学教育に導入した.これらの内容を優先的に取り上げた理由は,筆者らが臨床現場で特に重要と考える課題であるためである.本研究の目的は,日本医療薬学会認定の医療薬学指導薬剤師資格を有する実務家教員と,4)病院薬剤師及び歯科医師が参画する歯科ゼミナールを薬学教育に導入し,そのうえで,薬学生の歯科に対する意識及び知識に関する影響を調査し,その教育効果を評価することとした.特に,歯科医師との連携による実践的な講義やグループワークを通じて,薬学生が口腔ケアに関する具体的な知識を習得し,将来的に歯科医師と円滑な協働が可能となる能力を育成することを目指した.本研究では,これらの教育的取り組みの成果について歯科ゼミナールを受けた薬学生を対象にアンケート調査を行ったので報告する.
2024年10月から2024年11月の期間に東京薬科大学薬学部の2年生で歯科ゼミナールを受講した薬学生を対象としアンケート調査を行った.ゼミナール選択は,後期ゼミナール選択科目の該当者である140名の薬学生が第1希望から第3希望まで記入し,抽選によって14名が本ゼミナールを受講した.アンケートは第一回目(初回)のゼミナール開始前及び第四回目(最終回)のゼミナール終了後にGoogleフォームによるアンケートでQRコードを用いて薬学生が回答した.ゼミナールの内容は以下の通りである.1回目は「身近な歯科」をテーマとし,50分間の参加者の自己紹介を行い,実務家教員によるスモールグループワークディスカッション(small groupwork discussion: SGD)の導入講義(病院薬剤師の仕事内容,う蝕,口腔粘膜炎,顎骨壊死などを含む内容)をパワーポイント20枚を用いて20分間実施した.その後,SGDを60分間行い,各班による発表(大項目:あなたが薬剤師だったら歯科領域に対してどのような係わりをしていきますか?とし以下の5項目をSGD:1;薬剤師ってどんなイメージ?薬剤師について何か知っていることは? 2;歯科ってどんな役割でどんなことをしている? 3;薬剤師ってどんな特徴・強みがあるだろうか? 4;薬剤師ってほかの職種からはどう見られている可能性があるだろうか? 5;薬剤師として歯科でどんなことができるだろうか?)をパワーポイントを用いて行い,質疑応答を含めて60分間実施した.最後に実務家教員よる口頭でのフィードバックを20分間行った.2回目は「歯科における抗菌薬」をテーマにSGDを60分間実施した後,各班による発表(抜歯前の34歳の男性にアモキシシリンがどのくらい投与されるとよい?選択肢4つ;1. 投与しない,2. 1000 mgを1日1回,3. 250 mgを1日1–3回,4. 250 mgを1日おき)をパワーポイントを用いて行い,質疑応答を含めて60分間実施した.最後にパワーポイント4枚を用いた患者状態に応じた歯科領域における抗菌薬の適正使用について実務家教員がフィードバックを20分間行った.3回目は「抗がん剤による口腔粘膜炎」をテーマとし,実務家教員による口腔粘膜炎に関する導入講義をパワーポイント7枚を用いて20分間行い,その後,SGDを70分間実施した.各班の発表(大項目:あなたが薬剤師だったら口腔粘膜炎が現れて困っているがん患者に対してどのような係わりをしていきますか?とし以下の3項目をSGD:1;口腔粘膜炎が現れると困ることは? 2;口腔粘膜炎で困っている人にどのような声掛けをしてあげる? 3;薬剤師はどのように係われる?)をパワーポイントを用いて行い,質疑応答を含めて80分間実施した.最後にパワーポイント28枚を用いたがん患者の口腔粘膜炎と薬剤師の係わりについて実務家教員がフィードバックを40分間行った.4回目は「歯科と薬剤師の係わり」をテーマとし,歯科医師が歯科に関する導入講義をパワーポイント42枚を用いて60分間行い,SGDを60分間実施した.各班の発表(大項目:あなたが薬剤師だったら講義を聞いたうえで歯科領域に対してどのような係わりをしていきますか?とし以下の4項目をSGD:1;講義を受けた感想をシェアしてみよう 2;歯科ってどんな役割でどんなことをしている? 3;薬剤師ってやりがいなどありそう? 4;薬剤師として歯科でどんなことができるだろうか?)をパワーポイントを用いて行い,質疑応答を含めて計60分間実施した.最後にパワーポイント38枚を用いた歯科領域における薬剤師の係わりについて実務家教員がフィードバックを30分間行った.なお,SGDは毎回異なるグループ分けとし,司会(1名),発表者(1名),タイムキーパー(1名),発表資料作成者(1 –2名)に振り分けを行った.実務家教員は全ゼミナールを担当し,病院薬剤師は第1回,第3回に参加,歯科医師は第4回に参加し各グループの発表後に質問やコメントを薬学生に対して行った(Fig. 1).対象者へ事前に研究参加の趣旨とアンケート回答可否により成績には一切影響しないことを説明し,自由意志による参加としたうえで,アンケートへの回答によって同意を取得したこととした.また,個人情報の保護に配慮し,回答は匿名化して分析を行った.
Pharmacy students were asked to fill out a paper survey before dental seminar. After dental seminar, pharmacy students were asked to respond via a QR code on Google Forms.
アンケートの質問内容は,実務家教員,病院薬剤師,歯科医師が作成した.受講前後の共通項目は1)薬剤師と歯科は係わりがあると思いますか,2)歯科に関連する授業を学びたいと思いますか,3)薬剤師と歯科は具体的にどのような係わりがあるか説明できますか,4)口腔ケアについて知りたいと思いますかの5項目とした.受講前の項目は,1)これまでに大学で歯科に関する講義を受けたことはありますか,2)このゼミを選んだ理由はなんですか(複数回答可),3)そのほかにこのゼミを選んだ理由があれば教えてください(自由記載),4)このゼミを通してどのようなことを知りたいですか(自由記載),5)歯科に関連するどのような授業を学びたいですか(自由記載)の5項目とした.受講後の項目は,1)歯科に関連する授業を更に学びたいと思いますかの項目で,そう思う,少しそう思うと答えた方に質問です.具体的に歯科に関連するどのような授業を学びたいですか(自由記載),2)アンバサダー制度で資格を取ることについてどう思いますか,3)授業形式は適切でしたか,4)本ゼミナールの改善点を教えてください(複数回答可),5)そのほかに本ゼミナールの改善点があれば記載してください(自由記載),6)本ゼミナールの良かったところを教えてください(自由記載)の6項目とした.なお,事前に3名の薬学生にプレ調査を行い,アンケートの記載方法や表現などに問題がないことを確認した(Fig. 2, Supplementary Fig. 1).
知識問題は実務家教員,病院薬剤師,歯科医師が作成した.知識評価項目は,以下の18問を設定した.抗菌薬関連:1)抜歯を行う際には抗菌薬はかならず必要である,2)歯科領域における抗菌薬として第一選択薬として推奨できる抗菌薬,3)抜歯の際に抗菌薬を服用するタイミング,口腔粘膜炎関連:4)がん薬物療法により起こる口腔内有害事象の総称,5)頭頸部がんの放射線化学療法を行う患者の口腔内有害事象の発現率,6)骨髄破壊的同種造血幹細胞移植患者の口腔内有害事象の発現率,口腔ケア関連:7)口内炎が起き易い抗がん剤の場合,嗽含薬を行う回数として望ましい回数,8)口腔ケアに保湿剤は必要だと思いますか,9)口腔ケアの定義として○○○の中に入る言葉,歯科一般知識:10)歯の構成要素をすべて選んでください,11)歯周組織の構成要素をすべて選んでください,12)口腔内の軟組織をすべて選んでください,13)歯科2大疾患として正しいものを2つ選んでください,14)歯科2大疾患の根本的な治療方法として正しいものをすべて選んでください,15)がん薬物療法中の患者に対し,口腔ケアや歯科治療を行う理由をすべて選んでください,16)口腔粘膜炎が起きない部位として正しいものをすべて選んでください,写真付きの実践問題(がん化学療法に伴う口腔内有害事象,薬剤関連顎骨壊死による骨露出の写真):17)がん薬物療法により起こる口腔内有害事象として正しい写真を選んでください,18)あなたが薬剤師として薬局で骨吸収抑制剤投与中の患者さんから口腔内の痛みについて相談を受けました.口腔内に,写真内にある矢印で示す骨の露出したような症状を認めます.担当医に伝える際,どのように伝えますか?一つ選んでください.
なお,事前に3名の薬学生にプレ調査を行い,知識問題の記載方法や表現などに問題がないことを確認した(Fig. 3, Supplementary Fig. 2).
歯科ゼミナール受講前後に薬学生から回答があった項目について,態度については5段階のスコア化(5点:そう思う,4点:少しそう思う,3点:どちらともいえない,2点:あまり思わない,1点:思わない)を行い,各項目の総スコアの変化を評価した.知識については問題番号(1–3は抗菌薬関連,4–8は口腔粘膜炎関連,9–16は歯科関連,17, 18は写真関連)へ分類し,各関連問題における総正解率の変化を評価した.
5. 倫理審査本研究は東京薬科大学の人を対象とする医学・薬学並びに生命科学系研究倫理審査委員会の承認(承認番号2024-019)を得て実施した.
アンケート回答者数は14名(回収率100%)であった.「これまでに大学で歯科に関する講義などを受けたことがありますか」の項目は,「いいえ」と回答したのが100%であった.「このゼミを選んだ理由を教えてください」の項目は,「面白そうだから,初めて聞いたから,歯科に興味があるから」と回答したのがのべ件数で81.8%(18/22件),「ほかのゼミに抽選で外れたから」で18.2%(4/22件)であった(Table 1).
% (total number of cases) | |
---|---|
Have you ever attended lectures or classes related to dentistry at university? | |
Yes | 0 (0/0) |
No | 100 (14/14) |
What are the reasons for choosing this seminar? (Multiple answers allowed) | |
It seemed interesting. | 36.4 (8/22) |
It was a topic I had never heard about before. | 18.2 (4/22) |
I am interested in dentistry. | 27.2 (6/22) |
I was not selected for other seminars. | 18.2 (4/22) |
If there are any other reasons for choosing this seminar, please explain below. (Open-ended response) | |
Although I enrolled in the Faculty of Pharmacy, I was still exploring various healthcare professions. | — |
To take the seminar together with my friend. | — |
What do you hope to learn through this seminar? (Open-ended response) | |
I want to learn about the relationship between pharmacists and oral surgeons as well as treatments related to their collaboration. | — |
The interaction between pharmacists and other healthcare professionals. | — |
How pharmacists are involved in dentistry. | — |
Things I have not been aware of until now. | — |
The relationship between dentistry and overall health. | — |
薬学生の歯科に対する意識の推移として以下の4項目をアンケートした.「薬剤師と歯科は係わりがあると思いますか」は,「そう思う」,「少しそう思う」の項目が71.5%から100%,「どちらともいえない」,「あまりそう思わない」の項目が28.5%から0%へと推移していた.「歯科に関連する授業を学びたいと思いますか」は「そう思う」が42.9%から85.7%となり,受講後の「具体的に歯科に関連するどのような授業を学びたいですか(自由記載)」は「薬の副作用によって起こる口腔事象をもっと詳しく学びたい」,「歯科の専門用語や知識が薬剤師としてアドバイスするときに役に立つと思ったため学びたい」などの回答があった.「薬剤師と歯科は具体的にどのような係わりがあるか説明できますか」は「できる」,「少しできる」の項目が7.1%から100%へと推移していた.「口腔ケアについて知りたいと思いますか」は「そう思う」,「少しそう思う」の項目は受講前後でともに100%であった(Table 2).
Dental seminar | Overall agreement score | ||
---|---|---|---|
Before | After | ||
(n=14) % | (n=14) % | ||
Do you think there is a connection between pharmacists and dentistry? | |||
Strongly agree | 28.6 | 100 | 1.1 |
Somewhat agree | 42.9 | 0 | |
Neutral | 21.4 | 0 | |
Somewhat disagree | 7.1 | 0 | |
Strongly disagree | 0 | 0 | |
Do you want to take courses related to dentistry? | |||
Strongly agree | 42.9 | 85.7 | 0.4 |
Somewhat agree | 57.1 | 14.3 | |
Neutral | 0 | 0 | |
Somewhat disagree | 0 | 0 | |
Strongly disagree | 0 | 0 | |
Can you explain specifically how pharmacists and dentistry are connected? | |||
Strongly agree | 0 | 42.9 | 2.2 |
Somewhat agree | 7.1 | 57.1 | |
Neutral | 7.1 | 0 | |
Somewhat disagree | 42.9 | 0 | |
Strongly disagree | 42.9 | 0 | |
Are you interested in learning about oral care? | |||
Strongly agree | 85.7 | 85.7 | 0 |
Somewhat agree | 14.3 | 14.3 | |
Neutral | 0 | 0 | |
Somewhat disagree | 0 | 0 | |
Strongly disagree | 0 | 0 |
Strongly agree (Score: 5), somewhat agree (Score: 4), neutral (Score: 3), somewhat disagree (Score: 2), strongly disagree (Score: 1)
知識問題の正答率が50%以上上昇した項目は,「抜歯を行う際には抗菌薬はかならず必要である」,「抜歯の際に抗菌薬を服用するタイミングは?」,「がん薬物療法により起こる口腔内有害事象の総称は?」の3項目であった.受講前より正答率が低下した項目は「歯の構成要素をすべて選んでください」,「口腔内の軟組織をすべて選んでください」,「歯科2大疾患として正しいものを2つ選んでください」の3項目であった.「歯科2大疾患の根本的な治療方法として正しいものをすべて選んでください」は受講前後で正答率が0%であった.それ以外の知識問題の正答率はすべて正答率が上昇又は横ばいであった(Table 3).
Dental seminar | Change | Total correct answer rate for each question | ||
---|---|---|---|---|
Before | After | |||
(n=14) % | (n=14) % | |||
1.Is it always necessary to prescribe antibiotics when performing tooth extraction? | 7.1 | 100 | 92.9 | 59.5 |
2.What is the recommended first-choice antibiotic for dental use? | 35.7 | 71.4 | 35.7 | |
3.When should antibiotics be administered during tooth extraction? | 28.6 | 78.6 | 50.0 | |
4.What is the general term for oral adverse events caused by cancer chemotherapy? | 35.7 | 92.9 | 57.2 | 42.9 |
5.What is the incidence rate of oral adverse events in patients undergoing chemoradiotherapy for head and neck cancer? | 14.3 | 50 | 35.7 | |
6.What is the incidence rate of oral adverse events in patients undergoing myeloablative allogeneic hematopoietic stem cell transplantation? | 28.6 | 64.3 | 35.7 | |
7.For anticancer drugs prone to causing oral mucositis, what is the recommended frequency of gargling? | 21.4 | 57.1 | 35.7 | 23.8 |
8.Do you think moisturizers are necessary for oral care? | 64.3 | 100 | 35.7 | |
9.What is the missing term in the definition of oral care: “○○○”? | 100 | 100 | 0 | |
10.Select all the components of a tooth. | 7.1 | 0 | −7.1 | −3.1 |
11.Select all the components of the periodontal tissues. | 14.3 | 14.3 | 0 | |
12.Select all the soft tissues in the oral cavity. | 78.6 | 71.4 | −7.2 | |
13.Select the two major dental diseases. | 78.6 | 57.1 | −21.5 | |
14.Select all the fundamental treatment methods for the two major dental diseases. | 0 | 0 | 0 | |
15.Select all the reasons for performing oral care and dental treatment in patients undergoing cancer chemotherapy. | 57.1 | 71.4 | 14.3 | |
16.Select all the areas where oral mucositis does not typically occur. | 42.9 | 42.9 | 0 | |
17.Select the correct images that represent oral adverse events caused by cancer chemotherapy. | 35.7 | 71.4 | 35.7 | 25 |
18.As a pharmacist, you are consulted by a patient on bone resorption inhibitors about oral pain. Upon examining the oral cavity, you notice symptoms similar to bone exposure as shown in the arrow in the image. Select the option. | 57.1 | 71.4 | 14.3 |
1–3: Antibiotics-related questions, 4–6: oral mucositis-related questions, 7–9: oral care-related questions, 10–16: dentistry-related questions, 17–18: image-related questions.
「アンバサダー制度で資格を取ることについてどう思いますか」は「とてもよい」で64.3%,「少しよい」で21.4%,「どちらともいえない」で14.3%であった.「授業形式は適切でしたか」は「そう思う」で78.6%,「少しそう思う」で21.4%であった.「本ゼミナールの改善点を教えてください(複数回答可)」は,のべ件数で「特になし」が66.7%(10/15件),「歯科医師,病院,薬局の薬剤師の話がもっと聞きたかった」が20.0%(3/15件),「薬の知識をもっと教えて欲しかった」が13.3%(2/15件)であった.「そのほかに本ゼミナールの改善点があれば記載してください(自由記載)」は「スライドを作る時間をもう少し設けて欲しかった」,「SGDの時間をもう少し欲しかった」,「班で役割を決めたことで話し合いに参加する人としない人ができてしまった」などであった.「本ゼミナールのよかったところを教えてください(自由記載)」は「病院薬剤師や歯科医師から直接話を聞けたこと」,「毎回異なるテーマで議論できたこと」,「教員が全肯定してくれるので自信を持って発言できるようになったこと」,「グループワークと発表でかならず自分の意見を発言する機会があったこと」,「グループが毎回違うメンバーだったこと」,「薬学部にいたら普通は学ぶことができない口腔のことを学べた」,「薬剤師と歯科の関わりについて学び発表することで知識だけでなく発表のスキルも身についた」,「教員のスライドが見易く,とても分かり易かった」などであった.
本学の薬学生を対象に歯科ゼミナールを導入し,その教育効果についてアンケート調査を通じて評価した.これまでに薬学生を対象にした病院薬剤師との連携による教育効果についての報告はあるものの,5)歯科領域における最適な教育手法を検討した研究はない.この理由として,これまでの薬学教育では歯学に関連する講義などはカリキュラムに含まれていなかったこと,臨床現場においても歯科が併設している病院は少なく,病棟における薬剤師と歯科医師の連携が医師及び看護師に比べて少なく,臨床経験を通じた教育を行える教員が少なかったことが考えられる.本研究は,実務家教員,病院薬剤師,歯科医師との連携による実例に基づく講義やグループワークを通じて,歯科に対する意識向上及び知識の深化に寄与することを明らかにした初めての報告である.
受講前に歯科に関する授業を受けた経験がない薬学生が100%であった一方で,歯科ゼミナールを選択した理由として「興味がある」,「初めて知った」という肯定的回答が81.8%を占めた.この結果は,薬学生の関心の一つとして歯科に関する教育への潜在的ニーズが存在することを示している.また,「薬剤師と歯科は係わりがあると思いますか」という設問に対する肯定的な回答が受講前の71.5%から受講後には100%に増加したことは,歯科ゼミナールが薬剤師と歯科の連携の重要性を認識させる効果的な場であったことを示している.さらに,「歯科に関連する授業を学びたいと思いますか」に対する「そう思う」の回答が42.9%から85.7%に増加したことは,薬学生の学習意欲の向上を示唆している.特に,自由記載では「薬の副作用による口腔事象」や「歯科の専門用語」に対する具体的な関心が挙げられたことから,実務に関連する知識への興味を喚起したと考えられた.
知識問題では,抗菌薬や口腔粘膜炎,口腔ケアに関する問題において正答率の上昇が確認された.特に,「抜歯を行う際には抗菌薬はかならず必要である」,「抜歯の際に抗菌薬を服用するタイミングは?」,「がん薬物療法により起こる口腔内有害事象の総称は?」に関する知識の項目は正答率が50%以上向上していた.これらの項目は,実務に直結する教育効果を示しており,とりわけ薬剤師が抗菌薬に関する正しい知識を持つことで,歯科領域における抗菌薬の適正使用にも寄与する可能性につながるため,6,7)早期からの知識の向上に取り組むことは重要である.歯科ゼミナールの実施を通じて,薬学生が抗菌薬の適正使用やがん化学療法に伴う口腔ケアに関する具体的な知識を習得し,薬剤師として実務に直結する技能を向上させたことが確認された.また,歯科医師との連携の重要性を認識し,他職種協働に対する意識を高める成果が得られた.これらの点は,本ゼミナールが単なる知識向上に留まらず,実践的な能力と学習意欲を喚起する教育効果を持つことを示している.一方で,「歯の構成要素」,「口腔内軟組織」,「歯科2大疾患」に関する正答率が低下した.特に「歯科2大疾患」は,口腔粘膜炎と回答する薬学生が増加しており,SGDでのテーマに対するイメージが強く残っていたためだと思われた.また,「歯科2大疾患の根本的な治療方法として正しいものをすべて選んでください」は,受講後も正答率が0%のままであったが,正解である「感染巣の除去」を選択した薬学生が92.9%(13/14件)と大半を占めていた.これらの結果は,歯科ゼミナールが実践的な内容に重点を置いたため,基礎知識の理解が十分でなかった可能性を示唆する.また,質問紙票の開発においては,実務家教員,病院薬剤師,歯科医師が協力し,教育プログラムの内容に基づいた設問を設計した.しかし,一部の歯科一般知識項目においてプログラム内容との整合性が不十分であったことが,正答率低下の一因と考えられる.今後は,質問紙票作成時に教育内容との整合性を更に高めるとともに,基礎知識を補強する講義やトレーニングを追加し,教育効果をより的確に測定できるよう改善を図る必要がある.これらの内容に対応するため,歯科ゼミナールには基礎知識を補強するための講義の追加や歯科模型,virtual reality(VR)トレーニングツールなどの教材の導入が必要であると考えられる.実際,薬学生の臨床準備教育における機能習得を目的にVRトレーニングツールを活用した事例も報告されている.8)歯科領域における基礎知識の理解向上のためにこれらのデバイスなどを試用し,より最適な教育手法を探索していくことが重要であると考えられた.
「アンバサダー制度で資格を取ることについてどう思いますか」の設問では,85.7%の薬学生が肯定的な回答を示した.このような制度を活用し,資格取得や実務教育と連動させることは薬学生の学習意欲を更に高める可能性があることから,活用することが望ましい.「授業形式は適切でしたか」という設問では,「そう思う」及び「少しそう思う」の回答が合わせて100%に達したことから,ゼミナールの形式は概ね適切であったことが示唆される.しかしながら,自由記載では「歯科医師や病院薬剤師の話をもっと聞きたい」や「SGDの時間を増やしてほしい」といった意見が挙げられた.このことは,薬学生がゼミナールの内容に強い興味を持ちながらも,更なる充実を求めていることを示している.また,「班での役割分担による議論参加の偏り」という指摘もあり,グループワークの運営方法についての工夫が必要である.例えば,ファシリテーターの役割を設定し,発言機会を均等に配分する仕組みを導入することで,全員が積極的に参加できる環境を整えるなどである.本ゼミナール内容として,嚥下障害や義歯調整不良など他の口腔ケア課題については十分に網羅されておらず,今後の課題として改善を検討する必要もあると考えられた.
本研究の限界は,対象が1学年のみと限られていること,対象者が14名と少ないこと,一施設のみで実施されていることが挙げられ,結果の一般化が難しい点である.加えて,アンケート時には回答可否が成績に影響しないことを説明及び明記していたものの,薬学生が単位認定を受ける立場であることが結果に影響を与えた可能性を否定できない.受講した薬学生は第3希望まで記載し,抽選により選出されているため潜在的なバイアスが含まれる可能性がある.また,知識評価に関しては,薬学生の事前知識の有無を適切に評価する必要があり,関連科目を事前に受講していたか否かを明示することが十分に行われていない.今後は,異なる学年の薬学生,対象人数の拡大,他大学との連携を見据えた更なる調査と事前知識の有無を考慮した評価設計が必要である.また,オンライン学習ツールの導入や,歯科医師,病院薬剤師との対話の機会を増やすなど,教育内容を拡充することが求められる.更に,学習内容を資格取得や臨床実習と関連付けることで,薬学生が実務に直結する知識とスキルを体系的に学べる環境を整え,継続的な教育を行うことが重要である.
以上のことから,本研究は薬学教育における歯科領域教育の有効性を示す初期的な知見を提供した.これらの知見は,他大学や教育機関における教育プログラムの開発及び改善に寄与すると考えられる.
本研究のアンケート調査へ御協力を頂いた,東京薬科大学の薬学生の皆様に感謝致します.
開示すべき利益相反はない.
この論文のオンラインにSupplementary materials(電子付録)を含んでいる.