初めに,明治9(1876)年1月に,大阪で発行された,オランダ医師エルメレンス(Christian Jacob Ermerins:亞爾蔑聯斯 または越尓蔑嗹斯と記す,1841-1879 )による講義録である『日講記聞 原病學各論 巻十五』の概要を述べ,次いで,その原文の一部を紹介し,その全現代語訳文と語句の解説を加え,現代医学と比較検討し,一部では,歴史的変遷,時代背景についても言及する.本編では,巻十五に記されている「全身病篇」の中の「第一 中毒諸病」の初めの部分である「鉛中毒」,「燐中毒」及び「砒石中毒」を取り上げる.各疾患の病態生理、症候論の部分は,かなり詳細に記されているが,炎症の概念が確立されていない.また,疾患名及び用語が現在とは異なっている部分があり,治療法では,内科的対症療法がその主流であって,使用される薬剤も限られている.しかし,本書は,わが国近代医学のあけぼのの時代の医学の教科書である.