山野研究紀要
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<原著>初期喜劇におけるシェイクスピアの自然観
近内 トク子
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キーワード: , 生と死, 妖精, 豊穣, 自然の魔力
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1995 年 3 巻 p. 59-70

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抄録

Shakespeareは,習作時代が終わる頃,つまり1590年代の中葉頃から,自然に対して,極めて鋭い解釈を喜劇で披瀝するようになった。特に自然についての言及が多いのは,Love's Labour's LostやA Midsummer Night's Dreamである。また喜劇ではないが,同時期に制作されたRomeo and Julietにも,注目すべき言及がある。これ等の作品では,恋愛を自然の理法の現れ,宇宙の生成の一部と見なす記述が見られる。このような見解は,いわゆるfestive comediesとかromantic comediesと呼ばれる中期の傑作喜劇群にまで及ぶ。だが,自然に対する鋭い言及が,特に多く目立つのは,上記の三作品である。Shakespeareの自然観は,先ず1590年代の前半に書かれた詩作品,Venus and AdonisやThe Sonnetsの中のmarriage sonnetsと呼ばれる1番から17番までのソネットなどで力強く歌われている。Venus and Adonisでは,愛の女神Venusの口から,愛と生殖本能が永遠の生命につながる絆とし肯定的に語られている。また,ソネットの中では,自然はなによりも,身分の高い友人の青春の美として表現されている。しかし,他方,自然はいつ人を訪れるか分からない「時の大鎌」,すなわち死としても表現されている。喜劇Love's Labour's Lostでは,恋愛が避けようとしても逃れられない自然の摂理,人間の愚行として描かれ,作品に笑いを与えている。この作品の最後には,フランス王の死が報ぜられる。そして,春,青春,生に対する冬,老令,死がdebate(論争歌)の形で歌われる。A Midsummer Night's Dreamでは,皮肉な視点はさらに深化して,恋を人間の愚行と捉えるばかりでなく,狂気の一種と見る視点が導入されている。またこの作品では,恋愛とその成就が自然の摂理,あるいは人間の力を超えた自然の魔法と捉える描写も見られる。この作品には妖精が登場するが,彼等は,いわば見えないはずの自然の魔法が,顕在化した姿である。

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© 1995 学校法人山野学苑 山野美容芸術短期大学
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