山口医学
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原著
白内障手術術眼順序による「効用」差に関する行動科学的考察
川本 晃司松田 憲
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2024 年 73 巻 2 号 p. 69-78

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抄録

(目的)白内障手術において,最初に手術を施行する眼(1眼目)と,後から手術を施行する眼(2眼目)の手術後の「見え方」に関して,患者の満足度には術眼順序差があるのかを検討する.

(対象と方法)かわもと眼科で両眼の白内障手術を施行された142例284眼を対象とした.これらのうち手術前検査で等価球面度数がマイナス1.0D以上の近視を有する症例を近視群とし,残りを対照群とした.手術前後での視力検査と白内障手術後の「見え方」に関して,「1眼目の手術後の『見え方』を0とした時の,2眼目の手術後の『見え方』をプラス10からマイナス10で評価」する方法で,2眼目の「見え方」の手術後の満足度を聞き取り調査した.

(結果)白内障手術前後での視力検査では,術眼順序差はみられなかった.一方で,手術後の「見え方」に関する満足度調査では,近視群・対照群共に1眼目に比べて2眼目は満足度が有意に低い結果が得られた.

(結論)両眼の白内障手術前後で視力に術眼順序差は存在しないにも拘わらず,1眼目に比べて2眼目の「見え方」への満足度が低いことがわかった.これは患者が白内障手術後の「見え方」を検査数値で評価しているのではなく,効用で評価していることを示唆していた.1眼目に比べて2眼目の術後視力への期待値が上がり,結果的に2眼目の術後効用が小さくなるメカニズムとしては,認知バイアスのひとつである「プライミング効果」や経済学分野での「期待不確認モデル」によって説明されるのではないかと考えられた.

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