日本養豚学会誌
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原著
ブタ凍結精液における融解液への N-acetyl L-cysteine 添加は融解後の精子運動性の経時的低下を改善する
岡﨑 哲司知念 司當眞 嗣平秋好 禎一佐藤 邦雄生駒 エレナ川部 太一
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2013 年 50 巻 4 号 p. 157-163

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抄録

ブタの凍結精液による人工授精(AI;artificial insemination)技術は,融解後の運動性の低さが問題となっている。融解精子の低運動性の原因の一つとして,凍結融解刺激に起因する精子の酸化ストレスが挙げられる。そこで,本研究では,抗酸化作用を有する N-acetyl L-cysteine(NAC)に着目し,その融解液への添加が融解後の精子運動性を改善しうるか否かについて検討した。融解液へ 0(control),0.5,5.0 mM の NAC を添加し,融解後 0,1 ならびに3時間後に運動パラメーターである精子運動率,直進速度を測定し,培養3時間後に精子原形質膜および先体膜の正常性を観察した。さらに,NAC が精子 ROS(reactive oxygen species)活性に及ぼす影響を検討するため,Total ROS/Superoxide Detection Kit を用いてフローサイトメーターにて解析した。融解後の精子運動率は,培養3時間において5.0 mM NAC 添加区が control と比較して有意に向上し(P<0.05,24.2 vs. 42.9%),また,この濃度の直進速度は,培養1時間以降で control より有意に高い値を示した(P<0.05,1 hr;22.5 vs. 39.0 μm/s,3hr;16.7 vs. 35.0 μm/s)。両運動パラメーターにおいて,経時的な値の低下が観察されたのはcontrolのみであった(P<0.05)。一方,原形質膜および先体膜の正常性には NAC の添加効果は見られなかった(P>0.05)。5.0 mM の NAC 添加が融解後の精子運動パラメーターを向上させたことから,実際にこの濃度の NAC が精子ROS活性を抑制しているかをフローサイトメーターにて解析した。その結果,control 区においては,ROS の強いシグナルが検出されたのに対し,NAC 添加によりそれは有意に抑制されていた(P<0.05)。これは NAC による直接的な抗酸化作用あるいはグルタチオン合成が刺激された間接的な影響のためと示唆された。以上の結果から,融解液への 5.0 mM NAC 添加は,融解後の精子 ROS 活性を抑制し,運動パラメーターを改善することが明らかとなった。

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© 2013 日本養豚学会
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