日本養豚学会誌
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原著
ブタガラス化胚のシリンジ内加温・希釈における加温・希釈液の温度および量の検討
瀧下 梨英平山 祐理橋谷田 豊
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2020 年 57 巻 4 号 p. 138-146

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抄録

ガラス化保存したブタ胚の移植は,特別な施設や技術を要する。このため,種豚農場でのブタ胚移植の普及および定着に向けて,ガラス化胚の簡易で高位安定的な成績が得られる加温·希釈方法を検討した。Micro Volume Air Cooling法によりガラス化した胚盤胞の加温·希釈をシリンジ内で行う簡易な方法により産子はすでに得られているが,流産および胚死滅率は40%と高かった。その際に用いられていた加温·希釈液の温度および量は,実験室の顕微鏡下で加温·希釈を行う従来法の条件(45℃,3 ml)に準じたものであり,シリンジ内加温·希釈法での至適条件の検討が必要と考えられた。そこで,加温·希釈液に対する外気温の影響について,15℃,27℃室温下または38℃保温下で1.5 ml,2 mlまたは3 mlの加温·希釈液に胚を付着させていないガラス化保存用容器を挿入し,その後3分間の加温·希釈液の温度変化を調査した。その結果,15℃室温下では加温·希釈液の温度が8~10℃程度,27℃室温下では4~6℃程度低下した。一方,38℃保温下では一旦,1℃程度の温度低下があったが,3分後にはガラス化保存用容器の挿入前に比べて0.1℃程度の低下にとどまった。つぎに移植液量と受胎および分娩成績との関係を調査した。1.5 mlおよび3 mlの加温·希釈液を各々39℃に保温した状態で加温·希釈したガラス化胚12~16個を各々5頭に移植した。その結果,ともに4頭が受胎して,各々19頭および17頭の産子を生産した。分娩率は各々80%および60%であった。また,移植胚数に対する産子率は各々23.6%および27.5%であり,ともに液量の間に有意差はなく,同等の成績であった。一方,加温·希釈液を39℃に保温することで,当初40%であった流産および胚死滅率が1.5 mlおよび3 mlで各々0%および25.0%に改善された。以上のことより,シリンジ内加温·希釈において,加温·希釈液は39℃に保温することが至適であり,加温·希釈液量は1.5 mlおよび3 mlで良好な成績が得られることが示された。

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