抄録
人工授精を広く普及するために, 養豚農家において雌豚の種付適期を容易に見つけるための一方法として, 発情中の雌豚の膣粘液のpHを測定することによって, 種付適期を把握することができないか試験をした。その結果を要約すると次のとおりである。
BTB試験紙による測定と携帯用pHメーターによる測定とでは測定結果に違いがあった。これはBTB試験紙は豚舎内の空気が汚れておる場合には容易に反応するので不正確になり易い, したがってpHメーターを用いて測定するのがよいと考えられる。pHメーターによる測定結果からみると,
発情開始日の膣粘液のpHは豚の品種, 年令をとわずpH7.3以上の弱アルカリ性を呈し, これが雄豚を許容するようになると, 各品種ともpH7.2~7.3を呈するようになり, この状態は雄豚を許容する期間中は継続するようである。発情が終了し雄豚を許容しなくなると, 膣粘液のpH値は雄豚許容期間中よりわずかに低くなる傾向がある。
種付日の膣粘液のpH値と受胎との関係は, 経産豚ではpH7.2~7.3の日の種付ではL種93.8%, W種66.7%, H種92.3%の受胎率で良好な受胎成績であった。未経産豚についてもpH7.2~7.3の種付であれば, 経産豚ほどの受胎成績をあげることは困難ではあるが, 未経産豚であるということを考えればかなりの良好な受胎率であった。
一般的に発情発現とともに膣粘液のpHは7.3以上の弱アルカリ性となり, これが雄豚を許容して種付適期をむかえると, pHは7.2~7.3とわずかに低くなり, 発情が終了し種付適期をすぎるとpHはさらに低くなる傾向がみられた。発情開始後の雌豚の挙動, 外陰部の状態を観察し, その状態が種付可能と判断され, 膣粘液のpH7.2~7.3を示した日が人工授精における豚の種付適期と考えられる。