2018 年 27 巻 3 号 p. 138-146
火星探査車Curiosityによって,35-30億年前に形成したGaleクレータ湖の湖底堆積物の化学・鉱物分析が進められている.本研究では,Curiosityが堆積物中に発見したマンガン酸化物に着目し,酸化物の形成に伴う微量元素の濃集パターンを調べる室内実験を行い,得られた結果を探査データと比較した.その結果,発見されたマンガン酸化物は二酸化マンガンである可能性が高く,当時の表層付近の水環境が極めて酸化的であったことが示唆された.これを実現しうる酸化剤の候補の一つは,大気中の酸素分子である.このような酸化的大気表層環境は,還元的な温室効果気体によって初期火星を温暖にする従来の理論とは矛盾する.また,酸化的な表層環境の存在は,地下の還元的環境との間での酸化還元勾配を形成し,生命にとって利用可能なエネルギーも供給しうる.