2018 年 27 巻 3 号 p. 163-172
現在の火星表層の中低緯度の低地では,気温や湿度の日変化・季節変化に応じて,液体の塩水が形成と蒸発をくりかえす可能性が示唆されている.本論文では,火星上の塩や塩水の存在,中低緯度の急斜面にくり返し現れる暗い筋模様(Recurring slope lineae:RSL)について近年の探査結果をレビューする。さらに,塩水の形成と蒸発がくり返される場合の土壌中での塩水の振る舞いを調べた著者らの室内実験を紹介する.実験では,塩水が蒸発することにより土壌中に析出した塩化物が,砂粒子の空隙を埋めて浸透率を低下させることで,再び供給される塩水の土壌へのさらなる浸透を妨げることが示唆された.浸透を阻害された塩水は表層流となり,斜面下方に流れることで縦に伸びた特徴的な流跡が形成する.このメカニズムにより形成する流跡は,火星のRSLの形状的特徴とも整合的である.