2018 年 27 巻 3 号 p. 180-189
近年の火星探査で報告された多数の「水の証拠」は,かつての火星の大規模な環境変動と生命の存在可能性を示唆し,火星における物質科学研究の重要性を強調している.火星は,地球以外の惑星では唯一,その岩石試料を「火星隕石」として手にすることのできる惑星である.火星隕石から得られた詳細な岩石記載・化学分析情報は,火星探査によるその場分析データと相補的な関係にあり,火星史の解明に大きく貢献してきた.本稿では,特に「火星隕石の同位体記録」を主軸に,表層の大気・水環境進化,および,火星内部の化学進化について,現在までにわかってきた事と将来の可能性を提示する.