日本惑星科学会誌遊星人
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特集「火星圏のサイエンス」
原始惑星内部のD/H比
齊藤 大晶倉本 圭
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2018 年 27 巻 3 号 p. 229-234

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抄録

形成期の惑星内部に取り込まれた初生水の D/H 比は地球と火星で異なるらしい.始原マントルにソースを持つと考えられる噴出岩中のメルト包有物中の H2O は,地球試料においては,星雲ガスを取り込んだことを示唆する低い D/H 比を示す一方で,火星試料においては,炭素質コンドライトに近い D/H 比を示す.両者の D/H 比の差異は,星雲内で集積する原始惑星上における原始大気の構造が惑星質量に依存しているためであるかもしれない.新たな一次元大気構造数値モデリングの結果によれば, 火星質量程度の原始惑星の場合,上層に星雲ガス成分,下層に衝突脱ガス成分からなる成層した混成型原始大気が形成し,接している原始マントルは材料物質に含まれる H2O の D/H 比を獲得することができる.これに対して,火星質量以上の原始惑星の場合,対流により起源の異なる両成分が混合し,下層大気の D/H 比は星雲ガスの値に接近する.これによって大質量の惑星の始原マントルは,星雲ガスに近い値の D/H 比を獲得できた可能性がある.

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