本研究では、日本の場面緘黙児の特性及び支援の実態の把握を目的とし、保護者251名に質問紙調査を行った。その結果、調査時点で継続的な支援を受けていた者は58.9%で、SMQ-Jの得点について調査時点で継続的な支援を受けていた「支援群」とそうでない「非支援群」で比較したところ、症状に関する項目の得点には有意差は見られなかったが、影響や悩みに関する項目の得点は支援群の方が有意に高かった。受けている支援内容は遊戯療法が46.9%、保護者への心理面接が42.7%、認知行動療法が17.5%などであった。継続的な支援を受けていない者が約4割いたことから支援機関が場面緘黙に関する専門性を高めることや場面緘黙児を支援機関につなげる取り組みが重要だろう。また、重症度に関わらず保護者が症状や悩みを大きく認識しているほど支援への動機が高まり、継続的な支援につながりやすい可能性がある。今後、支援へのつながりを促進・阻害する要因について詳しく調査されることが望まれる。
本特集論文は、日本特殊教育学会第61回大会において、日本場面緘黙研究会が企画した自主シンポジウム(わが国における場面緘黙研究の現在と今後の方向を考えるIX—高校入試における場面緘黙のある受験生の「英語スピーキングテスト」及び「自己表現」をめぐって—)を基に、企画者、話題提供者、指定討論者が新たな情報や内容を加えて構成し直したものである。中学校では2021年度から改訂学習指導要領が全面実施され、出口にあたる高校入試においても思考力・判断力・表現力等を重視した新たな選抜方法が導入されつつある。本論文では次の観点、①学習指導要領で求められる資質・能力と場面緘黙の障害特性との関連、②場面緘黙のある中学生が直面する課題、③新たな選抜方法によるねらいから、場面緘黙のある中学生を取り巻く現状を整理した。高校入試はもとより、普段の授業における思考力・判断力・表現力等の育成と評価の方法が検討不足であり、まずは一人ひとりに応じた教育的支援や合理的配慮が行われることが望まれる。
日本特殊教育学会第61回大会自主シンポジウム「わが国における場面緘黙研究の現在と今後の方向を考えるIX」において、高校入試に新しく導入された「英語スピーキングテスト」(東京都)及び「自己表現」(広島県)という入試制度について、場面緘黙のある子の保護者の立場からの考えとして話題提供した。本論文ではまず、「中学校英語スピーキングテスト」(東京都)を一例として取り上げ、「主体的な学び」へと変化していく学校教育において高等学校入学者選別での「スピーキングテスト」が場面緘黙のある生徒にとってどのような困難をもたらすのか、困難解消のための必要な配慮が行われているか、そして場面緘黙のある生徒を取り巻く現状と課題について検討した。次に、全国で初めて実施された「自己表現」(広島県)という入試制度について、場面緘黙の生徒にとって必要な配慮がなされているといえるのかという課題、及び場面緘黙の生徒と取り巻く環境改善につながるのではないかという期待について、保護者目線からの意見を述べた。
場面緘黙の生徒にとって苦手な場面で、自己表現を求められる機会が増えている。特に、高校受験にかかわる公的な評価が、東京都では英語のスピーキングテスト、広島県では自己表現として実施され、その成績が高校入試の合否に影響するため、その問題点を自主シンポジウムで検討した。自己表現の問題は、受験だけでなく、アクティブラーニングの重視から、ディスカッションの場面が増えるなど、場面緘黙の生徒にとって、今日厳しい状況に陥っていると言えよう。本論では、場面緘黙という障害の特性に直接かかわる差別の側面を検討した。障害者差別解消法は元々、障害者への差別を禁止する法であったが、我が国ではその一部であった合理的配慮が中心テーマとして着目され、本来の差別禁止という観点が見えなくなっている。本論では、差別が見えなくなる(ステルス化)問題を中心に検討する。
日本特殊教育学会第61回大会自主シンポジウム「わが国における場面緘黙研究の現在と今後の方向を考えるIX」において話題提供された公立高校入試の課題を場面緘黙のある生徒が抱える困難から再確認した。そして、場面緘黙のある生徒が現在行われている公立高校入試を受験する上でどのような困難があるのかを、「令和5年度高等学校入学者選抜の改善等に関する状況調査(公立高等学校)」結果からまとめた。最後に、公立高校入試において、場面緘黙のある生徒に適切な配慮を行うためにはどうすれば良いかについて、2007年の特別支援教育改革において構築された推進体制及び2017年に文部科学省から出された「発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン」を基に点検と改善を行うことでこの問題に対応することを提案した。
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