国際ジェンダー学会誌
Online ISSN : 2434-0014
Print ISSN : 1348-7337
17 巻
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  • ひとり親となった在日タイ女性の事例から
    新倉 久乃
    2019 年 17 巻 p. 68-87
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    日本における「移民の女性化」が顕著になった1985年から2005年の間に,フィリピン女性と並び多数のタイ女性が来日した。当初その多くは,性産業に従事する人身取引のルートで入国し,その結果ビザ発給の厳格化により日本人配偶者として入国するようになった。中にはその後国際結婚が破たんし,ひとり親として日本で再出発する女性も多く存在する。筆者は17年間,ケースワーカーとしてこのような移住女性とその家族への支援を行ってきた。本稿は,すでにケースワークを終了した後に再会した,ある在日タイ女性の経験から,彼女たちの離婚の際の意思決定に着目する。「日本国籍の子どもは日本人の夫といる方がいい」という女性の決断は,日本の母子福祉支援と家族や入国管理法に埋め込まれた「日本的」なジェンダー規範から外れており,結果として日本からの本人の退去強制と母子の離別を生む危険性を孕んでいた。本論文では,彼女の母国で内面化したジェンダー規範に沿った意思決定が,「日本的」なジェンダー規範とそれに基づく日本の諸制度とどのように交差して,移住女性の日本における安全な定住を脅かすのかを明らかにする。外国人を家族として迎え入れる現実を直視し,日本の諸制度に埋め込まれたジェンダー規範を明らかにすることが社会的な課題であると位置づける。この研究が,異なるジェンダー規範を背景に持つ移住女性たちの,日本への安全な定住のための一助となることを期待する。
  • 分断をもたらす噂に着目して
    大野 恵理
    2019 年 17 巻 p. 88-106
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文は外国人非集住地域におけるカトリック教会において,外国人支援部門を結節点として形成されたフィリピン女性ネットワークが分断される局面に着目し,その背景をジェンダー視点により検討した。教会の外国人支援部門には,性的搾取やドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence:DV)被害,在留資格の問題などの移住女性特有のジェンダー化された相談が多く寄せられ,日本人女性が長年にわたりフィリピン女性の困難を受け止めてきた。教会は女性たちにとって緊急避難場所や生活を再建するための包括的支援セクターとして極めて重要な役割を果たしてきたが,近年フィリピン女性が教会で噂をする行為が原因となり,教会に来なくなる現象が起きていた。本論文ではこれをネットワークが変容し分断される局面ととらえ,その噂をする行為の背景について調査協力者のインタビューデータから分析した。その結果,噂はフィリピン女性が地方(農村)社会における「外国人花嫁」であるという構造的な制約のなかで,地域社会から期待されるジェンダー規範を強く内面化していたことにより,互いを評価付けするようになったために生じ,拡散されたことが分かった。ネットワーク分断の背景に着目することで見えてきたことは,強固にジェンダー化された社会構造のなかで生きなければならないという,地方(農村)社会に住むフィリピン女性たちのリアリティであった。
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