比較政治研究
Online ISSN : 2189-0552
ISSN-L : 2189-0552
7 巻
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  • ―産業政策と福祉政策の曖昧な境界を中心に―
    尹 海圓
    2021 年 7 巻 p. 1-20
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/27
    ジャーナル フリー

    本研究はテクノポリス政策の決定過程における日韓政府の対照的な方針転換、つまり、日本の地理的集中から分散への転換と、韓国の地理的集中から分散、再び集中への回帰という現象を説明するために次の仮説を提示する。

    経済分野において政治家と有権者がクライエンテリスティックな関係を結ぶ日本では、政策に伴う雇用保障の効果が特殊利益とみなされ、産業政策の支援対象は分散し福祉政策化する傾向が強い。一方、日本に比べ相対的にプログラマティックな関係に基づく韓国では、雇用保障が一般利益と見なされる時期を除き、産業政策の支援対象は集中する傾向が強い。

    テクノポリス政策は両国ともに当初は産業政策として構想されたが、日本では、本政策による雇用保障を特殊利益とみなした政治家の介入により、支援対象は分散し福祉政策的な効果が強まった。韓国でも、当時一般利益と見なされた雇用保障に対応する中で一時期支援対象が分散するが、経済成長が再び一般利益として重視されるにつれ、支援対象は集中し産業政策的な効果が強くなった。

  • ―市民的保守主義と行財政改革を中心に
    安田 英峻
    2021 年 7 巻 p. 21-36
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/16
    ジャーナル フリー

    本稿は、ポスト・サッチャー時代におけるイギリスの保守党政治がどのような展開を見せているかを分析するため、メイジャー政権(1990~1997)を取り上げる。メイジャー政権に関する先行研究では、サッチャー政権が招いた社会的・経済的格差を始めとした負の遺産に対し、新たな政策路線を提起できなかったという評価が根強い。本稿はこの理解に修正を加えることを目的にしている。

    本稿では、メイジャー政権下の保守党が提起した新たな政治理念に注目し、それが国内政策の展開に与えた影響を考察する。分析の結果、当時の党知識人が提起した「市民的保守主義」の理念が、公共サービスの質的改善を目的とする「市民憲章」において反映されていたことが明らかとなった。本稿は、サッチャリズムに代わる新たな政策路線として、メイジャー政権は地方自治体やその関連組織である学校、病院、行政などのコミュニティ活性化を進める理念を打ち出し、実際の国内政策において展開したことを明らかにした。

  • 新川 匠郎
    2021 年 7 巻 p. 37-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    本論は、なぜ西欧諸国内で異なるメディアの特徴が生じるのかという問いに対して、政権のアカウンタビリティの異なる実践に注目して考察を加えるものである。これまでのメディアシステムの国際比較では類型学的な関心が強く、メディアシステム形成については多く議論されてこなかった。アカウンタビリティ研究では政党を中心に比較分析が重ねられており、メディアとの関係については十分な検討が進められていない。こうしたメディアシステム研究とアカウンタビリティ研究の相互補完を目指し、本論は西欧諸国における政権のアカウンタビリティと社会アカウンタビリティを行使するメディアの関係について、多様性と複雑さを捉える質的比較分析(QCA)から探っていく。この分析からは、政権のアカウンタビリティを支える政治制度は国別のメディアシステム形成の各種パターンで中核的要素になることを確認する。また、その政治制度が機能不全に陥ると、それは分極的なメディアシステムの助長につながるとも提起する。この結果からは有権者を補助するメディアの特徴が浮き彫りになる一方、それは政権のアカウンタビリティ欠如により異なる役割を果たすようになることも示唆される。

  • ―憲法の明示的規定に基づくデータセットの構築、1946~2020年
    今井 真士
    2021 年 7 巻 p. 57-82
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/10
    ジャーナル フリー

    執政制度の形式的側面(執政府・立法府関係)は民主主義体制だけでなく権威主義体制においても重要である。しかし、これまで権威主義体制を分類するときには実態的側面(支配エリートの組織的基盤)のみが重視される傾向にあった。本稿では、体制横断的に形式的側面を捉えるためのデータセットとして「憲法の明示的規定に基づく執政府・立法府関係」(CELR)を提示する。まず、各データの趣旨として、政治制度の設計と運用に基づく政治体制、実効性の有無と執政府の二元性に基づく執政府・立法府関係の分類枠組み、権限行使の経路の違いに基づく各アクターの憲法的権限を順次説明する。次に、CELRの応用方法を主に3つ提案する。すなわち、複数の類型の統合に伴う事例群の拡大、特定の権限の追加に伴う事例群の絞り込み、CELRの憲法的権限とV-Demの慣例的権力のデータの併用に伴う権限行使の形式と実態の乖離の識別、である。最後に、CELRの対象範囲の拡張可能性を指摘して議論を締め括る。

  • ―アイルランドの事例から
    井元 拓斗
    2021 年 7 巻 p. 83-105
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/28
    ジャーナル フリー

    連立政権に参加する政党は、連立パートナーをどのようにして統制するのだろうか。近年の研究では、委員会制や副大臣などの手段を用いることで、連立相手の大臣に対する監視が行われていることが指摘されてきた。本研究はアイルランドを対象とし、書面での議会質問という手段が連立相手への監視に用いられているという仮説を検証する。2011~2016年のフィネ・ゲール/労働党政権を対象とした計量分析の結果、連立相手の大臣に対しては議会質問の提出件数が増加していることが明らかになった。また、財務大臣への質問を対象とした量的テキスト分析からは、連立相手の大臣に対しては選挙区へのアピールを目的とした質問ではなく、対立争点について情報を引き出す内容の質問が多く提出されていることが分かった。以上の結果は、議会質問という監視手段によって、大臣が連立内の合意から逸脱することを防ぎ、連立政権での協調的な政策形成が可能となっていることを示唆する。

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