中毒研究
Online ISSN : 2758-2140
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36 巻, 3 号
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原著論文
  • 山本 理絵, 金指 秀明, 坪内 陽平, 櫻井 馨士, 秋枝 一基
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 36 巻 3 号 p. 233-239
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    急性薬毒物中毒の基本は全身管理であるが,起因物質をある程度推測できる幅広い知識と適切な対処を行う技術が必要である。救急医療に携わる医療従事者からは「中毒は苦手」との印象を受けることが多いが,中毒に対する認識の実態調査はほとんど行われていない。そこで,中毒に対する認識の実態を明らかにするため,1施設の医療機関と同院にもっとも搬送件数の多い消防機関に対して,2018年に救急部に所属する看護師,2019年に臨床研修医,2020年に救急救命士を対象に薬毒物中毒に対する意識調査を実施した。中毒の得意度を5段階で自己評価(1:苦手,2:やや苦手,3:どちらでもない,4:やや得意,5:得意)したところ,1と2が半数以上で,5はいなかった。中毒を苦手とする理由は,「種類が多い」「経験不足」のほか,「精神科対応が困難」や「二次被害・危険性」,看護師では「かかわり方」などであった。3つの意識調査から,3職種とも中毒は苦手であることがわかり,中毒が苦手な理由は職種により多彩であることがわかった。中毒に対する自己評価を数値化したことは,今後の教育による理解度の指標として活用できることが推察された。

  • 一二三 亨, 大谷 典生, 小林 憲太郎, 北元 健, 近藤 豊, 中谷 宣章, 添田 博, 柳川 洋一, 冨岡 譲二
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 36 巻 3 号 p. 240-245
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    まむし抗毒素はウマ血清から製造されているため,アナフィラキシーへの対応が必要であり,添付文書ではウマ血清過敏症試験を行い,高度の過敏症を呈した場合には除感作処置を行うとの記載がある。しかしながら,実診療ではウマ血清過敏症試験および除感作処置は十分に行っていない可能性があるのが現状と考えられている。本研究の目的は,まむし抗毒素投与に際してのウマ血清過敏症試験および除感作処置の認識や施行の有無,さらにアナフィラキシー予防対応を含む使用実態を明らかにすることにより,実診療に即した形での添付文書の改訂を日本中毒学会として求めていく資料とする。対象は日本中毒学会メーリングリストに登録している医師(正会員)のみとし,無記名のウェブアンケート方式で2021年11月に施行した。合計126名(18%)から回答を得た。その約6割が医師としての経験が21年目以上の医師による回答にもかかわらず,ウマ血清過敏症試験の経験は4割にすぎなかった。アナフィラキシー予防のための薬剤投与は1/3で行われており,ステロイドがもっとも多く使用されていた。ウマ血清過敏症試験の記載を削除するかについては約半数が賛成し,まむし抗毒素の添付文書の改訂については2/3が賛成した。ウマ血清過敏症試験は実診療では行われておらず,添付文書の改訂,ないしウマ血清過敏症試験の記載の削除を多くの医師が望んでいることが明らかとなった。

症例報告
  • 大河内 謙太郎, 塚本 和之, 廣瀬 智也, 織田 順
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 36 巻 3 号 p. 246-251
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    近年急速に普及した液体洗剤の一つである「おしゃれ着用洗剤」は低毒性とされる非イオン界面活性剤のアルコールエトキシレートが主成分であるが,日本中毒情報センターの報告では従来タイプと比較して重症・死亡例が有意に多い。症例は70歳,女性。おしゃれ着用洗剤を一口誤飲し嘔吐した2時間後に意識障害となり救急要請された。誤飲後3時間で来院したが高血糖と乳酸アシドーシスを呈していた。胃洗浄・活性炭投与後,細胞外液輸液に加えて炭酸水素ナトリウムおよびインスリン投与を行ったが,誤飲後9時間で乏尿・ショックとなり,昇圧薬投与を開始した。遷延した重篤なアシドーシスに対して炭酸水素ナトリウムの持続投与を行い,誤飲後30時間でアシドーシスおよび意識レベルは改善した。しかし,化学性肺臓炎が遷延し第19病日に死亡した。おしゃれ着用洗剤は少量の誤飲でも重篤な中毒症状をきたす例があることを報告し注意喚起とする。

  • 伏野 拓也, 星野 哲也, 榎本 有希, 丸島 愛樹, 下條 信威, 井上 貴昭
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 36 巻 3 号 p. 252-256
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    35歳,女性。自傷目的に喘息発作時のため処方されていたプロカテロール塩酸塩水和物(procaterol hydrochloride hydrate;PHH)吸入薬を約80回吸入し,直後より動悸と歩行時のふらつきが出現した。吸入から3時間後に当院に救急搬送され,来院時の血液検査では血清カリウム値2.5 mEq/Lの低カリウム血症を認めたほか,12誘導心電図ではQT延長を認めた。PHHの過量吸入によって低カリウム血症およびQT延長をきたしたと考え,同日緊急入院した。入院後は末梢静脈路からカリウム製剤の投与を実施し,QT延長の改善を確認後,第3病日に自宅退院した。PHH吸入薬は体内での効果発現が早く,吸入直後より症状が出現するものと考えられ,速やかな病態認識と治療介入が必要である。

  • 益満 茜, 川崎 貞男, 一杉 正仁
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 36 巻 3 号 p. 257-263
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    ショック状態のピルジカイニド中毒症例に対して血液浄化法を行い,速やかに循環動態が改善した1例を経験した。ピルジカイニド20カプセルを内服した40代男性がショック状態で搬送された。心電図はwide QRSの徐脈であったが,血液浄化法開始後速やかにQRS幅が狭くなり徐脈も改善し,循環動態は安定した。ピルジカイニドは腎排泄で,腎障害があると著明に半減期が延長する。ピルジカイニド中毒に対する特異的な治療法はなく,血液浄化法については症例報告が散見されるのみである。本邦における過去の報告によると,循環動態が不安定で血清Cr値が高値であったピルジカイニド中毒に対しては血液浄化法が施行されていた。ピルジカイニドは透析効率が悪いとされているが,血液浄化法によって短時間で循環の安定化を認めていた。自験例を含めた検討で,腎障害症例やショックを伴ったピルジカイニド中毒では血液浄化法が効果的と思われた。

症例短報
  • 船登 有未, 小林 憲太郎, 山本 裕記, 佐々木 亮, 木村 昭夫
    原稿種別: 症例短報
    2023 年 36 巻 3 号 p. 264-266
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    Nicorandil is an antianginal drug and coronary vasodilator with nitrate-like and ATP-sensitive potassium channel-activating effects. Despite its widespread use, there have been few case reports of nicorandil overdose. A 50-year-old man was transferred to our emergency room for loss of conscious and frequent vomiting 8h after taking 400 tablets of nicorandil (5 mg). At presentation, he had signs of circulatory collapse with unmeasurable blood pressure and tachycardia with hyperlactatemia. Despite fluid resuscitation, shock persisted. He appeared to be in distributive shock with peripheral vasodilation induced by nicorandil, and norepinephrine support was started. Thereafter, hemodynamic stability was achieved and norepinephrine could be stopped 12h after presentation. Although nicorandil is known as an antianginal drug that rarely causes hypotension, nicorandil overdose can result in circulatory collapse. Norepinephrine administration was effective for treating hypotension due to nicorandil overdose.

  • 岡本 祥史, 鈴木 信也, 井口 恵美子, 猪股 克彦
    原稿種別: 症例短報
    2023 年 36 巻 3 号 p. 267-270
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    We report a case of hypoglycemia caused by multiple medications of CNS drugs including venlafaxine (VEN). The patient, a female in her twenties, was brought to the emergency room after taking an overdose of 10,800 mg valproic acid, 112 mg ramelteon, 140 mg olanzapine, 405 mg mirtazapine, 4 mg mecobalamin, and 1,050 mg VEN. The patient was diagnosed as having serotonin syndrome with myotonia, myoclonus, tremor, and agitation. On the second day after admission, her blood glucose level dropped to 59 mg/dL in the morning and glucose correction was performed, but her blood glucose level dropped to 78 mg/dL before lunch. She ate all her lunch, but her blood glucose level dropped to 79 mg/dL before the evening meal, and her glucose level was again corrected. The patient was discharged from the hospital on the third day without hypoglycemia.

  • 松岡 綾華, 三池 徹, 鳴海 翔悟, 櫻井 良太, 中山 賢人, 品田 公太, 阪本 雄一郎
    原稿種別: 症例短報
    2023 年 36 巻 3 号 p. 271-273
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    Introduction : Methomyl is a carbamate insecticide that acts by reversibly inhibiting the enzyme acetylcholinesterase. While most carbamates are considered to have a relatively low toxicity, methomyl poisoning suppresses blood circulation and has a high mortality rate.

    Case : An 88-year-old male presented with cardiopulmonary arrest, due to severe circulatory failure, after consuming methomyl in an attempt at suicide. Return of spontaneous circulation was noted after arrival at the hospital. Circulatory failure persisted, and the patient died of multiple organ failure 100 hours after admission.

    Discussion : Organophosphates and carbamates are known to induce cholinergic syndrome. The combination of methomyl poisoning and post cardiac arrest syndrome may have contributed to the severe course of this case.

    Conclusion : We report a case of methomyl poisoning with a serious clinical course.

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