ラジエータ,コンデンサ,エバポレータ等の自動車熱交
換器部材には主に Al-Mn 系合金を心材に,Al-Si 系合金
をろう材として貼り合わせたブレージングシートが用いら
れ,部材によって様々な質別の材料が使われる.熱交換器
の製造はろう付によって行われるが,ろう付の安定性を確
保するためには,いずれの部位でもろう侵食の発生を避け
なければならない.ろう侵食は粒界に沿って進行すること
が知られており1),ろう侵食を防ぐためには材料の結晶粒
界の数を減少させること,すなわち結晶粒を粗大化させる
ことが有効とされている.
一方,例えば質別 O の材料をプレス成形してろう付す
ると,特定の箇所で著しいろう侵食を受けることがある.
この現象は低加工域のろう侵食と呼ばれ,成形による加工
ひずみの少ない領域において,ろう溶融温度まで心材の再
結晶が完了せず,亜結晶粒が残存することで生じると言わ
れている2),3).
実際に質別 O の材料をプレス成形によって製造する熱
交換器部材には,例えばラジエータのヘッダプレート材な
どがある.このような材料に低加工域のろう侵食が生じる
と接合に必要なろう量が不足してろう付不良を招く危険性
がある.このろう侵食を抑制するための金属組織制御の研
究はいくつか行われている2)~5).例えば,山内らによる
と,心材のろう侵食に影響する支配的因子は微細析出物の
量と加工度であると報告されている4).しかし,再結晶挙
動に影響すると考えられる晶出物や,微細析出物および加
工度以外の諸因子の影響に関しては,詳細には明らかに
なっていない.
そこで,本研究では,晶出物および分散粒子に注目し
た.それらの分布状態を変化させるために Fe 添加量およ
び均質化処理条件を変量した材料を用いて,ろう付熱処理
時の低加工域のろう侵食挙動および再結晶挙動に及ぼす晶
出物および分散粒子の分布状態の影響を調査した.