人体科学
Online ISSN : 2424-2314
Print ISSN : 0918-2489
29 巻, 1 号
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表紙
原著
  • 古井 秀法
    原稿種別: 原著
    2020 年 29 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2020/07/23
    ジャーナル フリー

    近年、坐禅に興味のある人が増え、実際に坐禅指導を受けようとする人も増えているが、坐禅を行う際に適切な指導者を見つけることは比較的困難である。これでは、潜在的な坐禅体験希望者に対応できない状態である。本研究では、このような問題を解決するために、ICT (Information and Communication Technology) を活用することによって坐禅を遠隔指導することが可能であるかについて検討する。従来の対面による坐禅指導とビデオ通信システムを利用した遠隔指導を比較し、検証を行った。被験者の生体反応を記録し、心拍変動( HRV) と脳波( EEG) を指標として分析を行った。結果として、対面指導と遠隔指導に、有意な差はなく、坐禅を遠隔によって指導することが可能であることが確認できた。さらに、坐禅の熟達者における心拍変動と脳波における相互関係についても検討を行った。その結果、熟達者の坐禅に於いては、心身はリラックス状態であるが、脳は活動的になっていることが解析結果によって明らかとなった。

  • ―注入食中止の意思を表明した患者と関わった看護師の体験に着目して―
    長谷川 幹子
    原稿種別: 原著
    2020 年 29 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2020/07/23
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、神経難病を患い苦悩する患者と携わる看護師の体験に着目し、そこでの看護師のありようを明らかにすることである。非構造化インタビューにて収集した研究参加者10名のデータをBennerの解釈学的現象学的アプローチを参考に分析した。結果、看護師のありようとして【救済的】、【管理的】、【合理的】、【情緒的】、【受容的】の5つのテーマが導き出された。これら5つのありようは、看護師たちが患者に対して“違和感のようなもの”や“葛藤”を抱いた出来事において豊かに記述された。注入食中止の意思を表明した患者と関わった看護師の体験からは、患者を理解するということは、患者の感情や意見に同感することではなく、患者との差異を感得することであることが示された。また、看護師の【受容的】なありようにおいてこそ、患者の固有性を感得して、患者の希望するあり方を支える看護が可能になることが示唆された。

評論
  • ~感情的な反発から理性的で建設的な提案へ~
    大門 正幸
    原稿種別: 評論
    2020 年 29 巻 1 号 p. 22-31
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2020/07/23
    ジャーナル フリー

    「胎内記憶」という表現は本来「母親の胎内にいる時の記憶」を指す語であるが、「過去生記憶」や「中間生」と呼ばれる受胎前の記憶、「誕生時記憶」なども含めた総称として用いられるようになってきている。胎内記憶研究の第一人者とされる池川明氏の活躍によって一般に知られるようになったこの概念は、広く受け入れられるようになると同時に、様々な批判を受けるようにもなってきた。本稿では、「専門家」による「胎内記憶」批判を検討し、それらが妥当性に欠けるものであることを示す。一方、「胎内記憶」推進派の言説や実践についても改善が望まれる点がある。特に次の二点は重要である。第一に、人生観に関する知見という「胎内記憶」研究から得られる「態度価値」を重要視するあまり、たとえば「子どもはみな親を選ぶ」のような過度な一般化がなされ、実際のデータから乖離してしまうことがある点である。「胎内記憶」を「根拠」とするのであれば、データについてはより慎重な取り扱いが必要であろう。第二の点は、「胎内記憶」と密接に関わる特殊能力の取り扱いについてである。具体的には、胎児との対話や、重い障がいを持った子どもとの対話など、「胎内記憶」同様、従来の脳還元主義的意識論では説明できないコミュニケーションである。これらについては、「胎内記憶」の真実性と同様に、調査・研究によってその実在性が確認されるべきであろう。

  • 超文化哲学のカギとしての身体と超越
    桑野 萌
    原稿種別: 評論
    2020 年 29 巻 1 号 p. 32-42
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2020/07/23
    ジャーナル フリー

    湯浅にとって比較思想とはどのような意味を持っていたのだろうか。また、それを通して何を明らかにしようとしたのか。この問いについて身体論に焦点を当て、人間のいのちの次元と密接につながっている超越への問いをめぐって、湯浅がどのように接近を試みているかを探りたい。湯浅の比較哲学の特徴は、単に既成概念やある特定の価値観から一方的に思想や思想家を評価するのではなく、思想史の全体像を観察することを通して、それらが成り立ってきた背景や体験の性質に着目する点である。本稿では、湯浅の比較思想研究の特徴と課題について次の二つの視点から明らかにしたい。第一に、湯浅の身体論発展の契機となった、近代日本哲学研究である。湯浅の思索の超文化性は、彼の師である和辻哲郎や西田幾多郎に代表される近代日本の哲学者から継承された遺産であるということができる。第二に、西洋の伝統思想と東洋の伝統思想に見いだされる超越をめぐる思考法(型) の比較である。湯浅は、それぞれの伝統文化のこの体験において築かれた超越観の成り立ちに着目し、その違いと共通性を探ろうとした。湯浅の身体論と超越の問題を軸に、比較思想の方法論を明らかにすることは、超文化哲学構築のカギとなることが期待される。

研究ノート
  • 松本 貴至
    原稿種別: 研究ノート
    2020 年 29 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2020/07/23
    ジャーナル フリー

    ビジネスの世界に生きる実務家の多くは、これまで、「実学」とされる経営学等の領域に課題解決の処方箋を求めてきた。特に、筆者が長年従事してきたマーケティングの分野では、米国を起源として今日に至るまで様々な研究が続けられ、多くの理論モデルが生み出されてきた。しかし、筆者は、これまでの実務経験の中で、それら既成の諸理論が現実の実践世界で通用するケースは稀であり、逆に、対極的に扱われる広義の人間科学に学ぶことこそが有効かつ重要であると考え続けてきた。本拙論では、実務家の観点から人間研究の重要性について提起したいと考える。

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