東京女子医科大学雑誌
Online ISSN : 2432-6178
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特集号: 東京女子医科大学雑誌
89 巻, Extra1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
目次
巻頭言
総説
  • 江﨑 太一, 小谷 正彦
    2019 年 89 巻 Extra1 号 p. E4-E65
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2019/08/09
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    最近の20年の間に,リンパ学は目覚ましい発展を遂げている.体内のリンパ管を同定する種々の技法が開発されたことから,基礎医学の分野でも臨床医学の分野においてもリンパ学に大きな変化をもたらした.しかし,先人達が永年掛かって沢山のことが成し遂げられたとは言え,リンパ学の領域には今もなお未解決の基本的な疑問がまだまだ多く残っている.我々は最近,“リンパ管の7不思議”と“リンパ学に残された謎をめぐって―リンパと脂肪の関わり―”の2つの総説にそれらについて記述した.本稿では,その未解決なリンパ学の謎について特に強調しながら,とりわけ重要なトピックスや興味深いポイントについていろいろな観点から考えてみた.

  • 小谷 正彦, 江﨑 太一
    2019 年 89 巻 Extra1 号 p. E66-E74
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2019/08/09
    ジャーナル オープンアクセス
  • 江﨑 太一
    2019 年 89 巻 Extra1 号 p. E75-E99
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2019/08/09
    ジャーナル オープンアクセス

    リンパ管研究はリンパ管内皮細胞に特異的なマーカーの発見と共に急速に進歩した. そこで我々はリンパ管内皮特異的マーカーを発見するために, ネズミでのアジュバント (FIA) 誘導性リンパ管腫モデルを用いた. この腫瘍をマウスのリンパ管内皮抗原の供給源として用いることで, LA102モノクローナル抗体を作製した. この抗体はリンパ管内皮のみを認識し, 血管内皮を認識しない. さらに, この抗体の認識する抗原はマウスのCD90.2 (Thy-1.2) とホモログであることが分かった. また, LA102はじめ, その他の内皮細胞に特異的な抗体やレクチンを用いて, リンパ管と血管を三次元的に識別して画像化する方法を開発した. 次に, この腫瘍を腹腔中皮細胞とリンパ管内皮との関係を研究するためのモデルとして用いた. FIAを腹腔内投与後3日目で, 単層扁平な中皮細胞が立方化し, 細胞間が解離して極性を失い, さらには多層化した. 同時にポドプラニンおよびCCL2の発現が増加することで骨髄由来のCD68陽性マクロファージを呼び寄せ, FIAを取り込みながらがリンパ管腫の中に集積していた. リンパ管腫内では次第に, 色々な大きさの脂肪滴 (FIA) が細胞内で融合し, さらには細胞同士も融合して, 巨大化した脂肪摂取細胞がキメラ状の細胞集塊や濾胞様の構造を形成した. つまりこれらの構造は, ポドプラニン陽性の中皮細胞のみならず, 骨髄由来のマクロファージ, および間質の間葉系細胞などが集積してリンパ管腫を形成することが分かった. 4週以降になると, これらの細胞集塊は腹腔から脂肪を排導するために管状につながり, 機能的なリンパ管構造を形成した. 以上から, この一連の中皮細胞から脂肪摂取リンパ管腫を介してのリンパ管内皮細胞への変化はFIAを腹腔から排導するための生体防御反応の一つであると考えられ, 脂肪摂取リンパ管腫を介する中皮-内皮間形質転換の可能性を示唆している.

  • 北原 秀治, 鈴木 康弘
    2019 年 89 巻 Extra1 号 p. E100-E109
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2019/08/09
    ジャーナル オープンアクセス

    悪性腫瘍の特徴所見である異常細胞増殖には, 様々な血管増殖因子群による複雑な分子経路を介した血管新生が伴う. 癌の作る異常血管は, 腫瘍周辺の低酸素, 低pH環境などを作り出し, 免疫原性の低下を引き起こす. 癌細胞は免疫抑制因子を産生し, さらに関連細胞が惹起され, 癌生育に最適な免疫抑制性環境が構築されていく. 一方, 消化管は, リンパ節, パイエル板といった特異的な免疫監視機構を有し恒常性を維持しているが, 一旦悪性腫瘍が発生すると, 免疫チェックポイント経路を利用した, 監視機構を逃れるシステムが新たに構築される. 近年, 次世代の癌治療法として, 分子標的治療薬を用いた腫瘍微小環境の正常化が注目されており, 同時にこの方法が宿主免疫機構にも影響を与えることが報告され始めている. しかしながら, こうした免疫機構をはじめ, 腫瘍微小環境正常化に至るまでの詳しいメカニズムや, 正常化後の予後, 副作用に関しては未だ不明な点が多く, 現在も臨床応用は出来ていない. われわれは上記を背景とし, この「腫瘍微小環境の正常化, およびそのメカニズムへのアプローチ」が, 結果として, 消化管における強力な宿主免疫力を回復させると共に, 化学療法, 免疫療法, 放射線療法などの治療効果を最大限に発揮させる宿主環境を構築する, つまり次世代の癌治療法としての可能性を確信している. 本総説は, 腫瘍血管新生, 腫瘍微小環境, 消化管の特異的な免疫監視機構に焦点をあて, 最終的に「腫瘍微小環境のリプログラミング」を起こすためには何が必要かを提案する.

  • 吉井 明日香, 上田 祐司, 北原 秀治
    2019 年 89 巻 Extra1 号 p. E110-E117
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2019/08/09
    ジャーナル オープンアクセス

    子宮内膜は月経や分娩といった内膜の脱落と再生を繰り返す驚異的再生能力を持ち, 瘢痕を残さず再生を遂げるため, 非瘢痕性組織の代表として注目されている. また, 自動収縮能を持つ子宮平滑筋はその組織内酸素濃度の調整を自ら行い, 子宮内の環境を絶えず変化させている. このような高い再生能力と特殊な再生環境を背景とした子宮内膜再生のメカニズムについては未だ不明な点が多く, 再生不全に起因する癒着胎盤や着床不全などの産婦人科合併症も近年増加傾向であるにも関わらず, 明確な予防法がないのも現状である.

    子宮内膜における組織内酸素濃度変化は, 特に妊娠成立時の感染予防やトロホブラスト浸潤に関わることが既に知られており, 血管新生や修復再生との関わりも論じられている. しかしながらin vivoでの研究報告が未だ少ない. 疾患のメカニズム解明には基礎研究によるアプローチが重要であるが, 本テーマの研究遂行には, ヒト検体の収集が困難であること, また, ヒトと同じ性周期を持ち, かつ組織学的にもヒトに類似するような実験動物が限られている点も, 基礎研究が進まない理由と考えられる. われわれはこれまでに, 子宮容積変化に着目した産褥マウスモデルおよび子宮復古不全マウスモデルを独自に作製し, 子宮内膜修復に関する研究を行ってきた. その中で, 子宮平滑筋収縮が誘引する組織内低酸素環境が子宮特有の再生環境背景として存在し, 非瘢痕性修復を担うメディエーターが産生され, 子宮内膜組織修復を促進させる事象について報告した. これら研究結果を含め, 子宮内膜治癒および再生における微小環境について論じる.

  • 渡辺 大輔, 市原 淳弘
    2019 年 89 巻 Extra1 号 p. E118-E122
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2019/08/09
    ジャーナル オープンアクセス

    Metabolic syndrome (MetS) is a complex disorder combining hypertension, obesity, dyslipidemia, and insulin resistance accompanying abnormal adipose deposition and function. MetS is associated with the development of atherosclerotic cardiovascular disease, and contributes to the development of chronic kidney disease (CKD). A close relationship between MetS and increased risk of developing renal damage has been established. Early diagnosis and treatment of MetS is essential in the forming of strategies to prevent CKD as a result of MetS. Several findings have indicated that the activation of the intrarenal renin-angiotensin system (RAS) may play an important role in the progression of MetS to CKD. Therefore, RAS blockade is a first-line therapeutic target for preventing progression of MetS to CKD. The aim of this article is to provide an overview of the concept of MetS, and to discuss the management of CKD in patients with MetS.

原著
  • 中西 秀彦
    2019 年 89 巻 Extra1 号 p. E123-E133
    発行日: 2019/07/31
    公開日: 2019/08/09
    ジャーナル オープンアクセス

    早産児では,さまざまな要因で肺胞および肺胞微小循環系の発達が障害を受け慢性肺疾患(chronic lung disease:CLD)へと進行し,新生児期のみならず長期にわたる呼吸・循環障害を合併する.CLDにおけるこの微小血管障害のメカニズムを解明するために,形態学的手法を用いて超微形態評価を行った.新生仔ICRマウスを出生直後より14日間,85%高濃度酸素もしくはルームエア下に暴露させた後に,回復期としてルームエア下に7日間留置した.生後14日,生後21日の固定肺サンプルを用いて,肺胞微小循環系の超微形態解析と,分子生物学的解析,および肺高血圧の評価を行った.

    高濃度酸素暴露群における肺胞毛細血管は,内腔が虚脱しており,不均一に肥厚した細胞質成分を伴う異常構造を有した血管内皮細胞を認めた.正常ルームエアコントロール群と比較して,血液空気関門は著明に肥厚しており,その成分の多くを肥厚した血管内皮細胞が占めていた.またこの微小形態異常に伴い,高濃度酸素暴露群では肺動脈中膜成分の肥厚と右室心筋重量の増大を認めた.この超微形態異常,肺動脈中膜肥厚,右室心筋重量の増大は7日間の回復期においても遷延していた.これら結果より,肺胞微小血管系における血管内皮細胞の形態異常と血液空気関門の肥厚が,肺動脈リモデリングと右室肥大と関連があることが示唆された.これら超微形態変化が,CLDに続発する二次性肺高血圧の発症機序の一因である可能性があり,さらなる治療法の検索を模索している.

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