悪性腫瘍の特徴所見である異常細胞増殖には, 様々な血管増殖因子群による複雑な分子経路を介した血管新生が伴う. 癌の作る異常血管は, 腫瘍周辺の低酸素, 低pH環境などを作り出し, 免疫原性の低下を引き起こす. 癌細胞は免疫抑制因子を産生し, さらに関連細胞が惹起され, 癌生育に最適な免疫抑制性環境が構築されていく. 一方, 消化管は, リンパ節, パイエル板といった特異的な免疫監視機構を有し恒常性を維持しているが, 一旦悪性腫瘍が発生すると, 免疫チェックポイント経路を利用した, 監視機構を逃れるシステムが新たに構築される. 近年, 次世代の癌治療法として, 分子標的治療薬を用いた腫瘍微小環境の正常化が注目されており, 同時にこの方法が宿主免疫機構にも影響を与えることが報告され始めている. しかしながら, こうした免疫機構をはじめ, 腫瘍微小環境正常化に至るまでの詳しいメカニズムや, 正常化後の予後, 副作用に関しては未だ不明な点が多く, 現在も臨床応用は出来ていない. われわれは上記を背景とし, この「腫瘍微小環境の正常化, およびそのメカニズムへのアプローチ」が, 結果として, 消化管における強力な宿主免疫力を回復させると共に, 化学療法, 免疫療法, 放射線療法などの治療効果を最大限に発揮させる宿主環境を構築する, つまり次世代の癌治療法としての可能性を確信している. 本総説は, 腫瘍血管新生, 腫瘍微小環境, 消化管の特異的な免疫監視機構に焦点をあて, 最終的に「腫瘍微小環境のリプログラミング」を起こすためには何が必要かを提案する.
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