日本顔学会誌
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巻頭言
学術論文
  • 向井田 真衣, 阿部 恒之
    2023 年 23 巻 2 号 p. 3-14
    発行日: 2023/12/26
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    本論は、顔パーツの輝度コントラストを独立に操作し、容貌印象への影響を検討、魅力をもたらす要因を探ることを目的とする。中性的な顔の眉・目・鼻・口について、周囲の肌とのコントラストが高い/低い顔画像を作成した。82名の大学生にそれぞれのパーツのコントラストの高い顔と低い顔を左右に並べた刺激を提示し、魅力・女性性・健康感についてシェッフェの一対比較法による比較判断を求めた。その結果、評価者の性×顔パーツ(コントラスト操作部位)の交互作用が有意で、下位検定の結果、女性は魅力・女性性・健康感のすべてについて口のコントラストが高い顔の評価が高く、鼻のコントラストが低い顔も魅力的と判断した。また、眉のコントラストが高い顔を健康的と判断していた。男性は、全評価項目について、目のコントラストが高い顔の評価が高く、鼻のコントラストが低い顔を女性性が高いと判断した。また、全体的には魅力・女性性・健康感の間の相関は認められなかったが、評価者の男女・パーツ別の相関については、男性において魅力と健康感、眉と口の魅力と女性性、目と鼻の魅力と健康感の間に有意な正の相関が認められたが、女性では有意な相関は認められなかった。

    魅力判断において女性は口、男性は目のコントラストに大きく影響されていることが明らかとなった。印象間の相関については、評価者の性による差異が示された。顔の魅力判断における性差の重要性が示唆される。

  • 宋 涵, 河地 庸介, 阿部 恒之
    2023 年 23 巻 2 号 p. 15-22
    発行日: 2023/12/26
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究は、口の大きさによって、最も美しいと感じられる目・口の配置バランスが異なるかどうかを検討した過去の研究の問題点を解消し、再検討したものである。具体的には、口の大きさについて「大」・「平均」・「小」の3水準を設定し、より適切な刺激と画像処理法を用いて実験を行った。目と目の間の距離(離散・中位・集中)、目と口の距離(高・中・低)を操作して9枚の異なる刺激を作成し、サーストンの一対比較法によって美しさ評価を求めた。その結果、いずれの大きさの口であっても、目と目の距離が中位で目と口の距離が低い顔の美しさ評価が最も高かった。過去の研究では、口の大きな顔においては、平均的配置バランス、並びに目口距離が高い顔が美しいとされていたが、より適切な方法に基づいた本研究では、口の大きさに関わらず、目と口の距離が低い、子供のような配置バランスの顔、すなわちベビー・スキーマが最も美しいと判断されていた。

  • 大原 貴弘
    2023 年 23 巻 2 号 p. 23-31
    発行日: 2023/12/26
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    日本では古くから、顔などに対して「面影」という概念が用いられてきた。面影は、知覚している顔と記憶している顔間の類似性の相互的評価を通して立ち現れる主観的体験である。

    本研究ではまず、データ駆動型の探索的手法である「逆相関法(reverse correlation method)」を用いて、「面影のある顔」の可視化を試みた(研究1)。具体的には、複数の子ども顔画像のなかから、特定の有名人の現在の面影を感じる画像を選択する課題を実験参加者に課した。その結果、有名人の面影を、子ども顔画像のなかに見出す作業を繰り返すことで、「有名人の現在の面影のある子ども顔」を一定の精度で可視化できた。さらに、画像選択において重視されたピクセル領域について分析を行った結果、面影を規定する視覚的特徴は、目や口、輪郭などに分布することも示された。

    次に、可視化された顔画像が、第三者から見ても「有名人の面影のある顔」として認知されるか、および有名人の実際の幼少期の顔とどのくらい似ているかについて、評価調査を行った(研究2)。その結果、高い精度に基づいて可視化された画像は、第三者からも「面影のある顔」として評価されており、面影が集団内である程度共有されうることも示された。さらに、高い精度に基づいている場合には、有名人の実際の幼少期の顔よりもさらに面影を色濃く帯びた顔を生成できる可能性も示された。

  • 岩敷 友梨加, 蘭 悠久
    2023 年 23 巻 2 号 p. 32-40
    発行日: 2023/12/26
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、アイラインの色が顔画像の目と目を模した図形の知覚的な大きさに与える影響を検討することであった。本研究で用いたアイラインの色は、アイラインなし、黄、橙、桃、赤、紫、青、緑、茶、および黒の10種類であった。アイラインの引き方は上+下1/3条件と全周囲条件の2種類であった。実験参加者はアイラインなしの顔画像の目全体(あるいは図形)の知覚的な大きさを100としたとき、アイライン(あるいはアイラインを模した色)なしあるいはありの顔画像の目全体(あるいは図形)の大きさがどれくらいの大きさに見えるかをこたえた(マグニチュード推定法)。実験1の結果はアイラインの色が顔画像の目の知覚的な大きさに有意な影響を与えたことを示した。実験2の結果はアイラインを模した色が目を模した図形の知覚的な大きさに有意な影響を与えたことを示した。アイラインの色とアイラインを模した色が顔画像の目と目を模した図形の知覚的な大きさに与えた影響の傾向は異なった。アイラインの色が目の知覚的な大きさに与えた影響は顔に特有の現象であることが示唆された。

  • 松下 戦具, 菊永 佐紀子, 青山 純也, 野村 毅
    2023 年 23 巻 2 号 p. 41-50
    発行日: 2023/12/26
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    唇の外見は加齢に伴い変化する。しかし、どういった質感や特徴が唇の見た目の年齢に影響するかはこれまでよくわかっていない。本研究の目的は、唇の見た目年齢に影響する因子を抽出すること、およびそれらの因子の寄与の度合いを推定することであった。実験では、参加者は20代から60代の唇の写真を印象評定し、その後その唇の年齢を推定した。印象評定値を因子分析したところ「色つや」「ボリューム」「かたち」「シワのなさ」の4因子が抽出された。唇の見た目年齢に対するそれら4因子の影響を重回帰分析で検討したところ、「色つや」と「ボリューム」が特に唇の見た目年齢に影響していることが示された。その一方で、見た目年齢に対する「かたち」と「シワ」の影響は有意ではなかった。

  • 大野 朝香, 金城 光
    2023 年 23 巻 2 号 p. 51-59
    発行日: 2023/12/26
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    他者の年齢を推測する際に、顔が重要な情報源となることがこれまでの研究から示されている。しかし、顔の各部位が年齢推定にどの程度影響するのか、また、顔画像の性差が年齢推定へ影響するのかについては十分に検討されていない。コロナ禍において日常となった衛生マスク着用によって、女性画像は男性画像と比較して年齢が若く評定されることが我々の予備調査から示されたが、その要因は顔の下半分がすべて隠れるためであるのか、特定の顔部位の遮蔽が影響しているのかはわからない。そこで本研究では、顔の部分遮蔽と年齢推定の関連性について、大学生・大学院生33名に対して実験を行った。顔の各部位を長方形で遮蔽した画像と遮蔽なしの画像を並べて呈示し、遮蔽なし画像に対する遮蔽あり画像の年齢差の回答を求めた。その結果、男性画像と女性画像ともに目遮蔽条件のみ他の遮蔽条件と比較して有意に推定値が高かった。また、女性画像において額遮蔽条件・鼻遮蔽条件・口遮蔽条件において画像遮蔽による年齢差が認められたが、男性画像ではそのような傾向は認められなかった。さらに、年齢推定の反応時間は男性画像よりも女性画像の方が短かった。以上より、男性画像と女性画像ともに目は年齢推定の重要な情報源であるが、年齢推定に影響する顔の部位の性差も認められた。女性はマスク着用により鼻と口・口元が隠れるために若く見られる可能性があることが明らかになった。

  • 人の感性をコンピュータ上で集約して似顔絵を描く技法の開発
    橋本 憲一郎, 阿部 恒之
    2023 年 23 巻 2 号 p. 60-68
    発行日: 2023/12/26
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    日本における似顔絵は、平安時代の似絵(にせえ)以来の長い歴史を持つが、近年はコンピュータによる似顔絵作成も行われるようになってきた。コンピュータ似顔絵における平均顔からの形態的差異の客観的抽出と誇張、人による似顔絵におけるモデルの人格などを含む総合的な把握とその反映という、双方の長所を生かした、新たな似顔絵の生成方法を開発するため、22名の描き手による12名のモデルの似顔絵を集めて、以下の3種の刺激を作成した。①原画をトレースして電子化した似顔絵(以降、オリジナル似顔絵)、②個別モデルのオリジナル似顔絵を平均化した似顔絵(以降、個別平均似顔絵)、③個別平均似顔絵を集めて平均化した似顔絵(以降、平均テンプレート)と、個別平均似顔絵の差異を抽出し、それを誇張(強調)した似顔絵(以降、誇張似顔絵)。この3種の似顔絵刺激の似ている度合いを実験によって比較したところ、③誇張似顔絵>②個別平均似顔絵>①オリジナル似顔絵、の順に、似ているとする評価が高かった。人の描いた似顔絵を、初歩的な描画ソフトによって集積する新たな似顔絵作成技法が開発できた。

  • 木村 孝行, 藤原 寿理, 大塚 千恵, 東 竜太, 永福 智志, 萩野 亮, 五十嵐 啓二, 増渕 祐二
    2023 年 23 巻 2 号 p. 69-80
    発行日: 2023/12/26
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究では、fMRIを用いて、アイシャドウの色の嗜好性とそれに関連した脳活動について検討した。また、アイトラッカーを用いて、アイシャドウの有無およびマスクの有無顔に対する他者からの視線変化についても検討した。被験者毎に好きな色/嫌いな色/どちらでもない色のアイシャドウ使用および未使用時の顔写真をマスク有無別に撮影した。自己顔のコントロールとして、同アイシャドウを使用した他者顔写真(全被験者共通)も被験者毎に用意した。fMRIスキャナ内では、これらの写真に対する好み度を評価させ、その間の脳活動を計測した。

    自己顔に対する顔写真評価の結果、嫌いな色に比べて好きな色のアイシャドウ使用時の評価が高くなった。この評価の差は背側線条体で表現されており、好きな色のアイシャドウ使用時の自己顔を見た際、脳内では高次の価値や報酬と同様の情報処理が行われていることが示唆された。また、好きな色のアイシャドウ使用時には、マスク無しに比べてマスク有りの評価が高いことや、嫌いな色に比べてどちらでもない色への評価が高いことも示された。これらの評価は線条体、後部帯状皮質および側坐核でそれぞれ表現されており、マスク着用に伴いポジティブな情動が喚起されたことや、普段使用しない色のアイシャドウに対して、興味や関心が引き出された可能性が示唆された。加えて、視線変化の計測では、マスク着用時に他者からの目元への視線が集まることが示された。

  • 油圧ショベル運転シミュレータによる模擬遠隔操作環境での検討
    竹内 大樹, 大須賀 美恵子, 鎌倉 快之, 吉岡 直人, 舒 瑜倬, 岡松 太郎, 荒木 信之
    2023 年 23 巻 2 号 p. 81-93
    発行日: 2023/12/26
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    油圧ショベルの遠隔操作技術が発展する一方で操作時に生じる映像酔いが問題となっている。映像酔い発症を検出する手法として生体計測を用いたものが挙げられるがセンサを装着した計測は負担も大きく遠隔操作時においては低負担なものが好ましい。そこで本研究では、RGBカメラを用いた非侵襲な表情分析に着目し、映像酔い発症時の表情変化を調査した。

    油圧ショベル作業経験のある11名の健常男性協力のもと、掘削作業を模した油圧ショベルでの移設作業中に生じる映像酔い発症を5段階の主観評定および実験前後のSimulation Sickness Questionnaire (以下SSQ) により判定、また顔表情は作業中の顔映像からGoogle社が提供するMediapipe FaceMeshを用いて468点の顔特徴点を抽出、表情変化が生じる特徴点を調べた。

    酔い評定値あるいはSSQで酔い発症と判定された6名の実験参加者で頬付近での表情変化(特徴点座標の変化)が見られ、2指標とも酔い発症なしと判定された残りの5名では頬付近の表情変化は見られなかった。今後は更なるデータの収集、および感情変化による瞬間的な表情変化と組み合わせ、映像酔いの不快感によるネガティブな表情の検出や、作業による疲労や覚醒低下との区別をつけることが課題となる。

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