【はじめに】変形性膝関節症(以下膝OA)の治療において、比較的若く、変性が関節全体に及んでいない場合には変形を矯正し、荷重部を正常に戻す高位脛骨骨切り術(以下HTO)が適応となる。しかしその欠点として、長期を要したり、経年的に徐々に効果が低下する傾向があるといった報告が散見される。今回HTO施行2カ月経過後に荷重時痛が強く、跛行を呈していた症例を経験し、比較的早期に歩行の獲得が得られたので考察を加えて報告する。
【症例紹介】59歳、男性。平成18年1月に右膝OAと診断され、平成19年3月1日に鏡視下滑膜ヒダ切除術施行。疼痛再燃したため、平成20年4月17日に右膝HTO施行。術中所見より内側FT関節に広範囲の化骨性骨炎認め、drillingも同時に施行。術前の可動域は右膝屈曲130°、伸展0°でFTAは178°。術後経過は、6週目までtouch foot。7週より部分荷重開始。6月27日片松葉杖歩行にて退院。術後10W+4Dの6月30日より当院にて理学療法開始となる。
【初診時所見】可動域は右膝屈曲135°、伸展0°でFTAは173°であった。下腿の外旋制限があり、パテラ低位、PF関節のhypo movirityを認めた。疼痛は、脛骨の内・外側に強い荷重時痛があり独歩困難。右立脚期に内側thrustが出現し、体幹右側屈、右膝外反位をとるデュシャンヌ歩行でJOAスコアは65点であった。
【治療内容及び結果】術前の軟部組織の短縮と、跛行時の動的アライメント異常に着目した。外旋制限と内側部痛においては膝窩筋とファベラ腓骨靭帯、内側側副靭帯の伸張を行った。同時に膝・股・体幹の協調性訓練によって片脚立位における支持性を強化した。結果、実施4週後において、可動域は右膝屈曲150°、伸展0°。下腿外旋制限は改善され、歩行時痛や跛行も軽快し独歩可能となり、JOAスコアは85点となった。
【考察】金崎らは平均2年9ヶ月の術後経過でJOAスコアは術後平均86点であったことを報告しており、それらと今回を比較してみても、早期に良好な結果を得ることができたと思われる。HTO術により骨性アライメントは矯正されるが、軟部組織に変化がなければ、疼痛のない良い歩容は得られがたく、さらには徐々にもとの内反変形に戻る要因にもなりうる。HTO術後の理学療法は術前のmalalignmentの要因となる軟部組織の改善と新しいアライメントに対応すべく筋のバランスと協調性が必要であることが示唆された。
【まとめ】1)HTO術施行2カ月経過後も荷重時痛が強く、跛行を呈した症例を経験した。2)術前の軟部組織の状態を考慮した理学療法を施行後、比較的早期に歩行の獲得ができた。3)HTO術後の理学療法は、術前のmalalignment要因となる軟部組織の改善と新しいアライメントに対応すべく筋の再学習が必要であることが示唆された。
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