近畿理学療法学術大会
第48回近畿理学療法学術大会
選択された号の論文の109件中101~109を表示しています
  • 野村 一太, 武部 恭一, 田中 宏一, 山西 浩規, 齊藤 洋輔, 福原 良太, 武政 誠一
    セッションID: 101
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/16
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今回、右肩脱臼骨折、右上腕骨近位端粉砕骨折(関節内)を受傷した症例に対し、保存的治療を目的として受傷早期から上肢下垂位での振り子運動を行い、良好な骨癒合と関節可動域(以下ROM)改善が得られた症例について報告する。
    【症例】69歳女性。平成19年4月初旬に自宅玄関でつまずき転倒し受傷した。X―P撮影の結果右肩脱臼骨折、右上腕骨近位端粉砕骨折(関節内)と診断。局所麻酔下で徒手整復後デゾー固定を行い、安静・加療目的で入院となる。
    【方法】受傷1週後より理学療法(以下PT)を開始した。健側上肢で平行棒を把持、体幹を前傾させ患側上肢をゼロポジション位で振り子運動を行った。
    【経過】PT開始時の上肢下垂位での肩関節屈曲角度は75°であった。初日は患側上肢を重力に任せ下垂位を保持するよう指示した。受傷10日後より振り子運動を4セットから開始し、2週目より10セット行った。受傷4週後にX―P写真で仮骨形成が確認され、振り子運動に加え自動介助運動でのROM運動を追加した。このときの肩関節ROMは屈曲75°、外転55°であった。受傷7週後に骨癒合が確認されたため、日中は三角巾での固定とした。そして背臥位での上肢挙上運動と内外旋運動を開始し、振り子運動を1日3セットを5回(計1500回)行った。受傷9週後の退院時には振り子運動を1日10セットと、健側を用いた上肢挙上自動介助運動を継続するよう指導した。退院当初の日常生活活動については、かぶりシャツの着脱、ブラジャーの着脱が困難であった。また、洗濯物を干す、食器棚から皿を取り出すといった上肢挙上を必要とする動作も困難であった。週2回のPTを継続し受傷54週経過した現在、肩関節ROMは屈曲135°、外転115°、外旋25°(2nd肢位45°) 、上肢筋力は健側よりもやや弱いが、痛みの訴えは無く、かぶりシャツの着脱は可能となり日常生活に不自由を感じることは無くなった。しかし指椎間距離は30cm(健側10cm)と改善されたが未だに肩関節伸展、内転、内旋制限により手を背面に届かせるといった動作に困難感を訴えている。
    【考察】本症例では粉砕した骨頭に対して保存的に骨癒合を促進し、ROM獲得を目的に受傷早期から振り子運動を行った。石黒らは転位のある上腕骨近位端骨折(3―part、4―part骨折)患者に対し、受傷後1週から積極的な下垂位での振り子運動を行い骨癒合や関節可動域の獲得に良好な結果を得たと報告している。受傷54週経過した現在、X―P所見からは上腕骨骨頭に多少の遺残変形を残しているが偽関節や骨壊死はみられない。そして、肩関節屈曲、外転角度の改善がみられ、高所に手を届かせることも可能となり主婦業への参加、ADLの改善が得られたため、上腕骨近位端粉砕骨折に対する早期からの振り子運動は有用な運動療法であると考える
  • -歩行時痛の改善に着目した1症例-
    佐野 明日香, 辻 修嗣
    セッションID: 102
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/16
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】変形性膝関節症(以下膝OA)の治療において、比較的若く、変性が関節全体に及んでいない場合には変形を矯正し、荷重部を正常に戻す高位脛骨骨切り術(以下HTO)が適応となる。しかしその欠点として、長期を要したり、経年的に徐々に効果が低下する傾向があるといった報告が散見される。今回HTO施行2カ月経過後に荷重時痛が強く、跛行を呈していた症例を経験し、比較的早期に歩行の獲得が得られたので考察を加えて報告する。
    【症例紹介】59歳、男性。平成18年1月に右膝OAと診断され、平成19年3月1日に鏡視下滑膜ヒダ切除術施行。疼痛再燃したため、平成20年4月17日に右膝HTO施行。術中所見より内側FT関節に広範囲の化骨性骨炎認め、drillingも同時に施行。術前の可動域は右膝屈曲130°、伸展0°でFTAは178°。術後経過は、6週目までtouch foot。7週より部分荷重開始。6月27日片松葉杖歩行にて退院。術後10W+4Dの6月30日より当院にて理学療法開始となる。
    【初診時所見】可動域は右膝屈曲135°、伸展0°でFTAは173°であった。下腿の外旋制限があり、パテラ低位、PF関節のhypo movirityを認めた。疼痛は、脛骨の内・外側に強い荷重時痛があり独歩困難。右立脚期に内側thrustが出現し、体幹右側屈、右膝外反位をとるデュシャンヌ歩行でJOAスコアは65点であった。
    【治療内容及び結果】術前の軟部組織の短縮と、跛行時の動的アライメント異常に着目した。外旋制限と内側部痛においては膝窩筋とファベラ腓骨靭帯、内側側副靭帯の伸張を行った。同時に膝・股・体幹の協調性訓練によって片脚立位における支持性を強化した。結果、実施4週後において、可動域は右膝屈曲150°、伸展0°。下腿外旋制限は改善され、歩行時痛や跛行も軽快し独歩可能となり、JOAスコアは85点となった。
    【考察】金崎らは平均2年9ヶ月の術後経過でJOAスコアは術後平均86点であったことを報告しており、それらと今回を比較してみても、早期に良好な結果を得ることができたと思われる。HTO術により骨性アライメントは矯正されるが、軟部組織に変化がなければ、疼痛のない良い歩容は得られがたく、さらには徐々にもとの内反変形に戻る要因にもなりうる。HTO術後の理学療法は術前のmalalignmentの要因となる軟部組織の改善と新しいアライメントに対応すべく筋のバランスと協調性が必要であることが示唆された。
    【まとめ】1)HTO術施行2カ月経過後も荷重時痛が強く、跛行を呈した症例を経験した。2)術前の軟部組織の状態を考慮した理学療法を施行後、比較的早期に歩行の獲得ができた。3)HTO術後の理学療法は、術前のmalalignment要因となる軟部組織の改善と新しいアライメントに対応すべく筋の再学習が必要であることが示唆された。
  • 岡 徹, 黒木 裕士, 水野 泰行, 古川 泰三, 中川 泰彰
    セッションID: 103
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/16
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年、膝蓋大腿関節内側支持機構の第一制動因子として内側膝蓋大腿靭帯(以下MPFL)が重要と報告されている。今回、MPFL再建術を施行した症例の理学療法経過について報告する。
    【症例紹介】36歳女性。左膝蓋骨の動揺性のために歩行不安定となり、左膝蓋骨反復性脱臼と診断される。初診日より2ヵ月後にMPFL再建術を施行した。
    【X-P所見】左膝蓋骨高位、外側偏位、Tilting angle24°、Apprehension sign(+)
    【理学療法】ROM練習は術後2日目よりCPMを開始し、疼痛のない範囲での他動運動へと移行していった。術後はヒンジ付き膝装具装着(0~30度に制限)し術後6週目で制限無しとした。荷重は術後1週で部分荷重開始し、術後5週目で全荷重とした。筋力強化においてはMPFLへの負担を考慮したOKC運動のみをおこない、部分荷重期からはCKC運動を追加した。全荷重期からは角度制限を設けず積極的に行った。また、内側広筋に対し低周波も初期から継続して行った。
    【経過】膝不安定感は術後から改善し、装具を除去した術後20週目も安定していた。膝伸展筋力は術後12週で術前値を上回り、術後1年時で健側比80_%_まで改善した。膝屈曲ROMは術後12週で135度まで改善し、術後24週で正座が可能となった。スポーツ(水泳、ゴルフ)は術後21週目で復帰となった。
    【考察】近年、MPFLは膝蓋骨外側移動において膝蓋骨内側支持機構の50~60_%_の制動を担うと報告されている。本症例では内側広筋の筋萎縮を最小限にするためOKC(股関節内転・伸展・内旋)運動、CKC(30°屈曲位から内転でのスクワット)運動など選択的な筋力強化や低周波を行った。ROMは屈曲角度が増大すると膝蓋骨は外側偏位するので、徒手的に内側へ制動して行った。MPFL再建術後もMPFLの機能に注意した理学療法を行うことにより良好な膝機能の回復を得ることができると考える。
    【結語】MPFL再建術後の膝機能の経過を報告した。MPFL再建術後において術後21週目でスポーツ復帰が可能と考える。
  • -テープ療法を用いた評価・治療を行なって-
    吉田 智子
    セッションID: 104
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/16
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     在宅で訪問リハビリ利用中の患者の家族より、膝関節痛の治療を依頼され、訪問リハビリでの治療をする機会を得た。当初変形性膝関節症と判断し治療を行なったが症状は改善しなかった。その後テープ療法による評価治療を行なったところ、疼痛や歩行機能に改善がみられた。その評価と治療経過について考察を加え報告する。
    【症例】
     74歳女性要介護3の夫と二人暮し。約20年前に自転車走行中に転倒し右足を強打し前十字靱帯を断裂する。手術は行なわず保存的治療で経過。平成19年10月25日より左肩関節疼痛治療の依頼あり訪問開始。訪問開始2ヵ月後に右膝関節に痛みがある事を訴える。膝関節の痛みは同年5月頃より出現していた。
    【初期評価】
    歩行;右遊脚期後期から踵接地にかけて股関節内旋位、足関節内反位となり、体幹が右に振れる。疼痛;安静時運動時右膝関節外側に痛みあり。痛みの為夜間不眠あり。ROM;異常なし。筋力;股関節屈曲右2左4 伸展右3左4 外転右5左5 内転右4左5 膝関節屈曲 右2左3 伸展右2左4
    【理学療法経過】
    H19年11月15日;右膝関節の治療開始。変形性膝関節症と判断し徒手での筋力増強訓練やホームエクササイズの指導を行なうが、疼痛筋力ともに変化なし。H20年5月13日;右腰椎(L1~s1)左胸椎(th1~L1)に交感神経活動不活性化テープ施行。同年5月22日;腸骨開排テープ施行。膝関節伸展時に大腿二頭筋の痛み、強いスパズム確認。右膝関節を左膝関節と同時に伸展させると痛みなし。この事から膝関節伸展を大腿二頭筋により股関節を内旋、伸展しながら行なっていることを確認した為、テープ療法と徒手による大腿四頭筋の促通を行なう。同年6月10日;右大腿四頭筋の痛み軽減。左肩関節の痛みも軽減する。
    【結果】
    歩行;右遊脚期で股関節が若干内旋位になるが側方動揺軽減。疼痛;右膝関節外側の痛み消失 安静時痛改善するが膝伸展時内側の痛みあり 筋力;股関節屈曲右3左5 伸展右3左5 外転右5左5 内転右4左5 膝関節屈曲右3左4 伸展右3左5
    【考察】
    右膝関節の痛みについては当初変形性膝関節症と考え治療をしたが効果がなく、テープ療法による評価で大腿二頭筋の過剰収縮が原因と判断し治療方法を変更した所効果が得られた。また大腿二頭筋の過剰収縮については前十字靱帯を断裂した後運動時の痛みを逃し関節を安定させる為股関節を内旋しながら膝関節を進展した為起こしたものと考えられる。本症例はADL的には高いレベルにありながらこのような複雑な経過で疼痛を引き起こしている。原因究明には運動時の詳しい評価が必要であった。その結果テープ療法は有効な治療であると考える。
  • 成川 臨, 寺村 健三, 幸田 剣
    セッションID: 105
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/16
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    【はじめに】
    今回、我々は中心性頚髄不全損傷による両下肢の麻痺に対し長下肢装具を作成し、歩行能力を再獲得した1症例を経験したので報告する。
    【症例および経過】
    症例は43歳男性。2007年8月27日午前9:00頃、船上で誤って1m程下の甲板に転落。直後より四肢が動かなくなったためドクターヘリを要請し、当院救急外来に搬送される。来院時、意識清明、呼吸困難なし、左右上下肢ともMMT 0/5、知覚はTh2以下で低下。中心性頚髄不全損傷の診断にて、同日、入院となる。ソルメドロールにて保存的治療。元々、脊柱管の狭窄があった。8月28日、廃用症候群予防のためリハビリテーション科紹介。同日、ベッドサイドにて理学療法開始。9月6日、介助による起立訓練開始。9月11日、両長下肢装具装着にて歩行訓練開始。9月20日、プライムウォーク装着にて歩行訓練開始。10月1日、両長下肢装具処方(膝継手:3 way、足継手:クレンザック、プライムウォークは不使用)。10月4日、両長下肢装具完成。10月25日、頚椎後方椎弓形成術を施行。11月14日、急性硬膜外血腫の診断にて血腫除去術を施行。11月16日、歩行訓練再開。11月27日、膝継手のロック解除にて歩行訓練開始。12月17日、両短下肢装具にて歩行訓練開始。12月27日、装具なしでの歩行訓練開始。階段昇降訓練開始(訓練用階段にて、昇段は1足1段、降段は2足1段)。2008年1月7日、転院。
    【考察】
    一般に、中心性頚髄不全損傷は、上肢に比べ下肢機能の改善が見込まれる。本症例においては、歩行能力の改善を目標に、早期より長下肢装具を装着しての歩行訓練を開始した。結果、転院前には介助は要するものの、装具なしでも歩行可能なレベルまでの改善をみた。これには、Central pattern generatorの関与も考えられる。将来的には、車いすの併用が必要であると考えられるが、患者のQOLと意欲の惹起のためにも長下肢装具による早期からの歩行訓練は有効であったものと考えられる。今後も、さらに装具療法と理学療法を発展させる必要がある。
  • 南河 大輔, 梶 睦, 佐野 佑樹, 奥田 邦晴
    セッションID: 106
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/16
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     私は,大阪府立大学総合リハビリテーション学部在学中に障害者支援活動に参加したことが臨床現場において理学療法を実施する際に活きる経験になったと強く感じている.そこで,学生時代の障害者支援活動への具体的参加が,理学療法学を学ぶ学生にどのような影響を及ぼすのかを明らかにし,理学療法教育における障害者支援活動に参加することの重要性を示すために本研究を行った.
    【方法】
     大阪府立大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻1~4年次の学生95名を対象に,障害者支援活動への参加回数や障害者に対するイメージ,障害者支援活動に参加する重要性について自由記述によるアンケート調査を行った.また,理学療法士養成校における障害者支援活動に関する授業等の有無を調査するために,本学を含む5つの国公立大学の理学療法関連学部に所属する学生に対して聞き取り調査を実施した.
    【結果】
    対象者の内,89名(93.6_%_)より回答を得た.障害者支援活動に全く参加したことがない(不参加群)は24名,1~4回参加した(参加少数群)は33名,5回以上参加した(参加多数群)は32名であった.障害者に対するイメージについて,“不便・不自由な人”という内容の回答が不参加群では37.5_%_,参加少数群では28.2_%_,参加多数群では30.6%挙げられており,“様々な人がいる”“自分たちと同じ人”といった内容の回答が不参加群で16.6_%_,参加少数群で33.3_%_,参加多数群で44.4_%_挙げられていた.障害者支援活動の重要性について,“障害者の生活や考えの理解が深まる”といった内容の回答は不参加群で18.5_%_,参加少数群で24.5_%_,参加多数群で39.5_%_挙げられていた.また,“障害者観が変わる”いった内容の回答は不参加群で7.4_%_,参加少数群で15.6_%_,参加多数群で26.3_%_挙げられていた. 理学療法士養成校における障害者支援活動に関する授業について,本学では専門科目として3科目,2つの国公立大学では専門基礎科目として1,2科目あり,他の2つの国公立大学には該当する科目がなかった.
    【考察】
     本研究の結果より,学生時代に障害者支援活動に参加することは,障害者の生活や考え,気持ちの理解を深める経験になると考えられる.また,障害者を画一的なイメージではなく,1人の生活者として捉え,医学的な側面に加えて社会的な側面からも障害を捉えられるようになると考えられる.このような障害者支援活動から得られることは,理学療法士として身体障害者の基本的動作能力の回復や生活支援を実施する際に有用と考えられる.しかし,理学療法関連学部のカリキュラムにおいて障害者支援活動に関する授業は十分でなく,障害者支援活動に関わる機会が更に必要と考えられる.今後の課題として,他大学における調査や長期間に渡る縦断的な研究が必要と考えられる.
  • -構造構成的質的研究法をメタ研究法としたメモリーワークとM-GTAのトライアンギュレーションを通して-
    池田 耕二, 玉木 彰, 山本 秀美, 中田 加奈子
    セッションID: 107
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/16
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】理学療法の対象者には認知症後期高齢患者が多いが,認知症に対する医学的エビデンスは明らかにされておらず医学モデルよりも社会モデルとして理学療法の効果が示されている。このように実践における社会的相互作用から生み出される知識を教育・看護分野等では,実践知としてとりあげ従来の科学における科学知と区別している。本研究の目的は,認知症後期高齢患者の理学療法実践における実践知の構造の一端を探索的に明らかにし,可視化することで実践・教育モデルの一つとして提示することにある。
    【対象】対象は,100床未満の民間病院に勤務し臨床経験が4年目の理学療法士であった。分析データは,対象者に過去3年間(2004~2007年)の認知症後期高齢患者の理学療法経験から,特に印象に残った記憶経験を想起してもらいテクストに変換したものとした。
    【方法】分析方法には対象者の「内的視点」を重視する質的研究が有効と考え,記憶体験を用いるメモリーワーク(_丸1_記憶をかくこと_丸2_記憶の分析_丸3_統合と理論構築の3過程)と現場実践におけるモデル構築に力を発揮するとされている修正版グラウンデッドセオリーアプローチの併用を試みた。その際には質的研究が抱える問題点の解消や研究方法の修正・組み合わせ等に有効な枠組みをもつとされている構造構成主義をメタ理論として採用することにした。
    【結果と考察】以下に,本研究から得られた理学療法実践における実践知モデルについて説明する(【 】はカテゴリー,《 》はサブカテゴリー,「 」は概念を示す)。本研究から得られた実践知モデルでは【患者力】と【家族力】の2つのカテゴリーの結合とそのバランスから構成されていた。【患者力】では,「身体の基本的な動作能力」,「疼痛」,「関節可動域障害の程度」から総合的に評価される《身体能力》と「否定的感情」「肯定的感情」の表出や「感情の波」によって評価される《感情表出パターン》,さらに「理学療法士に対する認識」「誤認識の内容」から解釈・判断される《認知能力》,「口頭指示の入りやすさ」「発語能力」「働きかけに対する反応」から評価される《コミュニケーション能力》の4つのサブカテゴリーの相互作用によって総合的に評価され,【家族力】では,「家族の希望」「家族の協力」から総合的に評価されていた。その結果2つのカテゴリーのバランスから各問題点に対して理学療法実践がおこなわれていることが示された。このように本実践知モデルからは,臨床では概念やサブカテゴリーが評価時の導入視点として機能し,目の前にある患者の現象から複数の視点を通して”すばやく”患者像が把握され,社会復帰にむけた理学療法実践が行われていることが分かった。本研究によって得られた実践知モデルは実践・教育モデルの1つとして有益なツールになるのではないかと考えられた。
  • 瀧口 耕平, 杉山 幸一, 井上 順一郎, 木田 晃弘, 澤田 豊, 丸山 孝樹, 上杉 裕子, 西山 隆之
    セッションID: 108
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/16
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、患者自己記入式質問紙によってQuality of life(QOL)評価が行われるようになってきた。整形外科領域では患者のADLを中心に評価されることが多いが、患者の自己評価と医療者からの客観評価が合っているのかについての検討はほとんど行われていない。本研究では、人工股関節全置換術(THA)患者の跛行に関する患者の主観と理学療法士の客観について検討することを目的とした。
    【方法】
    2007年9月から2008年1月に大学病院でTHAを受ける調査への同意の得られた患者を対象として術前と退院時に股関節患者用質問紙Oxford hip score(OHS)を記入してもらい、同時に10メートル往復歩行を正面および側面から撮影した。撮影した映像を理学療法士勤務経験が4年から15年の4名が客観的に跛行状況を判定し、患者主観と理学療法士客観の違いを検討した。OHSは痛みと日常生活動作に関連した12項目からなる質問紙であるが、本研究ではその中のNo9「歩くときに足をひきずることがありますか」という質問項目を用いた。回答は「1.ほとんどなかった」「2.時々、あるいは歩き始めだけあった」「3.歩き始めだけではなくしばしばあった」「4.ほとんどの場合あった」「5.常にあった」の5段階で評価し、最もよい状態が1、もっとも悪い状態が5である。本研究は研究者所属医学部倫理委員会の承認を得て行った。
    【結果】
    協力の得られた患者は9名、37歳から83歳(平均年齢58.9歳)の男性1名女性8名であった。疾患は変形性股関節症8名、大腿骨頭壊死症1名であった。術前の跛行に対する主観は「5.常にあった」2人、「4.ほとんどの場合あった」1人、「3.しばしばあった」2人であったが、理学療法士の客観では「5.常にあった」が最も多かった。若年層(50歳代)の患者の主観は理学療法士の客観と似通っていた。退院時は「1.ほとんどなかった」と答えた患者が4名、「2.時々あった」、が3名であったが、理学療法士は「3.しばしばあった~5.常にあった」と判断している症例が多かった。
    【考察】
    術前患者は、自己の跛行について強く認識している症例とあまり認識していない症例があった。これに対し、理学療法士は全ての症例について強い跛行があると診ていた。これは患者によって跛行の認識にばらつきがあることを示していると思われる。 術後患者は、全ての症例において跛行はほとんど意識していなかった。これに対し、理学療法士は依然跛行が残存していると診ていた。患者は術前の疼痛が軽減したことで手術に対する満足度が高くなったため、跛行に対する意識も軽度になったと考えられる。また、術後一時的に立位・歩行が制限された生活から歩行を再獲得したことで、歩行は改善したと強く自覚しているものと推察した。
    【まとめ】
    THA患者の跛行に対する主観と理学療法士の客観は特に術後において一致しない傾向があることが明らかとなった。患者のADL評価は患者医療者双方向から行う必要性があると考えられた。
  • 中田 加奈子, 池田 耕二, 山本 秀美, 玉木 彰
    セッションID: 109
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/16
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】高齢者では罹患をきっかけに全身衰弱を引き起こし,身体・精神機能低下や生活の質も著しく低下することもある。それらに対して理学療法は,機能回復や維持目的に行われるが困難な場合も多く目標設定が難しくなる。臨床では緩和ケアの一環として理学療法が施行されることもあるが,関わり方は様々である。そこで今回,長期にわたって全身状態が低下していった認知症高齢患者2症例の理学療法経験から,終末期の理学療法士の関わり方について考察したので報告する。
    【症例紹介】症例1:70代男性,診断名は小脳梗塞であり,既往疾患は認知症,十二指腸・直腸潰瘍であった。基本動作は食事動作を除いてほぼ全介助であった。本症例では体調不良が食欲低下を助長し,さらに食事動作能力を低下させるという悪循環が問題となった。そのため少なくとも自己摂取は維持できるように、理学療法では食欲や食事動作能力維持を目的に上肢の筋力増強・関節可動域運動,坐位姿勢保持練習等を行い悪循環の解消を試みた。しかし若干の食事動作の維持ができたのではないかと思われるものの身体機能低下や食欲低下は徐々に進んでいくことになった。症例2:90代女性,診断名は左大腿人工骨頭置換術後であり,既往疾患は慢性心不全,慢性腎不全,認知症,腰部椎間板症,両側変形性膝関節症であった。全身状態は意思疎通が困難であり,四肢には強度の関節可動域制限があり寝たきりの状態であった。また寝返りや体動は困難であり表情から不動による苦痛が推察された。理学療法では不動による苦痛の緩和を目的にやさしく関節可動域運動を施行しようとしたが,拒否が強く精神的興奮を高めてしまいさらに苦痛を助長するという悪循環を招くため,興奮の抑制(リラクゼーション)等に有効な体幹へのストロークやポジショニングを併用した。しかし拒否軽減における即時的効果は認められたが、それらは身体機能や基本動作能力の明らかな向上にはつながらなかった。
    【考察】症例1では食事能力低下が栄養状態悪化を招き,それはさらに体力低下や身体機能低下を引き起こすという悪循環を,症例2では拒否によって理学療法が進まないことからさらに不動による苦痛を助長するという悪循環がみられた。これらから理学療法士の役割としては、認知症高齢患者の抱えている悪循環をいかに断ち切ることができるかが重要となると考えられた。しかし,現実的にそれらは非常に困難であり,身体機能の改善が望めない場合も少なくない。従って認知症高齢者の終末期においては,これらの悪循環を断つという考えではなく,症例1では食事機能をできるだけ維持する,症例2では拒否をできるだけ抑制するというように悪循環を緩やかにするという考えをもつことが理学療法士にとって必要ではないかと考えられた。また終末期には理学療法士ができるだけ関わることに意義があるようにも実感させられた。
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