北里大学一般教育紀要
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17 巻
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原著論文
  • その背景と実践
    西村 月満
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 1-21
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
      現在、多方面でグローバル化が進行しており、実際上の世界共通語である英語の教育の実効性を高めることが日本において急務となっている。この目標を大学英語教育において達成する方法の一つが、学生の専門領域に関わる英語教育である。本稿では、この特定分野の英語教育をプロジェクト型学習課題によって実施する方法の、思想的背景、具体的内容、成果、意義について論じる。
    プロジェクト型学習は、今日世界各地のさまざまな教育領域において実施されている。この方法は、教育思想史的には20 世紀はじめのJohn Deweyにまで遡るが、英語教育においてプロジェクト型学習が取り入れられるのは、学習者中心アプローチ、学習者自律性の尊重、タスクを通しての学習、協働学習、が広がったことと密接に関連している。
     本稿の前半では、プロジェクト型学習の定義・特色・歴史的並びに思想的背景を概観し、後半においては筆者自身が行った大学英語教育におけるプロジェクト型学習の実践を報告する。この実践例は、 Project Pと名づけられ、北里大学薬学部 2 年生を対象としたもので、関連する内容の薬学系と医学系の英語論文を読むことにより、学生の専門分野の知識と学術誌の英語の理解を深めることを目的としている。この目的の達成に加え、本プロジェクト型学習は、学生の自律的学習能力と学習へのメタ認知を高め、専門の研究における多角的なアプローチの意義を理解することにより批判的思考力を養成し、さらに薬学生としてのアイデンティティーの確立に寄与するものであることが分かった。このような教育的意義をもつことから、プロジェクト型学習は大学英語教育における一つの有効な教育法であると考えることができる。
  • : 難局を乗り越えるための7つの改革事案
    ブルックス ディビット L., ブルックス ミキオ A.
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 23-53
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
     現在、多くの日本の大学は社会、そして経済の激変によりその生存能力が問われている時代となっている。本稿はまずどのような要因が日本の高等教育の危機を助長しているのかを分析し、そしてこのような状況の中でも大学が存続し続けるのみならず、それ以上に成功するための提案をする。この困難な時期を悲観的に捉えるのではなく、逆に大学教育を改革する機会として解釈するべきである。本稿の目的は政府、大学経営陣、個々の教育者としてどの様な改革を進めるべきかを提言し、改革に向けての実用的な手段を示すことである。具体的に改革を行うべき事案は以下の通りである :1) 大学のミッションを明確化し、それに新たな意味をもたせる、 2) 安定した経営を目標とし、新たな財源確保をめざす、 3) 世界と比べて遅れている日本の大学が現在活用している成績評価方法、カリキュラム編成、単位認定制度などを見直す、 4) 新たな認証制度や評価方法により教育の質と内容の保障を推進する、 5) 改革の実現に向けてのリーダシップ能力の養成とリーダーとなる人材の発掘を促す、 6)IT 政策を構築し大学の教育目的を実現するために活用する、 7) 国際化に向けて留学生の受け入れ態勢や制度の強化をしていく。日本の高等教育機関がいかにこの難局を乗り切るかは改革へ向けての確実な戦略と先見性にかかってくる。
  • ⌈ 企業が求める英語力⌋からの分析
    平井 清子
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 55-70
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
     経済・社会のグローバル化が進展する今日、日本の英語教育においては、国際社会で通用し、競争力のある英語力を養成することは重要な課題となっている。日本と近隣アジア諸国における英語教育の差異もまた、英語力の低下を引き起こす原因として懸念されている。大学を卒業した学生たちが、実際にどのような英語力を必要とされるかは、国際化がいち早く進んでいる企業が、日本人社員に求める英語力を考察することによって可視化できるのではあるまいか。これらのニーズを明らかすることは、現在の大学英語教育でどのような能力を養うべきなのかを探る一助となるものと考える。
     本研究は、まず、高校卒業までの英語教育の現状を近隣のアジア諸国と比較しながら概観した。現在の大学入学者は、ここ数十年間での英語教育の変遷、とりわけ、文法からオーラルコミュニケーション重視への移行により、語彙力の低下が指摘され、「読めない」、「書けない」学生が増えてきており、近隣アジア諸国に教育内容で大差が認められることが明らかとなった。
     国際ビジネスコミュニケーション協会の協力による調査からは、企業が人材に求める英語力は、現在の大学生の能力を大きく超えるものであり、特に電話での交渉や会議などの目的を達成しうるための討論や、 Eメール・ビジネスレターを作成し構成するなど、直接・間接的な場面において、説得力、判断力、調査力という能力が兼ね備わった英語力が必要であることが明確となった。
     これらのことを踏まえ、第二言語習得理論を基に考察すると、大学英語教育に必要なものは、「論理的・批判的思考力」といった、思考を伴う英語力の養成である。具体的な英語の授業としては、教材内容を重視した充分なインプットとアウトプットのある授業、学生が協働作業をする学生主体の形態が提案される。以上により、 CBI( 内容重視の授業 ) と高等イマージョン教育がこれからの大学英語教育に導入されていくことが望まれる。
  • 福田 宏, 小島 佐恵子, 黒澤 麻美, 高橋 勇
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 71-94
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
     1999 年にMartin Dougiamas 氏が開発を始めた授業支援オープンソースソフトウェアMoodle ( ムードル ) には4 種類の定評あるアンケート機能 Choice,Survey,FeedbackとQuestionnaire がある。 Choiceは「投票」 ,Surveyは「調査」,Feedbackは「フィードバック」,Questionnaire は「アンケート」と翻訳されている。 ChoiceとSurveyは現在公開されている最も古いバージョンから ,Feedbackはバージョン2.0からMoodle 本体に組み込まれている。いずれもMoodle 本体同様日本語化 ( 翻訳 ) されている。一方 ,Questionnaireは最新のMoodle 2.2でも本体とは別のソフトウェアモジュールとして提供されており , 日本語化もされていない。本稿では , これら4種類のアンケート機能の開発経緯と日本語環境についてMoodle 公式サイトmoodle.orgを中心としたインターネット上に散在している情報を整理した上で , それぞれの機能の比較を行う。そして ,2011 年 7 月に著者らの行ったQuestionnaireの翻訳の経緯と意義 , 問題点について報告する。
  • 谷口 哲也
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 95-99
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
     本稿において ,2 次元複素射影空間内の剛性を持たない調和トーラスの存在を示す . 論文 “A deformation of harmonic torus in 5-dimensional complex projective space” で導入された結果をもちいて , 複素平面から2 次元複素射影空間への調和写像のあるスペクトルデータを探し出し , 対応する調和写像は ,2 重周期性を有することを示す. さらに , その得られた2 次元複素射影空間内の調和トーラスを , 調和性を保たせつつ変形する .
  • 市山 陽子
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 101-110
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
     複雑な統語構造をもつ英文を正しく理解するスキルは高等教育の英語授業においては必須である。学期の初めに各学生の到達度を測定することは教員、学生の双方にとって有意義な情報を提供することになる。こうした必要性に応じるために複雑な統語構造に関する学生の知識を測定するテスト項目を作成し実施した。
     各テスト項目に困難度を付与することでこのテスト項目が今後の学生に対して利用できるようにするためにラッシュ分析を行った。分析の結果いくつかのテスト項目が、複雑な統語構造を持つ英文についての知識を測定するにはふさわしくないことが明らかになった。今回のテスト項目は数が限られており、今後は様々な英語能力レベルの学生を測定するためにさらなる実証の積み重ねが必要である。
  • ──教員の資質向上論と教職教育をめぐる諸問題──
    千葉 昌弘, 荒尾 貞一
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 111-132
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
      教員の資質能力向上論が時代の焦点になるときには、いつも、国家の教育政策は転換点にあった。急激な社会変化がそうした資質能力向上を必要とする重要な要因だと言われた。教師は子どもの問題行動に対処できないと批判された。
      第二次世界大戦後の日本の教師教育の基礎は1947 年に確立された。 1970 年代以来、約 10 年ごとに、教員の実践的指導力向上の旗印の下に、大きな教員養成教育改革が行われてきた。筆者らはそうした改革の歴史を検討して、実践的指導力の定義も以前の改革の検討や評価もなく、それらが打ち出されたという結論に達した。
      現在、中央教育審議会は特別部会を設けて、教員の資質向上を検討している。その部会は教員養成期間を修士レベルまで延長することを意図している。鈴木寛前文部科学副大臣は日本教師教育学会総会で講演して、教員の問題を指摘し、教員の資質向上の必要性を訴えた。その講演で用いられたデータの信頼と妥当性、教員養成期間延長の影響、採用後の自主的研修活動の重要性等々が本稿において検討されている。
      北里大学の教職課程が直面する諸問題が指摘され、それらへの対処が提案された。
  • 田村 修一
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 133-149
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
      本研究の目的は、教職志望者の⌈チーム援助志向性⌋にケースメソッドがどのような影響を与えるかについて検討することであった。日本の教職志望者 131 名から質問紙を回収した。その結果、 (1) 小学校教諭志望者、中高教諭志望者、養護教諭志望者の中で⌈チーム援助志向性⌋が最も高かったのは小学校教諭志望者であった。 (2) 教職志望者にケースメソッドを実施した。その結果、中高教諭志望の女子学生群の⌈チーム援助志向性⌋が上昇した。これらの結果に基づいて、教職志望者の⌈チーム援助志向性⌋を向上させるための方策について議論した。
  • ──言語並びに古典重視による人間形成の可能性──
    川井 陽一
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 151-166
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
     ヨーロッパにおいては、歴史的に、言葉 ( 言語 ) に高い価値を置く考え方があり、教育においても重視されてきた。それは古典による教養が人間性を高めるということにつながる考え方でもあった。
     ギリシア・ローマの古典を重視し、それを根底に据えながら人間形成を図る教育のあり方をヒューマニズム教育と呼び、ルネサンス期イタリアにおいて確立された。確立者としてのヴィットリーノ・ダ・フェルトレの名はよく知られている。
     ルネサンス期に確立されたヒューマニズム教育は、ギリシア・ローマの古典、篤い宗教心、ギリシア的理想である健やかな体、いわゆる知・徳・体の調和的発達をねらいとしたが、その根本はあくまで古典をとおしての人間形成であった。古典をとおしての人間形成という手法は、わが国の素読もこの系譜につながるとみることができ、その意味では、国家や地域また時代を越えた普遍性を有している。それは人格の陶冶そのものと関わるという点においては、教育原理に深く結びついているとも言えよう。
     ヒューマニズム教育は教育階梯においては、高等教育の準備段階である中等教育として位置づけられ、職業人の育成ではなく人格の陶冶を目的とした。その影響は、たとえば、ドイツのギムナジウム、イギリスのパブリック・スクール等、ヨーロッパの中等教育に及んでいる。
      ところで、わが国においては、新しい学習指導要領において言語活動の充実が打ち出された。改正された教育基本法第 2 条の考え方や、さらには学校教育法第 30 条の考え方を踏まえながら、子どもたちの思考力、判断力、表現力等をはぐくむためには、言語能力を高める必要があるとされている。また、中教審答申において、言語は知的活動 ( 論理や思考 ) の基盤であるとともに、コミュニケーションや感性、情緒の基盤であることが述べられている。
     今後の国際化社会を展望するとき、古典を学ぶことによる教養の形成や、言葉 ( 言語 ) を磨くことによるコミュニケーション力の向上及び論理的思考力の向上等はさらにその意義を増すと思われる。そのような観点に立てば、言葉 ( 言語 ) さらには古典を重視するヒューマニズム教育は、今日的意義を有し、わが国の今後の教育においても大いに価値をもつと考えることができるのである。
  • ──ヴィットリーノ・ダ・フェルトレの教育から学ぶもの──
    川井 陽一
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 167-182
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
     新しい学習指導要領の改訂の基本方針の第一に、⌈教育基本法改正で明確となった教育の理念を踏まえ⌈生きる力」を育成すること⌋が掲げられている。さらに⌈生きる力⌋を支えるために、確かな学力、豊かな心、健やかな体の調和のとれた育成を重視し、併せて、⌈生きる力⌋の育成を図るために、道徳教育の充実が必要とされている。
     ギリシア・ローマの古典を重視し、同時に篤い宗教心と健やかな体の調和のとれた発達を目指すヒューマニズム教育は、人格の陶冶と深く関わるテーマであり、人間が人間であるために、あるいは人間が人間になるためには何が必要か、よりよく生きるとは何かを追求する内容を含んでいる。ヒューマニズム教育が目指す知・徳・体の調和のとれた人間形成は、教育基本法第 2 条の⌈幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと」と符合している。
     西洋教育史において重要な役割をもつヒューマニズム教育、さらには、ヒューマニズム教育の確立者のひとりであるルネサンス期イタリアの教育者ヴィットリーノ・ダ・フェルトレの教育を考察することにより、「よりよい生き方を求め実践する人間の育成を目指し、その基盤となる道徳性を養う教育活動⌋と定義される⌈道徳教育⌋に参考となるものを得たい。
     またヒューマニズム教育そのものから、さらにはヴィットリーノの教育活動から、道徳教育のみならず、生徒指導について、加えて教育の体現者としての教師のあり方について学ぶべき点を見い出すことができる。教員については、教育基本法第 9 条において「自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」と規定されている。ヴィットリーノの教育者としての姿勢は、この教育基本法第 9 条そのものであり、教員養成においても大いに参考になる点が含まれている。
     ヴィットリーノ・ダ・フェルトレの教育を中心に今日においてもなお意義を持つと思われるヒューマニズム教育にみられる道徳的価値について考察したい。
  • 竹崎 登喜江
    原稿種別: 原著
    2012 年 17 巻 p. 183-190
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2017/09/09
    研究報告書・技術報告書 フリー
     平成 10 年、教育職員免許法の一部改正により、養護教諭の免許を有し3 年以上の勤務経験のある者で、現に養護教諭として勤務している者は、当分の間、その勤務する学校において、保健の教科の領域に係る事項の教授を担任する教諭又は講師になることができることとなった。 A 大学看護学部の養護教諭養成課程においては、養護教諭一種免許状とともに高等学校一種免許状 ( 保健 ) も取得できることから、教科教育法の一つである保健科教育法を開講している。本稿では、筆者が担当した保健科教育法の指導についての概要と、高等学校科目「保健」の模擬授業の経験や授業分析を通して、学生が学んだことをまとめた。養護教諭に対し、教科としての保健教育への参画が求められている今、保健科教育法の履修は、養護教諭の授業力の向上に役立つものと考える。
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